デモンストレーションは呪われ人と
「……え?」
ティアラは、ユイガの発した淀んだ言の葉を瞬時に理解し切れなかった。したくなかった。だんだんと吐き気が込み上げてくると同時に、その言葉の意味が鮮明に理解出来ると、激しい情動に駆られ、すぐにサーロの元に駆け寄ろうと、来た道を駆け出し戻ろうとしたが、顔の見えない案内人が道を塞ぎ、ティアラの腕を押え、動きを封じる。ティアラは必死に抵抗するが、その手は全く外れる気配はない。その様子を愉悦を感じながら余裕たっぷりに眺めているユイガ。
「こらこら、丁重にな? この式典が終わり次第、私という高貴な存在の后になるのだからな」
「はい」
「離して……! サーロに! 何をするつもりっ!」
ユイガはやれやれ、と、非常に呆れた仕草をオーバーに見せてから、ティアラの顎を指でつまみながら、口角が異常にあがった笑顔で答える。
「そのままだよ。あんな穢らわしい呪いなどのために、我々の翡翠が利用されてたまるものか! 今までもそうだ! 勝手に呪いを宿し、横暴に我々の翡翠を求め、キミの里は、私の王国は滅びた……! あぁ、でもいいんだ、今ここに新たな王と后が揃ったんだ……! あぁ、なんという僥倖だ! だから、我々の行く末を穢す邪魔者は消し去るのさ! ふふっ、はははっ!」
ティアラはこのユイガという男の心の一端を感じ取った。ひどく激烈な怒り、悲しみ、怨み、そして、凝り固まった誇りと驕りを。しかし、ティアラは彼の心がどうであろうと、全く自分の想いは変わらなかった。
「たしかに、私達は虐げられてきたけど! だからって!」
「あぁ! なんと慈悲深い! 私の后にふさわしい! きっとそんな優しいキミにあんなやつがつけこんだんだね、それはなんと嘆かわしい! さて、そろそろ」
ユイガはテラスに躍り出て、愉悦と侮蔑による輝きが溢れ出ている瞳で、闘技場に集まった呪われた者達を見下し、高らかに宣言した。
「良くおいで下さった! 呪われた者達よ! これから呪いを消し去る祭典を始める!」
祭典の開会宣言を聞くと、ちらほらと、しかし次第に歓声を上げ喜び歓喜していく者達が現れ、その響きは、サーロの鼓膜を何故か不快に轟かせた。その、強い意志達の歓声は、遠い記憶のどこかで、聞いたことがあった気がした。 歓声を聴きながら、悦に浸った表情を見せているユイガは、歓声が落ち着くと、腰に携えていた短剣で自身の指の腹を薄く切る。すると、そこからは、翡翠色の血が浮き出してきた。
「私は翡翠色の血をもつ高貴な存在である!」
「翡翠だ! 飲ませろ!」
「俺が先だ! 翡翠をくれ!」
「……ふふふ! そうだ! これだ! この光景! はははっ!」
サーロはユイガから、先程の愉悦と違い、その表情に、激烈な怒りを見た気がした。
「はははっ! この高貴な血を! 貴様ら愚民を癒すためにつかうとでも! ばーーーかーーー! この血はなぁ!」
激情を顕にしたユイガの血は翡翠色から、淀んだ緋色へと一瞬で変貌する。それは、果てしない熱量の想いが宿っているかのようだった。
「お前ら自身の呪いで、自らを殺す為に捧げる血なんだよ!」
ユイガはその淀んだ緋色の血の一滴を、テラスに併設された、円盤型の呪法陣の装置に垂らす。すると、呪方陣が緋色に輝き、色が伝い始める。それはものの数秒で、闘技場全体に広まり、呪方陣は完成し、呪われた者達を囲い捕らえる。
「さぁ……デモンストレーションの始まりだ!」




