生を渇望する呪い
進むべき方角にいた無数の黒い獣、呪現獣の群れは紅蓮の閃光によって次々霧散していく。初めはガレアに向かってきたものを。次の大地を駆けるものを。そして最後に翼を生やして宙に向かい、空飛ぶものを。紅蓮の閃光は鈍い煌めきを放ちながら駆け巡る。
サーロとティアラがその光景を目にしていたのは束の間であった。あまりに速く、時の流れの次元が違うのかとさえ思う程であった。
「ガァァァ!」
周囲の呪現獣が霧散していく中、爪を立てて自らに迫る危機に抗おうとした最後の呪現獣だったが、その爪は誰にも届くことなく、一閃、剣に貫かれ、塵となった。
「ふぅ、これで最後かな」
ガレアは剣を軽く振り下ろし、鞘にしまう。そしてゆっくりと羽ばたきながら真下に降りていく。
少し離れたところで今起きた出来事に驚き動けず言葉も出ないサーロとティアラ。無意識に開いていた口が閉じていない。ガレアはその様子を見て、ふふっ、と笑みを浮かべる。
「どうだい? キミ達の用心棒としては及第点かな?」
「あ……ガレアさん……凄い!」
ティアラはようやく先程の光景の感想を言葉にすることができた。ティアラは大地に降り立ったガレアに駆け足で近寄る。サーロは少し遅れてティアラを追う。
突如、駆けるティアラの背後の地中から一体の呪現獣が姿を現し牙を剥く。
瞬間、ティアラは何かが自分の後ろに現れたと気付き、後ろを振り向こうとする。
刹那、ガレアは剣を構えず、大地を力強く踏みしめ、片手を龍化させ、地中から現れた呪現獣に飛びかかろうとする。
ドクン
二人の反応よりも素早く、行動を起こしたのはサーロだった。ティアラの命の危機に、頭が、心が、反応する前に、予めそう動けと決まっていたかのように、サーロの体は動いた。首の鮮血色をした紋様が一瞬、発光した。
「ァッ……! ガァッ……ァア!」
サーロは、人間離れした速度で呪現獣に飛び付き、その首を両手で握り締める。悶え苦しむ呪現獣。握り締めるその力も人間の少年のものとは思えない膂力であった。サーロはただただ、必死な表情で、湧き上がる何かの衝動に耐えているようであった。
一閃。
呪現獣の体を龍化した手でガレアは貫く。そして、黒い塵となり空に霧散し消えていく。