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翡翠の剣と翡翠の涙で

「そうして私はこの声を宿したの。大切な人から奪ってしまった歌声。この声を授かったからには私は歌姫にならなければならない。それは彼女への贖罪のつもり。彼女の夢を、歌声をこの世から消していいとは思えなかったから」


「ミシトさん……」


ミシトの過去を聞き、言葉に詰まるサーロ。ティアラも憂い気な表情を浮かべ胸に手を当てている。ガレアは腕を組み瞳を閉じてそのフィーリエからミシトへと宿った声を静かに聴いている。


「私は人の心を揺さぶるように歌う時、どんな心持にしたいか強く想うのが始まり。そうしたら自然と声が出てくるの。でもね、歌ってる最中、私は何も感じないの。どんな感情も抱かなくなる。そんな感じかな?」


「それが……その呪いの代償なんですか?」


「そうね、どんなに人を喜ばせようと、感動させようと、自分は歌を奏でるだけの虚ろな人形みたいになんとも思わない。心から歌えることを喜べないの」


ティアラはミシトの心を感じ取ろうとした。そこに見えたのは黄昏時の時計塔。時計の針は動かない。その屋上で一人立ち尽くす白銀髪の少女。そこで必死に喉が張り裂けそうな程口を大きく開けて歌おうとしている姿が。しかしその心の中の世界には音は一切響かない。無音でいて、ただただ空の橙色が追慕の念を与えてくるばかりであった。


──この人の時は、ずっと止まっているんだ……。


「あなたの経緯はは分かったよ。それで依頼の内容は何かな」


話の流れを本題に戻しガレアは尋ねる。


「ええ、さっきサーロくんは見たけど、私がとある想いを抱いて歌おうとすると現れるあの黒い影の事なの」


「退治してくれというならお安い御用だね。私なら呪現獣をこの地から解放できる」


ガレアが片手でポンポンと紅色の剣の柄を叩く。しかしミシトは頷くわけではなかった。


「そうね……退治していただきたい。でもそれより可能ならば、私はあの影の真意が知りたいの」


「ほう、呪現獣の想いを読み取りたいと。それはなかなかに難しいことだね。で、どうしてそんな事をしたいのかい?」


ミシトはノートを力強く抱え直す。フィーリエとの夢や楽しい一時が詰まったノートを。


「あの黒い影が現れるのは、私があの子、本当の歌姫フィーリエの事を想って歌う時なの。何故かその時は私の感情は無くならない。でも歌の途中で、歌を邪魔するかのように、思い出すのを遮るかのように現れて、彼女との繋がりであるノートを奪おうとしてくるの」


「ほう、呪いの元となった者を想うと現れる、ね」


ガレアはその呪現獣の正体に察しがついたようであった。


「ええ、私は思うの。その黒い影は、フィーリエなんじゃないかって」


静けさが辺りを覆う。沈黙。ガレアはやれやれどうするかなと言った具合で腕組みを続けている。サーロは息をのむ。そして自分にできることは何かないのかと思考を巡らす。


「あの……」


そんな中、言葉を発したのはティアラだった。三人の視線がティアラに集まる。


「私の涙を使えば、その呪現獣の呪いを癒して純粋な想いだけ残す……ことなんてできたりしないでしょうか?」


「涙?」


「はい。私、クウェンチエルフの翡翠色には呪いを癒す力があるんです。私の涙には翡翠が宿ってるんです。まだ癒しの力は強くないんですけど……」


「そうだ! それなら呪現獣の歪んだ想いも癒せて、フィーリエさんの真意が分かるかもしれない!」


「うん!」


打開策を思いつき喜んでいる少年少女。やれやれ、やはりこうなってしまったかと腕組みを解き腰に手を当てため息をつく用心棒。


「いいのかい? サーロ。ティアラ。この旅の目的は涙を使ってサーロの呪いを癒し、時を稼ぐこと。他の者の為に大切な涙を使うなんてね」


「あ……でも……」


「ティアラ」


サーロは憂いた面持ちに変わったティアラを優しく見やる。静かに「僕は大丈夫」と伝える。その言葉にしっかり頷き、決意を固めた表情でガレアを真っ直ぐ見据える。


「私の涙が誰かの力になれるなら、私は涙を流します!」


「ティアラちゃん……」


「ふぅ、呆れんばかりのお人好しだね。だからこそ私はキミ達の力になりたいと思えるのだがね」


「ガレアさん!」


「ただ、サーロに涙を飲ませるように簡単にはいかないよ。相手は呪現獣。暴れられてはティアラも危ない。そこでだ、一肌脱いでもらうよサーロ」


「僕ですか?」


ガレアはサーロに近寄りながら自分の紅色の剣を抜き刀身を見せつける。


「私の剣は、呪いをこの世から断ち切るものだ。それはあまりに強すぎる力がこの剣に宿っているからね。私が呪現獣を斬ったら一片の想いの欠片も残らず消失するだろう。しかしサーロ。キミの剣は違う。ティアラの涙の影響か、その剣にも癒しの力が宿っている。微弱だがね」


「この剣に……」


サーロ巻き布を解き翡翠色の刀身を見つめる。ティアラの翡翠色と同じ癒しの力が宿るという剣を強く握る。


「涙だけでは呪現獣には届かない。剣だけでは癒しきれない。だから二つを合わせるんだ。呪現獣が現れたらティアラの涙を刀身に一滴でいい、染み込ませるんだ。そうすることで呪いに対して有効な翡翠の剣となるだろう」


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