親友を喰らった狼獣人
「……」
ウルバルは静かに腕を組み、目を細めた。
「料理に? そう言えばこのお料理……お肉、というより、動物性のものがない気がしますね」
普段から料理をするサーロがガレアの発言に答えを出す。ティアラも改めて料理を思い出した。サラダ、ひよこ豆入りのカレースープ、バナナマフィンにオレンジジュース、そして豆腐ハンバーグ。それは、一般的に肉食を好むはずである肉食動物起源の獣人の料理にしては異色であった。
「ウルバルくん。キミは動物性由来の食事を食べない主義を持っているみたいだね」
「あぁ……そうだぜ」
ウルバルはあまり面白くなさそうな態度だったが、ガレアの指摘にしっかりと返事をした。
「その主義はキミの偏食によるものかもしれないが」
ガレアは言葉を一旦止めてサーロとティアラに視線を送る。二人はその視線に気づき、椅子を座り直し、ウルバルに意識を集中する。
「もし、そうではなくキミに宿る悲しみに関係することだとしたら、話してくれないかい? この二人には誰かの悲しみが必要なんだ」
「……」
「あ……ガレアさん、でも、ウルバルさんが話したくないことでしたら……」
「ティアラ、こういったチャンスはなかなかないぞ。少々図太く立ち入っていかなければ」
「ま、いいぜ。話してやっても」
ウルバルは、はぁーっと、深く息を吐いてから、ティアラとサーロに目を向ける。
「久しぶりに気の良い奴らに会えたんだ。それに俺の料理美味いって言ってくれたしな。話すだけなら問題ないぜ。ま、話し下手だからご期待には添えないかもだけどよ」
そう言って頬を爪で掻き、宙を見上げながら、少しの間沈黙する。そして三人から顔を背けながら口を開いた。
「昔、仲良かった、ちょっと話したが、兎の獣人のよ、ラビルってやつがいたんだよ」
サーロとティアラはウルバルと出会った時に見たお墓を思い出した。
「亡くなったんだよ。ある時長く吹雪く時期があってよ。俺とラビルはここに一緒に住んでたんだが、食料も全く調達できず、寒さに耐えきれず体を壊してな……」
「そう……だったんですか……」
ティアラはウルバルの心に意識を集中しながら、悲し気に、静かに語るウルバルの言葉に耳を傾ける。どんどん心の悲しい揺らぎが大きくなってくるのが伝わる。
「でよ。俺は喰っちまったんだよ。親友を」
「え……」
「ふむ」
予想外の台詞に思わず声を漏らすティアラ。ガレアは何か納得したかのような反応をする。
「そう、食料もなく、吹雪く時期を乗り越えるためによ、死んだ親友の肉を喰ったてことだ」
「……」
押し黙るサーロ。声は低くだが、自嘲気味に話は続けられた。
「で、それからよ。俺は生きるために親友を喰った。俺は生き延びたかった。ほんと……それからよ。肉を見る度ラビルを思い出しちまう。次第に味を感じなくなってきた。そのうち動物性のものもだ」
そこまで語ると、う~ん、と両腕を伸ばし、頭の裏で組む。
「……って訳よ。悪いな。俺の犯した罪と、その罰みたいな話でよ。涙を誘うようなもんじゃねえ。悲しむなら、涙を流してやるなら俺に喰われちまったラビルのために流してくれや」
ウルバルは閉じていた目を開ける。すると、いつの間にか自分の隣にティアラが寄って来ていた。目を丸くするウルバル。ティアラはウルバルの両手を優しく握り、手のひらを合わせるように包み胸の前に持ってくる。
「ウルバルさん……その時の事、もう一度思い出していただけませんか……?」
「お、おう……別にいいけどよ」
「私、クウェンチエルフ族は、心に共感する力が強いんです。今、ウルバルさんの心の悲しい揺らぎを感じました」
「……そうかい」
ティアラは澄んだ瞳で真っすぐウルバルを見つめる。
「悲しみは、分け合うことで癒せる……私はサーロやアバンダンシアのみんなのおかげで、悲しみから救われたんです。だから……今度は私が誰かの悲しみを癒せたらと思って……! だから……お願いします……!」
「……」
ウルバルはティアラの真摯な言葉を、真摯に受け止めた。そして、目を閉じ、思い出した。あの吹雪く日が続いた頃を。ラビルとこの家に住んでいた頃を。




