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僕たちとアイのはなし

イヌとネコの日

作者: 宇美八潮

ケイとジエイの兄弟、それと二人の持つアイ・端末の、ある日の会話です。

「ただいま。」

中学校の寮で暮らしている僕だけど、週末には家に帰ってくる。

「お帰り。なあ、ケイは今度の22日が『イヌとネコの日』ってのは知ってるよな。」

帰宅した僕にジェイがそんな話をしてきた。

「うん。11月がワンワンでイヌ、22日がニャンニャンでネコ、だったよね。」

「そう。単純な語呂合わせだな。」

夏から一緒に暮らすことになった兄さん、ジェイが家に居るのにもすっかり慣れた。

「ところでコーヒー淹れるけど飲む?」

「頼む。」

キッチンに行き支度を始める。


「それって、イヌやネコをアイ・端末のホロに使っている人たちのグループが決めたんだっけ。」

「ああ。気候変動の時代よりも前の、家で動物を飼っていた頃の記念日を参考にしたってことだった。」

「図鑑や記録映像で見ると、いろんな種類がいて可愛いよね。」

「アイ・端末のホロで使ってるのはそういうのだな。」

「でも動物園とかで見る実際のイヌやネコはね…。」

「シティが出来たときに飼えなくなった生き残りが野生化しちゃってるからな。」

「獰猛そうで一緒に暮らすっていう雰囲気じゃないなぁ。」

「昔のヤマイヌとかヤマネコってのが近いんだったかな?クラギーさん。」

「はい、分類上は異なるものですが、生態は近いと言われています。ただしヤマイヌとされているニホンオオカミは気候変動の時代が始まるより前に絶滅していたとされ、ヤマネコも一部の島に少数が棲むだけで身近な存在ではありませんでした。」

そう答えたのはジェイのアイ・端末でクラギーさん。クラゲのホロを使っている。

僕のはマンボウのホロで、まんぼさん。


「はい、コーヒー淹れたよ。で、その記念日がどうしたの?」

「ありがとう。なんでもこの日をアイ・端末の日にしようって話があるそうなんだ。」

「え、なんで?イヌとネコの日なんでしょ?」

「どうやら元々は愛玩動物全般を大事にしようっていう日だったことが分かったそうなんだ。」

「ふうん。まあ愛玩動物とアイ・端末ってことならば共通点はあるのかもね。」

「そうか?」

「ほら、例えばイヌだと最初は狩猟や牧畜のための道具として飼い始めて、一緒に暮らすことを続けるうちに家族みたいになったって習ったよ。」

「そういうことか。確かにアイ・端末も最初は道具として始まったんだものな。」

「ね。それが今ではこんな話が出るまでになってるわけじゃない。」

「確かにそうだ。」

「だからといって、元々はイヌとネコの日だったのをアイ・端末の日にするってのは別問題だけどね。」

「この件については、アイ・端末は道具に過ぎないって主張しているグループが既に反論しているそうだ。馬鹿なこと言うなって。」

「それは同感だな。とはいっても僕としては、どちらのグループも似たようなものだと思うよ。」

「相変わらず辛辣だ。」

「もちろん考えるだけならば自由だと思うよ。だけど相手に押し付けてくるのはやめてほしいよ。」

「アイ・端末のホロを全てイヌかネコにしようなんてのがあったものな。」

「あれで評判を落としたっけ。」

「ホロのキャラクターには思い入れのある人が多いし。」

「しかも仲間うちからも反対意見が出たんだよね。」

「「好きでもない人に無理に使わせても”猫に小判”だ。」なんて言ってね。で「その表現は不適切だ。」って更に内輪もめがひどくなって。」

「あれは笑っちゃったよ。今度も結局その時と同じ感じになるんじゃないのかな?」


「そういえばクラギーさん、アイ・端末の日ってのはまだ無かったのか?」

「はい。アイ・システム全体の記念日はありますが、端末単独でのものはありません。」

「なんか不思議だね。専用端末の使用開始とか、ホロのサービスが始まった日とか、候補はありそうだけど。」

「アイ・端末はアイ・システムの記念日に合わせてサービスが始まったので、どちらも同じ日となっています。」

「へえ、そうなんだ。誕生日が元日の友達がいたけれど、それと似た感じなのかな?」


「ところで、まんぼはさっきから静かだな。」

「魚のホロを使う私には、捕食者のネコが怖いという感覚が刷り込まれているようです。」

「ええっ!?びっくり!ネコの話題だったから喋れずにいたの?」

「ひょっとしてオフクロの「みけ」も苦手だったのか?」

「えっと、実は…、冗談です。」

「まんぼさんの冗談なんて珍しいねぇ。」

「ってか、アイ・端末って冗談言うんだ。」



余談だけれど、アイ・端末は道具に過ぎないと主張しているグループが「ロボットの日」というのを見つけてきて、この日をこそアイ・端末の日にしようと言い出して失笑を買ったのはそれからすぐのことだった。

本作を見つけて読んでくださった方、どうもありがとうございます。

この機会に本編の方もご覧いただけると嬉しいです。

この話は本編の第二章と第三章の間で、ケイは少し落ち着いてきた頃になります。


なお、11月22日は似たような記念日になっていますが、「ペットの日」というのはそれと別の日にあるそうです。


更に蛇足ですが、防災都市・シティでのペット類飼育禁止は、食糧問題が深刻になると見込まれたことなどが理由です。

ただし当初は高齢者の一人暮らしなどいくつかの条件を満たした場合、一世代に限り例外的に飼育が許可されました。

それ以外の動物たちは…。

この辺の悲しい歴史は小学校の授業などで習います。

とはいえ世界的には多くの地域で愛玩動物が存続しています。

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