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醜怪(みにくいかいぶつ)  作者: 卯雪リオ
6/6

決戦

52.2030年✕月6日 19時 フランス クラウス.ナパナ



 目の前で黒髪の綺麗な女性が目を覚ます。

 「お目覚めですか、お姫様。」

 言語は、耳に飾られた自動翻訳装置が変換してくれる。

 昔制圧した星の戦利品の一つだ。

 目隠しを外し、その綺麗な瞳に吸い込まれる。

 (もったいないな。)

 昨日宇宙船内から、彼女の演奏を聞いていた。

 終わる頃には、すっかり魅力されてしまった。

 (キースに怒られそうだな。)

 口も解放し彼女に話しかけた。

 「お姫様、ご気分は、悪くないか?。」

 「…最悪だけど。」

 キッとこっちを睨み付けるが、体は震えている。

 「お腹すいただろ、ちょっと失礼。」

 両手足は拘束したままの彼女を抱えると、テーブルに座らせた。

 「さぁ、どうぞ、一緒に食べよう。」

 フォークに、黄色い食べ物をさして目の前に差し出す。

 「…。いらない。」

 彼女は、首を横に向ける。

 

 ガチャ

 

 「せっかく好物用意したのに、食っとけよ、最後の晩餐なんだから。」 

 扉が開き、部屋に入ってきたキースが、ヒメノを睨み付ける。

 肩には、レオナールが担がれていた。

 「レオナール!」

 キースは、空いている椅子にレオナールをおろし拘束する。

ガチャン。

 「?、落ちたな、パソコンか、…って動かねーな。壊れてんのか?。調べたほうがいいか、エースに渡して…。」

 「…キース。」

 「兄貴、こいつに甘過ぎ、どうせ殺すんだからって、わ!。」

 キースの足元がどんどん氷付き首元まで覆われた。

 「…ごめんなさい、俺が悪かったです。…許して下さい…。」

 「…出て行け。」

 「はい。…あー、パソコンも氷漬け…こりゃ駄目だなぁ。」

 氷が割れて、解放されたキースは持っていたパソコンを床に落とし、足で思い切り踏み、部屋を出る。

 

 「さぁ、ヒメノ暖かいうちに食べよう。」

 ヒメノはひきつった顔をして、震えていた。

 「…レオナールは?生きてるの?」

 俺は、仕方なくレオナールの胸に手を当てる。

 「生きてるんじゃない。多分。」

 ほっとしたヒメノを見て、ちょっとこいつを殺したくなる。

 「ヒメノ、君はこっち、ほらあーん。」

 改めてフォークを差し出す。これが地球の愛の行動らしい。

 「大丈夫、君にあんな事しないから。」

 「…最後の晩餐って。」

 「君が協力してくれればそんな事にはならないよ。」

 頭を撫でてあげる。

 「さぁ、まずは食べよう。ほら口開けて。」

 ヒメノは、震えながら口を開ける。

 ヒメノが好物だと言う"アツヤキタマゴ"と言う物を口にいれる。

 「どう?美味しい?。」

 「…はい。」

 「じゃあ次はこれ。」

 大きなスプーンいっぱいに次の食べ物をいれると、ヒメノの顔が嫌そうになる。

 「それは、ちょっと…。」

 "キムチ"と言う名前の食べ物は、嫌いらしい。

 (…情報が間違っていたのか?。)

 「…その隣のサンドイッチが欲しいです。」

 遠慮がちに言う顔が可愛い。

 「これだね、はいどうぞ。」

 「あ、…それは、おにぎりです。でもそれも食べたいなー、…ははっ。…あなたも一緒に食べませんか、美味しいですよ地球の食事。」

 「君が食べてるのみてるたけでお腹いっぱいだよ。あ、飲み物もいろいろ用意したよ、"コーヒー"、"タピオカミルクティ"、"イチゴミルク"、あと、"ナマビールトエダマメ"。」

 目の前に並べてあげる。

 「…じゃあ、コーヒーを。」

 「これだね、はいどうぞ。」

 少し覚めてしまったので、手を添えて温めようとしたら、力加減を、間違えて蒸発してしまう。

 「…。」

 「…やっぱり、イチゴミルクかな。うん、イチゴミルク欲しいです。」

 「…ごめん、怖がらせてばかりだね。」

 イチゴミルクというものに、ストローを指して口元に持って行く。

 「…ありがとうございます。」

 ヒメノは、そっとストローを加えて"イチゴミルク"を飲む。

 「美味しい?!。これ、みんなどこで手に入れたんですか?。」

 「ああ、親切な警備隊の隊員がね。役に立たないから、世界中を周って最高の物を買って来させた。君に最高の好きな物を食べてもらいたくて。」

 「…でも、殺しますよね。」

 うつむき小さく震えるヒメノを俺は抱きしめる。

 「そんな事しないから、君が協力してくれれば絶対しない。」 

 「本当に?。」

 ヒメノは、涙をポロポロ流しながら俺を上目遣いで見てきた。

 (可愛いすぎる!。)

 「約束するよ…。」

 そう言いながら、ヒメノの涙を拭い、顎を少し持ち上げてその可愛らしい唇に触れようとしたが。

 「はい、ストップ!。」

 いつの間にかキースが来ていて、俺達を引き剥がす。

 「兄貴、ハニートラップに、まんまと引っかかってるんじゃねえ!。」

 ギロリと睨む。

 「ヒメノがそんな事するはず無いだろ!。」

 力が暴走し、またキースが氷はじめた。

 「…ちゃんとこいつの心読んだから、弟より、こいつを信じるのかよ!。」

 弟の目は真剣だ。

 チラッとヒメノを見ると、舌打ちしていた。

 「…分かった。すまない。」

 キースの氷を解除する。いかん、危うくヒメノにのめり込む所だった…。

 「たく、やっぱり危なかった。本来の目的見失わないでくれよ。」

 そうだ、俺達には大事な目的がある。

 「おい、起きろ、お前もだ。」

 キースに揺さぶられ、レオナールがうっすら目を開く。

 「レオナール!大丈夫?。」

 「…。」

 まだ意識は、曖昧そうだ。


 「ヒメノ、いや、ヒメ。答えて欲しい。新芽は何処にある。」

 「?、新芽?何の事?。」

 「君たちが、星を出る前。新芽が出来た事は分かっている。」

 「だから何の事?。」

 「この星にある、生命の木は既に見つけてある。私達の星と同じく、枯れそうになっていた。」

 「!!。」

 「この星は、後何年持つのか…。そこで、必要なのが新芽だ。新芽を植樹するのか、新しく植えるのか。しかしまだ植えられていない。と言う事は、まだ誰かが持っている。」

 ヒメノは、何も分からない顔をして、首をかしげる。

 「なるほど、こいつらも誰が持ってるか分からないらしいぜ。」

 「!!!。」

 「なんでって?、言っただろ、心が読めるって。」

 キースは、ニヤリと笑う。

 「何とか宇宙船にたどり着いて、さぁ逃げようとしたとき突然光に包まれて最後の新芽を託された…。けど、まだ新芽は生まれたばかりで小さいから、誰かの体内である程度大きく育つまで植樹できない。なるほど。」

 「ほら兄貴、出番だぞ。」

 「…。」

 「兄貴!。」

 「…分かってる。」

 クラウスは、ヒメノのお腹辺りに右手を置き、レオナールに左手を置く。

 「何?、やだ、やめて…。」

 キースがヒメノの口を塞ぐ。

 お腹から、何か不思議な力が流れ二人の体中を駆け巡る。

 「…無いな。」

 「ちぇ、外れかよ。絶対王族二人のうちどっちかだと思ったのに。」

 「キース、手を離せ、ヒメノが窒息する。」

 「ハイハイ、もう邪魔しないからごゆっくり。俺は、あのガキを捕まえに行きます。」

 手をヒラヒラさせ、キースは部屋を出て行った。

 「ごめん、ヒメノ大丈夫?。」

 ヒメノはぐったりしていて、レオナールはピクリともしない、多分もう駄目だろう。

 急いでヒメノをソファーに運び横にさせる。

 毛布を掛け額の汗を拭う。

 「…ごめんヒメノ、本当にごめん…。」

 ヒメノは、うっすらと目を開けると、少し微笑み、気を失った。

 (本当にごめん、ヒメノ)

 破壊の力は有り余るほどあるが、回復させる力はクラウスにはない。

 (こんな時、本当に俺は無力だ。)

 ヒメノの手を握り回復を祈る事しか出来ない。

 クラウスの力は、産まれてからどんどん大きくなり、5才になる頃には大人達はもて余すようになる。

 しかし、星の権力者であった国王がクラウスを預かり、力の使い方や制御を教え、2年後に弟も引き取り、兄を支える戦士に育て上げた。

 クラウスを使って新しい支配者になる夢を持った国王は、クラウスが10才になると、星を侵略し始める。

 しかし、最初の星で失敗した。

 交渉を見学させるため同席していたクラウスが暴走した。

 後ろの方で弟と見学していたが、背後から近づいた相手の刺各に弟を人質に取られた。

 さらに、そいつは、キースの腕をへし折った。

 「!…うぎゃぁー!!」

 キースの叫び声にクラウスがキレた。

 突然辺りが真っ白になり吹雪になる。

 数分後、国王が目を開けると、星は氷の星になっていた。

 生きているのは、自分達のみ。

 元々のこの星の生き物は全て氷つき、力を放出したクラウスは倒れていた。

 ひとまず自星に帰り、クラウスとキースを治療する。

 クラウスは力を放出して一度は空っぽになったもの、また少しずつ回復していた。

 これで力が安定するかと思ったが、クラウスの力は大きくなるばかりで止まらない。自分でも制御出来ないほどになってしまい、やむ無く制御装置を付ける。

 年に一度、あの氷漬けの星に行き、たまった力を放出させて安定を保った。

 あの星の氷は厚みを増すばかり、永遠に溶ける事は無いだろう。

 その後、国王が病に倒れると、クラウスが王国を乗っ取った。

 クラウスは、ずっとこの機会をキースと共に狙っていて、裏で密かに革命の仲間を集めていた。

 

 「…クラウス様。」

 警備隊のベテランが、部屋に入ってきた。

 ベテランは、あの時クラウスとキースに同行して二人を守る役目だった。

 キースを敵に奪われた事を国王に咎められ家族や一族、全て処刑されそうだったのを、クラウスが国王に頭を下げ何とかみな命をとりとめた。

 それ以来クラウスに一生命を捧げると誓いを立てた。

 クラウスの右腕になり、革命の力にもなった。

 「これを…警備隊で緊急時に一時しのぎで飲む薬です。あまりにひどそうなら飲ませて見て下さい。」

 一粒の白い錠剤を手渡す。

 「問題無いのか?、地球人に飲ませても。」

 「あくまでも一時しのぎでしかありませんが、回復するかどうかは、本人の体力次第かと…。」

 ベテランは、頭を下げ出て行こうとした。

 「…ありがとう。」

 クラウスの声はがベテランに届く。

 「…。」

 頭を深々と下げて、部屋を出て行く。

 ベテランは、クラウスが迷えば活を入れてくれ、間違えていれば体を張って止めてくれる、キース意外で唯一クラウスが信頼する人間。

 (もう少し、様子を見よう。駄目ならこの薬を飲ませて見よう。)

 クラウスは周りを見渡し、近くにあった空のグラスに薬をいれる。

 ヒメノの側に座りなおした。


* * * 


 「お待たせしました。薬渡してきました。」

 ベテランが、キースの元に戻ってくる。

 「よし、次探しに行くぞ。」

 キースの隣でエースが転送装置を準備している。

 「兄貴は、もう役にたたん、すっかりあの女に骨抜きにされちまった。俺達がしっかりしなくちゃだめだ。おい、場所は特定出来てるんだろうな。」

 「はい、ばっちり。奴ら油断しているはずです。まさかこっちの転送装置が最新機種だなんて、知らないでしょうから。」

 「よし、行くぞ!。」

 エースが、転送装置を起動させる。

 始めにベテランが飛び込み、俺達も続く、が…。

 「いないだと?!」

 ホテルの部屋はもぬけの殻。

 あわててエースが検索を始める。

 最新式は、微かに残る空間の歪みから何処に飛んだか分かるのだ。

 これを使って、機械室からホテルに移動したことは突き止めていた。

 数時間前、奴らの油断した頃合いに突入したら奴らは驚愕した。

 「なんで分かるんだよ?!。」

 サイと新人やろーが俺達と剣を交える。

 後ろで、慌ててもう一人の警備隊が転送装置を展開してガキを最初に入れようと抱え上げた。

 「まて、レオナールが先だ!。」

 「もう、間に合いません!」

 背の高い男がガキを押し込む。

 すでに俺に捕獲されたレオナールをあきらめて、警備隊の二人も飛び込んだ。

 「ちきしょう!。」

 隊長が消えると、敢えて見逃す。

 「は、バカな奴ら。とりあえず一人確保。」

 レオナールは、何も知らずベッドの上で眠っている。

 「戻るぞ。奴らの移動場所突き止めておけよ。」

 

 そして、今。

 奴らがいるはずの部屋には誰もいない。

 

 「奴らの移動場所は…。え、何で!!クラウス様の所です!!。」

「何!!」

 あわてて、転送装置を準備しようとして、ベテランに止められた。

 「お待ち下さい、キース様。」

 「なんでだ、離せ!。」

 「落ち着いて、エース、少し離れた隣の建物に移動だ。」

 「…わかった。」

 「おい!!。」

 「奴らが何故こっちの場所に気がついたか分からないのに乗り込むのは危険です。クラウス様なら大丈夫です。」

 「…。」

 キースは落ち着きを取り戻す。

 「行きましょう。」

 エースが転送装置を起動し、クラウス達がいる隣の空きビルに移動した。

 「そこの窓から隣が見えるはず…。」

 瞬間、キースは背後に殺気を感じ右に飛ぶ。

 キースが居た場所には、大きな穴が空いていた。

 「ありゃ、外したかー惜しい。」

 振り返ってみたら、階段の上に、ターゲットであるオウジと警備隊が二人。

 「お前、ノック!!何故ここに?!。」

 エースが驚愕している。

 ガキと文官の警備隊、その隣に見たことない隊員が長い杖の様なものを右手にこちらを見下げていた。

 「…誰だ。」

 奴から目を離さず問いかける。

 「…ターニガン星雲の宇宙警備隊です。どうしてここに?。」

 「さぁ、ひ、み、つ。」

 「キース様、こいつかなり腕の立つ奴です。お気お付けください。」

 ベテランも戦闘態勢に入っている。

 「残念、もう無理~。」

 奴が杖を床に打ち付けると、俺達の足元に魔方陣が現れて発動した。

 「!!!。何だこれは!?。」

 足が縫い付けられたかのように動けない、さらにどんどん力が抜けて行く。

 「君たちの行動は予知済み。ここに来るであろう確率78%

、まあ君たちからすればクラウスの元に帰るのが正解だったね。残念。拘束の魔方陣役に立ってよかったよ。」

 「魔方陣!?、お前そんな事出来たのか?!。」

 どうやらエースは知らなかったようだ。

 「当たり前でしょ、自分の本当の力は見せびらかしちゃ駄目駄目。」

 にっと笑うと、隣の部屋から部下が現れて、キース達は拘束されてしまった。


* * *

 「はい、確保。」

 カイとおーちゃんは、興奮しまくっている。

 「スゲー魔方陣とか、マジスゲー。」

 「って、おーちゃん感心してる場合じゃなかった、行くよ!。」

 「そうだ、じゃあ後よろしく!。」

 二人は、隣に走って行く。

 (…いや、おれに言わせてもらうと、キースの背後取るって、なかなかだよ。)

 俺が魔方陣に集中出来るように、山田とかいうのがキース達から俺達全員の気配を消す。尚且つ、奴らがこの空きビルに来る事、魔方陣の設置の絶妙なポイントを予測、全ておーちゃんと言う少年の指示。

 挙げ句、キースが一人ポイントからずれていたのを、あっさり修正。

 転がってた小さな石コロを拾ったと思ったらキースに向かって投げつけた。投げられた、石ころは、尋常じゃないスピードで殺気を纏わせてキースの背後に飛んで行った。

 (…軽口叩いてたけど、いやぁ~内心驚きまくりだったわ。)

 あの少年の方が怖いかも。

 「さて、あちらはどうなったかな。」

 後は部下に任せて、ノックにはまだやる事がある。

 「むしろ、こっちの方が大変なんだよね~。」

 ノックは、隣のビルに合図をおくる。

 万が一、クラウスが暴走した時に地球が氷付かないため最高難度の結界。

 応援は、全部で21人。

10人が、建物の周りで結界の補助の為に気配を消してスタンバイしている。

 残りはキース達の捕獲、万が一仕留め損なった場合に、第二陣として準備していた。

 俺は、近くの窓から飛び降りて、指定位置に立つ。

 クラウスの力は未知なので、部下10人が周り立ち結界の補助具を地面に突き刺し結界を強化。

 (はあ、頼むよ~、クラウス暴走させないでね~。まだ死にたくないんで。)

「ΔΣΩΥΦρδ…」

 地球から来た応援要請。

 緊急事態と判断し、即地球へ向かいながら本部に応援要請。

 その間に、地球の隊長サイと連絡をとり状況確認。

 (よりによって、相手がナパナ兄弟。挙げ句エースにベテランの裏切り…最悪カードだな…。)

 正直クラウスに暴走されたら、止められる気がしない。

 その時は、全身全霊で力を発揮しないといけないだろう。

 ノックも命をかけていた。


* * * 


 扉を開くと、隊長と俺が飛び込む。

 「クラウス!、ヒメノとレオナールを返せ。」

 ヒメノがソファーに横たわり、側にクラウスが座っている。レオナールは椅子に座っていた。

 「両手を上げて、西園寺ヒメノから離れろ」

 クラウスは動かない。

 「おい、聞こえているか?。」

 再三の隊長の呼び掛けに、ピクリとも反応しない。

 隊長がゆっくり近づく。

 「…だ。」

 「?、なんだ?。」

 「…動かないんだ…。」

 俺は、隊長の止める声を聞かずに、ヒメノの側に走り寄る。

 「ヒメノ!。」

 ヒメノが呼吸してない!。

 すぐに脈をとる、まだ体は温かい。

 「隊長、救急車!」

 すぐに心肺蘇生措置を始める。

 隊長が救急車を手配しながら、レオナールの脈を見る。

 「山田さん、お願いします!。」

 後方待機してた山田さんが入って来て、レオナールの拘束を解き横にして心肺蘇生をはじめる。

 隊長はクラウスの横にしゃがみもう一度訪ねる。

 「クラウス、何があった?。」

 「…薬を、飲ませたら…苦しみだして。」

 「何の薬だ?。」

 「…警備隊が持っている、小さな白い錠剤の…。」

 「あれは、地球にはない植物の成分が入っているから、合うか分からないものだぞ…誰にわたされたんだ?。」

 クラウスは、目を見開き隊長を見る。

 「…ベテラン…。」

 「あの野郎、黄色い方なら安全なのに…。まさか、わざと?。」

 クラウスは、ベテランに裏切られたショックで脱け殻だ。

 扉が開き、カイさんとおーちゃんが入って来る。

 おーちゃんは、カイさんに俺を手伝う様に言うと、レオナールの心肺蘇生を手伝おうとした。

 おーちゃんを見たクラウスの目に光が戻る。

 「…お前…。よこせ!新芽を!よこせ!。」

 隊長を吹き飛ばし、おーちゃんに掴みかかった。

 「!!!。」

 クラウスがおーちゃんの体に触る直前、割って入った山田さんがクラウスを弾き飛ばした。

 「彼には指一本触れさせませんよ。」

 山田さんの目が赤く光り、クラウスを睨み付ける。

 「!!、お前、その目…。」

 「おや、覚えていらっしゃいましたか。」

 「…生きてたのか。」

 「ああ、その先は言わないで下さい。」

 山田さんは、クラウスに近づくと右手でクラウスの顔を鷲掴みする。

 「山田は謎の男ですから。ナイショでお願いします。」

 ちょうど、本部の警備隊が駆け付け、クラウスを拘束した。

 (山田さん…マジ何物??。)


 * * *


 「ヒメノ!戻ってきて!ヒメノ!」

 俺は、心肺蘇生しながらヒメノの名前を呼び続けていた。

 「さて、ここは、山田の出番ですね。」

 戻ってきた山田さんが連行されていたクラウスを呼び止める。

 「クラウスさん、ヒメノは薬飲んでどのくらいですか?。」

 クラウスは、山田をチラッと見ると微かに震えた。

 「…まだそんなにたってない、お前達が来る少し前だ。」

 「なら、まだ薬は全身には回ってないですね。アイさん少しだけ私に時間下さい、それ少しやめてもらえます。」

 山田さんの目の色が黒から赤に替わる。

 どうやら本気モードに入ると目の色が変わるようだ。

 「ヒメノさんの体から薬の成分を抜き取り吐き出します。」

 山田さんの手が微かに光る。お腹辺りに置かれた手が少しずつ喉の方へ向かい、最後は。

 「出た!。」

 ヒメノの口から白い塊が飛び出た。

 「まだ全部溶けてなかったから幸いです。アイさん続けてください。」

 「はい。」

 俺は、また心肺蘇生を始める。

 微かに救急車の音が聞こえてきた。


53.2030年✕月6日 20時 フランス 救急隊


 受け入れ先の病院に、二人の患者を搬送した。


 (どうなってるんだ?)

 

 一人は、フランス人の不死身の指揮者レオナール。

 もう一人は、日本人のヒメノ西園寺。

 二人のコンサートを観たのは、つい先日だ。

 あの日の興奮と感動は、今でもリアルに覚えている。

 一緒に行った妻も、感動で涙が止まらず、二人帰ってからもなかなか眠れなかった。

 しかし今日も朝から仕事で、寝不足のまま仕事に出勤。

 今日は、あまり出動もなく、このまま平和に1日が終わればいいなぁ、なんて同僚達と話していた矢先、出動要請。

 着いた現場で、度肝を抜かれた。

 建物の上に、銀色の巨大な塊。

 「…。」

 多分全員固まった。

 「…え、あれ、何?。」

 走ってきた人にも驚いた。

 「おい、こっちだ!急いでくれ!」

 宇宙警備隊の隊長だ。

 「…はい。…とりあえず行くぞ…。」

 何とか、脳をフル回転させて現場に入る。

 中に入れば、そこら中に宇宙警備隊がわんさかいた。

 「この二人を頼む、呼吸と心肺は何とか戻ったから。」

 「わかりました。」

 運んできた担架に乗せて救急車まで運ぶ。

 そこに、サイレンを鳴らしてどんどん警察が到着し、空を見上げてポカン。

 野次馬も大量に増えて、みんな空を見上げて携帯をかざしていた。

 救急車に乗せる間に、患者の名前を聞いて更に驚いた。

 「ヒメノ西園寺とレオナールだ。」

 「!!!。」

 (嘘だろ!)

 よく患者の顔をみれば、確かにそうだ。

 「二人を頼む。」

 「わかりました。」

 急いで二人を病院に運び引き渡した。


 「…。いったい何があったんですかね。」

 みんなで西の空を見る、ここからでも銀色の塊が良く見えた。

 「とりあえず、帰ってテレビ見ようぜ。」

 「そうだよな、ここにいても何もわからないし。」

 

 ビー、ビー、ビー


 呼び出しコールが鳴る。

 (チッ)

 「はい、こちら救急…。え、あ、はいわかりました。すぐ行けます。」

 「コールですか?。」

 「最悪の時間が始まったかもしれない、あれ見て具合が悪くなった人が続出して要請が多発してるらしい。」

 過去に、地球に訪れた厄災を思い出してしまったのか。

 「行くぞ。」

 全員車に乗り込む。

 (家に帰れるのは、何時になるだろう…。)

 

  

54.2030年✕月6日 22時30分 フランス ジャスミン


 扉の外が騒がしい。

 何かあったのか?。

 疲れて少しうとうとしていたのか、体が重い。

 立ち上がろうとしたら、先に扉がノックもなく開き社長オーシャンが飛び込んで来た。

 「今、連絡が。二人が病院に運ばれたって!!。」

 「!!病院、なんで、ヒメノは?!。」

 オーシャンが壁のテレビをつける。

 「ちょっと、急いで病院に!。」

 「ジャスミンさん、ちょっと落ち着きましょう。」

 後から入って来た警察官もテレビを見る。

 (え、何?。)

 テレビをみれば、アナウンサーが興奮気味にマイクで叫んでいた。

 「いったい何があったのでしょうか、ご覧ください、あの巨大な塊を!!。」

 ジャスミンは、画面を見て驚いた。

 「何?これ?。」

 「…宇宙警備隊の宇宙船だそうです。この現場から、二人が病院に運ばれたそうで…。」

 「は?、何で?ヒメノが?。」

 「…それは、我々にもまだ分からない…です。」

 車の準備が出来たと知らせが来たので、急いで病院に向かう。

 病院の前もカメラや、野次馬でごった返していた。

 「裏から入ります。」

 何とか捕まらずに、病院に入れた。

 「こちらです。」

 看護士に案内された部屋は、ICUだった。

 担当医師によると、二人ともかなり危険な状態だったが、今は落ち着いている、まだ予断を許さないのでしばらく様子を見ると。

 「ヒメノ?、ヒメノ。」

 案内されたベッドに横たわるヒメノは、今にも消えてしまいそうなほど生気を感じない。

 手を握るととても冷たいので擦ってあげる。

 隣を見ればレオナールも同じ様な状態で、オーシャンが声をかけていた。

 「…お二人ともすみません、宇宙警備隊の隊長さんが見えました。お話をしたいそうです。」

 二人で、ICUを出て応接室にはいる。

 そこに、宇宙警備隊の隊長サイと、カイ、アイが立っていた。

 「どういう事ですか!。」

 オーシャンが、隊長に掴みかかる。

 「説明します、落ち着いて下さい。」

 警察官に引き離されて、オーシャンはソファーに座る。

 「あなたもどうぞ。」

 仕方ないので、オーシャンの隣に座った。

 そこに、病院の院長、担当医師、さらに紹介されたのがフランスの警察長官。

 「失礼。」

 さらに入ってきたのは、フランス大統領と、警備隊フランス担当のトーマスさん。

 (…なんか、すごい事になってるんですけど…。)

 オーシャンと二人、この状況にどう対応してよいやら、おろおろしてしまう。

 「それでは、説明を始めます。先に言っておきますが、多分皆さんからしたら信じられない飛んでも話です。まずは、事件の事実を話すので一度全て聞いて下さい。質問は、全部聞いてからで。」


 話しは、30分ほどで終わり、「以上です。」と締め括られた。

 正直、今にも倒れそうだ。

 (ヒメノが?えっ、宇宙人?、何?どういう事?。)

 たった1日で、まさかそんな事になっていたなんて…。

 誰も、言葉を発しない。

 やっと、大統領が言葉を絞り出す。

 「事実…なんですよね。」

 「はい、今ここで話した事が、全てです。」

 「…。世間にこの事実を…。公表するのか…。」

 大統領は頭を抱える。

 「それを含め、今後どうするか、検討させて頂きたい。全て公表するのか、一部のみ公表するのか。」

 「あんな宇宙船出てきて、世間は大パニックだ!。それなりに説明しなくちゃ、収まらんだろ!。」

 警察長官が、机を叩く。

 「おっしゃるとおりです。ただ、ナパナ兄弟の逮捕は宇宙全体のバランスを左右する重大事項です。慎重に発表しなければならない。こちらは、少し時間を頂きたい。今警備隊本部がナパナ星雲の武力解体交渉を始めた所なので。」

 「そもそも、一番最初に君たちのミスで始まった。そこもきちんと発表して欲しいね。地球側に落ち度はない。」

 大統領が、そこを強調してくる。

 「…あの警備隊ニュースがなかったら、ヒメノ達はこんな目に合わなかったんですよね。」

 「その通りです。今はまだ早すぎましたが、後2.3年もすれば、流れていたニュースです。」

 「2.3年後では、違う結果だったかも知れない、違いますか?。」

 オーシャンも、拳を握り締めている。

 「ニュースが流れなくても、誰かが出合いを果たしたら何か起きてたさ。今回みたいに、ヒメノとレオが演奏したら、ヤバい数値叩き出して即宇宙警備隊に見つかってアウトだね。まあ、それを止める為に俺も出てきたんだけど。」

 突然背後から声がして振り返えると、どこから現れたのか、壁にもたれて少年がフードをかぶりマスクをして立っていた。

 隊長がため息を小さくつく。

 「いつの間に…、彼は…、」

 「謎YouTuberで、ヒメノ達の元お仲間です。」

 驚くみんなを尻目に、空いてるソファーに勝手に座る。

 「先に言っておくけど、そもそも指名手配依頼したのはナパナ兄弟で、俺達はただの母星をなくした難民。この星に来たのは自分たちの星で禁止されていた音楽をやりたかっただけ。転生したからもう肉体もないし、俺以外はみんなもういないから。指名手配事態ナパナ兄弟の勝手な思い込みで、こっちも被害者だし。」

 「…新芽ってのは?、そもそも何なんだ!。」

 大統領が少年に質問し、少年が生命の木について説明する。

 「それもナパナ兄弟が勝手に勘違いで決めつけてるだけ、俺達は何も持ってない。星から脱出するので精一杯だったからね。」

 「とにかく事件の事は、話さなければ。病院に運ばれた二人の名前もマスコミにばれてる、今さら隠せない。とりあえず二人が意識が戻り次第事情を聞くと言う事で一度会見を開く。会見には、隊長、同席していただきますよ。」

 「はい、もちろんです。」

 

 隊長さんは、細かい打ち合わせを始める前に、アイさんを呼んだ。

 「アイ、しばらく忙しくなるから、一度ヒメノの所行ってきていいぞ。」

 その場の皆が、どういう事かとアイ達を見る。

 「でも…。」

 「10分やる。今行かないと、一生後悔するぞ。いいのか?。」

 「…スミマセン。」

 頭を、おもいっきり下げ、アイさんが部屋を飛び出して行った。

 「…今の…どういう事ですか?まさか…。」

 隊長さんを見る。

 「そのまさかでして…。」

 「ヒメノも、両思いみたいだし、まあ、あきらめて。」

 少年は、なんて事ないかのように話す。

 「いや、…問題おおありでしょう。」

 今度こそ血の気が引いてソファーに倒れ込む。

 「いつか誰かがやるはずの初めての地球人と宇宙人のカップル誕生がたまたまあの二人だっただけだよ。」

 「それ、全面的にお祝い空気でタイミングみて発表して欲しいね。」

 大統領が話しに乗っかる。

 「話し分かるね、さすが大統領。映画化とか、ハリウッド辺りでやってくれないかな。」

 「いや、まずは本にした方がよくないかい?。二人の出合いから。」

 「いいね、今回の事件も、絡めればヒット間違いなしだな。」

 「それからハリウッドだろ。私本人役で出たいね。君たちもどうだい?。是非宇宙船も本物で。そうだ、あの宇宙船内、取材出来ないかね?、今回のお詫びって事で。もしくは、地元の子どもを招待するとか?。」

 隊長は苦笑いで、検討しますと答え、しばらくしてアイさんが戻り、今後の話し合いが始まった。

 

 数時間後、ヒメノとレオナールが宇宙人にさらわれ警備隊が助けた事のみ発表され、詳しい事は二人の回復をまって事情を聞いて正確な発表をすると会見をした。

 会見には、大統領、警察署長、トーマスさん、隊長が参加。

 地球にとっては始めての宇宙人が起こした事件なので慎重に進めて必ず報告をさせてもらうと大統領が沢山のフラッシュを浴びながら世界中に向けて演説した。

 (…頭の中は、書籍化、ドラマ化、映画化の事しか考えてないわね、あの大統領。)

 ヒメノのベッドの横で携帯で会見を見ながら、オーシャンと顔を見合せ少し笑ってしまう。

 二人の容態が落ち着いてきた為、今は特別室に移されていた。

 入り口に警察官が二人配置され、今は入れるのは、オーシャンと二人のみだ。

 レオナールの家族がこっちに向かっているが、ヒメノの家族は呼んでいない。

 先ほど事務所の社長に現状を伝えるため連絡。詳しい事は話せなかったが、ヒメノの無事を報告し、当面の仕事のキャンセルをお願いした。

 社長からは、ヒメノの父親が連絡をしてきたが、彼らとは絶縁しているので二度と連絡しないよう念押ししたらしい。

 (丁重にって言ってたけど、社長の丁重…聞くのも恐ろしい。)

 過去にもヒメノの親族は、何度か電話してきていた。

 その度に、社長が丁重に対応してきている。

 (ヒメノが活躍する度、めげずに連絡してくるけど、お金の話ばかり、一度だってヒメノが元気かどうか聞いてこないって、社長毎回怒ってたよな~。) 

 今回は、流石にヒメノの心配をして、電話してきたのだろうと思ったが、一言もなかったそうだ。

 流石に事が事だけに、今回は両親くらい呼ばないと不味いかと、社長も預かっている責任上、謝るつもりでいたが、娘が大変な状況なのに、自分たちの事しか頭になく、最終的には慰謝料をよこせと叫んでいたらしい。

 ヒメノの手をさすりながら、ため息をつく。

 二人とも、だいぶ顔色が良くなってきていた。

 「さっきの話……しんじてる?。」

 オーシャンに問いかけてみる。

 「…信じる方が…無理じゃないかな。…でも。」

 「…でも?。」 

 「レオナールとは、怪我から回復してからの付き合いだけど…、一度、担当医師に話を聞きに行ったんだ。契約したからには、体調管理も仕事だし。…レオナールが生きてるのは奇跡だって言われたよ。運ばれて来た時は誰もが無理だ、助からないだろうって思ったそうだよ。もしかして、ヒメノもそうだったんじゃないか?」

 チラッとレオナールを見る。

 普段レオナールは首元を隠す服装をしているが、今は見えている。

 そこには、生々しい傷痕が残っていた。

 「…私は、流石にそこまでは聞いてない…、確か、試した薬がたまたま合って、後少し遅かったら助からなかったとか、記事で読んだわね。」

 先ほどの少年の話だと、死んだ瞬間に転生したという。

 と言うことは、ヒメノは一度死んだ事になる。

 (ヒメノ…。)

 涙が溢れてくる。

 ヒメノは、いったいどれだけ辛い思いをしてきたのか…。

 (ヒメノは、絶対にしあわせにならなくちゃ。)

 


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