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出会いの夜明け

お母さんが遠くで手を振っている。その先には里のみんなもいる。どこか悲し気に、でも優しくティアラに微笑みかけて手を振っている。ひとしきり手を振り終えると、みんなは遠くの光に向かって歩みだしてしまった。


──まって! 私もそっちへ行くから!


みんなを追いかけようと駆け出すも、みんなとの距離は遠ざかるばかり。ティアラは泣きべそをかきながらも必死でみんなを追いかける。追いかける。追いつけない。遠ざかる。優しい母の後ろ姿も、光に包まれ見えなくなっていく。


──まって! やだよ! ひとりにしないで!


光と共にみんなの姿は見えなくなってしまった。大好きなお母さんも。膝をつき、放心したまま動けなくなってしまう。涙がとめどなくこぼれてくる。翡翠色をした涙が。


何もない暗闇に一人取り残されてしまったティアラ。蹲って、ひっく……!ひっく……っ!と涙にむせている。


──私は……独りぼっちになっちゃったんだ……。これから、どうすればいいんだろう……お母さん……。


快い風がティアラの後ろからそよいできた。ふと後ろを振り向くと、暗闇だった空間から木漏れ日が徐々に射し込んできたかのように明るくなる。そこには若々しい草原が広がっていた。ティアラはその清々しさに心惹かれた。涙で濡れた頬に風が優しく撫で、涙を拭ってくれた心地がした。

ティアラはふらつきながらも立ち上がり、煌めく草原へと足を運ぶ。光が射し込み見える草原の範囲は広がっていく。ティアラは草原に足を踏み入れ、歩き出す。少し遠くを見ると澄んでいて水面も輝く泉の前に誰かが立っている。ティアラと同じくらいの背丈の少年が一人。怖くはなかった。それはここがとても快い場所だったから。ティアラは少年に近寄る。少年は何かに気付いたのか、ティアラの方を振り向く。そして何か呟いた。刹那、周囲の暗闇が一気に光で照らし出された。ティアラはまぶしくて目を瞑ってしまった。自分自身も光の中に落ちていく感覚。


──そうか、私、目を覚ますのか……。




眩しさを感じる……ティアラは目を細めながら日射しを手で遮る。


──窓から光が射し込んでるの?


光射す方へ目をやると、窓が開いていてカーテンがそよぐ風に合わせてなびいている。小鳥のさえずり、風に揺らぐ木々の葉が奏でる音色。遠くからは微かに波の音も聴こえる気がした。


「朝……? ここは……」


ティアラは身体をゆっくり起こした。どうやら眠っていたようだ。それも、ふかふかのベットの上で。布団もかけてもらっていた。

 

自分の頬に触れてみた。涙は流れていなかった。


──でも……ずっと、ずっと泣いてたと思う。あの夢の中で、泣いてたから。


頬に触れた手を下ろす。と、ワシャッと何かに触れた。


──髪の毛?


そーーーっと手をどかして、ワシャッとした濃い栗色のツンツンとした髪の毛の主を見る。床に座って両肘をベットの端についたままスヤスヤ眠っている。少年の片手には白いハンカチが握られていた。そのハンカチには翡翠色の染みが出来ていた。


「涙……拭いてくれてたの?」


ティアラはこの少年の頭に自分の頭を近づける。エルフ族は他の種族より共感能力が高い。人の心を読み取りそのイメージを自分の事の様に感じ取れる力が備わっているのだ。ティアラは少年に意識を集中する。


心地良い風。澄んでいて煌めく泉。朗らかな日の光。そこに一人立って遠くを見据えている少年。そんなイメージがティアラの心に流れ込んできた。


──とても、快い……爽やかな心……キミは一体……。


目を開ける。と、少年も目を開けていた。鼻先がぶつかりそうなほど近くで見つめあう二人。


「ひゃぁぁぁっ!」


「うわっ! ご、ごめん!」


ティアラは驚いてつい声を上げてしまった。そして反射的にベットの端まで飛び退き布団に身を埋めてしまった。少年の方はあたふたしてしまっている。顔色が少し赤くなっているように見えた。


「大丈夫! 僕は怪しいものじゃないよ! えと、ここに住んでるサーロって者です!」


「サーロ?」


「うん! そう! サーロ! で、今朝キミが浜辺に流れ着いて気を失ってるのを見つけたからとりあえずウチまで運んで……」


「気を失って……」


「あ! どこか具合悪いところとかない? ちょっと歩かないとだけど知り合いのお医者さんもいるから診てもらったほうが!」


「大丈夫……」


ティアラはやや警戒しながらも彼の問いに答える。さっき感じたサーロという少年の心。きっとこの親切さも裏のない真心からなんだろう。少年はえーっと、それから、えーっと、とあわあわし、次にどうしたらいいか悩んでいるみたいだった。そんな姿を見ていたら、ティアラはなんだか可笑しく感じて、ふふっ、と笑みがこぼれた。サーロはティアラの笑った顔を見て、晴れやかな笑顔を浮かべた。


「へへっ! よかった! 笑ってくれて! キミには笑顔が似合うね!」


「笑顔?」


「うん! 見つけてからずっとキミは涙を流してたから……きっと悲しいことがあったんだろうなって……」


──悲しいこと……お母さんの事、みんなの事……思い出して……あ……涙がまた……。


「でも! ほら!」


サーロはティアラの頬を両手でぷにっとつまむと、ぐにょーんと引っ張り、口角を上げさせた。


「そんな時こそ笑顔でいないと! 過去の悲しみより未来の笑顔だよ! これ、じっちゃんの教え!」


「えひゃお……」


ティアラは頬をいじられながらサーロの言う笑顔という言葉を繰り返した。サーロは急に顔を赤くして、照れた汗を垂らしながら、ぱっと、頬を引っ張るのをやめた。


「あ、ご、ごめん! 初対面なのにいきなり頬っぺたぐにょーんとして! その……なんか」


「なんか?」


「すごいぷにっとしてそうで触ってみたくて……ごめん!」


「……ふふっ!」


サーロという少年と話していると、心に爽やかな風が吹き込んでくるような心地がする。その風はティアラに笑顔を届けてくれる。


「え、と、何があったとかは、おいおい話してもらうとして、とりあえず! 改めて自己紹介! いいかな?」


「うん、いいよ!」


「はじめまして! サーロって言います! 見ての通り人間族の男の子だよ!」


サーロは片手をティアラに差し伸べてきた。ティアラはその手を取る。優しい、温かみを感じる。


「私は、クウェンチエルフの、ティアラって言います」


ぐ~~~~~。お腹の音が二人の間に響く。


──これはサーロくんの音だ、サーロくんの……ううん、私の音です……恥ずかしい……!


顔を真っ赤にして下を向くティアラと、ハハッと笑顔を見せ、よしっ、と立ち上がるサーロ。


「さ、話したいことはあるだろうけど! 腹が減っては何とやら! 今ご飯用意するね!」


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