真夜中のエッフェル
45.2030年✕月5日 23時55分 フランス エッフェル塔 宇宙警備隊 隊長 サイ
「やあ、いらっしゃい。」
エッフェル塔の最上階、手摺にもたれていた仮面の少年が俺達を歓迎した。
この時間は、客は入れない。
エッフェル塔の下に着くと、仮面をつけた山田と名乗った男とエレベーターに乗せられ最上階へ。
「ちゃんと3人だけで、きたね。えらいえらい。うわーほんもののけいびたいだー。後でサインでももらおうかな?。」
アイが、挑発に乗って何か言おうとするが、頭にポンポンして止める。
俺は一歩前に出て、少年の目を見る。
話しは俺だけがすると決めてきた。
カイは、能力展開して周辺一帯を探り、奴に仲間がいないか探策、アイは俺の一歩後ろで辺りを警戒する。
「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。エッフェル塔半径1キロに結界はってあるから誰もづけない。今、中にいるのは、俺達と山田だけだ。」
少年の後ろに山田が立つ。
「わざわざあんな事して、何がしたいのかな?。」
「なあに、子供扱い?。こう見えて結構いい年齢の大人だぜ。」
笑っているが、少年には隙がない。
「それは失礼、可愛い子供のイタズラかと。」
お互いに目を合わせたまま、探り合う。
「なかなか楽しかったでしょ、よかったじゃない見つかって。」
「それは、逮捕されても、かまわないと?。」
「無理だね。」
少年は、ニッと笑う。
「俺達、みんなもうこの世にはいないし。」
「?。」
少年は、自分の身体を指さす。
「こいつの身体を借りて話してるだけで、本来俺は存在すらしてないはずなんだよね。」
「?、意味が解らないが。」
「まあ、解りやすく言えば、地球人に転生したみたいな?。お互い誰に転生したか知らないし、記憶もないから、無理な訳。おわかり?。」
「転生って…。」
「じゃあ、お前は、何なんだって感じだよね?、まあそれには深い訳があるのさ。」
少年は今の状態を大まかに説明する。
「じゃあ、その少年が生きたいとなったら…。」
「俺は、消えるね。」
あっさり答える。
「本来、この状態が異常なの。だから逮捕は無理。諦めて。」
確かにその話しが本当なら、逮捕は無理だ。
「その話しを、信じろと?。」
「別に、どっちでも。好きにすればいいさ。俺は宇宙警備隊の皆さんが大変なおもいをしなくていいように、真実を話しただけだし。じゃ!」
少年と山田は、そのままエレベーターに向かって歩きだす。
「おい、待て!。」
アイが回り込む。
「なんだよ〰️、もう眠いから。バイバイ。」
アイが腕を掴み、少年を止めようとしたが山田がアイの反対の手を掴んでひねりあげる。
「アイ、止めろ!。」
「隊長!、このまま帰して…。」
少年は動きを止める。
「…。は?、え、マジか!。」
「バカ、アイ手を離せ!。読まれてるぞ!。」
慌ててアイが手を離すが、すかさず少年の手が今度はアイを掴む。
アイが二人の手を振り切り、慌てて2歩下がる。
「…、バカのおかげで助かった。」
少年は、こちらに向き直る。
「やっぱり手配したのは、クラウス.ナパナか。それに、最悪…。兄弟揃って地球に来てるだけじゃなく、行方不明って…。あんたらバカでしょ。あの二人野放しって。」
今度は俺が驚く。
「…兄弟って、…まさかクラウスの顔知ってるのか?。」
クラウスの顔は、知られていないはず…。
「…宇宙警備隊舐められすぎ、キースと一緒にいた男、あれがクラウスだよ。」
「やっぱり…、俺の予想当たりか…。」
「あの二人が、地球に来てるなら、話しは全然変わってくる、…もう、最悪だ。」
少年は、頭を抱える。
「俺のやった事意味ないし、むしろやっちゃ駄目だった。…あいつら今どこに?。」
「いや、分からない…。仲間二人も行方が分からないし、連絡もとれない。」
少年が右手を差し出すと、どこからか山田がパソコンを取り出して渡す。カチャカチャものすごい速さでキーを叩き出す。
「仕方ない、協力してあげる。急いであの二人を見つけないと…。どうせ、地球に降りてるだろ。なら必ず防犯カメラに映るはず…。」
「おー、何それー、凄いパソコン!、後で見せて~!。」
カイが、少年のパソコンに、滅茶苦茶食い付き少年の隣に近寄る。
「おい、勝手に話しを進めるなよ!。」
アイが、少年のパソコンを取り上げようとする。
「山田。」
山田がアイの体を拘束。
「はいはいー、アイ君。邪魔しないで下さいませ。」
「お前、何者…。びくともしない!」
「それは、ひ、み、つ!。」
「あー、アイさんだっけ?、協力した方がいいよ、ヒメノのピンチだし。」
「は?、何でヒメノ?。」
少年は、画面から目を離さず淡々と話す。
「仲間の一人だから。」
「…え?。」
「さっき、仲間は知らないって…。」
「ナパナ兄弟が来てるの知らなかったからね。まあ、そもそも知ってたらあんな事しなかった。コンサート事態を中止にしてたね。あれは、ヒメノの存在を気づかせない為に、わざとやったんだ。探知機みたいなの壊れただろ。後から演奏するヒメノを宇宙警備隊に気づかせないため。…まあ、違う意味で餌食になってたとは。」
チラッとアイの顔を見る。
「顔か?。やっぱり。」
「モテモテですものねー。」
アイは、顔を赤くする。
「ちょっと、それも見たんですか!。あ、いや、でもヒメノは…。」
あたふたし始めた、アイを無視して、少年はパソコンに向き直る。
「駄目だ、見つけられない。降りてないのか?。」
「こっちで探してみなよ。」
カイが、二人の警備隊の映像を見せた。
「なるほど、こっちなら…。」
「カイ、お前勝手に…。」
慌てるが、もう遅い。
「スミマセン、でも急いだほうがいい気が…。」
「見つけた!!。1時間前、ってここはどこかのホテル?。」
俺とアイ、山田も、急いでパソコンの画面を見る。
「オイラ達が泊まってるホテルじゃん。?、
オイラ達に会いに来たのか、入れ違いになったのか?。」
映像を見ていると、二人は、エレベーターを15階で降りて右側に歩いて行く。
「?、俺達の部屋は、確か左側だ。それに、二人にはホテルの話しはしていない…。」
どういう事だ?
右側の一番端の部屋の前にくると、チャイムを押しドアが開く。
ドアが開いた先にいたのは…。
「「えっ!。ヒメノ!」」
少年と、アイが同時に驚き、声をあげる。
「ヒメノ!!え、同じ15階に居たの!。」
「アイ、今はそこじゃないから。」
「おい、部屋に入って行ったぞ!。」
映像を早送りするが、出てきた様子はない。
「隊長!」
アイが、こっちを見た。
「まだ、部屋にいるって事ですよね。直ぐにホテルへ!。」
「…、まずは俺達の部屋に移動しよう。そこから…。」
「俺も行く。」
少年が立ち上がる。
「ヒメノさんのピンチにナイトが助けに!。いや、見ものですね。」
何故か楽しそうな山田もニコニコ笑っている。
(…こいつら、状況分かってるのか?。)
「イヤ、危険だろ?。お前も、奴らに狙われている訳だし。」
「俺の身は山田に守らせるから。ほら行くよ急いで隊長。」
「…。」
宇宙警備隊以外が転送装置を使うなど、後でばれたら始末書だ、でもここに置いて行くよりは、行動を共にした方が監視しやすいか…。
「…行くぞ。」
俺達5人は、ホテルの部屋に移動した。
ホテルの俺達の部屋から、カイが能力展開して探りを入れる。
「…人の気配ありません。」
アイが、扉から飛び出して行った。
ヒメノの部屋の前で、開かないドアを、バンバン叩く。
「ヒメノ!。」
「止めろ、アイ。落ち着け。」
両腕を押さえつけて、カイにホテルのフロントに行かせようとする。
「山田。」
「はあ、まったく警備隊は鍵あけくらい出来る方いないんですか?。」
そう言いながらドアの鍵に手をかざすと解除してしまう。
「お前、何者…。」
「いいから、早く入って。万が一誰かいたら僕があぶないでしょ。」
少年は、後ろから高みの見物らしい。
「…アイ、行くぞ。」
中に入るが、やはり誰もいない。
荷物もなく、まるで最初から誰もいなかったように、ベッドも整えられている。
「いったいどういう事なんだ。」
「心あたりあるんだよね。」
少年がドアを閉めて山田を見る。一瞬で部屋の中が何かに包まれた。
「結界。さて、君達の答えを聞こうか。この状態どう見る。」
「その前に、何でヒメノが?。探知機は…。」
少年はソファーに座り、その後ろに山田が立つ。
「俺だけじゃなくて、ヒメノも気付かれたんだ。何でかは、俺にも分からない。奴は得体がしれない。多分俺達の事が分かる方法があるんだ。」
「そもそも、さっきは仲間がどこにいるか知らないって言ってなかったか?。どういう事だ?!。」
「全員知ってるよ。」
「嘘があるッて事か?それじゃ信用出来ないだろ。」
「それは、お互い様だろ。あんた達だって話せない事くらいあるだろ。」
「それとこれとは…。」
「探知機さえ、壊せば俺だけで済んだはずだったんだ。後は、優しい宇宙警備隊様なら話し合いでどうにかなるだろうとね。」
「あー、そうなんだ、って、オイラの探知機〰️。」
「それは、すまん。なんなら、もっといいのあげるよ。これと同じパソコンあるからさ。山田使ってくれないし。」
「欲しい!。」
「山田、後でこちらに渡してあげて。」
「あれ欲しいなんて…。かなりヤバイ代物ですよ。」
「大丈夫、正しく使うよ。」
「ゴホン、話し逸らすなよ。で西園寺ヒメノは5人のうちの1人なんだな。他は?。」
「だから教える訳ないでしょ。…いや、まて。ヒメノがバレたなら…。」
少年が山田を見る。
「…あー、漏れなく彼も気付かれてるかと。」
慌てて少年は、コートの内ポケットから携帯をだしてきた。
携帯はかなり長い間、通話中になっている。
少年が、相手に話しかけようとしたのをとっさに手で止める。
口に指を立てて、首を振る。
(繋がってるなら、カイ!。)
カイが携帯に手をかざして能力展開する。
指を3つ立ててこっちを見る。
(3人いるって事か。)
少年と山田に向かい、ここにいろと床を叩く。
二人が頷くと、今度はアイとカイに"行くぞ"と手で合図して転送装置を使う。
カイが左手で携帯、右手で転送装置を触り性格な位置情報を転送装置に送る。
シュッ!
突然部屋に現れた俺達に、3人の人間が驚いた。
エースとベテランの二人、そして…。
(指揮者のレオナールか!。)
レオナールは、既に手足を拘束されてグッタリして、ベテランに担がれていた。
「どういう事ですか。説明していただけますか!。」
二人を睨みつける。
「どういう事も何も…こういう事だよ!。」
エースが一瞬で間合いを詰めて切りつけてきた。
(やはり…、裏切りか!。)
俺の予想。
エースとベテランがナパナ兄弟と手を組んでいるのではないか。
「サイ、相変わらずいい腕してるな。」
エースの剣をかわしながら、交戦する。
「エース、お前もな。」
俺達は同期だ。
二人とも期待されていたが、エースは出世街道を駆け上がり、俺は僻地に飛ばされ続けた。
そこに、誰かの意図が入っているのは明らかだが、俺は反抗するのも面倒くさいと抵抗せず地道に生きてきた。
「まさかお前が裏切り者だとは。」
「はん、違うよ。最初から、俺が支えているのはナパナ兄弟だ。」
「!!、…スパイか!。」
「そういう事だ。」
離れた所から、アイとベテランが戦っている音がする。
(…でも、ベテランの相手は、アイにはまだ早いか…。)
しかし、目の前のエースの相手で、こっちも手一杯だ。
「ヒメノを還せ!。」
「アイ、冷静に対処しろ、お前ならいける!。」
「はい!。」
少し冷静になったのか、アイの方が優勢になってきた。
ベテランが、アイに押されてきた。
「!、…すまん、奪還された…。」
「チッ、出直しだ。」
エースが転送装置を起動させ、二人は消え失せた。
追う事も出来たが、相手の戦力が未知数なため、諦める。
「アイ、大丈夫か?。」
肩で息をしていたアイが、呼吸を整えて頷く。
俺は、携帯を取り出す。
「カイ、レオナールは?。」
「奪還しました。」
さっきの戦闘中、始めこそレオナールを担いだままアイの相手をしていたベテランは、意外と腕の立つアイ相手に、レオナールを担いだままでは無理と判断して床におろした。
その一瞬の隙を見逃さず息を潜めていたカイがレオナールの腕を掴み転送装置を使って脱出していた。
(隊長以外が転送装置を使う…これまた、始末書ものだな。)
「今、迎えに行きますね。」
カイが再び転送装置を使って俺達は元のホテル、左端の俺達の部屋の方に戻ってきた。
「よくできました。さすが宇宙警備隊!。」
少年が手を叩いて出迎えた。
『…ありがとうございます。』
レオナールも頭を下げる。
「何があったか話してもらえますか?。」
『それより…いったい、どういう状況で?。』
レオナールは、俺達を見て困惑している。
「電話で話し聞いてなかったの?。」
少年はエッフェル塔の会話を携帯電話を通じてレオナールにも聞かせていたのか。
『最初の方1.2分だけ、後は電気が消えたと思ったら奴らが入ってきて…。』
かなり抵抗したようで、服は破れあちこちに殴られた後が見える。
『携帯は最初に弾き飛ばされて、どっか飛んでいったから。後は、ひたすら逃げ回ってたので…。』
「ヒメノが行方不明。て言うか多分さっきの奴らに連れ去られた。」
『!!、なんで!。』
「…ナパナ兄弟が地球に来てたんだ。」
『!!。まさか、指名手配したのも?。』
「…カイ、例の依頼書見せてやれ。」
「いいんですか?。」
「多分、もう隠し事してる場合じゃないだろ、お互いに。」
カイが自前パソコンに入っているクラウス.ナパナの指名手配依頼書を見せる。
「この、お宝とは?。何なんだ。」
クラウスが欲しているお宝がいったい何なのか。
それが分からないと、話しが進まない。
『…。』
レオナールは、チラッと少年を見る。
「お宝ねぇ…。」
少年もため息をつく。
「あいつら、俺達の星滅ぼししただけでも許せないのに、…まだ諦めてなさそうだな。」
少年の口から、情報とは真逆の話が出てきた。
「滅ぼした?。」
「どうせ都合よく話してるんだろ、あいつらが侵略してきたんだよ。うちの星のお宝目当てで。で、揚げ句見事に星消滅。」
少年は、なんて事でもなかったように両手をヒラヒラさせている。
「んで、俺達5人が逃げた時にお宝持って逃げたと思って必死に追いかけて来たわけだ。」
「逃げたって、どうやって?。あの星から?。とてもじゃないが信じられん。」
「簡単さ、隠してたんだ。表向きは、未開の地みたいで住んでるやつらは醜い獣みたいな奴ら。話しも出来ないし知能もなさそう。おかげで、どこからも目を付けられず、平和に暮らせてるわけ。裏では、宇宙船とかも普通にあったし。特に王族は知能も並み以上に高いし。転生する秘術とかも使えちゃう。結構凄いの俺。」
なんて事だ。この星の奴らは…。
そこまでする、隠していたものって…。
「…クラウスは、何を欲しがっているんだ。」
少年は、レオナールを見、レオナールも頷く。
「…まあ、もう星もないし、いいっか。」
改めて俺を見る。
「なんで、俺達の星みたいな辺境まで侵略して来るなんて不思議でしょ。実は凄いものがあったんだよ。"始まりの木"とでも言えば解りやすいかな。」
少年は、両手を広げて天井を見上げた。
「全ての星、始まりはその"木"の挿し木から始まるんだ。もちろん地球もそう。君たちが産まれた星もみんなそう。この地球のどこかで今でもその挿し木から育った木が大地に根を張り生きている。そして空気が産まれ生命がうまれて一つの生命ある新しい星になるんだ。」
(は?、…何だ、それ?。)
「あー、信じてないでしょその顔。」
少年は俺達の顔を見る。
「俺達は、その"木"の根元に新芽が出たらそれを新しい星に届ける役割を持っているのさ。新芽がいつ出るかわからない。最後にでたのは、10年以上前だったはず。その"木"を守り存在は知られないよう、隠す。あの星はそう言う星なんだ。」
そんな事、本当にあるのか?。
「クラウス達は、その"木"の存在に気づいたのか?。」
少年は、ため息をつく。
「なんでも、自分たちの星の"生命の木"が枯れてきたんだって。」
まあ、そうなると災害とか、おきやすくなり、国民は不安になり、王を糾弾する。
ナパナ兄弟の本星では、星の衰退が見えていた。
それもあり、ナパナ兄弟は他の星へ侵略を開始。
しかし、本星の衰えは進む一方で、既に人が住めないレベルになっていた。
そして、侵略した星の一つで"生命の木"の存在を知る。
星によっては木の存在に気付いてるところも無くはない。
"神ノ木"とか、"命の木"とか言われ崇めらるている所もあれば、全く気づかれず森の奥にひっそり根を張る所もあるらしい、ほとんどが後者だ。
それを知って自分達の星でも探したてみたら、今にも枯れてしまいそうな"木"を見つけた。
「でも、"木"の出所まで気付いて来たのは奴らが始めてかな、流石に驚いたけど。」
どうやって知ったのか、流石にそれは聞きだせなかった。
「"始まり木"の結界が張ってあるから、外からは星に入れないはずなのに、かなり無理やり入ってきて話し合いを強要してきたんだよ。でもお断りして追い出そうとしたんだけど、今度は勝手に探し始めるし。滅茶苦茶な奴でさぁ。挙げ句の果てに、木を見つけられて、勝手に枝折られたんだ〰️。」
少年は、今度は下を向きお手上げポーズをする。
「枝が折れた瞬間、木が叫び声みたいなのを上げてあっという間に枯れていったんだ。その後数時間で星も徐々に崩れていった。枝じゃないんだ、新芽以外は意味ないんだよねー。」
知らないとはいえ、クラウスは自らの手でお宝を永久になくしてしまったと。
「俺達の星がなくなったということは、もうこの宇宙に新しく生命の産まれる星は誕生しない。あー、警備隊はよかったねー、監視対象がこれ以上増えなくて。」
この話しに信憑性があるかは、全くわからない、俺は頭をフル回転させる。
「…とりあえず、話しはわかった。」
「へー、今の話し信じるのー。」
「信じるとは、言ってない。」
「えー、信じてくれないんだー、警備隊って冷たい〰️、一応俺達、星をなくしたかわいそうな難民だよ〰️。本来なら保護対象だぜ〰️。」
「とにかく、奴らの目的はあなた方なのは間違いないです。後、2人は?。」
「教えるわけないでしょ。大丈夫、2人はバレる事はないよ。それに、今の戦力じゃ、2人の事まで手は回らない。違う?。」
確かに、今は目の前の事で、手一杯だ。
『とにかく、まずはヒメノを助けないと!。』
レオナールは、今の状況を理解すると我々に全面協力を申し出てくれた。
『と、いっても、正直俺に出来る事なんて何もないか…。』
レオナールは、うなだれた。
『…俺は、ただの人間ですから。』
俺は、チラッと少年と山田を見る。
「えー、俺もか弱い少年だから無理〰️。」
「山田も〰️、以外と繊細だから〰️。」
「か弱いね…結界張ったり、鍵開けたり?。」
少年は、ごろんとベッドに横になる。
「山田はともかく、まじで俺も無理。さすがに体力使いすぎた。」
少年は、欠伸をしてレオナールを見る。
「レオ、ヒメノにテレパスしてみなよ。」
『え、テレパス?!。』
「一度一瞬でも出来たんでしょ。通じる可能性あると思うよ。」
レオナールは、チラッと俺達を見る。
「あーオイラわかった、0.0001%はもしかしてそれ?。」
「そう、初めて会ったとき思わずテレパスで会話しちゃったんだって。」
少年から、彼らの星の日常会話が、すべてテレパスだった話しを聞く。
『俺より、オウジの方が…一応ツガイなわけですし…。』
ツガイという単語にアイが驚いている。
「残念だけど、無理だね。俺は、ヒメノと一度も接触してない。レオ、君の方が適任だよ。」
『…出来ますかね、俺は彼らの記憶を持ってるだけでただの人間ですよ。テレパスだって、至近距離だったから出来たようなものですし。』
「まあ、やってみなきゃ分からないよ。」
『わかりました…やってみます。』
レオナールは、ソファーに座り目を閉じる。
『…かすかにヒメノの存在は感じられました。でもヒメノが意識がないのかも、話しは出来ませんでした。方角的には西の方ですかね。ヒメノが気づけば、もう少し距離とかもわかるかも。続けますね。』
レオナールは10分置きにテレパスを試し、少年は、目を閉じて横になる。
「まあ今は回復の時ですね。腹が減っては戦はできぬって奴ですよ。彼、体力ないんであまり無理させないで下さいね。」
「そんな事より、山田さんは何者ですか〰️?。」
カイが遠慮なく直球な質問をする。
「…まあ、世の中にはいろんな人間がいるように、地球にはいろんな宇宙人がいるって事ですよ。」
「…マジか!。」
地球に、そんなに宇宙人がいたなんて…。
「宇宙警備隊もまだまだですね~。結構ゴロゴロ居ますよ。まあ、みんな平和主義者ですから安心して下さい。」
ニコニコ笑う山田を見ながら、俺は内心ため息をつく。
(今まで、宇宙人なんて気付きもしなかった。どうなってるんだこの星は…。)
この星に来てはや5年…。
今まで一度たりとも、宇宙人に出くわした事などなかった。
(こりゃ、一から調査やり直しか?。)
突然、目の前に山田の顔が現れた。
「隊長さん、余計な事、考えてませんか?。」
「…いえ。」
「宇宙警備隊は、今まで通り、地球人達と、楽しく交流すれば、よろしいの、で、す、よ。」
人差し指を立てて、リズミカルに念押ししてくる。
少年が、目を閉じたまま、会話に入ってくる。
「俺も、そうする事をオススメする。正直山田みたいなのがゴロゴロいるなんて、扱い大変だぜ?。聞かなかった事にしなよ。お互いの為にもそれがベストだね。」
少年の言いたい事も、まあ分かる。
「…考えとく。」
46.2030年✕月6日 3時 フランス アイ
何度目かのテレパスを試したレオナールが、休憩に入る。
俺は、レオナールにコーヒーを手渡しながら話しかける。
「あの-、質問しても?。」
『…どうぞ。』
なんだかレオナールは、俺を避けている気がする。
「さっき言ってたツガイって、どういう意味ですか?。」
『…そのままの意味ですが。』
「ヒメノと彼がツガイだと。」
チラッと少年を見る、彼はまだぐっすり寝ている。
その横で隊長とカイさんは山田と情報交換中だ。
『ヒメノからあなたとの話しは聞きましたよ。残念ですね、ヒメノにツガイがいて。』
レオナールは、冷たく話してきた。
『ヒメノは、彼と会えばきっとたちまち恋人になるんじゃないですか。あなたの事なんてすぐに忘れますよ。』
挑発するかのような話し方。
「それは、過去のあなた達であって、今関係ないですよね。」
俺は、つとめて冷静に返す。
『分かりませんよ、だから彼も敢えて会わないようにしてるんじゃないですか。会えば何が起こるかなんて誰にも分からない。』
そうかも、しれないが。
『そもそも、地球人と宇宙警備隊無理に決まってるでしょ。ヒメノにはもう会わないでもらえますか?。』
レオナールの目は本気だ。
「…会いませんよ…。」
「えー、いいの?約束しちゃって。一度したら堅物なレオは二度と許さないよ。」
いつの間にか、ベッドの上から少年がこっちを見ていて、話しに割り込んできた。
『オウジ!!。』
「あー止めてよ、その呼び方。レオ、ヒメノの事は諦めなよ。」
『え、いや、俺は何も…。』
「俺に隠しごとなんて出来る訳ないだろ。ヒメノが好きなのバレバレ。」
『!!。オウジ、…俺の事視ましたね。』
「視なくても分かるって。ねぇ?。」
少年は、他のみんなに同意を求める。
「…まあ、わかりやすいかと。」
「オイラでもわかったっす。」
「ヒメノさんに対する愛のオーラがプンプンで駄々漏れでしたね。」
みんなに言われてレオナールは、顔を赤らめて下を向く。
「…レオ。」
『わかってますよ。ヒメノの気持ちが一番大事です。仕方ないです。その代わり幸せにしないと…。』
「あ、いや待って下さい。僕達はその…もう終わったというか…。」
『「?、は?。』」
レオナールも、少年も何言ってんだ?って顔でアイを見る。
「オイラが説明しますよ。実は…。」
数分後、少年とレオナールの顔が怒りに変わる。
「え、バカ?バカなの?バカでしょ!!」
『…お前、ヒメノになんて事を…。』
「ナイトどころか、男として失格ですね。ヒメノさんの為にも、よろしければ私始末しますけど。」
「よし、殺れ。」
「まあまあ、3人とも落ちついて。」
隊長が間に入る。
「なんでそんなに、仕方ないじゃないですか〰️宇宙警備隊の決まりが…。」
「うわ、真面目君。そんなもん後から考えろよ、まずは二人の気持ちだろ。ヒメノと一緒にいたいんだろ!。」
「でも、自分まだ半人前で…。」
「回りから見たら1日だけでポイ捨て、最低男です。挙げ句の果てに仕事を理由にするなんてずるい男ですね。」
俺、駄目だった?なんで駄目なんて…。
「隊長〰️。」
みんなから攻められ、隊長に救いを求める。
「まあ、そういう事だアイ。真面目な性格はお前の長所だがな。でもこの事に正解はない。自分で考えろ。皆さんもその辺で、後は二人の問題ですから。」
「ちぇ、つまんない。寝よ。」
「せっかく私の必殺技をお見せする時がきたかと。残念です。」
『はあ、テレパスします。』
3人は元に戻って、カイさんは必殺技に食い付き、山田と話し始める。
(俺、間違ってたのか?。)
正直正解が分からない。
正解はないって隊長も言ってた、どうしたら…。
『!!、ヒメノ、ヒメノ、聞こえる?。』
突然レオナールが、声をあげ、俺達は、立ち上がる。
少年が、レオナールの右肩に手を置き、カイさんにも能力展開を求める。
「え、出来るかな?。」
「携帯で出来るなら、原理は同じだ、フォローするから。」
「わかった、やってみる。」
カイさんがレオナールの左肩に手を置いた。
カイさんがレオナールに向かって頷く。
『ヒメノ、聞こえる?。』
〈…聞こえる、あたし…どうなって…るの。〉
「少し聞きづらい、多分結界張られた中にいるな。」
〈…縛られて、目隠しもさ…れて口…も塞がれ…てるの。〉
「回りに人の気配は二人。エース達とは違う気配、多分ナパナ兄弟かと。」
「場所は…。」
と、突然
バリッ
カイさんと少年、レオナールが弾かれた。
レオナールとカイさんは壁まで飛び、少年は山田がしっかり受け止める。
「うー、オイラも受け止めて欲しかった…。」
「すみません、私は彼優先ですので。その代わりとっさにクッションはいれましたよ、無傷でしょ。なかったら、今頃粉々ですね。」
「山田さん、ありがとう。カイ大丈夫か。」
隊長がカイさんを助け起こす。
俺は、レオナールさんに近寄る。
「レオナールさん、大丈夫ですか?。」
『う、なん、とか…。』
「レオ、無理するな、俺達と違って直接受けたんだから。」
少年の言葉が聞こえたのか、レオナールさんは気を失う。
「場所は?。」
隊長が地図を画面に出してカイさんに見せる。
「多分この辺り、これが限界かと。」
まだ、かなり広い範囲だ。
「…!!、なんかヤバい感じが…。」
少年が空中を見ながら片方の手で頭を押さえて、もう片方で耳を押さえた。
急いでコートを手に持ち、パソコンを掴む。
「チッ、場所バレたんだ、何か来る!。隊長、転送装置。山田、レオを頼む、早く。」
隊長も、すぐに転送装置を起動する。
「アイ、先に行け。俺が最後だ。」
俺は、すぐに飛び込み安全確認。
「大丈夫です。」
山田さんがレオナールを抱えて俺に放り投げる。
「うわっ!、ちょっと…。」
「次!。」
言ってるそばからカイさんも飛んで来たのでなんとかキャッチ。
その後少年が転送装置に飛び込み、山田さんも飛び込む。
隊長が最後に飛び込もうとした時、ホテルの部屋のドアが弾かれエースとベテランが飛び込んできた。
「サイ!!。待て!!」
「アバヨ!。」
隊長が飛び込み、空間は間一髪閉じらた。
(ふー、ギリギリセーフ。)
しかし、少年のおかげで何とか逃げられたが…。
(俺達だけじゃ、ヒメノを助けられない…。情けない、宇宙警備隊とか名乗ってても3人だけじゃ…。)
「アイ。」
隊長に背中を叩かれる。
「今は、ヒメノを助ける事だけ考えろ、他の事は終わってからだ。」
「はい。」
ヒメノ、必ず君を助けるから。
47.2030年✕月6日 3時 西園寺ヒメノ
(…何、これ…。)
意識を取り戻したヒメノは、両手足を縛られ、目隠しをされ、猿ぐつわまでされている。
(何で、どうして?。)
近くからかすかに人の気配もする。
(落ち着こう、えーと、確か…そう、チャイムが鳴って…。)
ホテルの部屋、チャイムがなり、ドアスコープを見たらレオナールだったので開けてしまったのだ。
(でも、開けたら、宇宙警備隊の人で…。)
そう、騙されたらしい。
後は、中にあっという間に入られ拘束され、気を失なわさせられた。
「バカな女だぜ、今一番会いたい相手が見えただろ。よかったな。」
(…とか、言われたな。あの時は確かにレオナールの事考えてたから…。)
どうせ騙されるなら、アイさんが良かったな。
(あたし、どうなっちゃうんだろ…。このまま逮捕とかされるなら、もう一度、アイさんに会いたい…。)
とにかく、今この状況。
(アイさん…。助けて…。)
〈…ヒ…メノ…聞こえ…る…ヒメノ…。〉
頭の中にテレパスが微かに響いてきた。
(レオナールだ!。)
ヒメノも精神を集中させ、レオナールのテレパスを受け止める。
(大丈夫、落ち着いて。私にもきっとテレパス出来る…。何とか助けを呼ばないと。)
ヒメノは、精神を集中させる。
〈…縛られて、目隠しもされて、口も塞がれてるの、場所はわから…〉
突然、すぐそばに人の気配を感じた。
「!!!!。」
「お姫様。お目覚めでしたか…。」
頭にヒンヤリとした手が置かれる。
「…奴ら、お姫様がいたホテルにいる。あぁ、同じ階の反対側の部屋だ。警備隊に、ガキと、レオナール。今度はミスるなよ、行け!。」
誰かの足音が遠ざかる。
「ちょっと、失礼。」
瞬間頭の中に、何か電流の様なものが通りすぎる感覚が走り、ヒメノは再び気を失った。
ヒメノを、男が抱き上げ、ソファーの上に運んだ。
「兄さん、やさしいなぁ、そんな奴床で十分だろ。」
部屋に入ってきた、キースが兄、クラウスを見て呆れている。
「彼女は、ある意味被害者みたいなものだろ、かわいそうに、あんな化け物に取り憑かれて。」
「マジでそんな事思ってるのか?、理由はどうあれ受け入れた時点で共犯みたいなものだろ。」
「生きたい気持ちは、分かるさ。俺達が、星を復活させたい気持ちも似たようなものだろ。」
クラウスは、ヒメノの髪を撫でているが、その瞳は氷のように冷たい。
「兄さん、キレイな物好きだよね。駄目だよ、この子は。どうせ死んじゃうし。」
「あぁ、キレイな物は儚い。俺達の星も美しい星だったのに…。」
クラウスは立ち上がり、ヒメノの回りにあらたな結界を、張り直す。
しばらくすると、エースとベテランが戻ってくる。
「…申し訳ありません、後一歩のところで逃げられました。」
二人がクラウスとキースの前で、膝をついて頭を下げている。
「逃がした…。」
二人の、周りの温度が、急に下がり始め、震えあがる。
「兄さん、落ち着いて。まだ、二人には頑張ってもらわないといけないから。」
キースが、クラウスをなだめる。
ガタガタ震え始めた二人は、今にも凍りついて固まってしまいそうだ。
「今まで警備隊にスパイとして潜入してた功績もあるし、ね、今回は。」
「次はない。」
クラウスが力をやわらげ、二人は荒く呼吸を繰り返す。
後少し遅ければ、内臓全て凍りついてしまうところだった。
キースも、ホッとした。
兄の能力はいくつかあるが、メイン能力が温度を自由に操る能力。兄を怒らせれば、この辺り一帯あっという間に凍りつかせる事も、焼け野原や、砂漠にさえ出来る。
力が強すぎるので、普段は能力制御装置をつけているが、気を抜くと、さっきの様に力が漏れてしまう。
兄の事を表に出さないのは、多彩な能力を秘密にするため。
交渉なども向いてない、感情に能力が左右されやすいので、始めて行った星を丸々凍らせてしまった。
それ以来、キースが全て変わりにやる事に。
さっきみたいに、ちょっとの苛立ちですら能力が漏れてしまう。
(さすがに警備隊に居場所がバレてしまう。)
「さ、奴らが行きそうな場所特定するよ。」
二人を連れて、部屋を出る。
地球で動くのに、まだ二人の力が必要だ、兄はほっとくと何するかわからない。
部屋の扉を閉める前に、兄をチラッと見ると、また西園寺ヒメノの頭を撫でていた。
(ヤバ、ちょっと気に入ってそうだな…。)
面倒な事にならなきゃいいが。
48.2030年✕月6日 5時 フランス レオナール
(…う、ここは?。)
真っ暗な、部屋のなかで目を覚ます。
(身体中が痛い、…そうだ、ヒメノ!。)
起き上がろうとしたが、全身に痛みが走り起き上がる事が出来なかった。
「レオナールさん、気が付きましたか?。」
声をかけて来たのは、今俺がこの世で一番キライな男。
『…ここは?。』
「コンサートホールの機械室です。」
話しによれば、ヒメノと俺の繋がりを使って、攻撃を受けたらしい。
さすがに、そんな事が相手側からされると思っていなかったので、俺はもろに攻撃を受けてしまい気を失った。
オウジとカイさんも俺に触れていた為、俺ほどではないがダメージを追った。
挙げ句、場所もバレた。
こっちは、6人中3人が先ほどの攻撃でダメージを受けたのでかなり不利になり、慌てて逃げだした。
とっさに移動場所を隊長がここにしたのは、すぐに移動するには、一度座標に入れた所で尚且つ奴らが知らない所、出来ればフランス国内。
消去方で、この機械室と公園の2択、必然的に室内の機械室になった。
「すみません、宇宙船にいければ回復も出来るんですけど。とりあえずこれ飲んで下さい。少し楽になるはずです。」
こいつから、何か受け取るとか本当はしたくないが…。
俺はおとなしく、奴から薬のようなものを口に入れてもらう。
「すみません水ないんで飲み込めますか。」
何とか飲み込むと、一応礼をする。
「これで一眠りして下さい。目が覚めれば大分良くなると思いますよ。」
暗闇に目が慣れてきたので、周りを観察する。
左側で、オウジが眠っていて、山田さんがその横で座っている。
右側では、カイさんが眠っていて、隊長がコンピューターを操作している。
『二人は、大丈夫なのか?。』
「二人とも、ここについてすぐに薬飲んで寝ましたから。、カイさんは力の使いすぎもあって今は爆睡してます。」
『…ヒメノは?。』
「…。」
黙って首をふる。
『…場所特定出来なかったのか。』
「すみません…。」
薬の効果なのか、段々睡魔が襲ってくる。
『…、絶対助けるからな…。』
奴の胸元を掴みたいが、手に力が入らず、袖口を掴むのがやっとだ。
情けない。
意識が遠退いて行く。
(ヒメノ…、無事でいて…。)
49.2030年✕月6日 9時 フランス ジャスミン
「西園寺様でしたら、朝早くにチェックアウトされましたが。」
ホテルのフロントで、ジャスミンは困惑していた。
「何時頃ですか?。」
「申し訳ありません、個人情報ですので…。」
「私は、マネージャーよ!。」
「申し訳ありません。他のお客様が待ってますので。」
後ろを振り返ると、チェックアウトを待つ宿泊客達から冷たい視線を浴びる。
「失礼。」
フロントを離れると、ヒメノの携帯にかける。
(ダメだ繋がらない。飛行機に乗ったとか?。)
朝、8時にヒメノの部屋を訪ねたが、反応がないのでもらった鍵で開けると、誰もいなかった。
「ヒメノ?、どこ!。」
バスもトイレも見たが、どこにもいない。
よく見れば、荷物もなかった。
(嘘でしょ、えっ?何で!。)
今日も、朝から取材の予定が入っていることはヒメノも、知っていたはず。その後、夜の便で次の仕事場であるイギリスに向かう予定だった。
(それも、今回は私も一緒に行くはずだったのに…。)
イギリスの担当者が、産休に入ってしまったので次もジャスミンが引き続き担当する事になっていた。
(とにかく、どうにかしないと…。)
慌てて自分の部屋に戻り、会社に連絡を入れる。
「そうなの?、えー、困ったね…。」
電話で上司に事情を話し、とりあえず取材中止を決めた。
「まず、ヒメノは体調不良って事にしてそれで説明を。こっちでも連絡してみるから。」
会社の電話を切ると、もう一度ヒメノにかける。
ため息をつくと、今日の取材相手一件ごとにお詫びの電話をかけ始めた。
3件目の電話相手、ちょっと苦手な相手だった。
(嫌みの一つでもネチネチ言われるんだろうな…。)
仕方ない、諦めて電話をかけると、意外な事を聞いた。
「えー、マエストロも体調不良で取材拒否なんだけど、何、なんかあった?。」
(マエストロも?。)
何か、ひっかかる。
「お疲れなんじゃないですか?。それでは。」
まだ相手が何か言っていたが電話を切り、マエストロの事務所にかけた。
「ジャスミンさん、…どうされましたか。」
電話を受けた従業員の声、どこか落ち着きない。
「いえ、マエストロが体調不良と聞きまして。」
「…はい、そうですね。」
「社長は、いらっしゃいます?。」
「社長は、ちょっと…。」
「では、社長に伝言を、うちのヒメノも同じく体調不良ですと。」
「え、…あ、少々お待ちください。」
「お電話代わりました。ジャスミンさんお久しぶりです。」
電話の相手が社長、オーシャンに代わる。
「久しぶり、元気そうでは…ないわね。」
社長とは、昔よく一緒に仕事をしていたので顔馴染みだ。
「君も、かな?。よかったらうちの会社まで来てくれない?。」
「すぐにいくわ。」
ジャスミンは、荷物をまとめると、チェックアウトをしてすぐにマエストロの事務所に向かう。
タクシーで15分ほどの所だ。
社長室に案内されると、部屋に社長の他に2人いる。
「あ、大丈夫、こちら警察。」
「警察…。」
「すみません、先ほどのお電話の時から既にいたのでお話しは聞いてました。」
「口外しないでほしいんだが、レオナールが行方不明なんだ。朝、マネージャーが迎えに行ったら返事がなく、合鍵で入って異常に気づいた。自宅の部屋も争った後があって、携帯も端の方で転がってた。」
「…ヒメノも、朝部屋に行ったらいなくて…。」
「どちらのホテルですか?。」
ホテルと部屋番号を告げると、警察官は、誰かに電話して、ホテルを調べるよう伝える。
「部屋の状態は、どんな感じでしたか?。」
部屋は整っていて、荷物はなかった事を伝える。
「フロントには、チェックアウトしたって言われましたが、時間は教えてもらえなくて。そもそも、今日は取材がある事知ってたはずだし、飛行機は夜で私と一緒の予定なんです。」
「分かりました。ヒメノさんの携帯番号教えていただけますか、位置情報調べてもらいましょう。」
20分後、連絡がかえってきた。
「結論からいうと、位置情報は確認出来ないそうです。電源が切れているとおもわれます。後、まだフランスから出てはいないようです。これも確認とれました。、あホテルの方から電話ですね、何か分かったか?。」
しばらく会話していたが、何だか揉め始める。
「もう一度よく確認しろ!。」
警察官は、電話を切ると、こちらに向かい頭を下げる。
「すみません、ちょっとアホな事言ってまして、なんかまだチェックアウトしてないみたいですよ、って。」
「え?、どういう事ですか?。」
「今、フロントの防犯カメラをチェックしているのですが、それらしき人物は映ってないそうです。部屋の前からチェックさせてみたら、昨日部屋に、入ってから出てないそうで。」
何言ってるんだ?。
「もちろん、部屋の中もチェックしましたがいませんでした。」
「つまり、どういう事?。」
「はは、神隠しですかね??」
警察官は、笑って言うが、二人は笑えない。
「…ごほん、まあ、冗談はさておき…最近二人に変わった事はなかったですか?。」
二人とも、特にはない。
この後も、警察に事情を聞かれ、社長の好意でしばらく隣の会議室を借り待機する事に。
「ヒメノ…何処行っちゃたの…。」
机の上に置かれた電話は、朝からひっきりなしに鳴り続けている。
全て、昨日のヒメノの演奏が素晴らしかったから、その結果と言ってもいい。
ジャスミンは、しばらく電話を取る気にならなく無視していたが、電話は、鳴りやまない。
諦めて電話をとり始める。
(ヒメノは、必ず帰ってくる。この先ヒメノが生きて行く為に仕事を絶やしてはいけない。)
ヒメノは、家と絶縁している。
この絶縁の為に、うちの会社も力を貸した。
将来有望なピアニストが、毒親や親族に縛られず、自由に仕事が出来るように。
有能な弁護士をつけ、二度と係わらない約束をかわした。
だから、ヒメノは一人だ。
いざとなったら帰る家はない。
一応事務所の社員寮に住所は登録されているが、もう何年も帰ってない。
世界中を周り仕事しているから、ずっとホテル暮らしだ。
仕事の以来がなくなれば、ヒメノは生きていけなくなる。
ヒメノだけじゃない、他にも皆同じ様に音楽を続けないと、生活が出来ない。
ジャスミン達の仕事は、彼らにとって欠かせない大事な仕事だ。
電話を受けなければいけない。
その合間に、ヒメノにかけ続けた。
しかし、警察から充電が切れると困るので、時間を開けて連絡するように言われてしまう。
しばらくして、部屋に警察官が入ってきた。
「あれから分かった事なのですが、まず、ヒメノさんがチェックアウトしたと、ホテルのコンピューターが記録された時間が、夜23時20分。もちろんその時間、フロントには来ていません。誰が、入力したかも分からないため、ハッキングが疑われ只今サイバーチームが調査しています。」
あまりに不可解な話し。
「同時に、防犯カメラの映像もいじられている可能性が出てきたのでこちらも調査しています。」
警察官の表情は、雲ったまま。
「…ただ、サイバーチームの話しですと、痕跡はなさそうだと…。」
「…え?。」
「すみません、でも、まだ分かりませんから…。」
なんか、もう気を失いそうだ…。
「…レオナールさんの方は、どうなんですか?。」
「…こちらも、何も手掛かりはなく…。」
警察官は、チラッとこちらを見ながら申し訳なさそうに言う。
「レオナールさんはともかく、西園寺さんにかんしては、自らの意思での失踪の可能性も…。」
怒りで何か、ブチッと音がした。
「…話しにならない、ヒメノは失踪なんてしません!。」
机を叩いて、警察官を睨み付ける。
「あ、あくまで可能性です。争った跡はないし…。」
「きちんと、探して下さい!!。」
「もちろんです。」
警察官は、頭をペコペコ下げながら部屋を出ていく。
「…。」
ジャスミンは座り直し、冷めた珈琲を一気に飲み干す。
また鳴り出した電話をとった。
50.2030年✕月6日 10時 フランス 宇宙警備隊 カイ
何もない機械室に、美味しそうな匂いが漂ってきた。
「只今戻りました、さぁいっぱい食べて下さい。」
山田さんが、大量の朝マックを買い出しして来てくれた。
「うぉー!、山田さんが神に見える!。」
この謎の人物山田さん、実は宇宙人。
なんと、一度見た人間はコピーが出来るそうで、姿を変えて朝マックを買い出ししてくれたのだ。
おいらは、すっかり山田さんに興味津々、はまっている。
山田さんだけではない、少年にもだ。
名前がないそうで、過去のオウジの名前で呼ぶしかないのだが嫌がるので、おいらがあだ名を付けてあげた。
「謎YouTubeオウジで…。謎プリ…。」
「却下。」
「うーん、じゃあ、おーちゃん。」
「…まあ、それでいいよ。」
名前が決まった所で、朝ごはん待ちの間、山田さんが危険すぎると封印してたパソコンを持って来てくれたので、おーちゃん自作パソコンの性能について語り合う。
「マジで凄!、よく作ったね。」
「だろ、解る人がいてよかったよ。」
二人して、話しが弾んでると、おいらの自作パソコンの話しになる。
「これもかなり凄いな。」
おーちゃんに誉めらて、まんざらじゃない。
「…ん?、通信機能もあるのか?。」
「昨日それで本部に連絡入れたけど、おいらのパソコンだと、届くのに一日位かかるんだ。」
「…ちょっと待て、こっちのパソコン使えば…?」
「…え、あ、そうか、なら。」
おいら達は、大急ぎでパソコンを操作して、通信機能をセッティングし始めた。
「後、本部よりもっと近くに警備隊の仲間いないのか?。その方が速いぞ。」
隊長も、ハッとした。
「そうだ、俺としたことがその方法があった。一番近いのは、ターニガン星雲の警備隊だ。」
「念のため、通信送るのは、体制整えてからにしよう。」
今、おいら達は結界すら張ってない。
むしろ張らない方が見つからないだろうと判断した。
山田さんの帰宅を待ち、みんなで朝ごはんを食べながら今後の対策を話しあう。
おーちゃんとおいらは、非常時に使う回復薬と睡眠でかなり元気になったが、レオナールさんはまだ起き上がるのもつらそうで、飲み物だけ飲んでいる。
『…私は、戦力外ですね。まあ、テレパスくらいならなんとか…。』
「向こうは、強者4人。こっちは3人か、一人足らない。」
おーちゃんの体はまだ、常人の体力に追いついていないし、筋力もやっと人並み。戦いには向いてない。
「えー、山田入ってます~、僕平和主義者なんですけど。」
「おいらは、護身術くらいは教わってるけど、戦闘は無理ですよ。」
「…アイ、お前ベテランと戦ってどうだった?。」
隊長は、アイに質問する。
時々隊長がこれをやる。
アイの成長を促すために、わざと悩ませたり、考えて自分で答えを出させる。
「…正直、分かりません。先ほどは、レオナールさんを担いでいたので少しこちらに分が有りました。卸した後、ベテランさんのギアが一段階上がった感じがして、…カイさんがレオナールさんを奪還してなかったら、1分ももたなかったかも…。」
アイは、下を向いて押し黙る。
「まあ、妥当な所だな。ベテランも担いでてもいけると思ってたが、以外にアイが腕が立つので切り替えたんだ。」
そう言うと、隊長がアイの頭をナデナデする。
「ベテランに、本気出させたんだ。よくやった。」
「…隊長、ナデナデはやめて下さい…。」
「しかし、ナパナ兄弟の情報が…、特に兄がない。我々はかなり不利だ。」
「弟は、かなりの腕ッぷしで有名だよね。あ、一つだけ、気になった事がある。」
おーちゃんが、ポテトを食べながら話す。
「奴らが、俺らの星に来て交渉してきた時の話。レオもいたよね、覚えてる?。」
『記憶として、あります。』
「まず、俺達は口がない、会話と言うものがない。だから、普通は交渉出来ないと思うんだ。まず、侵入者が入ってきたら知能がないふりをする。それで排除してからテレパスで連絡。でも、始めに遭遇した奴の報告では、俺達がテレパスで会話する事を知っていた。さらに、王族の事も知っていて案内しろと脅してきたんだ。」
「どうやって、知ったのかだな…。」
「さらに、道案内した奴が時間稼ぎで遠回りしていたのも、バレていて気味が悪いって言ってた。」
考えを読むのか?。
「その可能性は高い。誰も教えてないのに木の場所まであっさりたどり着いてたし。」
『確かクラウスを交渉の場で見た時、氷のような冷たいオーラ出してるなぁと思ったら少しずつ回りの大地が凍りだして…、こんな星簡単に凍らせる事も出来るみたいなこと言ってましたね。』
凍らせる?、おいらの脳裏に何か引っかかった。
「隊長、確かナパナ兄弟の滅ぼした星の一つに氷漬けになったとこ有りましたよね。」
「…。あった、確か最初に攻め行った星だ。名前は…。」
「……ヨリル星…。」
山田さんがボソッと呟く。
「あ、うん、そんな名前だったな、確か…ッ!!。…て、え、ちょっと…や、山田さん?。」
隊長の言葉に、山田さんが殺気を飛ばしてきた。
「…名前、ちゃんと覚えて下さいよ。」
全員、あまりにも怖くて、ちょっと引く。
山田さんは、ハッとして、殺気を押さえると、いつもの笑顔に戻った。
「…え、ちょっと待って下さいよ、嫌ですよ山田氷漬けなんて?!。」
いつもの山田さんに戻った。
「……大丈夫だ、さすがにそれはしないだろ。お宝が手に入らない。」
おーちゃんも、かなり驚いて、山田さんをガン見している。
(ヨリル星、なんか因縁あるのかなぁ。山田さんやっぱり謎!。)
さて、どうしたら…。
正直お手上げだ。
「まず、先に通信だ。それと同時に移動する。移動先は、さっき山田の部下が手配したホテル。レオは移動する前に通信と同時にテレパス。カイさんは、レオの補佐で場所を更に絞りこむ。隊長は移動準備、アイは、入口前で警戒。山田はレオの移動補佐。俺は司令塔。以上、3分後に始める。」
すっかり、おーちゃんの部下みたいにおいら達なってる。
でも、意外としっくりしてるから不思議だ。
*
『始めます。』
レオナールさんが、テレパスを始めヒメノさんの意識を掴んだ。
おいらは、おーちゃんに合図を送る。
おーちゃんは通信を送ると、すぐに転送装置に入る。
(今回は、深追いしないから、よし!。)
おいらも、ほどよい所で辞めて、レオナールさんの肩を叩く。
名残惜しそうだが、レオナールさんも山田さんに支えられて転送装置に入った。
後は、おいら達が入るだけ…。
「隊長、行きますよ?。」
隊長は片足だけ突っ込み動かない。
「まさか、待ってます?。」
あの二人が来るのを…。
「…フ、来たぞ。3人だ。」
またもや、目の前の機械室扉が弾け飛ぶ。
「サイ!」
「イヤぁ、ご苦労さん!。」
扉が破壊され、そこにエースとベテラン、キース.ナパナまでいる。
またもや間一髪、転送装置に入り逃げ出した。
「うわぁ~、隊長~、意外と悪趣味?。キライじゃないけど。」
「山田も大好きです。次は是非山田にも味あわせて下さい。」
「はは、まあ、奴らが来るか確認したかっただけですよ。それよりカイ、どうだった?。」
「ばっちりです。だいぶ絞りこめたっす。」
確かに、さっきよりは、だいぶ範囲が狭まった。
「さて、これからどうするか…。通信が届けばすぐに応援は来る。」
隊長は、おーちゃんを見る。
「まあ、しばらく待機かな。」
おーちゃんがパソコンをいじりながら、話す。
「朝になっちゃったし、今現状把握しないと…。レオとヒメノがいない事はもう気づいてるだろうし。」
「あぁ、やっぱり…。レオとヒメノ警察が動いてるね。」
おーちゃんのパソコンを覗き見ると、警察の防犯カメラにハッキングしている。
「レオの方は、部屋が争った後があるんで事件性があるから、ヒメノは…自ら逃亡?なんじゃそりゃ。」
映像を観ながら、唇を読んでいる。
「さすがに今日は大丈夫だけど、明日になったら事件として発表されるかもしれないな。そうなったら面倒だ。だから今日中にヒメノを取り戻す。」
全員が、おーちゃんを見る、隊長がおそるおそる質問した。
「確かに、早い事にこしたことはないが…。策はあるのか?。」
「それは今から考えるよ。とりあえず連中が欲しいのは、俺とレオだ。餌はあるから、接触はいつでもできる。俺達がテレパスすれば、必ずピンポイントで場所特定して追いかけてくるし。」
こっちはピンポイントで特定出来ないのに、向こうは出来るんだ、おいら悔しい!。
「まあ、どちらかがわざと捕まって…あ、レオに行ってもらう。」
おーちゃんが、二台のパソコンを見た。
「今から、このパソコンと、皆の携帯に、お互いしかわからない居場所特定のGPS付けるから!。」
そういいながら、すでにプログラムを作り始める。
「なるほど、ヒメノと同じ所に連れていかれれば、場所特定出来ますよね!。」
アイは、嬉しそうに頷いている。
「レオは芝居しろよ、よわって意識ありませんて感じで。パソコン抱えて、現場に着いてヒメノ確認したら、落とせ。」
『…はい。』
2つのパソコンには、自爆装置が入っていた。
実際は爆発するわけではない、データが消え回路基板がショートして、二度とつかえなくなる。
「奴らにこのパソコンは渡せないからな、少しの衝撃で作動するように変えとく。失敗したら、その時はカイさん、お願い。」
おーちゃんの提案に頷く。
「もったいないなぁ~。でも、いいの?それで…。」
おーちゃんは、黙って頷く。
「万が一、上手くいかなかったらおいらが責任持つ。必ず遠隔操作で破壊するよ。」
「俺がいなくなったら地球には、まだ不要な物です。」
お互いのパソコンには遠隔操作の自爆装置。
おーちゃんは、万が一を考えて最初からパソコンに組み込んでいた。
いついなくなってもいいように。
覚悟は、しっかり受け取った。
「任しとき!。」
51.2030年✕月6日 11時 フランス エマ田中
「わー、美味しそう!。」
店の中に陳列されたパンを、写真におさめていく。
フランス最後のパン屋は、馴染みのパン屋だ。
「エマちゃんこれ新作なんだよ、YouTube載せてくれるかい?。」
店主のおじさんが、新作パンを持ってきた。
「可愛い、まず写真撮りますね。」
他にもいくつか写真を撮り、パンを買う。
「また、気とくれよ!。」
おばさんに会計してもらい店を出ると、空港に向かう為、歩きながらタクシーを探す。
(パンは、空港に着いたら食べよ!。)
歩きながら、先ほどきた師匠からのメールを思いだし、ニタニタしてしまう。
〈上出来!〉
トミー師匠からの第一声。
その後に、
〈頑張ったご褒美に、今度飯奢ってやる、予定空けとけよ!。〉
ニタニタが止まらない。
(実はトミー師匠ってけっこう女子人気高いんだよね。)
常にいろんな所に引っ張りダコで飛び回っているトミーは、会社に顔出す機会があまりないので、会えるとラッキーと会社の女子達からは言われている。
噂によると、かなり良いところの3男でお坊っちゃんらしいが、写真一本で生きていきたいと家を出たらしい。
(デートに誘って成功した人はいないって噂だし。)
今まで何度か仕事はしたが、誰か一緒だったり短い時間だったので、今回みたいに二人きりで2日も一緒にいたのは初めてだ。
(トミーが、建物の写真撮るときは手伝ったし、ご飯食べながら、お互い仕事について語り合いなんかしちゃったし。)
正直エマは、トミーに惹かれていた。
何よりも、トミーが貸してくれたあのノートがエマの心をグッと掴んだ。
(あのノート、…他の誰かにも見せたのかな?。)
自分だけなら、嬉しい。
目の前に、空車のタクシーが近付いて来たので、手を上げる。
(帰ったら、残りの仕事片付けて…ウフ、デートだ。)
すでにエマの気持ちは、カナダに戻っている。
…記憶は、もう戻らない。
52.2030年✕月6日 8時 アメリカ ライアン
「おはよう、ソフィア、シャーロット。」
毎朝、定期連絡を我が家の時間、7時半に合わせてしている。
今は同じアメリカにいるが、世界中を飛び回っていると、なかなか大変だ。
「パパおはよう。」
シャーロットが画面の向こうで手を振る。
俺も手を振り答えると、昨日の学校の話しを楽しそうに話だした。
「…それで今日は、ナンシーのお家にママと遊びに行くの。」
「そうか、ナンシーのパパとママによろしく伝えてくれ。」
「うん、パパも今日も頑張って!。じゃあね。」
通話を終えて立ち上がり大きく伸びをする。
(朝は忙しいから、いつもあっさりしてるな。)
以前は夜も電話していたが、夜だと通話が終わると寂しくなって泣き出す事があるので、朝だけ毎日、夜はその日の娘の状態を見てソフィアから電話をするよう連絡が来たらかける。
(さて、今日は午後からだから…もう少し寝るかな。)
昨日もリハーサルが長引いて、帰ってきたのは夜中だ。
改めてタイマーをセットし直して、ベッドに潜り込もうとしたら電話が鳴る。
(誰だよ、って社長?。)
社長は毎朝の定期連絡を知っているから、俺が起きているのがわかっていてこの時間にかけてくる事が多い。
「社長、どうしました?。」
「どうしたもこうしたも、あー、もうなんなの、馬鹿にしてるっ、あり得ない!。」
「ちょっと、どうしました?。落ち着いて下さい?!。」
あまりの社長の剣幕に、飛び起きる。
(…俺何かした?。)
「今すぐテレビつけなさい!。チャンネルは…。」
あわてて、テレビのスイッチをいれる。
たまたま、指定されたチャンネルだった…。
(…なんだ、これ…。)
圧倒的な歌声がテレビから流れ、頭が混乱し、携帯が手から滑り落ちる。
頭の中にかかっていたモヤがスーっと消え、大量の記憶が戻ってきた。
(………、あいつ…何したんだ?。記憶消すとか、あり得ないだろ?!。)
ベッドの上で深呼吸を繰り返し、混乱する頭を落ち着かせた。
落ち着くまでだいぶ時間がかかり、携帯を放置していた事を思い出す。
「…スミマセン、社長…。」
「ライアン!、よかった大丈夫?!。ごめんなさい、ショックよね。ひどい裏切りだわ!!。」
社長からしたら、バンドの話しが無くなったばかりだから怒ってるのか。
「落ち着いたらかけ直します。」
電話を切ると、改めてテレビを見てみるが、既に違う話題に変わっていた。
携帯で奴のYouTubeを検索したが、アクセス出来ない。
仕方ないのでニュースを検索する。
(…なるほど、だいたいわかってきた。)
昨日、フランスでオケと共演し大絶賛された事。
それを自分のYouTubeで生で流し、パンクして、アクセス出来ない事。
さらに次の日、ソリストのダニエル.エーゼットが、彼を息子だと公表した事。
この事実に、マスコミは飛び付いた。
ダニエルは会見を開き、息子の生い立ちから今まで全て話した。
これから全力で息子を守り、幸せにする事をマスコミの前で熱く語り、これも話題で持ちきりとなっている。
「ずいぶん派手にやったな。…なんだよ最初から準備してたんじゃないか?。」
ヒメノも絶賛されているが、ダニエルが会見した事で完全に世間の目は謎YouTuberだ。
(でも、まて?。宇宙警備隊は?。)
これでは、宇宙警備隊の問題は解決していない。
すると、つけっぱなしにしていたテレビから、またあの歌声が流れ出す。
(………オウジ…。あなたって人は。)
最初の一声目におもいっきり爆発的な能力を飛ばしていた。
あれだけの力、今の俺達では出す事さえ難しいはず。
出しただけで倒れてもおかしくないのに、彼はその後歌いきっている。
わざと警備隊に目を付けさせた。
(あれだけ力だせば、嫌でも気付いただろ。…計測器も下手したら壊れ…って、壊したのか。)
本番での演奏、ヒメノとレオナールが共演したら何か起こってしまうかも知れない。
その前に壊してしまおう。
(その後は、どうするんだ?。)
警備隊が接触して来たら?。そう、事実を話せばいい。
(…本当の事を話せば、…自分一人犠牲になって解決か。オウジらしい。)
俺達を捕まえるのは無理だと解れば、さすがに警備隊も手を引くはず。
オウジは、しばらく監視されるかも知れないが、中に眠っている彼がでてくれば、それさえ意味がなくなる。
アラームが鳴った。
いつの間にか時間がだいぶ立っていた。
「二度寝しそびれた。」
仕方ない、シャワーを浴びてスッキリしようとベッドから起き上がる。
オウジが俺の記憶を消したのは、もう関わらない事がわかってたからだ。
バンドの件も中止にしたのは、俺との接点を無くすためか?。
万が一俺の事がバレても、俺の記憶が無ければ話にならない。
嫌、思いだしてしまった。
(なんで思いだしたかなぁ、俺。もう一度消えないかな。)
シャワーを浴びながら考える。
(せっかくオウジが頑張ってくれたのに、俺は、このまま幸せにソフィアとシャーロットと生きて行きたい。)
過去の記憶が蘇がえる。
過去の俺、ヒメとオウジの教育係で星の知識を全て詰め混んだ学者の家計。
父親も母親も学者、一緒に産まれた姉も学者、そして後にツガイとなる。
そう、あの星では必ず男女の双子で産まれ、その後15年で成人扱い、きょうだいで結婚してまた双子を産む。
それが当たり前で、普通。
仕事も先祖代々同じ仕事。
ヒメと、オウジはツガイ、きょうだいでもある。
ツガイは、お互いを大事に思う気持ちが産まれながら強い。
(オウジは、まだ意識があるからヒメノだけは死んでも守りたいだろうな。)
もちろん、知らないふりをすればいい。
だが、相手は宇宙警備隊。記憶を読む事くらい出来る可能性もある。
(…やるか、自己催眠。)
過去の記憶から引っ張り出してきた記憶に、自己催眠の方法があった。
記憶消去もあるが、こちらは能力が必要なので不可能だ。
(やるなら慎重にやらないと。他の記憶まで消す訳には行かない。)
間違えて全ての記憶が消えるようでは、困る。
(決行は、ラストツアーが終わってからだ。)
シャワーを止めて、鏡を見る。
(とりあえず、今は、何も知らない、俺は、何も知らない。よし!。)
頭を切り替えバスルームを出る。
(とりあえず社長に電話からだな。)
「隊長!、太陽系地球隊から緊急通信。レベル赤、最上級SOS!。」
「!、画面に表示しろ!。」
「はい!。」
指令部にいた、部下達がざわめきだす。
「なんて事だ、エースとベテランがスパイとは…。」
「ナパナ兄弟が、地球降下、行方不明…。」
「映像付いてる、え、あれが、クラウスの顔か!。」
本部からも緊急通信が入る。
「ターニガン星雲、隊長、ノック、スベリアム。」
「はい。」
「太陽系地球隊からの通信は、見たかね。」
「はい。今。」
「では、ターニガン星雲ノック隊全員に告ぐ、緊急事態発令、地球への応援。及び、裏切り者エースとベテランの拘束、ナパナ兄弟の捕獲、以上。ナパナ兄弟の捕獲は慎重さが求められ、尚且つ命懸けだ。宇宙最高魔法部隊ノックチーム。捕獲作戦開始。」
「は!」
館内全員が敬礼する。
「時間がない。第一部隊、私と一緒に来てもらう。最後になるかもしれない、家族に連絡しろ。5分後全員移動船に集合。」
船内放送で、他の残る部隊に指示を出しながら、移動船に向かう。すれ違う隊員が、敬礼して見送ってくれる。
(後2分…。)
自分も、愛する妻に連絡する。
「ノック、珍しい時間に電話なんて…何かあった?。」
バーニーは、仕事中だったが、何かを察して出てくれた。
「愛してる、バーニー。すまない、先に逝くかもしれない。」
バーニーは、一瞬、固まったが、すぐに笑顔を作る。
「…ノック、録画して。私も愛してるわ。お仕事全力で頑張って。…どんな姿でもいいわ、必ず戻ってきてね。私の元に。」
瞳から、こらえきれず涙がポロリと落ちる。
「君も録画してるね、バーニー、愛する妻。愛してる。」
「…ノ…ック。」
もう妻の瞳は、涙でいっぱいだ。
「…スミマセン、隊長…時間です。」
部下が、後ろからそっと声をかけてきた。
「今行く。」
通信を終えて振り向くと、そこに第一部隊の隊員20名が並んでいる。
「よし、行くぞ。」