龍人ガレアとの出会い
ティアラは夢を見ていた。干乾びた大地で、顔にひびが入ったサーロを抱きしめる。ティアラはとめどなく涙を流す。その翡翠色をした涙はサーロに染み込んでいく。潤いを与え続ける。こぼれ落ちた涙の雫は乾いた大地に一瞬、若葉を蘇らせる。しかしそれはほんの一瞬。すぐに芽生えた緑も枯れて散っていく。サーロの顔のひびは治らない。
──なんで! どうして! 私の、クウェンチエルフの翡翠は呪いを癒し解くはずなのに……! なんで……!
ティアラは目を覚ました。光が部屋に射し込んでいる。どうやら朝の様だ。涙は止まっていた。
──私……どうして……サーロ!
ティアラはすぐそこにいるはずのサーロを探した。しかし、見当たらなかった。
「サーロ……! サーロッ!」
「その少年ならこっちで寝てるよ」
知らない女性の声。ティアラは声の主の方に視線をやる。色褪せた紅蓮色の髪をした大人の女性がいた。アイシャと同い年くらいに見えた。そして気付いたがティアラはベットに寝かされていた。
「誰……?」
「私は旅人だよ。そしてクラークの旧友とでも言ったところかな」
その紅蓮色の髪の女性は椅子に座っていた。その女性の少し後ろの床には、彼女のものであろう羽織ものを掛けてもらい横になっているサーロ。聞こえる寝息は落ち着いたものだった。よかった……と、一安心するティアラ。胸を撫で下ろす。
「ところでキミに聞きたいことがある。ここで何があったのかな?」
「!」
ティアラは少し身構えた。クラーク先生の旧友と言っていたが、それにしては若い。ティアラとサーロを介抱してくれてはいたが、警戒心は抱いてしまう。
「ここで死んでいた人物を殺したのはこの少年だろ? 違うかい?」
「サーロは悪くないの! 私を助けるために! サーロはっ!」
「咎めたりしないよ。ただ、何があったのか知りたいだけさ」
「え……」
女性は穏やかに話しかけてくる。ティアラの目をまっすぐ見据えて。ティアラの中の焦りは落ち着いていく。しかし、彼女の質問には答えなければという使命感も芽生えた。
ティアラは何が起こったかを、一つ一つ思い出しながら話した。とても辛い感情が甦ったが、涙は流れてこなかった。散々泣きはらしてしまったからであろう。
「なるほど、クウェンチエルフの翡翠、つまりキミの涙を狙った人物から護るため、殺めてしまったと。そして呪いを受け継いでしまったという事か」
「はい……あの、その……」
「あぁ、キミを狙った人物なら埋葬したよ。場所は伝えないでおこう。負い目を感じる必要はない」
「はい……」
「しかし、この世界にはクラークや、キミ、そしてサーロといったかな。いい響きをしている者もいるのに、全く、世界とは難儀なものだ」
紅蓮色の髪の女性は耳を澄ませていた。耳にはリング状のピアスをはめていた。それは薄い翡翠色をしていた。ティアラは少し不思議な感覚をそのピアスから感じ取れた。
──それよりもこの人……何だろう……。
ティアラは紅蓮色の髪の女性の心を感じようと意識を集中する。しかし見えるのはあまりに広い、広すぎる世界そのものであった。彼女自身が見えてこない。
「ところで翡翠の涙を流すクウェンチエルフの少女、キミの名前は何というのかな?」
「あ……ティアラって言います」
紅蓮色の髪の女性は耳に手を当てティアラの声にうんうんと頷く。そして、静かに目を開き、立ち上がった。
「私はガレア。龍人族のただの旅人さ」
ガレアと名乗った女性は胸元を少し開き、露わになった肌をティアラに見せた。その胸元には紋様が刻まれていた。
「不老の呪いをこの身に宿した、ね」