共鳴した渇きの呪い
「サーロ……?」
「あ……僕は今……あっ、がっ!」
ティアラの呼びかけに答えようとするサーロだったが、ほんの僅かに首の紋様の色が濃くなると共に、喉を押さえ苦しみだす。
「サーロッ! 大丈夫!? サーロ!」
サーロは屈み込み呪いの苦しみに耐えている。ティアラも寄り添い、サーロに触れる。
「ティアラ、先程の涙を」
「はい!」
首から下げている水集めの瓶の蓋を開け、サーロの口元へもっていく。そして少しだけ溜まっている翡翠の涙を、流し込む。
「んくっ……かっ、っは……はぁ……はぁ……」
サーロは口に流し込まれた翡翠の涙を飲み込む。すると、首の紋様の色は少し明るく薄まり、苦しみも遠ざかっていった。
「ありがとう……ごめん、ティアラ」
「ううん、ううん! そんな! サーロこそありがとう。助けてくれて……でも……」
「うん、僕自身、何が起こったのか、何をしたのか、よくわからないんだ……」
ガレアは腕を組みながら二人に諭すように話しかける。
「それが渇きの呪いの力だよ。生を渇望する力だ。まさか他人の生にも反応するとはね」
「生を渇望する力……ですか」
「そうだ」
ガレアは龍化させた手を元に戻す。サーロはティアラに支えられながらゆっくり立ち上がった。
「渇きの呪いは私が知る限り、とてつもなく生に執着していたものが亡くなった時、その地に宿り、そこに訪れた者に共鳴した時に宿ると記憶している。キミに呪いを移した者もそういった呪われた地に訪れたのだろう。全く、物好きのものだな」
「呪われた地ですか……」
ティアラは、少し目を伏せながら呪われた地とはどんな所だろうと思いを馳せる。
「生きる、という為にはとてつもない力を発揮する。私は呪われている者自身の命の危機だけに反応すると思っていたが、サーロ、キミの心と共鳴した結果、他者の命の為にも呪いは力を貸すようだな」
「渇きの呪いって、悪いものとは言い切れないのですか? ケホッ……」
「いや、良いものでは無いのは確かさ。その呪いの根源的な力に体は耐えられず、心まで蝕まれていく。誰かの生きたいと強く願った思念が、結果として誰かの生を脅かす。皮肉だね」
「……」
サーロは首の紋様をなぞる。これにはどんな人の、どんな思いが込められているのだろうかと。サーロはティアラを助ける為、渇きの呪いの力を発揮した時の事を思い出そうとした。自分の膂力が高まった時の感覚。それは、数え切れぬほど大勢の人々が力を貸してくれている。そんな感覚であった。
──この呪いって、誰か一人の想いじゃないのかな……。