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アバンダンシアより旅立ち

アバンダンシアと荒野との境界付近にて、五つの人影が立っていた。ティアラ、サーロ、ガレアは荒野側に。アイシャとグリマはアバンダンシア側に。


「本当に……本当に行くのね。ティアラ、サーロ」


「行っちゃうん……だよね~……」


険しい顔をして、ティアラとサーロを心から心配する二人の保護者でもある二人。グリマは両手で透明な瓶を握っている。その瓶には藍色の紋様が描かれていた。少年少女は決意を固めた目をしてお互い視線を合わせてから見送りに来た二人を瞳に捉える。


「はい。私はサーロとガレアさんと一緒に旅に出ます。涙を流し続ける為に」


「僕のせいで……ごめん……ティアラ……」


「こらこら、ふたりともそう思い詰めるものではないよ」


ガレアはこの街に来た時より大きな袋を持っている。その中にはサーロとティアラの旅の為に用意した者が大半を占めていた。やれやれ、とやや呆れ顔で二人を優しく諭す。


「なーに、季節が一回廻るまでの旅さ。涙を流す、という目的ではあるが、広い世界に出ることで新しい発見や楽しみもあるだろう」


「そう……ですね」


「はい……」


サーロとティアラは二人とも下を向いてしまった。ガレアは、全く……生真面目だなぁ~とぼやいた。そして視線をアイシャに、それからグリマに移す。


「キミが獣人族のグリマ店長さんだね。キミのお店にはゆっくりお邪魔したかったが仕方がない。で、アイシャ先生、約束の物は彼が持ってきてくれたんだね」


「ええ、クラーク先生が造った水集めの瓶よ」


「これだよ~。普段は樹液を集めるのに使ってるんだけどね~。はい。ティアラ。袋も作ったから首にかけてね~」


グリマはティアラに水集めの瓶を手渡す。瓶にぴったりのサイズの袋に入れられ、首から掛けられるようになっていた。ティアラはグリマの手に触れ、大切に、大切に瓶を受け取り首に掛ける。


「ありがとうございます。グリマ店長。アイシャ先生」


「ティアラ、これはね、この瓶に触れた者が望んだ、近くの水分を瓶の中に集めてくれる物よ」


「本来は旅人が水不足で困らないように使ってたらしいけどね~」


「ほう、クラークが旅人だった時に造ったのか。これは、まじないがかけられているね。優しく、切実な想いから生まれたのだろうね」


ガレアは瓶の紋様を覗き込み感嘆の声を上げる。ティアラはとても大事に瓶を両手で包み胸元に持ってくる。そして目を閉じ、思いを込める。


「水集めの瓶さん……。私の、翡翠の涙を、集めてください……!」


水集めの瓶の紋様が一瞬仄かに光る。サーロは眉をひそめ、悲し気に水集めの瓶を、ティアラを見つめる。


──ティアラには……笑顔でいてほしい。僕を、孤独から救ってくれた、大事な人だから。でも、僕のせいで……悲しみを……涙を……。


「少年。心の響きが哀しいではないか。キミが哀しんだところで、未来への笑顔には繋がらないぞ」


ガレアは耳のリング状のピアスに手をかざす。


「さっきも言ったが、たった季節を一回廻るだけさ。その時間、キミらは生き抜くために最善を尽くす。その後は笑顔になれるさ」


「ガレアさん……」


「ガレアさん。あなたの事は信用します。クラーク先生の日記にもあなたの事が書かれていたので。この地、アバンダンシアを教えていただけた、不老の呪いを受けた龍人族がいたと」


アイシャは、ガレアを真っ直ぐ見据える。ガレアの真意を確かめるように。


「……あなたがふたりの旅に同行していただけるのはとてもありがたいです。しかし……」


「理由かい? なぁに、ふたりの心の響きが気に入ったのと、クラークの育て子という事、そして、私の永遠の人生のひと時に、彩りを持たせたいからさ」


「彩り……」


サーロは喉を軽く押さえながらガレアの言葉を繰り返す。


「まぁ、お人好しとか思われるかもしれないが、結局は自分の為だよ」


アイシャはそれを聞いて、肩を下ろし一安心したようだ。


「自分の為って言いきれる人は、私は信用しているの。ガレアさん、ふたりをよろしくお願いします」


「お願いします」


二人揃って頭を下げるアイシャとグリマ。ガレアは軽く手を挙げて応じる。


「では、サーロ、ティアラ、行こうか」


「はい! 私達、必ず戻りますから!」


「お願いします。ガレアさん」


「了解。とりあえずこの荒野を越えないとだからね。ふたりとも、私に寄りなさい」


サーロとティアラはガレアの両脇に体を寄せる。するとガレアは二人の腰回りに腕を深くまわし、しっかり抱え込んだ。


「では、空の旅へとご案内しよう」


突如、ガレアの背中から紋様が宙にほとばしり、大きな翼の形に集まると、色褪せた紅色の龍の翼が具現化した。そして、空気を勢い良く押し出し、ふたりを抱えたガレアは大地を蹴り、空を飛んだ。みるみる高く飛んでいき、見送るふたりから遠ざかっていく。アバンダンシアから去っていく。荒野から渇いた風が吹き抜ける。残された二人の頬を撫でて。


「アイシャ先生~」


「今はこれが最善なはず……。ガレアさんは、信じて大丈夫よ」


アイシャは荒野を一瞥してから、アバンダンシアの方角へ振り返り歩き出す。


「それに私がおまじないかけたんだから! さっ! 街に戻るわよ!」


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