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醜怪(みにくいかいぶつ)  作者: 卯雪リオ
4/5

コンサート本番

40.2030年✕月5日 17時 フランス コンサートホール 開場

 

 (楽しみだな、今日はどんな素敵な音楽が聴けるかしら。)

 エマは、コンサート取材用に準備してきた、少しおしゃれなワンピースを着て、コンサートホールに続く歩道を歩いていた。

 会場が近づいてくると、同じ様に正装した人達がみんな楽しそうに歩いていた。

 エマも取材関係者の受付でチケットを出して中に入り、荷物チェックを受けて指定された席に向かった。

 関係者席の近くを通りすぎた時、ドアを開けて中に入って行く人物を見て驚く。

 (今のって、ソリストのダニエル.エーゼット!?。何で、いるの!。)

 噂では、今回のソリストは彼だったらしいが、変更になった事でいろんな憶測が流れていた。

 (表向きは、彼の推薦で変更だって話だけど、裏では乗っ取られたとか、彼自身が病気説とか。でも、元気そうだし?。)

 さっき見た表情は、明るかった。

 一緒に入って行った女性と、腕を組んで楽しそうに笑い合っていた。

 パンフレットに今日のソリストの情報は、一切書かれていない。

 (うわー、きっと何かあるよ、これは!。)

 エマは、ワクワクしながら自分の席に座った。


*


 ダニエルは、関係者席に座って今日までの事を振り返っていた。

 あれは、何年前だったか…。

 ある日、手紙が届いた。

 

 〖あなたが、一番欲しかったもの。在りますよ。〗

 

 一緒に入っていたDVD には、どこかの都会で少年が歌う映像が写っていた。

 たまたまその場に居合わせた人間がスマホで撮った映像を編集したもの。

 ダニエルは、すぐにその歌声に魅力された。

 (…こんな、歌い手がいるなんて!!!)

 歌い終わった後のその後が流れ始める。

 鳴り止まない拍手。

 と、倒れた少年、上がる悲鳴、駆け付ける人達による心臓マッサージや人工呼吸、どこからかAEDが届けられ、サイレンが聞こえ救急車に乗せられるまで。

 (なんだ、これは…。)

 映像は、それで終わっていた。

 困惑していたら次の日に、分厚い封筒が届いた。

 恐る恐る開けて見ると、少年の情報が事細かく調べられたファイルが入っていた。

 読み進めるとダニエルは、神に感謝し、泣き崩れた。

 (あぁ…。エリー、生きているんだね。)

15年、いやもっと前か、ダニエルは一人の女性に恋をした。

 イタリアの街中にある小さなバーで歌っていたエリーと言う名前の女性。年は10歳下。

 その歌声に才能を見いだしたダニエルは、彼女を説得して自分の弟子にしようとした。

 しかし彼女は、田舎者の自分には無理だ、からかわないでとなかなか首を縦に振らない。

 足繁く通い説得をしているうちに、師弟関係よりも先に男女の関係になってしまった。

 そして半年した頃、エリーは突然すがたを消してしまった。

 店のオーナーに聞いても、彼も素性は聞かず美人で歌が上手いから雇っていただけだと。

 むしろお前のせいで貴重な歌い手がいなくなった!と店を追い出された。

 その後も諦められず、探し回ったが足取りは掴めなかった。

 ダニエルはあきらめて親の進めで結婚したが、数年で上手く行かず離婚、子供もおらず今は独り身だ。

 (まさか、あの少年がエリーと俺の子…。)

 ファイルにはどうやって調べたのか、DNAの鑑定書までついていた。

 そして、エリーと少年の産まれてから今までの生活が綴られていた。

 衝撃的な内容に、言葉が出ない。

 (息子に名前すらないなんて…。)

 ダニエルは、ファイルをみながら一晩中泣いた。

 次の日に、電話がかかってきた。

 相手は山田と名乗り、彼の代理人だと言う。

 ダニエルは、彼が生きている事に安堵し、自分に出来る事はなんでもするからと山田と約束した。

 一週間後、ダニエルは日本に向かった。

 少年に会うためだ。

 あの映像から、まだ半年くらい。まだ身動きがままならない体、なおかつ彼は存在すら認められていない日本を出る事が出来ない。

 空港で出迎えた山田に案内されて、病院で少年に会った。

 (…。これが、息子?!。)

 無表情でベッドの上でこっちを見ている少年。資料によると20歳なはずなのに、どうみても13.14歳くらいにしか見えなかった。

まだ体の所々包帯が巻かれ左手は、ギブスで固められている。顔にも包帯が巻かれ見える部分の皮膚は青アザがみえる。それでも…。

 (似てる、俺の子供の頃に。)

 「…何、俺の醜い顔見たら帰りたくなった?!。」

 「いや、…私の子供の頃にそっくりだなと。」

 「悪いけど、この続きの感度のご対面は、本人としてくれ。」

 (??、本人。)

 そして、そこでさらに衝撃的な話をされた。

 息子が、あの時一度死んだ事。

 宇宙人に命を与えられ生き返った事。

 しかし、本人が生き返りを拒否していて、表にでて来ないので、今話をしているのは命をくれた宇宙人らしい…。

 「その話を、信じろと?…さすがに無理が…。」

 一緒に聞いていた山田をチラッと見る。

 「私は信じましたよ。」

 さらりと返された。

 「医師の話では、生きてるのが不思議なくらいびっくりするほどガリガリでヒョロヒョロ、20歳にはとても見えない!。あの日、現場で心肺蘇生をしてくれた医師も彼を見て、命は戻らないだろうと密かに思っていたそうです。しかし奇跡的に息を吹き替えした。正直かなり驚いたそうです

。」 

 確かに、資料の写真は酷いものだった。

 体中アザだらけ、骨が見えるほど肉はなくガリガリだった。

 「あの状態の人間が、いくら病院の技術が上がっても回復するのは無理だと。素人の僕でもわかります。でも、ご覧の通り彼は回復しました。病院でも、奇跡と呼ばれてましたよ。」

 「一度なくなった生命力を追加したみたいな、まあかなりギリギリで俺もちょっと生き返るの無理かと思ったし。」

 さらに山田が付け加える。

 「これは、息子さんの仲間から聞いたのですが、彼は学校にも行ってないので字も書けないし、会話も日本語で最低限しか出来なかったようです。」

 「…しかし、今私との会話はフランス語…。」

 「入院中暇だから、身体動かせない分知識の方を入れておいた。6ヵ国語くらい覚えたかな。あ、地球人より全然頭良いから、俺。後、この数ヵ月でこの星の小学生と中学生の知識も全部いれたし。あぁもちろん人前ではちゃんと、おとなしいかよわい少年演じてるからさ。」 

 さすがに理解するには、無理がある。

 「……。すまない、少し時間をくれないか。」

 「仕方ない、信じても信じなくても約束通り例の件だけはやってよ。なんでもするって言ったよね。」

 約束、それは父親と名乗り出て認知し、戸籍と名前を与える手続きをする事、息子の未来の生活全般を面倒見ること。

 「嫌でも協力してもらうから、あんただって本当の息子に会いたいだろ。あの歌声に惚れない奴はいない。奴にもう一度歌わせたいだろ?!。だったら俺に協力しろよ。」

 (息子の殻を被った宇宙人?、信じろと?。)

 とてもじゃないが信じられない…。

 「…今、本物の息子は、どこに…。」

 右手で、心臓のあたりを指差す。

 「いるよ、ここに。…さすがに本物の父親見て動揺してるな。おい、出てこいよ!おい!。…駄目だ…、意外と頑固だな父親が来たら出てくるかと思ったけど…。」

 「息子は、私に会いたくないのか…。」

 「…奴からしたら、急に父親が現れたからどうしていいか分からないんだ。精神が幼すぎるからどんどん進んでいる現実の展開についていけない。そうだ……流石に俺疲れたし、少し寝る。お前話かけろ。」

 「は?、え?。」

 「俺の意識があると、あいつも出てきづらいだろ。」

 そう言うとベッドに横になってしまう。

 「山田も席外して、二人にするから何とかして奴を引っ張り出してくれ。奴が出てくれば俺は消えるから安心しろ。じゃあ、山田後よろしく。」

 あっという間に言いたい事だけ言って寝てしまった。

 「話すって…どうすれば…。」

 「そうですね、昔話でもしてみたら良いのでは、彼は聞いているはずです。私、待合室に居ますので何かあったら連絡して下さい。」

 そう言うと、山田も部屋を出て行った。

 「…昔話?、…君のお母さんとの出会いからはなせばいいのか?。…そうだな、君には知る権利がある。」

 時間はたっぷりある。


 (…結局、息子は出て来なかった。)

 あの後、宇宙人の彼と山田と、3人で今後の方針を決めた。

 宇宙人の彼によると、息子はちゃんと話を聞いていたが戸惑いの方が大きい。やはりお互い時間が必要だと思うので焦らず進めていく事に。

 「あいつは、育った環境のせいもあるが、精神年齢は10歳くらいだと思った方がいい。」

 とりあえず、彼の為に今出来る事を、彼が生きてきたい望む環境を3人で作って行く事で決まった。

 宇宙人の彼は、体調を整え体力をつけて、健康な体を作る。

 山田は、彼の歌声を広めて歌う環境を作る事。

 私は、彼がこの先息子が生きて行く為の名前と戸籍を作る事。

 

 (長かった…やっと、ここまで来たんだ。)

 このコンサートが終わったら、彼が私の息子である事を公表する予定だ。

 (やっとエリーと3人、幸せに暮らせる。)

 エリーはすでに山田が保護して、見つからないように隠れて療養していた。

 あの後、山田に連れられてエリーにも会いに行った。

 会ってもらえないかと思ったが、あの頃より年を取り痩せた彼女は、「お願い、息子を助けて!!。」と私の顔を見るなり泣いて土下座してきた。

 エリーも息子の今の状態を理解していて、宇宙人の彼の話しを信じていた。

 自分のせいで生きる事を諦めてしまった息子を取り戻す為なら、なんでもすると。

 エリーが味方に付いたので、父親が誰かもすぐに分かり私とコンタクトを取ったのだ。

 エリーとも沢山話し、山田の力を借りてエリーを買い取る形で店の店長から引き離した。

 「なあに、大丈夫です。払った分のお金は後できっちり回収しますから。」

 山田は、その後本当にその時のお金を回収したらしく私に返してくれた。

 どうやってかは教えてくれなかったが、店はつぶれていて、この件で山田と言う男が敵に回してはいけないと思った。

 その後、正式にエリーと結婚した。

 こちらも密入国なので手続きに難航したが、今は私の家で療養しながら元気に暮らしている。

 

 「楽しみね。」

 隣に座ってエリーも微笑んでいる。

 あらためて二人で息子の名前も考えた。

 (後は、息子がかえってくるだけだ…。)

 

**

 

 「開演まで後少しですね、あー早く始まらないかな。」

 「おい、アイ。仕事だぞ、し、ご、と。」

 「わかってますって。」

 「目がハートになってる、ってお前フラれたんだろ。」

 「フラれてないですよ!。ひと夜限りの…。」

 「あー!もうその話聞き飽きた。」

 機械室の扉が開いて隊長が入ってくる。

 「お前ら、準備はいいか?。」

 「ばっちりです。」

 「よし、今日で調査は終了予定だからな。ほら。」

 隊長がマ○クとケ◯タの袋を差し出す。

 「トーマスさんからだ。」 

 「やったー!、さすがトーマスさん。」

 「ありがたや、ありがたや。」

 「さて、開演まで後30分、腹ごしらえだ。」


***


 コンコン。

 『失礼します、西園寺さん最終チェックに来ました。』

 ヒメノの楽屋をノックする。

 「はい、どうぞ。」

 楽屋に入る。

 『!!。』

 …美しい、今日のヒメノは今まで見た中でも特に…。

 「西園寺さん、今日は、一段とお綺麗ですね。」

 「ありがとうございます。」

 一緒に来たコンマスに先に言われてしまった。

 『…、では最終チェックを。』

 「あのー、曲順なんで変わったんですか?。」

 二人して、黙りこむ。

 「あ、いや、まあいろいろありますよね。私の順番変わらないから大丈夫ですよ。」

 気を遣わせてしまった。

 「スミマセン、大人の事情ってやつです。」

 「大変ですね。」

 『こほん、では、最終チェックを。』


 最終チェックを終え、部屋を出ようとドアに手を掛ける。

 「あ、そう言えば一曲目、今大人気の謎シンガーって、本当ですか?。」

 『…誰かに聞きました?。』

 「はい、スタッフから。モニターで見ます。楽しみにしてますね。」

 「ええ、是非。」

 コンマスが部屋を出る。

 私も、ヒメノに謎シンガーがオウジだという事を話したいが、話すなと言われているので何も言えない。

 楽屋は、謎シンガーだけ離れた所なので、まだ気づいてないようだ。

 (後少しでバレるのに…。)

 その後、ヒメノに責められるのは、多分自分だ。

 『…では、本番で。』

 ヒメノ!、すまない!!。


****

 

 「はい、こちらどうぞ。」

 山田から仮面を受け取る。

 仮面は、目と口の所だけ開いている。

 「マスカレードだな。」

 鏡を見ながら仮面を着けた。

 今日の服装は、きちんとした黒のスーツ、蝶ネクタイ、白いシャツ。

 そこに、オペラ座の怪人のような仮面。

 今まで顔出ししてなかったのは、醜い顔を見せないため。

 いくら歌声がよかろうと、地球でこの顔は誰も受け入れてくれないだろうから。

 長年受けてきた傷後や痣は簡単には消えなかった。いろんな所に骨折の後があり、体力が回復してから手術も受けたが、全てを治す事は無理と医者にも言われた。

 最低限生きられるレベルの治療をしてもらい、後は身体の成長を見ながら今後考えて行く事で決まった。

 ライアンの方との仕事であれば、顔は出さずに済んだが、宇宙警備隊に指名手配されたことで、状況が少しずつ変わり、こちらの仕事は流れた。

 急遽、ダニエルに連絡を取り、無理してソリスト変更をお願いした。

 事情を聞いてダニエルも驚いていたが、息子の身の安全を保証する事を引き換えに協力してくれた。

 彼からしたら、息子の存在を公表するチャンスが少し早くなっただけだ。

 「山田、作戦どうりに。」

 「ええ、やはり本番は楽しいですね。私フランス来てからアドレナリン出まくりですよ!。」

 山田は目をキラキラさせて、鏡を見ている。

 「お前の方が似合うな、その仮面。」

 山田の顔にも俺と同じ仮面がついている。

 「そこは大人の魅力でしょうかね、もっと大きくなれば貫禄がでますよ。」

 山田は少し真面目な顔で俺を見ると、優雅にお辞儀する。

 「後はお任せください。」

 「……ん、任せた。」

 俺は、手を差し出す。

 山田と最後になるかもしれない握手をすると、スタッフが呼びに来た。

 「時間です。」


*****

 


41.2030年✕月5日 フランス 18時 開演



《本日は、ご来場いただきまして誠にありがとうございます。お客様に本日の曲順変更をご案内させて頂きます。本日3曲目に予定していた曲を1曲目と変更させていただき、一曲目に◯◯◯◯。2曲目は変わらず△△△△、3曲目を□□□□と変更させて頂きます。》


 会場にアナウンスが流れ、照明が落ち、開演ブザーが鳴る。

 ステージにオケのメンバーが入って各々席に座る。

 後から、コンマスの男が入ってきてバイオリンで音出しをする。

 コンマスが座ると、指揮者のレオナールと一人の少年が入って来て、観客席からひときわ大きな拍手と、ざわめきが起こる。

 少年は、仮面を着けていた。顔は見えない。

 マイクの前に立ったのだから彼が歌うのだろう。

 観客のざわめきも、レオナールが優雅にお辞儀したと同時に期待の拍手に変わる。

 

 ーいったい何が起きるんだろうー。

 

レオナールが、指揮棒を振ると、音楽が始まった。


*

 

 「お、始まったぞ。」

 「なんすかね、あの仮面?。」

 機械室にいる俺達は、カイさんが能力展開中で隊長が探知機担当、俺は入口前で侵入者に備えて待機している。

 俺からは、会場の様子は見えない。

 (まあ、俺はヒメノさえ観れれば…。)

 

 ボン!!!

 

 「うわ!!。」

 隊長が声をあげて、手に持っていた探知機を放り投げた。

 「隊長!!。」

 探知機は、火を吹いて転がり、隊長は手を押さえ苦痛に顔を歪めている。

 「カイは、続けろ。アイ消火だ、そこに飲みかけの水がある。」

 俺は、探知機に水を掛け消火すると、すぐに隊長の手を見る。

 「火傷ですね、少し冷やしましょう。」

 「アイ、おいらの飲み物まだ氷残ってる。」

 差し入れが入っていたビニール袋に氷と残りの水を入れ隊長の手のひらに乗せる。

 「すまない。たく、いったい何が起きたんだ?。」

 「アイ、探知機こっち持ってこられるか?。」

 すでに火は消えているがまだ熱を持っているので気をつけてカイさんの元まで運んだ。

 「は?、なんだこれは、…探知機MAX越で計測不能!?。」

 俺達は、驚きを隠せない。

 「え、0.0001は?。」

 「バカ、それどころか100%越えだ。」

 3人で顔を見合せる。

 「何に反応したんだ?。」

 会場を見渡した。

 曲は、終盤に差し掛かり会場にはオケの演奏と歌声が…。

 「探知機壊れたのは、確か歌が始まってすぐだったよな…。」

 隊長は、仮面の少年を見つめる。

 流れてくる歌声。

 突然の出来事に慌てていたので、音楽を気にする余裕はなかったので、3人とも歌声を耳にして、一気にひきこまれた。

 「…なんかすごくないですか?、この歌声。」

 「おいら鳥肌たってきたー!。」

 曲が終わった。

 静まりかえる会場。

 

 「ブラボー!!」


 誰かが叫ぶと、割れんばかりの拍手が会場中から送られる。


 ステージでは、指揮者とコンマス、少年が握手をしている。

 少年は会場に向き直ると、深々と頭を下げた。

 頭をあげて、手を振りながら退場して行く。

 その途中で、機械室の方を見た。

 「!!」

 あきらかに目が合う。

 3人に向かって、ゆびを鉄砲の形にすると、ニッと笑ってバァンと指で打つ真似をする。

 「!!、あの野郎、やっぱりあいつか!。」

 隊長は、扉に向かって走り出した。

 俺達も後に続く。

 しかし、扉を開けた所で隊長が立ち止まる。

 「…誰だ、お前。」

 扉を開けた先に、一人の男が立っていた。

 顔には、少年と同じ仮面を着けている。

 「はじめまして、彼の使いやってます、山田と申します。以後お見知り置きを。」

 そう言いながら、仮面の男、山田は一通の手紙を差し出す。

 「こちら、彼からのお手紙です。」

 隊長が代表して受け取り封を開く。


 〖23時 55分 エッフェル塔 登っておいで〗


 「是非3人でいらしてください。それでは残りの音楽、楽しんでくださいませ。」

 山田は、優雅にお辞儀すると立ち去って行く。

 「あ、ちょっと、待て!。」

 俺が追いかけようとしたが、隊長に止められた。

 「隊長!!なんで帰すんですか!。」

 「あいつ、ただ者じゃない。…やめとけ。」

 隊長にそこまで言わせるなんて…。

 余裕で歩き去る後ろ姿を見送って、皆で機械室に戻る。

 「隊長…。あいつ何物ですかね。」

 「オイラも上手く言えないけど、得体のしれないオーラ出しまくりでしたよ。」

 カイさんと二人隊長を見る。

 「まだ、何か起こるかもしれないからな、こうなった以上続けるぞ。カイは引き続き能力展開、俺は入口警備、アイは会場見てチェック。」

 次はヒメノの演奏だ。

 (何も起きなければいいけど。)


* *


 「ちょっと、ヒメノ?どこに行くの!!」

 控え室から飛びだすと、ヒメノはドレスの裾を持ち上げて走りだす。

 (なんで!!なんで!!なんで!!)

 向かっているのは、謎シンガーの楽屋。

 ヒメノから一番離れた楽屋の意味、今なら分かる。

 (レオナール…。後で絞める!!)

 後少し、そこの角を曲がれば…。

 しかし、ざわめきに足をとめた。

 すでに楽屋の前には沢山の人が押し掛け、ドアの前でスタッフが対応に負われていた。

 「スミマセン、取材は受けてません。お引き取りください。」

 あの中に突っ込んで行くのは、無理だ。

 (ちょっと、落ち着こう。)

 「ヒメノ?、もう、あなた本番よ。」

 追い付いたジャスミンに背中を押され、引き返す。

 「ごめんなさい、彼のファンだったから思わず…。」

 これは、本当だ。

 「気持ちは、分かるけど。」

 ジャスミンも知っていたので違和感はないだろう。

 (まさか、彼がオウジだなんて…。気づかないものだなぁ。)

 YouTuberの映像ではまったく気がつかなかった。

 しかし、今日は何故か気がついた。

 何故だろう?。

 「あ、いたいた、ヒメノさん!どこ行ったかと。間もなく本番です。舞台袖まで。」

 「スミマセン、今行きますね。」

 ヒメノを探してスタッフが走ってきた。

 (まずは、本番。その後、レオナールにお説教ね。)

 ヒメノは、舞台袖に到着した。

 そこには、レオナールがいる。

 「…。」

 案の定、レオナールは何とも言えない顔で

チラチラこちらを伺っている。

 (やっぱり、あれは知ってたな。)

 ニッコリ微笑みながら、近づいて行く。

 「マエストロ。」

 「……はい。」

 「良い演奏を。」

 右手を差し出す。

 「あ、はい。素敵な音楽を…、イッ!!。」

 握手しながら、足を踏んづけてやる。

 「あら、失礼。気合いが入り過ぎてしまったわ。」

 ニコニコしながら、手を離し、足を退ける。

 「お二人とも、お願いします!」

 スタッフの声に促されて、まぶしい舞台に歩きだす。

 

 「…後で、覚えておきなさいよ。」

 

 レオナールに小声で囁きながら。


* * *


 (うわー、流石にムリかぁ。)

 エマは、謎シンガーの楽屋前にいた。

 楽屋前には、沢山の人が押し掛けている、ほとんどが記者だ。

 (演奏終わると同時に、すぐにきたけど、みんな速いなー、って感心してる場合じゃない。)

 仕方なく、席に戻ろうと歩き出した。

 (次はヒメノさんだし、仕事できてるんだから、ちゃんと仕事しなきゃ。…でも、まさか…。)

 あの感じ、感覚、懐かしい記憶が蘇ってくる。

 (あの天使様達の仲間に会えるなんて、ビックリだなぁ。)

 彼が、ステージに立った時は驚いた。

 仮面を被った小柄な少年が、マイクの前に立った時、みんな誰だ?と思ったはず。

 (うわー、仮面来た~!!。何これ、ヤバい!)

 歌が始まると、会場中の人間はあっという間に魅了された、エマ以外は。

 (…え、何これ、この人、オウジ?!。)

 エマの頭にフラッシュバックのように、天使様達の記憶が甦る。

 そう、懐かしい故郷の記憶から、宇宙船で逃げ出した記憶。

 (…あぁ、思い出した。そう、彼女の記憶。)

 融合した時、彼女の記憶はもらったが目を覚ました時には、あまり覚えていなかった。

 正直、夢だったのかとさえ思っていた。

 父親と母親に、天使様の話しをしたら、笑って「きっとそうだよ。」と言っていたがまったく信じてはいなかった。

 エマも、長い夢を見ていた感じだったし、現実では、長く苦しいリハビリに精一杯でそのうち忘れていった。

 (天使様、やっぱり居たんだ。私の中に。)

 いつの間にか、涙が溢れて止まらない。

 (天使様が、私をずっと見守ってくれていたんだ。)

 エマが大学生の時、必死に勉強してる姿、就職が決まった時、会社でいじめられていた時も、

彼女は宇宙船のなかで見守りながら、一緒になって怒ったり泣いたりしてくれていた。

 そして、あの時。

 エマが落とされた瞬間。

 「いやー!エマ、死なないで!!」

 彼女は、無意識に術を発動させてエマに入っていった。

 (本当なら、許可取らなくちゃいけないのに…。取らずに融合しちゃったんだ。まあ、もちろんOKだけど。)

 演奏が終わると、拍手の音で周りにいた記者達が我に返り、みんな飛び出して行った。

 エマも、涙を拭き、後を追う。

 記者として、正解の行動。

 (…会って、どうしよう?。)

 何が正解なのか解らない、むしろ。

 (会わないのが正解?)

 一応楽屋前まできたものの、足が止まる。

 記者達の人混みは、まるで先に進むなと、彼からの警告のように感じる。

 (一応、融合した後お互いに探さないルールだし。あ、そうだ!。) 

 宇宙警備隊ニュースを思い出した。

 (うん、接触は避けたほうが良さそう。)

 席に戻って、ヒメノの演奏を待つことにした。

 未だに会場はざわついている。

 

 (ヒメノさん、大丈夫かな。この空気。)


* * * *


 「おーい、アイ、おーいってば。」

 おいらがアイの目の前で手をヒラヒラさせるが、アイは会場を見たまま固まっていた。

 「ありゃ、重症だな。こりゃ。」

 隊長も、頭を撫で撫でしてみるが反応がない。

 (これは、チャンス!!。)

 身長差でいつもかわされていた撫で撫でチャンス!!

 おいらは、背伸びするとアイの頭を撫で回す。

 「…、って何してるんですか!、あー頭ぐしゃぐしゃ!。」

 やっと正気に戻ったアイは、髪を直しながら俺達に向き直る。

 「お帰り、アイ君。ヒメノの世界から戻ってこれたか。良かった良かった。」

 「うん、しっかり仕事忘れて世界に入り込んでたな。罰として後で、腕立て伏せ1000回な。」

 隊長は笑顔でアイの肩を叩きながら、きちんと罰もあたえた。

 「隊長~、う~!!。」

 アイはうなだれて、下を向く。

 「まあ、こうなるって思ってたけど。」

 アイが夢中になるのも仕方ない。

 あの会場に残る異様な空気を、ヒメノはあっさりピアノの音色で吹き飛ばした。

 (実はおいらも聞き惚れて、あんまり集中出来なかったんだな~。後で腕立て伏せ10回位しとこ。)

 しかし、見事な演奏だった。

 観客は、ヒメノの演奏に割れんばかりの拍手を送り、またもや会場は騒然としている。

 今は、落ち着きを取り戻し、3曲目が始まった。

 「で、隊長。どうします。」

 おいらは、能力展開しながら隊長をちらっと見た。

 「そうですよ、あれ、挑戦状ですよ!。」

 「いや、違うだろ。罠だよ。罠。」

 「カイさん、アニメ観すぎです。果たし状かもしれないですよ!。」

 「お前こそ、観すぎ!、どう考えても罠しかないだろ!。」

 「止め!!。ほら仕事集中!!。」

 隊長に拳骨くらい、仕方なく仕事に戻る。

 (けど、正直観客は誰も話してないから、静かなもんだ。)

 おいらは観客ではなく、裏のスタッフ達の会話を聞いていた。

 「あー、何かあの野郎、帰ったらしいですよ。スタッフが、いないって騒いでます。」

 おいらは、聞こえてきた情報を二人に伝える。

 「控え室にいると思ってたらもぬけの殻だったみたいです。うわースタッフ慌てまくり、かわいそう~。」

 3曲目も終わり、オケメンバー全員が立ち上がり、観客の拍手にこたえている。

 普通ならこの後、ヒメノと奴が出てきて挨拶するが…。

 (やっぱり…。)

 ヒメノ一人出てきて、挨拶をする。

 オケメンバーも、観客も、みんな奴が出てきてないから、ざわつき始める。

 そのうち、緞帳が降りてきて、どうやら強制終了みたいだ。

 「あーあ、変な幕切れで観客の声がうるさくて…流石にもうおいらも無理っす。」

 観客の声に掻きけされ、裏の声は、聞こえて来ないし、おいらも限界が近い。

 「お疲れ、とりあえず少し休め。」

 どのみち、観客が帰らないとオイラ達も帰れない。

 「一度船内に通信するから、少し座ってろ。」

 隊長は、宇宙船内に残っている、エースに通信を始める。

 アイは、扉の前で外の気配を気にしながら隊長の通信を聞いている。

 「…出ないな。」

 コールを鳴らすも、反応はない。

 船内は二人のベテランと、キース.ナパナ、その従者がいるはず。

 (まさか…うぇ、緊急事態。)

 隊長は、オイラの方を見た。

 (マジか、あのベテラン二人に限って。…こりゃ何かあったと見て間違いない。)

 疲れた身体に、残っていたコーラをぶちこみ、隊長の持つ通信器に手を置く。

 息を整えると、神経を集中させて

 「能力展開。」

 鳴っている通信器に能力を流す。

 少しして、宇宙船内が見えてきた。

 「…誰もいないですね。人の気配在りません。」

 通信器から手を放す、少しふらつくと、隊長がおいらを支えてくれた。

 「すまない、座って休んでくれ。」

 隊長は、おいらを座らせると、腕を組んで考え始める。

 (何が起きているのか!?。)

 アイも落ち着かない顔で隊長を見ている。

 「予定変更だ、一度船内に戻って状況確認する。」

 隊長は、トーマスさんに連絡を入れ始める。

 本来は、明日帰る予定だった。

 「よし、30分後に戻る。アイ、何があるか分からないから戦闘態勢で行くぞ。カイは、30分しかないが少しでも、回復させてくれ、帰ったらすぐ能力展開しろ。」

 (…こりゃ大変な夜が始まりそうだ…。)

 おいらは、目を閉じて床に横になる。

 「時間がきたら起こしてください。」

 少しでも、回復しなければ…。


 長い夜の始まりだ。



42.2030年✕月5日 21時 フランス エマ田中



 会場の外に出ると、夜風が気持ちいい。

 大満足のコンサートに誰もが気分を高揚させていた。

 エマも、素晴らしい曲を聞いて、大満足していた。

 (なんて素敵な夜かしら!。)

 軽やかな気持ちで歩いて行くと、エマの泊まっているホテルの近くで黒い物体が動く。この前カフェで会った少年だ。

 こっちをみて立ち上がる。

 (ん、あの子、この前の?。)

 近づいて行くと、なんだか懐かしい気持ちが溢れてきて、立ち止まる。

 「…オウジ?。」

 「…流石に思い出したか。ラムラ。」

 そう、あの時の少年、そして先ほどの歌手…。

 「でも、駄目だ。」

 そう言いながら彼が近づいてくる。

 「え、オウジ?。」

 すれ違いざま耳に届く声。

 「ホテルエレベーター、降りたら忘れろ。」

 彼は、そのまま歩き去る。

 (忘れろって…、いやそう簡単に忘れられる訳ないじゃん!。)

 振り返っても、もう人混みに消えていた。

 (そりゃ、接触しないほうがいいのは分かるけど、勝手じゃない!。いや、そう言う人だったか。あの人は…。)

 エマはホテルに入り部屋のカードキーを受けとると、エレベーターに乗る。

 (まあ、二度と接触するなって事だよね、相変わらず上からだし、自分勝手だよね、オウジって。)

  

 チン


 エレベーターがエマの泊まっている7階に到着した。

 少しイライラしながら、部屋の前まで歩いて行く。

 (…あれ、なんであたしイライラしてるんだっけ?。)

 部屋の鍵を開けて中に入ってみたが、何かスッキリしない。

 「ま、いっか。さぁ記事書かなきゃ。」

 エマはパソコンを開くと、今日の曲の感想を記事にし始めた。

 

 ーエレベーターを降りたら忘れろー


 (上手く、掛かったかな…。催眠術。)

 ホテルから少し離れた場所に少年はいた。

 エマは、また記憶を封印され、思い出す事は二度とないだろう。

 (今度こそ、サヨナラ、ラムラ。)

 少年は、歩き始める。

 向かうのは、エッフェル塔。

 

 (さて、宇宙警備隊、ちゃんと来るかなぁ。)



43.2030年✕月5日 22時30分 フランス 西園寺ヒメノ


 「ヒメノ、お疲れ様、今日はゆっくり休んでね。」

 ジャスミンはそう言うと、ホテルのエレベーターの前まで送ってくれた。

 「ジャスミンも…、って無理そうね。」

 さっきからジャスミンの携帯は鳴りっぱなしだ。

 「嬉しい悲鳴だから、気にせずに。」

 ジャスミンは、笑顔で電話に出る。

 ほとんどが、新しい仕事の依頼やら、取材の申し込みばかり。

 (仕事が成功したって事だから、嬉しいけど…。)

 ヒメノは、エレベーターの中で、自分の携帯を見つめる。

 (レオナール…。あの男、逃げたな!。)

 終演後、すぐにレオナールを問い詰めたかったが、関係者に挨拶やら、取材で身動き出来なかった。

 留守電に、夜折り返しするように入れたが、連絡は今だ無い。

 関係者挨拶には、レオナールも入っていたのだが、楽屋を訪ねたらもう帰ってしまったと、コンマス言われて流石にジャスミンも驚いていた。

 「何か、急用が出来たらしいですよ。マエストロにしては珍しくあわてて帰って行きましたから。」

 (…嘘だ。)

 「あら、仕方ないですね。また後日お礼状でも送りましょうか。」

 「…仕方ないですね。今日はお疲れ様でした。」

 教えてくれたコンマスに挨拶して、オケメンバーと少し話してから帰路についた。

 ホテルの部屋に入り、もう一度電話する。

 「繋がらない、レオナール!、なんでよ!。」

 携帯で時間を見れば、もう23時近い。

 「…本当に急用かもしれないし、もう少し待つか。」

 ため息をつく。

 いったい、いつからレオナールはオウジの事を知っていたのか。

 オウジは、ヒメノの事に気付いているのか?。

 気になる事だらけだ。

 「…シャワー浴びよ。」

 スッキリして少し落ち着きたい。


 (オウジ、会いたかったな。)


 過去ではツガイであり、現在では憧れの歌声をもつYouTuber。

 ヒメノだけではない、今では世界中にファンをもつ謎YouTuberで有名な彼に会えるチャンスなんてもう、ないかもしれない。

 (なんだか、アイさんとも会えたり、謎YouTuberに会えるとか、もう、奇跡続きで怖い!。今までの得、全部使っちゃたかも。)

 シャワーを浴び、髪を乾かしながら、そんな事を考えてしまう。

 

 ピンポン


 部屋のチャイムが鳴る。

 (!!、まさかレオナール?。)

 

 ヒメノは、ドアに急いだ。



44.2030年✕月5日 23時55分 フランス エッフェル塔 宇宙警備隊 隊長 サイ


 (状況は最悪なのかもしれない。)

 3人でエッフェル塔に向かい歩きながら今の状況を整理する。


 宇宙船内を調べたが、結果なにも見つからなかった。そうなにも…。

 4人の人が消え、争った後もない。 

 船内の防犯カメラは、機能を止めていた。

 (俺達が地球に降りてすぐに映像が途切れていた。いったい何が…。)

 宇宙船のプログラムがいじられていて、カイが発狂せんばかりに怒り狂っていた。

 「これ、直すの!?、どれだけかかると思ってるんだよー!!。」

 本部に通信も出来ないので、3人でこの状況を対処するしかないようだ。

 「隊長、ちょっと…。」

 アイが、猫の姿をした小さな機械を持ってきた。

 「何だそれ?。」

 「覚えてませんか?。昔、地球側からもらった、見守りカメラです。」

 そういえば、そんなものもらったな。

 「この猫が、可愛くて、俺の部屋に隊長の許可もらって置いた奴です。」

 地球にいる猫という生き物の可愛さに一時期アイがはまり、宇宙船内では飼えないので諦めてそれで我慢したのだ。

 「なるほど、何か写っているかも。」

 カイが地球に来てからこの星に対応する為に作った自作の小型コンピューターを持ってきてカメラを接続する。

 「確か、動くものに反応して映像を撮るタイプです。」

 「オイラ達が地球に降りてから…一度だけ動いている。映像出ます。」

 カイのコンピューター画面に映像が写った。時間にして30秒ほど。

 「こいつら…。」

 キース.ナパナと従者がアイの部屋に入って中を見渡しすぐに出ていく。

 「時間は、オイラ達が地球に降りてから、30分後くらいですね。」

 「特に、部屋の物色とかはしてなかったな。」

 しかし、何か引っ掛かる。

 「もう一度見せたくれ。」

 映像を見返す。

 「何か、違和感ないか?。」

 3人で繰り返し映像を見返す。

 「しいていうなら、従者の男が話してますね。えーと、《ツ、ギ、ダ》かな。」

 カイさんが、唇を読む。

 「そうか!、二人の雰囲気だ。従者の方がキースに指示してる様に見えないか?。」

 「言われて見れば。黙って一歩後ろにいた奴らしくないですね。対等か、上からぽい。」

 イヤな予感しかしない。

 「…俺達は、多分騙されていたんだ。俺の考えだと…。」

 俺は、自分の考えを二人に話す。

 「隊長!、マジですか?。」

 「あくまで仮説だ。」

 「意外と当たりだと、オイラも思います。」

 チラッと、カイが時計を確認する。

 「隊長、23時過ぎました。」

 23時には、地球に戻る予定にしていた。

 「まあ、奴らがここにいないなら、多分地球に降りてるだろ。カイ、緊急連絡は?」

 「ばっちりです。ただちょっと時間がかかるかも。1日くらいですかね。」

 奴らは、宇宙船の通信機能を不能にしたつもりだが、残念ながらうちにはカイがいる。

 カイが作った小型コンピューターで本部と通信が可能だなんて思いもしないだろう。

 性能は、劣るため通信が届くのに1日かかるが、2日後には応援がくるはず。

 「とりあえず、地球に戻るぞ。奴ら何仕掛けてくるか分からんからな、気抜くなよ。カイは悪いが能力展開続けてくれ。」

 地球に戻る。

 直接エッフェル塔まえに、戻る事も出来たが、あえて、5キロほど離れた公園に降りた。

 タクシーを捕まえて3人で乗り込み、エッフェル塔の1キロ手前降りて歩く。

 「んで、こっちは何が起こるんでしょうかね?」

 「油断するなよ、とりあえず向こうの話しを聞く。」

 目の前に、暗闇にそびえ立つエッフェル塔が見えてくる。

 「誰か、居ます。」

 アイが警戒態勢を強めた。

 「あの男だ。」

 確か山田と名乗っていた男が、エッフェル塔の下で俺達を出迎えた。

 「お待ちしておりました。流石、時間ピッタリ。人数も、ピッタリ。余計な人数連れてきてないみたいですね。」

 何だこいつ。

 山田を、観察する。

 「やめて下さいよ、私何か見ても面白くないですよ。さぁ、エレベーターにどうぞ。」

 エレベーターに乗り込み最上階まで。

 扉が開く。

 

 「やあ、いらっしゃい。」


 手摺にもたれていた仮面の少年が、両手をひろげて俺達を歓迎した。


* * *

 

41.5 2030年✕月5日 ?時 宇宙船内 


 「…見つけた。」

 「本当か?。」

 「ああ、間違いない。」

 「流石!。」

 「まあ、当然だろ。」

 「それに面白い事に、3匹一緒だ。」

 「ぷっ、何それ、奴らバカなのか?!。」

 「いや、その逆だろ。わざとだな。」

 「え、なんでわざわざみずから居場所教えるなんて…。」

 「あいつは頭キレるからなぁ、俺と同じで。」

 「ああ、あのクソガキな。流石に手こずったもんな。思い出しただけで腹立つ、醜い怪物のくせに。」

 「あの醜い姿で俺達に楯突くなんて100万年早い。…思い知らせてやる。」

  

 


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