空突き抜ける龍と子ら
「どうだい? 空の旅は」
「うわ~! すごいよサーロ! 私達空飛んでるよ!」
「空を飛ぶって……こんなに清々しいんだね」
「まぁ、両脇に抱えて私が羽ばたいてるだけだがね」
雲のたゆたう空を飛ぶ影。ガレアは髪色と同じ色合いの大きな翼を羽ばたかせ、空気を切り裂いて突き進む。サーロとティアラはしっかりと両脇に抱えてもらっている。どちらかというとぶら下がっているともいえる状況ではあった。
「ガレアさん、急に翼が生えましたが……ガレアさんって何者ですか?」
「龍人族って私は聞いたけど……」
「ああ、龍人族さ。呼び名の通り、龍の力を宿した者……いや、人の形をした龍……どちらとも言えるかな」
ガレアは突き進む先に目を凝らしながら二人の問いに答える。
「ともあれ、人間族やエルフ族、獣人族と比べても希少種族と言えるかな。そして自分で言うのは何だが、キミ達とかけ離れた力を有しているのさ。神と崇めた者達もいたくらいだ」
「そんな……すごい方なんですね……ガレアさん」
「私……恐縮しちゃいます……」
「ふむ、そんな大層な存在ではないぞ。私は案外お茶目だ。例えば」
突然、大きく前方に羽ばたき空気を押し出し宙で静止する。そして唐突に二人を抱えていた両腕を離し軽く両手を上げる。当然、サーロとティアラは。
「へ? ……わぁぁぁーーーーーーーー!!」
「きゃぁぁぁーーーーーー!!」
垂直に落下していく。絶叫しながら。二人とも目に涙を浮かべていた。
ティアラの浮かべていた涙の雫は、紋様が仄かに光り輝いた水集めの瓶の蓋を透過して、わずかだが、翡翠色の液体を蓄えた。
ガレアは再び上方の空気を翼で勢いよく押し出すと、あっという間にサーロとティアラに追いつき追い抜き、右手でサーロを、左手でティアラを衝撃の無い様に軽々キャッチした。そしてゆっくり羽ばたきながら地面に足を付けた。
「こんな感じで悪戯も好きなのさ」
「……」
「……」
唐突な恐怖感に襲われた二人は沈黙してしまった。言葉が出てこない。
「おっと、すまないすまない。しかし、試したいこともあったのさ」
「……試したいことですか?」
「そう、ティアラの持ってる水集めの瓶が機能するかという事の確認さ」
「あ、涙が少し溜まっています!」
ティアラは首からぶら下げている水集めの瓶を手に取り見つめていた。
「涙は、悲しみ以外でも集めることは出来そうだね。この事もキミ達に伝えたかったのさ」
「!」
「悲しみ……以外?」
「そうだ」
ガレアは二人を降ろし、ティアラの頭に優しく手を乗せる。
「笑い涙。嬉し涙。恐怖からの涙。はたまた身体現象からなる涙。涙が流れる条件は多様にある」
「そうだ……それならティアラが悲しい思いに浸らなくても……!」
「しかし、事実、悲しみが一番涙を流す要因でもあり、この世界に悲しみは尽きない」
「……っ!」
サーロは悔しそうに、申し訳なさそうに歯を食いしばり下を見る。ティアラはサーロの事を心から心配し視線を向ける。
「サーロ、大丈夫だよ。私はっ、泣き虫だから! それに季節が一回廻るなんてあっという間だから!」
「ティアラ……」
「ふぅ、キミ達の響きは相変わらず素敵だな。他を思いやれる優しい響きだ。しかし健気すぎるかな」
ガレアは耳を澄ませる。リング状のピアスは光が当たり煌めいていた。
「さぁ、ここからは歩いていこう。その方が私にとって都合がいいのでね」
「はい。飛び疲れたんですか?」
「まさか」
サーロの率直な質問にガレアはきっぱり返答する。
「この先、キミ達を守りながら行くには飛んでない方が対処しやすいのでね」