2030年✕月4日
24.2030年✕月4日 8時 アメリカ ライアン
「おはよう。」
ソフィアがキッチンから笑顔で迎えてくれる。
「あぁ、おはよう。」
俺は、ダイニングに座ろうとして、先に座っていたシャーロットにも朝の挨拶をする。
「…おはようシャーロット。」
うちのお姫様は、少しうつむいてご機嫌斜め。
「…おはよう、パパ。」
ソフィアと顔を見合せ、そっと苦笑いする。
我が家の恒例行事。
俺が仕事で暫く帰って来られないので、拗ねているのだ。
2.3年前までは、玄関で泣かれてた。
(ふふ、成長したな。)
去年は、泣かなくなった。
泣きそうな顔しながらのお見送りも、結構つらい。
後で聞いたが、扉がしまった後ソフィアに抱きついて泣いていたそうだ。
「さぁ、朝ごはんいただきましょう。」
今日の朝ごはんはパンにソーセージ卵はスクランブル、ソフィアの特製カフェオレ。
「いただきます。」
俺が食べ始めると、シャーロットも食べ始める。
「今日のカフェオレも最高だな。」
「ふふ、お褒めにあずかり光栄ですわ。」
しばらくすると、黙って食べていたシャーロットが俺を見る。
「パパ、…今度はすぐに帰ってくる?。」
「初日はここだから、一回帰ってくるよ。」
アメリカツアーの最初は、サンフランシスコからだ。
会場は家からもさほど遠くないが、さすがに毎日は帰って来られない。
「シャーロットが、いいこにしていれば、3日後の夜に帰ってくるよ。遅くなっちゃうけど。」
帰ってきても1日しか居られないし、その後はしばらく帰れない。
シャーロットにも、きちんと説明する。
「…わかった、お約束!。」
「約束だ。」
二人で、約束をする。
「もう、ママも入れてよ!。」
ソフィアが膨れっ面して、シャーロットが笑って、俺も笑う。
(いつもの朝なのに…、何か心に穴が空いたみたいに落ち着かない。なぜだ?。)
昨日帰って来て、夕食を3人で食べてリビングでくつろいで、夜はシャーロットが一緒に寝たいと言うので3人で寝た。
(昨日、俺何してたっけ?。)
朝、事務所に打ち合わせに行き、午後は、ジムで軽く汗を流した。
その後…、どうしたか思い出せない。
(ジムから直接帰ってきたんだっけ?。)
そのあたりが思い出せない。
「どうしたの、ライアン?。」
ソフィアが、顔を覗き込んでくる。
「パパ、寂しいんでしょ!。」
シャーロットが、学校に行く準備をしながら俺に抱きついてきた。
「大丈夫、寂しくないよ。はい、おまじない!。」
シャーロットが俺の頬にキスをくれた。
「!!。じゃあ、シャーロットにもおまじない。」
俺は、娘の頬にキスをする。
「ほら、二人ともバスが来ちゃうわよ。」
ソフィアにせかされて、急いでバス乗場へ行く。
「じゃあね、パパ。頑張ってね!。」
「おう。」
「…約束、忘れないでね。」
「もちろん!。」
バスから手を振る娘に、手を振り返す。
(さて、俺も行きますか。)
家に戻って、まだ少し時間がある。
少しだけ、ソフィアとの二人きりの時間をつくれそうだ。
25.2030年 ✕月4日 8時 フランス 西園寺ヒメノ
(朝か…。)
昨日レオナールは、1時間もしないうちに、帰っていった。
なぜか、少しへこんでいるようだった。
(ほとんど眠れなかったなぁ。)
昨日のアイとの出会いが衝撃すぎて、なかなか眠れず朝を迎えてしまった。
(ジャスミンがくる前にスッキリしよう。)
ベッドから起き上がると伸びをして、シャワーに向かう。
(こういう時は熱いシャワーに限る!。)
シャワーを浴びて服装を整えていると、部屋のチャイムが鳴る。
「おはよう、ヒメノ。具合は?。」
ジャスミンが、笑顔で中に入ってきた。
一応マネージャーなので、ジャスミンは部屋の鍵を持っている。
何かあった時の為、ヒメノはお願いして鍵を預けていた。
時差の関係もあって起きられないなんて事もあったので、信頼のおける同性マネージャーにはお願いしている。
「おはようジャスミン、時間ピッタリね。」
ジャスミンはヒメノの前に立つと、じっと見つめてきた。
「…あんまり寝てないんじゃない?。隈が出来てるわよ。」
(う、さすがにバレるか…。)
「今日は、リハないし、…午後お昼寝するよ。」
「明日万全にして下さいね、こればっかりはか代わってあげられないですからね。」
「はい。スミマセン。」
素直に謝る。
「では、今日は昨日の取材の続きを。エマ田中さんには場所と時間を伝えて許可いただいているので。まずは、…化粧からですね。その隈消さないと。」
ですね。
ヒメノは、ステージ用で最低限の化粧はするが普段はしない。
昨日も、リハーサルの後プロのメイクさんに来てもらいメイクをしてもらってから取材だった。
しかし、予定外に今日も取材になってしまったので、今日はジャスミンがやる。
プロには及ばないが、ヒメノがやるよりはましなのだ。
(何故か昔から絵を書く方の才能はないのよね。)
色彩センスもないので、チークとアイシャドウがちぐはぐになったり、ドレスと靴の色が全然合わなかったりする。
見かねた事務所の社長が、「お前はピアノだけ弾きなさい。ドレスとか、化粧はこっちで用意するから。けして余計な事はするなよ!。」と釘を刺されるレベルで、かなりヤバイらしい。
(自分じゃそんなつもりがないから達悪いって事務所じゃ言われてるし。)
ジャスミンがヒメノを座らせて化粧をしてくれているあいだ、ヒメノはまたアイの事を思い出していた。
(どうしよう、昨日変に思われたよね。)
昨日はアイに触らないように、適度な距離をとつて話していたが、アイのあまりにも熱い情熱に先にヒメノが倒れてしまいそうになり逃げ帰ってきたのだ。
(昨日、話しを聞いたレオナールも呆れてたし。)
つい、レオナールに洗いざらい話してしまった。
ついでに、【アイラー】だと言う事もばらしてしまった。
レオナールは、話しを聞き終わると、盛大なため息をついて頭を抱えていた。
「う、ゴメン。役立たずで。」
『…ヒメノ、彼とどうなりたいんですか?。』
「…どうって。」
『彼は、そもそも地球人ではないですよ。』
「…。」
そんな事急に言われても、…解らない。
そりゃ好きだけど、ファンだから?。
そもそも、会えるなんて思っても見なかった。
普通に生活していたら一生会う事なんてなかった人だ。
さらに、ヒメノは何故か指名手配中のヒメの命をもらっている。
ヒメノはヒメノだ、何の罪も犯していない。
『それが通じればよいですが。』
「…とりあえず、もう一度チャレンジしたいと思っているのだけど…。」
『危険では?。』
「せめて何で指名手配なのか知りたいじゃない。こっちはされる覚えはないんだから。」
『機密情報何て話してくれる訳ないでしょ。』
レオナールは、少しイライラしながら話していたが、ふと何か閃いたようでヒメノを見る。
『…イヤ、待てよ。いっそ、恋人になってしまえば?。』
「は?。」
『ハニートラップですよ。』
「恋人になって、浮かれている時なら口が滑るかも?。」
『まずは、昨日の事を謝る。そして、手の事も話しちゃいましよう。触られたら心をみられてしまうかもって考えてしまったと。』
「う、うん。」
急にノリノリになったレオナールにビックリしながら続きを促す。
『そう言われたら、その能力があるかないか、話すかも。無いと分かったらヒメノから近づいて手を握ります。』
「え、あたしから!!。」
『はい、上目遣いで謝れば100%落ちます。』
「落ちなかったら?。」
『バカか、アホですね。』
レオナールの目が怖い…。
「その後は?。」
『その後は…。ヒメノにおまかせします。うまい事聞き出して下さい。』
後は丸投げかい!。
「…うーん、ちょっと一晩考えて見る。」
そう言って昨日の夜はお開きになった。
(そもそも、アイさんにまた会えるとは限らないし。一応今日も同じ時間にあの席に言って見ようかな。)
まずは、取材を終わらせなくては。
26.2030年✕月4日 9時 フランス 宇宙警備隊 アイ
「さぁ、朝食食べたら昨日の続きやるぞ。」
隊長は、朝からめっちゃ元気だ。
カイさんと俺は、朝起きてすぐそんなにテンション高くない。
「隊長、相変わらず元気ですね。」
カイさんもあくびをしながら、ホテルが用意してくれた朝食を食べている。
昨日騒ぎになりかけたので、朝マ◯クは却下された。
俺も朝食を食べながら、昨日読み返した資料を思い出す。
ヒメノ西園寺。
明日のコンサートでピアノを弾く、ピアニストだった。
(仕事適当にやってたって怒られたけど、ヒメノにまた会える可能性が出てきたので良かった。)
「何ニヤニヤしてんだよ、気持ち悪いな。」
「どうせヒメノちゃんの事考えてるんだろ。解りやすすぎ。」
二人に何を言われようが、俺の気持ちはとめられない。
(はぁー、ヒメノどんなピアノを弾くのかなあ。楽しみだなぁ。)
昨日、布団の中で隠れてヒメノの情報を集め、動画も観まくってほぼ寝てないが、今日は多分大丈夫だろう。
「ちゃんと仕事しろよ。」
「わかってますって。」
あんなにクラシックを嫌っていたのに、ヒメノが弾いた曲は全てアイの体にすっと入ってきた。
(女神が降臨したかのような美しさで、体も細いのに、あんな素晴らしい曲が弾けるなんて。)
情報によると、昔、病を克服して今があるらしい。
すっかりヒメノファンになったアイに、カイから忠告が入る。
「忘れるなよ、一応関係者だからな。」
「0.0000001でしたっけ。」
「おい、おいらに喧嘩売ってるのか!。」
「止めろ、今こいつに、何言っても無駄だ。」
ppp
隊長の携帯が鳴る。
「はい、サイです。」
「サイ君、すまないが、緊急で少し話しいいかな?。」
「はい、本部長どうかされましたか?。」
流石に俺も緊張する、何かあったのか。
「すまないが、応援をそちらに送る事になった。」
「応援ですか?!。」
俺と、カイさんも驚く。
隊長がスピーカーにする許可をもらい、皆で聞くことに。
正直、応援を要請する案件ではないはなずだ。
「お客様をお連れするついでだ。」
「お客様って?!。」
「指名手配を依頼したお方、と言えば分かるかな。」
3人とも凍り付く。
「それも、ナンバーツーの方がお忍びでお供一人のみだ。ゆえに、うちからも数人お供を付ける。」
お供と言うより…監視だろそれって。
「名目は、念のための増援。地球側には知られないように。」
「かしこまりました。」
「君たちの役は、解っているね。」
「はい、パターンBで。よろしいでしょうか。」
パターンB、はすなわちバカのふり。
俺たちは奴らの前で、定年間近のやる気のあまりない隊長、仕事だけこなす文官、空回りする新人隊員を演じて、奴らからのたいした事ないと思われるようにする。
あくまで地球は、辺境の何もないところですよ、と印象付ける事が目的。
万が一奴らにこの星に目を付けられた大変だからだ。
「結構。到着時間は決まり次第伝えよう。」
「はい、こっちはお任せ下さい。」
通信を切ると、隊長が椅子に座り直し盛大なため息をついた。
「聞いたな、お前ら。」
「はい。」
「今日の予定は変更だ。宇宙船に戻って対策会議をする。夕方にはまた地球に入って調査しよう。」
隊長は、トーマスさんに電話をかけはじめる。
俺たたちは、急いで朝食を終わらせて、一時的に戻る準備を始めた。
(何で、奴らがわざわざ?!。)
今回の指名手配は、依頼があってのものだ。
依頼人は、宇宙でもっとも勢いがあり警戒している奴ら。
【ナパナ星雲連合国。】
ナパナ星雲の20あった星の7つを滅ぼし、残った13の星を支配するのは、現代表クラウス.ナパナ。
ナンバーツーは、弟のキース.ナパナ。
クラウスは、顔を公表していないので正体が未だにつかめていない。
常に弟のキースが、表に出て仕事をしている。
宇宙には、いくつか警戒している大きな勢力がいくつかある。
海賊が支配する、ラグナー星を拠点にした、【海賊船団。】
ワリッカ星ママニウス15世の支配する、【ママニウス軍団。】
この3つが巨大勢力で、宇宙警備隊とは不戦条約を締結している。
正直、宇宙警備隊でこの勢力と戦って勝てるかわからない。
今の所3者はお互いに自分のテリトリーでしか動いていないが、3者同時に攻め込まれたら負ける。
宇宙警備隊は、あくまで宇宙の平和を守る仕事だが、3者のテリトリーで起こった事には介入しない。
そういう約束の元、お互いが勢力を保っている。
そんななかで、まさかの指名手配依頼。
それも、クラウス.ナパナ直々に。
〖この5人を探している。5人は、我が連合国に加入した自分たちの星を、自分勝手な理由で破滅させた反逆者で、星の一番の宝を持って逃げた。我が連合国に対する反逆行為とみなし、指名手配を要求する。なお5人とも生捕りの引き渡しを要求する。クラウス.ナパナ〗
本部のお偉いがたは、大騒ぎ。
受けるのか、断るのか。
下調べと会議を重ね、指名手配を引き受ける事にした。
何せ、星が消滅しているので事実確認が出来ない。
あんな星を連合国に加入させる事にメリットがあるともおもえない、お宝とやらが重要なのかもしれないが指名手配をかけた所で見つかるとは限らない。
宇宙警備隊に加入してない星に逃げてしまえば、まあ見つかる事はない。
その5人も、逃げる知恵があるなら、そのくらいは考えて行動するだろうし。
なのに!!
辺境の星地球で可能性とはいえ見つかるなんて、どうやってここまでたどり着いたのか?。
「まさか、ナンバーツーがわざわざ地球まで来るなんて…。」
ポツリと呟く…。
「アイ、行くぞ。」
隊長が、ゲートを開く。
このゲートは隊長のみ使用可能。
俺達は権限がないので、地球に降りるには隊長の許可と同行が必要。
ゲートをくぐれば、すぐに宇宙船内に行ける。
(さすがに、ヒメノの事考える余裕はないな。)
俺は気持ちを切り替えて、ゲートをくぐっていった。
27.2030年✕月4日 10時 フランス 西園寺ヒメノ
(なんだろう、緊張してきた…。)
ジャスミンと一緒にエレベーターで4階まで降りる。
これから、昨日のカフェでエマ田中さんの取材を受けるのだ。
今日は1日フリーなので、取材の後軽く指ならしをしてからお昼寝しようと予定している。
会議室は今日は借りられないので、カフェの一角でお茶をしながらの取材に変更した。
エマ田中さんは、この変更を快く受けてくれ、むしろカフェの方が会議室より良いですと言ってくれたので良かった。
(昨日と同じカフェに行くからかな?、さすがにアイさんはいないって。)
正直、今夜どうするかまだ決めていない。
(…お昼寝してから考えよう。)
ヒメノは小さくため息をついた。
カフェに入ると、カフェのスタッフが奥の席まで案内してくれる。
先を歩くジャスミンが、小柄な女性に声をかけた。
「お待たせしました。今日はよろしくお願いいたします。」
ヒメノも挨拶しようと、エマの方を見て…固まる。
(えっ、この感じは……。)
あの時と同じ感じがする、レオナールと初めて会った時と同じ何か懐かしい感じ…。
「ヒメノ?、どうしたの?。」
ジャスミンに肩を叩かれ我にかえった。
慌てて頭を下げる。
「西園寺ヒメノです。昨日は大変申し訳ありませんでした。」
「そんなに頭下げないでください、お詫びは今受けとったのでこれで終わりにしましょう。」
そう言って、ニコニコしながら席へと案内してくれる。
「まずは先に写真を撮ってしまいましょうか。明るい所で撮ってから、日陰に移動しましょう。日焼けしたら大変ですから。」
エマさんは、テキパキ動いて、どんどん写真を撮っていく。
(……あれ?。えーと、ラムラだよね?。)
ヒメノは椅子に座り笑顔でエマの要望に対応ながら、エマを観察する。
(なんか、私がヒメだって気づいてない?。レオナールの時はお互いすぐわかったのに、…何で?。)
ラムラはヒメのお世話係で、話し相手で、友達だった。
(エマさんは気づいてない。どうして…。)
気づいていて気づかないふりをしているのか?。
しかし、エマはヒメノの写真を撮りながらニコニコな話しかけてくる。
「ヒメノさんは、本当に素敵な音楽を奏でますよね!。カナダのオケとやった協奏曲最高でした。」
「聞きに来ていただいたんですね。ありがとうございます。」
「明日も今から楽しみで、あっ、記事できたら送るので是非見てください。」
「記事といえば、エマさんの記事読ませていただきましたけど、どれも面白くて。YouTubeも登録しちゃいました。フランスに来てパン屋はもういかれたんですか?。」
「はい、って詳しいですね。そっちきましたか。実はこっちきてすでに3件回っていて、後1件は明日行く予定なんです。朝早くからやっていて昼すぎに売り切れるお店なので早起きの予定です。」
やっぱり話しやすい、エマさんは日本語大丈夫だと言うので取材は日本語だ。
5分程で撮影を終了して、日陰になるテーブルに移動する。
少し探りを入れて見ようか。
「音楽系とパン屋巡り以外の記事は書くのですか?。うーん、例えば…今流行りの宇宙系とか?。」
「あー、あんまり興味ないですね。他の人が好きで書いてますよ。ヒメノさんもそっち系好きですか?。」
逆に返されてしまった。
「少しはありますけど、宇宙人に少し興味あるかなくらいです。」
「なるほど、みんなそんなものですよね、じゃあ他に興味あるけど仕事がら出来ない!って事ありませんか?。」
「うーん、料理とかかな、昔から包丁持たないように言われてる。」
「なるほど、ピアニストあるあるですね。結構料理とかお菓子づくりってストレス発散になるから私的にはおすすめしますよ。」
エマさんは、会話も上手でついつい話しが盛り上がってしまうが、宇宙からは遠ざかる…。
(本当に気がついてなさそう…。)
それはそれで悲しいな。
何だか、急に寂しくなる。
「?、どうかしましたか。」
エマさんは、私の小さな変化を見逃さなかった。
「あ、スミマセン。…なんか、エマさんと話していたら昔の友達を思い出してしまって…。よく似ていたので。」
エマさんは、ジャスミンと顔を見合せて困った顔になってしまった。
なぜか、ヒメノの目から涙が止まらない。
「スミマセン、ほんとどうしちゃったのかな。」
ヒメとラムラは主従の関係。
しかし年が近いのと、同じ秘密を抱えた仲間であり友達でもあった。
朝から寝るまで一緒に過ごしていた相手だ。
ヒメにとってはあまり会えない両親より家族同然の関係、姉の様なラムラ。兄の様に見守ってくれていた護衛のテオア、家庭教師でいろんな事を教えてくれた教師ワムス、そしてもう一人。
(まさか、2人も再開できるなんて…。)
この星に来て、一番の問題は誰に命をあげるか。
誰にでもあげられる訳ではない。
1.相性 2.相手が死ぬ事 3.本人が受け入れてくれる事
そしてこちら側の願い、音楽を愛している人。
ある程度、音楽を愛している地球人何人か目星をつけて、死ぬのを待つしかなかった。
いつ死ぬか解らない、1年後かもしれないし、40年後かもしれない。
あまり年をとってから融合しても、自分たちが音楽を楽しむ時間が少なくなるのは嫌だし、融合しても、歳をとりすぎていれば生き返りに失敗する可能性も上がる。
なので年齢は10代から30代までに絞り、ひたすら待った。
融合は一度しか出来ない秘術で、王家の血が流れている者のみが出来る。
ラムラは、王家の血がわずかしか流れていないので、よほど相性ピッタリでないと失敗の可能性があった。
彼女が最後にならないようにしようと決め、一番最初に融合に成功していったのだ。
(たしか、相性ピッタリの子が、一人だけいたんだよね。)
地球人になったら、お互いは探さない約束をしていた。
最終融合相手はお互い秘密なので解らない。
「あの、エマさん。」
「はい。」
「エマさんは、今幸せですか?。」
突然の変な質問に、エマさんは戸惑っている。
しばらく、考えた後エマさんは話し初めた。
「はい、幸せだと思います。大好きな仕事が出来て、仕事仲間にも恵まれて。…彼氏はいないですけど。」
そう言いながら笑う。
「私も、幸せです。日本にいた時、自分が凄く狭い世界にいたと思うんです。外に出てみたら大好きなピアノが弾けて、世界を回っていろんな人に会える。フランスにくればジャスミンにも会えるし。」
ジャスミンが、笑顔でハンカチを渡してくれる。
「…ちょっと分かります。あたしも日本を出てカナダを選びましたし。」
エマさんまでしんみりしてしまった。
「あら、じゃあ私達みんな故郷を捨てた女達なのですね。」
ジャスミンの言葉に、驚いた。
「え、ジャスミンフランス人だよね?。」
「産まれは、中国。5歳から日本、12歳でフランスです。大人になって一度中国と日本に行ってみたんだけど、やっぱりフランスが合ってるなって。」
ジャスミンは少し悲しい顔をする。
「大人になると関係なんかなくなるんですけど、子供の頃は見た目で結構いじめられましたよ。」
確かにジャスミンはいかにもフランス人という顔だちで、色白で髪は金髪に近い。アジアで暮らすのは大変だっただろう。
エマさんも同意するように頷いている。
「少しずつ時代は変わってますけど、見た目で差別は、どこに行っても無くならない問題です。」
ジャスミン、苦労してきたんだろうな…。
エマさんもハーフだし、いろいろあったのかもしれない。
「知ってました?、宇宙人がきてから、子供達のいじめ少し減ったらしいですよ。」
ジャスミンが、嬉しそうに話しはじめる。
「突然の宇宙人襲来、絶望、希望で一回どん底を見た。挙げ句の果てにいろんな容姿の宇宙人が存在して、見てくれに対するこだわりが子供達から無くなつてきてるらしいです。」
「はぁ、それこそ時代が変わったって事ですね。」
エマさんも感心している。
「宇宙人様々ですね。この世からいじめが無くなる事は多分ないですけど、少しでも何か変わってくれるといいですね。」
ジャスミンの言うとおりだ。
ヒメノも、体が弱かったのをからかわれたり、学校が終わっても習い事ばかりで遊べなかったのでハブられたりした。
「ふふ、なんか話しがおかしな方へ。あ、私が原因か。スミマセン。」
「いい取材ですよ、素の顔が見えてくるのは。記者としては最高ですね、せっかくですし初恋の話とか聞いちゃおうかな?。」
「あら、ちょっと私も聞きたいですね、でもエマさん取材は音楽関係のみなのでカットして下さいね。」
「あら、さらりと突っ込みますね。さすがジャスミンさん有能!。」
二人で話しが盛り上がっている、いつもはジャスミンがここまで取材に口を挟むことはないのに。
(あたしが泣いたからか。)
どうやら二人は、あたしを泣き止ませようと気を使っていたみたいだ。
「その話しは、秘密です。」
ジャスミンはにこやかに、エマさんは半分残念そうに笑っている。
「仕方ない、楽しい音楽の話しましょう。」
(そのセリフ…、ラムラがよく言ってた…。)
幼い頃ヒメが泣いていると、ラムラがそばに来て手を繋いでくれて二人で秘密の場所に行きナイショ話をするのだ。
(ラムラ、本当に気づいてないんだ。)
約束通りにしよう。
私も気づかなかった。
レオナールにも言わない。
会うのは、これきりに。
取材を終えると、挨拶をしてカフェを出る。
(サヨナラ、ラムラ。幸せになってね。)
28.2030年✕月4日 11時 フランス レオナール
(いったい、どれだけ待たせるんだ!!。)
朝からレオナールの機嫌は最悪で、オケのメンバーもスタッフも、いつレオナールが切れるのではないかとハラハラし始めている。
何故なら、今日練習予定のソリストが現れないから。
関係者らしいスタッフは来ているが、当の本人がいないらしいのにあまり探す気も無いらしく、時間だけが過ぎてゆく。
『早いが休憩しよう、昼入れてくれ。』
「そうだな、これじゃどうしようもない。みんな昼入れてくれ。一応1時間後に再開する。」
オケメンバーも、ほっとした様子でみんな散り散りに外へ消えて行く。
『いったいどうなっているんだ。』
イライラしながらコンマスと顔をあわせる。
「…多分、現れないんじゃないか?。そんな気がしてきた。」
コンマスの言葉に驚いた。
『まさか、流石にそれはないだろう。』
コンマスと二人、スタッフに状況を聞きに行こうとしたら向こうからスタッフが走ってきた。
「あの、スミマセン問題が!。ちょっとこちらにお願いいたします。」
スタッフについて行く。
お偉いさんスタッフと、ソリストのスタッフが揉めていた。
『どうしましたか?。』
なにやら面倒な事何だろうが、聞かないわけにはいかない。
「…曲の順番を変えろって。」
『は?。』
「1番にやらせろだとよ!!。」
開いた口が塞がらない。
「そもそも、3曲目にするように指定してきたのはあなた達の方でしたよね。」
さすがのコンマスも切れ気味にソリストのスタッフに話をする。
そもそも今回のソリストには、いろいろ困っていた。
まず、当日までシークレットな事。
何の曲をやるかも発表されていない、知っているのは、今この会場にいる人間だけ。
ヒメノも知らないので、今日は会場には入れない。
次に、最初に決まっていた大御所ソリストが、彼の為にこの場を譲った事。
本来ならあり得ない事だが、他ならぬ大御所ソリストからの熱い推薦を誰が断れるだろうか。
そして、今日までレオナール達も誰だか知らされなかった。
朝、初めて誰だか知ってみんな驚いて困惑していた。
(まさか、最近ネットで騒がれた謎のYouTuberシンガーだとは…。)
歌が上手いのは知っているが、いきなりオケと共演なんて!。
(正直無謀だろ、なめてるのか?。いや、でもわざわざ推薦するくらいだ。やれるのか?。)
朝から皆でどんな奴がくるのか、期待やら不安やらで待っていたが、一向に現れない。
奴のスタッフだというのが何人かきて、YouTubeの撮影準備をしているが、それだけだ。
「すみませんね、本当どこに行ったんだか。」
代表らしい男が、一応謝っているが気持ちが全く入ってない。
どことなく、得体のしれない感じがする男は、謎シンガーのマネージャーらしい。
「なめないで下さい、曲の順番変えたら…。」
「あー、言いたい事は分かりますよ。でもうちの一度言い出したら聞かないんで。どうにかお願いいたします。」
男は、今度は深く頭を下げる。
誰も動かない、どのみちここにいる人間に決定権なんてない。
(どうするんだ、これ。早く決めてもらわないと…。)
ppp
誰かの携帯が鳴る。
お偉いさんスタッフの物らしく携帯の相手を見るとすぐに電話にでる。
「あぁオーナー、お話がありまして…、えっ、あ、はい。」
しばらく話して電話を切ると、みんなに向かって頭を下げる。
「…オーナーの許可がおりた。」
『!!。』
「1曲目と3曲目を入れ替える。」
まじか、しかしオーナーが許可したならレオナール達に何かを言う権利はない。
『行こうコンマス、昼食べながら曲の流れを…。』
時間がない、ヒメノは順番が変わらないから多分問題ないはずだが、オケメンバーは困惑するはず。
「あ、すみませんレオナールさん。」
コンマスを連れてその場を去ろうとしたら、ソリストのマネージャーの男が俺を引き留めた。
「こちらレオナールさんにお手紙です。」
『…。』
そう言われて、手紙を渡された。
その場で開けようとしたら、やんわりと止められた。
「あ、お一人で読んで欲しいそうですよ。」
そう言いながら、コンマスをチラッと見る。
「…先に部屋に行ってる。」
コンマスが少し男を睨み付けて部屋に戻って行く、彼があそこまで怒るのも珍しい。
レオナールは、手紙を開く。
〖18時.一緒にエッフェル塔登ってよ♪。〗
(は?、これだけ?、何故エッフェル塔?。)
便箋の真ん中に、たったこれだけの文字。
レオナールが困惑していると、どこからか懐かしい気配を感じ、あたりをみわたした。
(この感じ、ヒメノ?、来てるのか?。)
会場を見渡すと観客席の一番後ろの扉の一つ
から出ていこうとしている人間に気づいた。
(!!ヒメノじゃない。誰だ?!。)
後ろ向きでフード付きのコートを着ているので誰だかわからない。
しかし、扉の向こうに消える前に、軽く右手を挙げていた。
(!!まさか、…オウジ?!。)
あの、右手を軽く挙げて去って行く姿、昔よくオウジがやっていた。
振り返ってみたが、手紙を渡した男もいない。
(どういうことだ!。)
29.2030年✕月4日 12時 フランス エマ田中
心地よい風がエマの髪を揺らす。
(うーん、やっぱりここいい感じ。)
昨日場所変更でここを指定されセッティングの為少し早めに来たが、一目で気に入ってしまい、取材が終わった後また先程とは違う席で記事を書いていた。
先程のテーブル席とは違い、木々の中で外の景色の見えない日本の東屋風テーブルなのにも感動した。
(おかげで、仕事が進む、進む。)
さっき撮った写真も、トミーに送って返事待ちだ。
(なかなか良い写真が撮れたですよ、師匠!。)
昨日ホテルに帰って、トミーが貸してくれたノートを読み、部屋の中で撮る練習までしたから完璧なはず。
自分でもかなり良い写真が撮れたし、ジャスミンさんもヒメノさんもOk出してくれた。
(ヒメノさんが泣き出した時には、流石に焦ったけど。まぁ何とか取材は終わったし、後は本番聴いて…。)
エマは、先程の取材を思いだした。
正直、取材中にいじめの話しになるなんて思っても見なかった。
(何とか、平静を保ったけど…まだ思い出すなぁ…。)
エマも、いじめにあっていた。
子供の頃、顔はほぼ日本人顔だったのでいじめはなかった。
しかし大人になるにつれて外国の血が濃く出始めて、ハーフぽくなってきてしまった。
高校までは、ほぼ同じ顔ぶれの友達なので今さら誰も驚かない。
大学も国際的なジャーナリストになりたかったので海外の大学だったし、多種多様な人種が集まる学校だったので問題なかったが、就職でミスった。
就職は、日本の出版社にした。
日本でも大手の出版社で、エマは海外大学卒業もあり、新人では期待されていたとおもう。
新人は、最初いろいろな部署を回って仕事を覚える。
エマはもちろん、音楽関係をやりたかったが、最初は車関係雑誌を出す部署だった。
次は、漫画雑誌、その次はファッション雑誌。
他にも週刊誌や、新聞部、いろいろ体験してから一年後、本人と面談して何処に行くか決める。
初心貫徹の人もいれば、違う物にチャレンジする人もいる。
エマは、後者で新聞部に入った。
音楽関係をやる前に、他の仕事がやってみたくなったのだ。
新聞部は大歓迎してくれたが、裏で快く思ってない人がいた。
エマの同期は40人近くいたが、その中で飛び抜けて目立っていたのは、海外帰りのエマの他に2人いた。
やはり海外帰りでアメフトをやっていたらしく、なかなか顔も良くマッチョな男性、真中。
国内だが有名大学を出て1年生でミスになり美人で主席卒業の女性、宮沢。
エマはハーフだが、特段美人と言うわけでもないので、2人に人気が集まる。
まぁ、それは当然なのでエマは気にせず自分の仕事をひたすらこなしていた。
半年もすると、状況が変わってくる。
真中はとエマは、先輩社員達の評価が高いが、宮沢の評価はあまり良くなかった。
(甘えた声で男に、仕事押し付けてばかりで、好きな仕事の部署以外はろくに仕事してない。)
ファッション雑誌希望らしく、他の部署に行きたがらないで文句ばかり言っていると有名だ。
その頃にはエマも真中と話しが合う事が分かり、よく他の仲間も誘って飲みに行くようになっていた。
その頃から彼女のいじめが始まったのだ。
少しずつ遠回しにくる彼女の陰湿ないじめに数ヶ月もすると流石のエマも追い詰められて行った。
(物隠すとか捨てるのレベルじゃなかったからなぁ…。)
些細なミスが周到に準備されてエマのミスに細工されている、なんて事が少しずつ起き始めたのだ。
エマも忙しいので、犯人捜しをしている暇はなかったが、何となく宮沢でないかと思っていた。
そんな時、真中に告白された。
エマも好きにだったのでOK したが、これが彼女の逆鱗に触れてしまった。
ある日、社長に呼び出された。
会社に大損害を与える重大なミスをエマがしたというのだ。
話しを聞いてもエマには覚えがない。
エマの言い分は、通らず物的証拠まで出てくる。
話しを聞きつけた上司がエマを庇うが、聞いてもらえない。
エマには解雇と、莫大な損害賠償が告げられた。
(…そんな金額、…払えない。)
社長室を追い出されると、真中が駆けつけて来た。
しかし、彼の口から出てきたのは、エマを励ます言葉ではなかった。
「浮気って、どういう事だよ!。」
「???。は?。」
真中が封筒に入った写真を叩きつける。
中から、エマと見知らぬ男が一緒に写った写真が沢山出てくる。
(なんでこんなものが?。)
知らないんだから明らかに合成だろう。
(…良く見ればわかるのに、信じてないって事か。)
「ウワー、最低!。真中君もすっかり騙されたんだね。」
そう言って宮沢が真中に腕を絡める。
「良かったじゃない、この人の本性に気づいて。」
宮沢はこちらを見ながらニヤニヤ笑っている。
社長室のドアが開き秘書が顔を出す。
「うるさい、社長室の前で騒がない。ってあらお嬢様。」
(お嬢様って…。)
「駄目よ、会社では言わない約束よ。」
そう言いながら宮沢は、写真を拾い集め封筒に入れてエマに渡すと、耳元で囁く。
「私より目立ったあんたが悪いの、醜いブスの癖に真中君まで誘惑して。」
(…あぁ、そういう事か…。)
宮沢はエマから離れると、笑顔で真中に話しかける。
「真中君、今の話し聞かなかった事でOK ?。」
「えっ、あぁわかった。」
真中は頷くと、エマに顔を向ける。
「悪いけど、お前とは終わり…。」
エマは、封筒を真中に叩きつけた。
「バカじゃないの!!。おまえの目は節穴か!!」
そのままエマは、立ち去る。
後ろで見ていた上司が真中の封筒を引ったくると、写真を取り出した。
「バカじゃないの!!か。初心者でも分かる合成写真だな。」
「!!。」
真中も写真を冷静に見る。
「本当だ…、なんで俺…。」
上司が真中の背中を叩く。
「何してるんだ、バカヤロー!早く行け!!。」
「ちょっと、何余計な事してんのよ!。」
上司は、宮沢の腕を掴んで社長室に乗り込んだ。
「社長!。」
そう言いながら、宮沢の腕を離し社長の方に放り投げる。
「何するんだ!!。」
「パパ、こいつも首にして!。」
「お前も余計な事話すな!。」
二人を前に上司が一喝する。
「エマの件、しっかり調べさせて頂きますから覚悟しておいてくださいね。」
それだけ言うと、社長室を後にした。
その後、上司が社長の悪事を暴いてくれてエマは多額の賠償金は払えわずに済んだか、真中とは別れた。
元々上司は、副社長の命令で社長の悪事を調べていたらしくこの事件で社長を退任させる事が出来たと、副社長から感謝と謝罪をうけた。
そして、エマも会社を辞めた。
会社のゴタゴタに巻き込まれて、心身ともに疲れてしまった。
(カナダに帰ろう。)
そう思い引っ越しの為荷造りをしていたら、宮沢から電話が来た。
どうしても最後に会って直接謝りたいと。
あまりにも懇願するので、エマが折れた。
(本当は会いたくないけど、仕方ない。)
呼び出された場所にいくと宮沢がいない。
電話が鳴ったので出てみると、宮沢からだった。
「私、屋上にいるの。」
上を見れば、確かに人影が見える。
「今から、飛び降りようかと思って。」
エマは驚いて、ビルの中に入って行く。高さは5階だて、落ちれば助からない。
一階が待ち合わせしていたカフェだったので、店員に通報を頼むと、エレベーターで5階まで上がる。
「宮沢!!。」
屋上に出て辺りを見渡すが見当たらない。
「宮沢!!。」
さっき見た人影の所へ近づいてみると、バンプスが揃えて置かれている。
「!!。」
恐る恐る下を覗いてみるが何もない。
(良かった、もう飛び降りたんかと…。)
ほっとしてその場に座り込む。
「…あんたって本当にバカね。」
「えっ?。」
ドン!
ヤバい、そう思った時には、既に体が中に浮いていた。
(そんな!!)
ドス
「きゃーっ!!。」
カフェから悲鳴が上がる。
「…なんて事だ、おいしっかり。すぐ救急車くるからな!。」
店員も驚いている。
落ちて来たのが、さっき救急車を頼んだエマだったから驚きを隠せない。
あわてて上を見上げるが誰も見えない。
「しっかりしろ、おい、死ぬなよ!。」
(あぁ、あたしも大バカだな。…死ぬのかな。)
エマの意識は消えようとしていたが、誰かの声が聞こえるが何を言っているか良く聞こえない。
(死にたくない、まだ何もしてない…。神様助けて…。)
その瞬間冷たくなっていく体に、ほんのり暖かい何かが入って来た、そう感じた。
エマの意識が戻ったのは、1か月後。
(…助かったの?。)
全身が痛い、生きているのが不思議だ。
(良かった…、ありがとう。)
この1ヶ月誰かの夢をみていた、森の中で産まれて、仲間達と幸せに暮らしていた。
何だかとても幸せな夢だったが、ある日突然不幸が起きる、故郷が襲われて仲間達と逃げだしたのだ。
逃げた先は、地球。
初めてみた綺麗な青い星に心がおどる。
そして、地球人を観察し始めた。
彼女は
相性が合った唯一の地球人の女の子を、ずっと楽しそうに見ていた。
エマだ。
エマの大学生活をまるで自分が体験しているように感じ、就職してからの日々を自分の事のように、毎日見ていた。
そしてあの時、エマが落ちた瞬間、彼女が悲鳴をあげると突然魔法が発動した。
《イヤ、エマシナナイデ!!》
空から天使か舞い降りるとエマの体に吸い込まれていった。
(天使様…ありがとう。あたし必ず元気になるから…。)
エマは救急車で運ばれ何とか一命はとりとめたが、意識が戻らず1ヵ月意識不明だった。
カナダから駆けつけた両親がその後の事を話してくれた。
まず、突き落とした宮沢は姿を消したが、警察が見つけて逮捕。かくまった父親も逮捕。
両親に連絡してくれたりいろいろ手配してくれたのは、なんと真中だった。
真中も宮沢に呼び出されていた。
行くつもりはなかったが、直前の連絡でエマと会う事を知らされ嫌な予感がして駆けつけた。
待ち合わせ場所まで後数百メートルという所で悲鳴が聞こえて駆けつけたが、エマは落ちた後だった。
救急車は呼んであったので、店員にその場を頼み急いで屋上に行ったが宮沢の姿はもうなく、靴もなかった。
後は、救急車に同乗し、警察にもありのまま話してくれ、両親の連絡や滞在を手配してくれた。
面会できるようになって真中にお礼をしたかったが、来てくれなかった。
「俺には、顔を会わせる資格がないからって言ってたわよ。あんた滅茶苦茶いい男逃したんじゃない?。」
日本に残ってくれたママに、そう言われた。
(そうかもしれない…。)
その後、エマはリハビリも頑張って半年後には、なんとか普通の生活が出来るくらい回復した。
それを機に、ママと一緒に父親が待つカナダに帰ったのだ。
帰る前に、真中には一度だけ電話で話した。
(やっぱり、いい男だったかも。)
電話では、エマがお礼とカナダに帰る事を話し、真中は一言だけ。
「お前、記者辞めんなよ。じゃあな。」
そう言って、電話切られた。
(ちょっと、カッコ良すぎるでしょ!。)
エマの赤くなった顔を、ニタニタしながらママが、ほら言わんこっちゃない勿体ない、と言いたげに笑っている。
「私は、仕事に生きるの!。」
「ふ~ん。」
その後、カナダで今の会社に巡り合い、エマは楽しく働き始めた。
(…はっ、つい感傷に浸ってしまった。)
コーヒーのカップを手に取ると、すでに空になっていた事を忘れていた。
「あ、どうしよう、もう一杯飲むかな?。」
もう少しここに居たい気分だ。
エマは立ち上がりコーヒーを買いに行こうかとしたが、少し離れた隣の席の人がカップを倒してしまう。
「あぁ~!!ヤバ。」
ガチャンと音がして、カップが割れた。
「大丈夫ですか?。」
咄嗟に、日本語で話しかけてしまった、さっきの言葉から多分日本人だろう。
「はい、すみません大丈夫です。」
ちょっとカタコトにも聞こえたが、日本語で良さそうだ。
「あたし、コーヒーお代わりしに行くのでスタッフ呼んで来ますね。」
「ありがとうございます。」
そう言いながら、こっちを見た。
(?!)
少しぎょっとした。
サングラスにマスク、黒いフード付きコートのフードまでかぶっている。
(いや、怪しさ満載でしょ!!)
エマは荷物をまとめると、カップはそのまま残しスタッフを呼びに行く。
大事な仕事道具は、海外では一時でも目を離さないのが基本だ。
荷物を盗まれたり、パソコンのデータを取られたり、この業界あるある。
スタッフはすぐに掃除道具を持って行ってくれた。
エマもコーヒーを頼むと、コーヒーは一杯なら無料でお代わり出来ると知り2つ頼む。
(あの人にも持って行って上げましょう、うふふふ、なんか興味が湧いてきた。)
今日みたいなポカポカ天気にコートだなんて、記者魂がうずうずしてくる。
「すみません、後少し待ってて貰えますか?、ちょうど入れたて美味しいのが出せますんで。」
店員さんが頭を下げる。
「ふふ、待ちますよ。」
そんな話しをしていたら、掃除に行ったスタッフが戻ってきた。
エマの顔を見ると、何とも言いたげな顔でこっちを見る。
「…あの、先程の方お知り合いですか?。」
(あぁ、そうなるか。)
「違いますよ。どうかしましたか?。」
「あ、いえ。ちょっと変わった方だなと…。」
(ですよね…。)
思わず聞きたくなるよね。
「お待たせしました。お席まで持って行きますよ。」
「ありがとうございます。」
エマの手には荷物の入ったカバンがあるので、店員さんが気を効かせてくれた。
持って行くのは、さっきの店員らしい。
「…、お持ちします。」
(うわぁ、嫌そう。)
店員は、しぶしぶ。エマはウキウキで席に戻る。
彼は、まだ座っていた。
特に何かしているわけではなく、鼻歌を歌っている。
(なんだっけ、この曲?。)
スタッフが声をかけてコーヒーをおいて行く、何故かエマの分も彼のテーブルに置き逃げる様に去って行く。
(えー、置いちゃったよ。これは、話すしかないよね。)
ラッキーチャンスは生かさないと。
「コーヒーは2杯目無料なんだって。」
そう言いながら、自分の分を取るとさりげなく聞いて見る。
「あー、今さらだけど、日本人?。」
顔が見えないので外見で判断出来ない。
しかし、彼は店員が去って行った方を見ていて聞いてないようだ。
「…お邪魔しました。」
そっとコーヒーを持って去ろうとすると、彼が
こっちを向く。
「お姉さん、コーヒーありがとう。」
(顔は見えないけど、いい声してるな。)
「せっかくだから、一緒に飲まない?。」
(お誘い来た~!。)
「じゃあちょっとだけ、君いい声してるね。」
「ありがとうございます、唯一の自慢。」
そう言いながら、コーヒーを飲むためにマスクの紐を左耳だけ外して、体を左側に向けてコーヒーを飲む。
(顔見られたくないのかな、ん?。)
かすかに見える部分に痣のようなものが見えた。
(ケンカとか?、殴られたかしら?。)
「あー、ごめんなさい。顔醜いから見せないようにしてるの。」
「そうなんだ、早く治るといいね。」
「…そうだね。」
何故かこっちをジーッと見ている。
「…やっぱり分からないか…。」
「何が?。」
首を軽くふると彼が立ち上がる。
「何でもない、もう行かなくちゃ。この後旧友とエッフェル塔で待ち合わせなんだ。…サヨナラお姉さん。」
そう言うと、カップを持って去って行った。
その後ろ姿を見ながらエマも何とも言えない気持ちがする。
(なんだろう、ちょっと胸の奥がムズムズする。)
なんて事のない出会いと別れ。
取材に行った先で素敵な人に会う事だってある。
(会った事はないと…思うけど?。多分若いし、15.6歳くらいだったかな?。)
海外を回っていれば一度限りの出会いなんて山ほどあるのに…。
「…サヨナラ。」
エマの心に何か小さなトゲが残ったみたいだった
30.2030年✕月4日 16時 フランス 宇宙警備隊 カイ
「よっと、ただいま帰りました。」
地球のホテルに帰ってきたおいら達。
「カイさんなんですか、そのテンション。」
ちょっと疲れた顔したアイが、おいらに突っ込んでくる。
「だって、おいらこの後無口でオタク、ただ仕事をこなす文官演じなければならないんだぜ。今のうちにいっぱい話しておかなきゃ。」
この部屋を出たら、演技スタートになる。
「いいじゃないですか、元々オタクだし。話さないなんて楽ですよ。俺なんか空回りする新人ですよ、もう5年もいるのに。」
「いつもしてるじゃん、昨日のヒメノちゃんとの事なんてまさに空回り…。」
「ちょ、ヒメノの話しはやめてください!。」
「…お前ら、元気だな。」
隊長は呆れ顔だが疲れが顔にでていて、まさに定年間近のやる気のない感じがでているのでちょうどよい。
「よし、それでは会場に行くぞ。」
おいら達は、頷くと準備を整えてホテルを出る。
昨日に引き続き、反応が出た会場をおいらが作った探知機で2時間ほど調査する予定で、トーマスさんとは、会場前で待ち合わせだ。
トーマスさんには、定期巡回で本部の方々がちょうど地球にくる事になったので一回宇宙船内に戻り挨拶とか定期報告をしてくると話し、夕方に戻る約束をした。
地球側には、増援ではなく、定期巡回で通す予定だ。
ただ、キース.ナパナが何故わざわざ来るのか?何を言ってくるか解らないので対策だけは練っているが。
(…どうなることやら。)
ホテルの裏口から出ると、歩いてすぐの会場前に着く。
「あれ、トーマスさんいないですね。」
アイが、辺りを見渡しキョロキョロする。
「ちょっと電話してみるか。」
隊長が電話をかけようとすると、会場入口からトーマスさんが出てきた。
「スミマセン、お待たせしましたか?。」
「いや、我々の方がお待たせしてしまったので。」
トーマスさんが、困り顔で近づいてきた。
「あのー。ちょっとというかなんと言いますか…不足の事態でして。」
「どうしました?。」
おいらも気になるが、無口設定が始まっているので沈黙を貫く。
(うぐ、気になる、話したい!!。)
「とりあえず、中にどうぞ。」
トーマスさんが会場に手を向ける。
隊長が、おいらを見た。
(よし、おいらのお仕事スタート。)
半径1キロに能力を展開する。
1キロ圏内にいる人間の話し声がおいらの耳に入ってくる。
おいらは、特殊能力持ちを生かして宇宙警備隊に入隊した。
実戦部隊は無理なので、裏方希望で試験を受けた。
能力持ちなのは、事前に申告済みなので能力封じの機械を付けられて試験に望んで見事合格した。
後に、能力も生かせるように、さらに精度を上げる訓練をして正式に採用されて10年ほどたつ。
おいらの星では、時々超能力を持った子どもが産まれて来る。
産まれた直前、1歳、5歳で義務として検査を受ける。
産まれつきの人もいれば、途中で目覚める人もいるが大体幼少期に覚醒する事が多い。
おいらは、覚醒したのが9歳の時だった。
珍しく遅い覚醒、街中で突然周りにいる人達の声が一斉に聞こえてきてパニックになった。
両親が驚いてあわてて医者に連れて行き、そこで覚醒がわかった。
すぐに、専門の施設に連れて行ってもらい力を封じる機械を着けてもらったら、声が聞こえなくなり安心して気を失った。
その間に大人による話し合いが行われ、おいらはしばらく施設で訓練する事になり、それを聞いて泣きながら両親と離れるのを嫌がった。
しかし、両親はニコニコでおいらの話しなんか聞いてない様子で、あっさり施設を後にした。
今でも覚えてる…、おいらは、置いていかれるのが嫌で機械を外して施設の外に出た。
両親は、500メートルほど先を、歩いている。
(まだ、追いかければ間に合う!置いてきぼりはやだ!。)
「…金…」
いろんな声が聞こえるが、聞き慣れた両親の声はすぐ分かる。
「金が手に入るぞ!。」
「やったわね、貧乏脱出よ。」
「あいつも、しばらく帰って来ないし、少し遊ばないか?。」
「いいわね、あたし欲しかったバック買っていい?。」
「俺も、なんか買おうかな?。」
楽しそうな、両親の声に追いかけるのをやめる。
能力持ちは、国で保証されて大切に育てられる。
子どもの育つ環境が大事にされる為、各家庭に補助金が出る。
住む環境が悪いと、少しいい家に引っ越しまでさせてくれる。
物心着く前に環境が整っているから産まれてすぐに能力が有る奴は当たり前に安定した生活をおくれるが、カイの家はどちらかというと貧乏な生活だった。
両親二人ともにお金が大好きで、働いては使ってしまうので、貯金が出来ない。
借金だけはしない約束と、子どもをないがしろにしない約束を祖父母と交わしているので最低限の生活は出来ているが、贅沢は出来なかった。
(…おいら、捨てられた?。)
涙が止まらなかった。
追いかけてきた、施設の職員がおいらの頭に手を置いた。
「泣け、坊主。あれが現実だ。」
その男は頭をポンポン叩く。
「両親は、きちんとこっちで調べて根性入れ替えてやるから。俺らに任しとけ。」
泣きながら男を見ると、厳しい眼差しで歩き去る両親を見ていた。
「なかなか、鍛えがいがありそうな両親だな。
泣きを見るのはどっちだか。」
そう言いながらおいらの視線に合わせてしゃがんだ。
「さっきも挨拶したが、よろしくな坊主!。」
おいらの手を無理やり取って握手してくる。
施設で紹介された時に確か同じ能力だと言っていた。
「ちなみに、俺の覚醒は、11歳だ。凄いだろ。」
自慢げに話してくる。
「11歳?。」
「過去の最年長記録は、15歳だ。俺達まだまだだな。」
「その人、今何してるの?。」
男が、ニッと笑う。
「うちの所長さ。」
少しだけ、さっきまで冷たく感じてた施設に興味が湧いてきた。
「さ、行くか。伝説の男に話し聞きに。」
男が手を差し出す。
少し迷ったが、手を握った。
もう、両親は見えないし声も聞こえない。
その後、おいらは力の制御を覚えて家を出て寮に入った。
力の制御は、頼りになるベテラン先輩達が教えてくれたのですぐに出来るようになった。
どちらかというと、両親の方が問題視された。
二人の素行や経済能力が調べられ、貯金が全くない事がかなり問題視され、両家の祖父母も集まって話し合がもたれた。
二人は必死にちゃんとする、貯金もするし息子の為に生きると熱弁していたが、誰も信じなかった。
息子がいないこの数ヶ月の二人の堕落ぶりがひどく、仕事も時々休んで旅行に行ったり買い物三昧で、約束も破って借金していた。
しばらく両親は観察対象になり、改善が見られないなら祖父母に預ける事で決定しそれまで寮に入る事にした。
まずは、3年以内に、借金を返し貯金を貯める事。
それで初めてスタートラインに立てる事になった。
「まあ、多分無理やな。」
祖父母も、所長もみんなそう思った、おいらも無理だと思っていたので気持ちの切り替えは早かった。
結果は、言うまでもない。
3年を待たずに、おいらは父方の祖父母と暮らすようになった。
両親は借金を返すどころか、増えていった。
祖父母の家に息子を返せと、突撃してきた事が続いて警察に逮捕された。
祖父母は、借金を清算する代わりに二度と息子に会わない約束を交わし縁を切った。
おいらは祖父母に感謝して、立派な大人になるため必死に勉強した。
祖父母はとても良い人で勉強だけでは学べないいろいろな事を教えてくれた。
興味を持った事は、必ず体験させてくれる。
特に、機械関連に興味を持ち始めると惜しみ無くサポートしてくれた。
おかけで今でも、警備隊の開発部門に時々意見を求められたり、制作を頼まれたりするほどだ。
地球にきてからは、様々な機械を作った。
おいらにとっては朝飯前。
いろんな特許も取っているので収入はかなり良い。
そして今は、体の弱った祖父母に恩返しする為に仕送りを続けている。
(まあ、大人になってから知ったけど、補助金かなり貰えたらしいし。じいちゃん達はちゃんとおいらの為に使うって決めてたって。うちの両親には、無理な話しだな。)
かなりの補助金の金額に驚いた、そりゃ家庭環境が重大になるはずだ。
みんな、うちの両親にはお金の管理どころか、息子の為に使わない事も分かっていたようだ。
本当に祖父母には、頭が上がらない。補助金を惜しみなくおいらに使い、自分たちには一切使わなかった。
それどころか、謝られた。あんな息子ですまないと。
母方の祖父母もおいらを気にかけてくれた。
残念ながら病気がちな孫が同居していた為、おいらを引き取る事は出来なかったが、誕生日にはお祝いしてくれたし、時々遊びに行く事もあった。いとこ達とも、いまだに仲が良い関係が築けているのは、二人のおかげでもある。
星を出る時、いとこ達にも言われた。
こっちの事は俺たちに任せて頑張ってこいよ。
(おいら、頑張ってるぜ。)
周囲の声を拾いながら、隊長の後ろを歩く。
後ろには、さりげなくアイが立つ。
おいらが能力を集中して発揮出来るように二人がサポートしてくれる。
会場入口までくると、異変に気付く。
(何か妙に静かだな?。)
中から人の声がしない、演奏中なら音楽が聞こえてくるはずなのに。
「何か、静かだな?。」
隊長も気付き、トーマスさんを見る。
「はい、実は…。」
トーマスさんが扉を開けると…。
「は?…誰もいない?。」
会場内には誰もいなかった。
「すみません、何やら今日の練習は午前中で終了したそうです。」
「予定では、夜までやる予定でしたよね?」
まさか、おいら達が来ると困る事でもあるのか?。
「そうなんですが、予定していた演者が来ないとかで、明日に持ち越しになったとか。」
なんだ、そうなのか。
「だったら明日の為に体を休めてそなえようって話しになったそうで。私も会場に来たら誰もいないので驚きました。私にまで連絡を回す事を失念していたみたいで、先ほど連絡がきました。」
「仕方ない。では我々も一周だけして引き上げるとするか。明日に備えてな。」
「隊長、カイさん寝ないで下さいね。特にヒメノの演奏中に寝たらどうなるか…。」
「嫌、寝ないよ。お前がヒメノちゃん見てデレデレするのを観察する予定だぜ俺たちは。」
そう言って隊長はおいらと肩を組む。
(おいらが話さない事をいいことに、まんまと仲間にしやがった。)
「おいらは、ちゃんと仕事しますよ。」
自作の探知機を撫でながら二人を無視して歩きだす。
(今度休暇取れたら、じいちゃん達に会いに行こう。)
地球のお土産たくさん持ってさ。
31.2030年✕月4日 16時 アメリカ ライアン
「はい、社長。どうしましたか?。」
コンサート会場でミーティングしていたら、俺の携帯が鳴ったので、許可をもらい皆から離れる。
「ごめんなさい、今大丈夫?。」
「大丈夫ですよ、どうかしましたか?。」
リリー社長からこんな時間に電話を掛けてくるなんて、余程の事だろう。
「昨日の話しなんだけど、…あれ無しになったから。」
「昨日の話しですか?何でしたっけ?。」
「謎シンガーのバックの話しよ、もう忘れたの!!。こんないい話二度とないかもなのに!。」
「あぁ、そういえばありましたね。そんな話。で、なんでまた?。」
「よくわからないんだけど、延期になったの。先は未定よ、一旦白紙に戻すんですって。失礼よね、全く。マックスも、滅茶苦茶怒ってるわよ。」
ちょうどいい、断わろうと思っていたんだ。
(…なんでだっけ?)
まただ。
今日起きてからどうもスッキリしない。
「ちょうど良かったですよ、あまり乗り気じゃなかったので。」
「…まあ、そんな気はしていたけど。わかったわ、後始末はこっちに任せてもらうから。あなたはラストツアー頑張って。それじゃ。」
リリー社長の後始末…考えただけで恐ろしい。
しかし、白紙とは。
あれだけ準備して、後は御披露目だけだったのに。
あいつならやりかねない…。
(あいつって…、誰だ?。)
やはり何か忘れている気がする。
「おーい、ライアン。ステージ上がってくれ!。」
スタッフの呼ぶ声に現実に戻された。
(今は、ライブの事だけ考えなければ。)
「今行く。」
良いライブをして、家族の元に帰る、ライアンの一貫して変わらないスタイルだ。
(ソフィアとシャーロットの待つ家が今の俺の帰る場所なんだから。)
32.2030年✕月4日 18時 フランス レオナール
(さて、来たのはいいが。)
レオナールは、エッフェル塔の下まできた。
(一緒に登ってよ、て言うんだから…。)
この辺りにいれば…。
しばらくまわりを観察していると、目の前を全身黒ずくめの小柄な人が通りすぎた。
(あいつだ。)
午前中に見た後ろ姿そのままで、チラッと見えたがサングラスにマスクまでして怪しさ満載。
周りの人もすれ違うたびにチラッと振り返ってみている。
(逆に目立っていると思うが?、いいのか?。)
とりあえず後ろをついて行く。
入場口まで来たら、あのマネージャーがたっていた。
マネージャーが、奴にチケットを渡すと俺を見る。
「どうぞ。」
俺にもチケットを渡してきた。
エッフェル塔の予約チケットだ。
(準備がよろしい事で。)
仕方ないからそのままエレベーターにのる。
他の客がいるので、何も話さず上まで上がる。
「わぁ~、凄い。綺麗だ。」
上に着いたとたんに、奴は子供みたいにはしゃぎだして走り出した。
(恥ずかしい奴、少し離れているか。)
レオナールは、少し離れて眼下を見渡した。
(子供の頃、家族4人で来た以来か…。)
相変わらず美しい景色に見惚れる。
しばらく眺めていたら、いつの間にか奴が隣に立っていた。
「全く、君たちのせいで僕の華麗なる計画がおじゃんだよ。どうしてくれるのさ。」
『…。』
返す言葉もない。
イライラしてるのか、手すりを指でトントン叩いている。
「なんで、警備隊に目付けられた?。」
『…ちょっとだけ、テレパスを…。』
「は!、バカなの君たち。」
『嫌、使ったのは、俺で…。まさか使えるとは。それに、本当に一瞬で!。』
お互いに前を向いたまま、奴が話を続けた。
「もう余計なことしないでね。後は俺が何とかするから。明日は予定変更!俺最初にしてね。
それで全て上手く行くから。」
『何とかって、…その声、やっぱりお前がシンガーか。』
「明日夜、電話するから。電話番号マネージャーに預けて。あ、ヒメには何も言うなよ。」
それだけ言うと、奴は先にエレベーターで降りて行った。
(相変わらず俺様で勝手な…俺が何とかするって?!。)
いったいどうするつもりなんだ。
(少しずらして降りた方がいいか。)
美しいセーヌ川を見ながら、ゆっくり歩いた。
奴が何をしようとしているのか、考えても分からない。
多分余計なことはしない方が善いだろう。
オウジは頭が良いし、下手な事をして彼の邪魔をしなければ本当に上手くいくはずだ。
(15分たった、そろそろ降りるか。)
下に降りると、奴のマネージャーが立って待っていた。
「お待ちしておりました。いかがですかエッフェル塔の眺めは。」
そう言いながら手帳を開いてペンを差し出してきた。
『あなたも是非昇る事をおすすめしますよ。』
手帳に電話番号を書く。
「実はこの後登ります。いや楽しみですよ。」
そう言いながら、手帳を受け取り頭を下げてエレベーターに向かって歩きだす。
「あ、そうだ。」
そう言い戻ってくると、俺のジャケットの胸ポケットに名刺をさりげなく入れて、
「では、また。」
今度こそエレベーターに消えて行った。
(あのマネージャー、どこまで知っているんだ。)
エッフェル塔を離れて歩きだし、名刺を取り出す。
名刺には、【太郎ウィリアム山田】
(明らかに偽名だろ!!)
裏には、電話番号が手書きで書いてある。
表の番号とは違うので、個人のものだと思われる。
〖困った時はどうぞこちらへ〗とさらに書かれていた。
(すでにいろいろ困っているんだけど?。)
レオナールは、ポケットに名刺をしまうとその場を後にした。
(明日だ、明日終わったら奴と話し合いをしよう。夜電話するって言ってたし。)
もう一度振り返ってエッフェル塔を見る。
(今度また、ゆっくり来よう。)
33.2030年✕月4日 19時 フランス 西園寺ヒメノ
「…え、ウソ。」
「…ヒメノさん?。」
恐ろしい偶然、まさかこんな街中でばったりアイさんに会うなんて。
アイさんは昨日と同じつなぎを着ている。
(だからすぐに気がついたよ。どうしよう心の準備が。)
ヒメノはもう一度カフェに行く決心をしていたがまだ時間が早い。部屋にいても全く落ち着かないので、少し散歩に出たのだがまさかアイに会うとは…。
「あの!」
「昨日は!」
お互いの、声が被る。
「先に言わせて下さい、昨日はスミマセンでした。」
ヒメノは、頭を下げる。
「イヤ、俺の方こそ。」
二人の間に沈黙が流れる。
(どうしたら、どうするって言ってた?レオナールは。)
確か告白しろって。
(そんな、やっぱり無理!心の準備が。)
「お二人さん、邪魔ですよ。」
突然二人の世界に人が乱入してきた。
「カイさん、居たんですか!。」
「おいおい、二人で夕飯の買い物に来たんだろ。もういいよ、俺が隊長の分買っていくから、お前はヒメノさんと飯でも行けば?。」
アイさんの同僚のカイさんだ。
(カイさんだ。凄い本物!。)
「ヒメノさん、いいですか?。」
カイさんがこっちを見ながら問いかけてくる。
「はい、アイさんさえよければ。…是非。」
「もちろん行きます!!。」
「じゃあ。あ、ヒメノさん明日があるんだから遅くなるなよ。」
カイさんはそう言いながらケ◯タに向かって歩いて行く。
「ヒメノさん、どこか行きたいお店とかありますか?。スミマセン俺さすがに詳しくなくて。」
「…あの、昨日のカフェでもいいですか?。」
チラッとアイさんを見る。
「はい、是非。行きましょう。」
アイさんと、並んで歩きだす。
結構人が多いので並んで歩くのは少し難しい。
(これだと、適度に距離を取って歩くのは難しい。って!!)
人に、ぶつかりそうになりよろけたヒメノを、アイさんが支えてくれた。
「…危ないですから。」
そう言いながら自然と手を繋がれた。
(…繋いじゃったよ。)
「あの、じつは、体に触れたら相手の心が読めるとか?。噂が…。」
「?、俺ですか?。無いですよそんなの。」
アイさんは苦笑いしている。
「確かに、そう言う人もいますけど、俺は何の能力も持たない自らの肉体のみで警備隊に入りましたから。」
「そうなんですね。スミマセン噂が、気になって…昨日はちょっと距離をおきました。」
ちょうどホテルの前まで戻ってきた。
ヒメノは立ち止まる。
アイさんもヒメノが動かないので、その場で立ち止まりヒメノを見る。
「触れられたら、私の気持ち分かっちゃうんじゃないかと思って。」
そう言いながら上目遣いでアイさんを見つめた。
(恥ずかしい!、でも頑張れ私。)
アイさんは、固まっていたがしばらくすると顔を真っ赤にして慌てだす。
「き、き、気持ちって。」
つられてヒメノの顔も真っ赤になる。
(あ、そうだ。確かこっちから手を握れって…。)
ヒメノは既に握られた手を握り直し指を絡める。
「!!!!!!。」
アイさんは、更に真っ赤になって今にも倒れそうだ。
(この後どうするんだっけ!?。)
ヒメノもパニックになりそうだ。
「と、とりあえずカフェに行きましょうか。」
「そ、そ、そうですね。」
二人は指を絡めたまま、今度は横に並んで歩き出した。
34.2030年✕月4日 19時30分 フランス サイ
「只今帰りました。」
「おう、お帰り。ご苦労さん。」
夕飯の買い出しに行ったカイが戻ってきた。
「?、あれアイは?。」
一緒に行ったはずのアイがいない?
「なんすかね、あの二人。運命の再会みたいな。」
「なんだ、それ?。」
カイが買い出ししてきた、ビールとツマミを開けながら話を聞く。
「ヒメノちゃんと道でばったり。ふたりして驚いて真っ赤になってましたよ。」
カイはケ◯タを袋からだすと、ビール片手にチキンにかじりつく。
「ほう、そりゃ見たかったな。」
俺もチキンを手にする。ビールと一緒に食べるのが最高に上手い。
「周りのフランス人達が、ヒューヒュー言ってるのも聞こえないくらい世界作って、俺の事忘れてましたからね。」
「ほう、それで。」
カイは2本目のチキンを食べながら、熱くかたる。
「二人して動かないし、道に立ち尽くして完全に邪魔になってたんで、おいらが人肌脱ぎましたよ。んで、飯でも行ってこいと。」
「なるほど、で!。」
どうなったか気になる。
「…いや、それでおいらはケ◯タに行ったので、二人が歩いて行くのは見たけど…。」
なんだ、ついては行かなかったのか。
「まあ、今度邪魔したらマジでアイ君キレちゃうかもだし。見守りますか。」
2本目のビールを開けながら、しみじみする。
「アイ、初恋とか言わないだろうな。」
「意外とそうかもしれないですよ、あいつ脳筋だし。子供の頃から宇宙警備隊あこがれてましたとか言ってましたよ。」
「だよな。あ、一応どの辺りにいるかだけ確認しておいてくれ、何かあったら俺達がフォローしてやらんと。」
「了解です。あんまり遠くにいなきゃいいんですけど。」
カイは能力を展開する。
(ビール飲む前に頼めばよかったな。)
俺は、ビール何杯飲んでも酔わないが、カイはあまり強くないので1本しか飲まない。
「えーと、…いや、ないわ。」
「どうした?。」
「あの二人また4階のカフェに居ますよ。せっかくおいらがお膳立てしてやったのに!。」
「まあ、アイも急だったし、店選ぶ余裕ないだろ。あいつ目立つし。あそこなら目立たないしいいんじゃないか。しっぽり出来て。」
アイがいるなら正直個室にしないと、まともに食事も出来ない。
何度か女性達に囲まれ、酷い目にあった。
「しっぽりね。…大丈夫ですかね?。」
「さすがにアイも決める時はやるだろ、何もなかったなんて…。」
「いや、そうじゃなくて。あいつの星の愛情表現って…。」
「あ!」
そうだ、忘れてた。
アイの出身、あの星の独特な愛情表現方法。
「ヒメノちゃんが、受け入れてくれるかかな?。」
「振られ率上がりましたね。」
俺達は、ため息をついた。
「ビール冷やしておいてやろう。」
「2本、いや3本くらい入れときましょ。」
(頑張れよ、アイ。)
でもきっと駄目だろう。あれしたら…。
35.2030年✕月4日 19時30分 フランス アイ
(ヤバイ、楽しい。)
ホテルに戻って来た俺とヒメノは、また4階のカフェ、同じ席に座って話をしている。
暖かいコーヒーと、サンドイッチを買い、昨日と同じ位置に座った。
「あの、昨日も思ったんですけど…。そこは、隣じゃないですよね…。」
そう言うとヒメノが俺の近くまで移動してきた。
「!!!!!!。」
一応一人分くらい開けた位置に座る。
「じゃあ今日も会えた事に乾杯!。」
軽くカップを合わせる。
これは、地球でよく行われる儀式らしく、仲良くなるためにいろんなシチュエーションでおこなわれる。
「乾杯!。」
お互いのサンドイッチを半分ずつにして食べる約束もさっきした。
地球のカップルではよく行われる行為だ。
「あ、これ凄く美味しいです。」
ヒメノが俺のチキンサンドを一口食べて、幸せそうに笑う。
「ヒメノのローストビーフサンドもなかなかですよ。」
なんて言っているけど、正直味なんて分からない。
(ヤバい緊張がピークだし。)
「あの、アイさんが産まれた星の話聞いても?。」
「あ、はい。俺の星は…名前は言えないんですけど…。」
ヒメノは楽しそうに話を聞いてくれる。
「地球は青いけど、うちは緑ですかね。」
「エメラルドみたい?」
そう言いながら、ヒメノは携帯で検索したエメラルドを見せてくれた。
「そうですね、もう少し深見がある感じです。初めて外から見た時は感動しました。」
「宇宙って、本当に凄いですよね。地球しか知らないから驚きの連続で…。それに、宇宙人も。何かいろいろいるんだなぁって…。」
ヒメノが、少し下を向く。
「もしかして、この前の放送!。スミマセン気分が悪くなりましたか?。」
「…ちょっとだけ。」
「本当にスミマセン、あれは…内緒でお願いします。ちょっとしたミスで…。」
ちょっと小声でヒメノの耳の近くで話をする。
「本当は地球人にはまだ早いから流さない予定だったのに。本当にスミマセン。」
ヒメノは、驚いて顔をあげた、思ったよりお互いの顔が近く、直ぐに赤くなって顔を下げる。
(ヤバイ!!超顔が近く…。)
「大丈夫です、地球には来ませんよね。来てもアイさん達が守ってくれますし。全くあいつら何やらかしたんですか?。」
ヒメノは顔を上げたが、無理して笑らっているようで顔が強ばっている。
「ヒメノ、そんな顔させて…スミマセン本当に。無理して笑わなくて。」
「無理なんてしてないですよ、ただあの人達が何で指名手配なのかなぁって気になって…。」
「ヒメノ。」
思わずヒメノを抱きしめる。
「大丈夫です、ヒメノは心配しなくても。」
「いや、だから…。」
「必ず宇宙警備隊が奴らを捕まえますから。」
「そんなに頑張らなくても…。」
「いえ、宇宙の平和を守るのが俺達宇宙警備隊の指名ですから。」
「あの…。そろそろ離していただけると…。」
は、しまった。
「スミマセン!!、俺ってば力加減もせずに。」
真っ赤になってヒメノを離し、ペコペコ頭を下げる。
「アイさん、謝りすぎです。」
そう言うとヒメノは、俺の手を握ってにっこり笑う。
「ありがとうございます、これからも地球の平和守って下さいね。陰ながら応援してます。」
陰ながらって…。ヒメノの綺麗な瞳から涙がこぼれる。
「ヒメノ、…こっち見て。」
うつむいてしまったヒメノの顔を覗き込む。
「ヒメノ、…泣かないで。」
次会う約束は、…出来ない。
そもそも、地球に降りるには隊長の許可がいる。仕事以外では地球に降りる事は無いのだ。
地球人との仕事での交流は許可されているが、プライベートは本部の許可がまだ降りてない。
許可が降りるのは、10年以上先だと思われる。
ゆえに、ヒメノと出逢いが奇跡で、今日もう一度会えた事は悲劇かもしれない…。
「ヒメノ、顔上げて。」
ヒメノの顔を指で持ち上げると、ヒメノの鼻に
自分の鼻をくっ付けた。
「これは、俺の星の恋人達の挨拶。」
そのまま、鼻同士をスリスリする。
「で、これが愛してますの合図。」
ヒメノは驚いた顔して、固まっている。
「違い過ぎて涙引っ込んだでしょ。」
涙は引っ込んだが、また耳まで真っ赤になってしまった。
「地球に来て正直驚いた。こちらの恋人達は口をくっ付けるんだって。」
それを地球人の前で言うなよって隊長とカイさんには言われたが、もうそんな事どうだっていい。
(ヒメノを泣かせて別れたくない。)
「ふふ、それ本当に。」
「うん、本当に。」
「じゃあ…。」
そう言うとヒメノが俺の口に口をくっ付ける。
「これが、地球の恋人達の挨拶。」
ヒメノは、恥ずかしそうに顔を手で覆う。
「え、ちょっと待って、一瞬過ぎて分からなかった。」
そう言ってヒメノの両手を剥がし、ヒメノの真っ赤な顔に今度は俺から口付ける。
「…ヒメノ、…今だけ、もう少しだけ俺の恋人でいて。」
そう言いながら、何度も鼻をくっ付け、口付ける。
「…アイさん。」
…時間が止まればいいのに。
* * *
(なんて美しい星なんだ。)
宇宙船の中からモニターに映った青い星が浮かんでいる。
(太陽系、なかなかいいじゃないか。)
なるほど、選ばれた訳だ…。
「楽しみだな。」
隣にいる男に目をやると、男も頷く。
必ず手に入れてやる。




