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醜怪(みにくいかいぶつ)  作者: 卯雪リオ
1/6

指名手配なんて!あり得ない!

2024年1月  太陽系第三惑星地球に宇宙人襲来。空想の産物でしかなかった宇宙人の出現に世界中が驚愕。


2024年2月  現実はリアルでなす術もなく、       宇宙人に降伏しか… と世界中が      

 混乱におちいる


2024年3月  が、しかし宇宙人がいるなら        彼らもいるのだ。正義の味方、        

宇宙警備隊。彼らの活躍で地球は      

 救われる,,,,,。


2025年4月  太陽系第三惑星地球、宇宙警備       隊と契約を結びこ星へ隊員を派遣。

 宇宙警備隊の存在を受け入れやすくするため、各国メディアが奔走。

 日本から宇宙警備隊をモチーフした、特撮番組「宇宙ポリス」 制作

 警備隊の協力も得て世界中で子供から大人まで大人気番組になり。宇宙警備隊の人気もあがる。


2026年2月 宇宙警備隊による【警備隊ニュース】がスタート。



1. 2030年✕月1日 宇宙警備隊 隊員 アイ

 

「地球の皆さまおはようございます。宇宙警備隊の定期放送です。今月の警備隊ニュースをお伝えいたします。」

 

 カメラのまえでは必ず笑顔で。

 この太陽系の任務に着いてはや5年。

 地球人との接触にも慣れ、今では時々ある取材やテレビ出演、各国との会議など上手くこなしていると思う。

 最初はこんな辺境の惑星に赴任することになったとき落ち込んだ。

 赴任したのは新人研修終わったばかりの俺と、ベテランでもう少しで引退予定だった隊長、庶務全般請け負いで実戦には出てこない書記官の3人だけ。

 そりゃいざとなれば応援部隊がワープして来てくれる手はずにはなっているけど。

 隊長は重要な会議とかは出てくれるがその他の仕事、主に地球人との交流の仕事は全部俺。

 そのうちの1つが毎月はじめの日に行われている『宇宙警備隊ニュース』。

 最初は自分たちの自己紹介、宇宙警備隊とは何か、他の星の紹介などから始まり、地球人にまず宇宙人がいる事を理解してもらう取り組みから始まった。

 元々この星には受け入れやすい要素があった。 

 宇宙への関心があり科学も発展していたし、SF.マンガ.アニメ.映画などの娯楽で宇宙人というものへの想像力もある。

 我々が実際宇宙に存在していたということで半年もすると【宇宙ブーム】が発生し、我々を題材にした映画やアニメが各国で制作され、1年もすると普通に受け入れられていた。

 とくに、日本という国で作られた宇宙警備隊モチーフの特撮番組が世界中の子供達に大ヒット。 

 5人の宇宙警備隊が変身して地球を攻めてきた悪の宇宙人と戦うというシンプルな作品で、俺達もはまった。

 俺たちは変身しないし(制服が強化されてるくらいで普通に己の肉体で戦う)、巨大ロボットも持ってないので地球人の想像力に驚いた。(大きさはともかく、宇宙船があるくらい。)

 隊長なんか、まじで巨大ロボット作れないか本部に聞いてたし、書記官はロボットのおもちゃ買うわ、他のシリーズにもドはまりで仕事中に変身ベルト巻いて主題歌口ずさんでるし。

 俺も先輩警備隊役で出演して欲しいってお願いされて10秒くらいだけど出演したりした。

 またその様子を『宇宙警備隊ニュース』でながしたら、(親近感が湧きました!)とかさらに受け入れてもらえるきっかけになった。

 

 「本日はかねてより指名手配されていた悪徳密輸団を惑星へリータ似て全員逮捕したことを報告いたします。」

 始めのニュースは嬉しい報告。

 宇宙警備隊は主に加盟した星の安全を守るのが基本。

 太陽系はかなり辺境の地だったので簡単にはたどり着けない事もあり、特に害はなかった事から敢えて宇宙警備隊も加入を促す様な行動はしていなかった。

 6年前に宇宙侵略戦争を各地で起こしていた組織に、辺境の太陽系に生物がいる星がある事を知られてしまい、やつらの侵略で地球に危機が迫りすぐに精鋭の一軍を派遣。

 やつらを追い払い無事正式に加入したのだ。

 

 「では、密輸団について軽くおさらいしましょう。」

 フィリップボートをだして、どんなやつらだったか説明していく。

 罪状、裁判、今後どうなるか。

 30分番組なので分かりやすくテンポよく話さないといけない。

 以前は1時間以上やっていたが、あまり長いと飽きられて見て貰えないのだ。

 そこでいろいろ試した結果30分が最適時間になった。

 捕まえました、はいおしまいという分けにもいかないのできちんと説明時間もいれる。

 そこは手も抜けないので残り時間が、あぁぁ。


 (やば、3分切った!)

 

 「次は新しい指名手配犯の情報が入ってきたので紹介します。5人ですね。今はまだ似顔絵と名前のみです。地球に来る可能性は極めて低いですが100%ないとは言いきれません。もしも見かけたらすぐに通報よろしくお願いいたします。他の指名手配犯の情報もお待ちしてます。電話番号は、こちらです。お間違えのないようお願いいたします。」



2. 2030年✕月1日 日本 21時 西園寺ヒメノ


 「え…。」

 何が起こっているのか。テレビに移る映像に我が目を疑う。

 今日は月のはじめの日。

 宇宙警備隊隊員アイから新しいお知らせが、時差の関係もあり日本では夜の情報番組で紹介される。


 5年ほど前、宇宙警備隊がこの星に来たとき、各国で決められた決定事項がある。

 月に一度最初の日に宇宙警備隊は定期報告を各国に流し活動報告をする決まりだ。

 宇宙警備隊の技術で、世界同時配信で同時通訳もされる。

 一年目は自己紹介から警備隊の仕事内容など軽いものから始まり、いろんな宇宙の星達が紹介されそこに住む者達も写し出された。

 いきなり他の宇宙と交流出来るほど地球の文化や科学は発達していない。

 宇宙警備隊も各国と会議を重ね、新しい科学技術の提供や知識は当分見送るかたちになった。

 もちろん、全員賛成したわけではない。

 かなり反発もあったはずだ。

 なので期限をつけた。

 10年間は、地球人の宇宙人への理解を深める期間とする。

 そして宇宙警備隊は地球には拠点を置かず地球の外、宇宙に基地を設置。

 何かあればすぐにワープで駆けつけてくれるらしい。

 番組の最後に言う電話番号もどういう仕組みなのかホントに必要な人からの電話しか通じない。 

 始めて電話番号を放送で流したら、冷やかしや苦情、出ていけ!!なんて電話がずっとかかってきたのでそういう設定にしたそうだ。

 2年目は少しずつだが新しい指名手配犯の写真なども報告される。

 最初こそ、過去の犯罪者とか、怖がれなさそうな写真の公開ばかりで、地球人達が怖がらないよう配慮され、みんな慣らされていたのだろう。

 そして、3年目からリアルに指名手配犯が公開されるようになる。

 その度ネットがざわつき、炎上するのだ。

 

(エモ!)

(怖い((( ;゜Д゜))))

((゜Д゜≡゜Д゜)゛?)

(臭そう)(@_@)

(ホントに生き物!?)( ̄▽ ̄;)


 地球人では想像出来なかった様な見た目をした宇宙人が紹介されるようになったからだ。

 足が3本あったり、指が10本なんて可愛いもんなのだ。

 そして今月も新しい指名手配犯が画面に5人写っている。

 

 宇宙警備隊の映像が終わり、画面が報道スタジオに変わる。

 「いゃぁ、今月の新しい指名手配犯でした。どうです皆さん」

 「過去にないタイプでしたね。今夜悪夢で出てきそうで嫌だなぁ。」

 「過去いち醜かった。」

 「いゃぁ~ホントに醜いって言葉しか出てこないですね。」

 「呪われそうですよね-。」

 「何やらかしたか言わなかったですね。罪状?」

 「時間なくて忘れちゃったんじゃないの、アイちゃん。」

 コメンテーター達が話しているが頭に入って来ない。

 

 (…何で指名手配って…どうして…?!)


 ヒメノは日本での仕事を終え、明日は仕事でフランスに行く。

 準備をしなくてはいけないのに…。

 スーツケースに荷造りしていた手は、完全に止まっていた。



3.2030年✕月1日 14時 フランス レオナール。


 (あぁ、騒がしい!!)

 

 今日は月の始め。

 どこに居ても騒がしくて落ちつかない。

 いつもなら部屋から一歩もでず、テレビもネットも見ない。

 部屋で譜面を見ながら音楽を聴き、一日中過ごす。

 宇宙警備隊の放送がある日はあちこちでその話題が取り上げられる。

 メディアは1日中その話題を取り上げ、子供達は学校がある日は授業を中断して放送を見る。

 街を歩けば話題は宇宙人犯罪者の話しで立ち話。

 ネットは大荒れで、炎上。

 特に新しい指名手配犯が出るとひどい。

 しかし、最近はみんな慣れたもので2日目になると何事もなかったように平穏を取り戻す。

 慣れとは怖い。

 始めこそメディアも2.3日この話題を取り上げていたが、半年くらいで、不自然なくらいやらなくなった。

 多分各方面や宇宙警備隊に不必要に恐怖を煽りすぎだとクレームが殺到したのだろう。

 メディアは次の日から通常に戻るように言われたみたいだ。

 まあお陰で俺のイライラは、1日の我慢で済むようになったのでありがたい。

 しかし、今日の午後は練習場に行かなくてはいけない。

 行ってしまえばまた音楽に没頭できるので問題は何もないのだが、行くまでが問題なのだ。

 家を一歩でたら、おしゃべり好きの大家に捕まって、今日の宇宙警備隊の放送についてべちゃくちゃ喋り出す。

 「おはよう、レオナールさん、今日の見たかしら!?。」

 『いえ。』

 「また、関心持ちなさい!。いつ悪の宇宙人と遭遇するか分からないわよ。それより今日の新しい手配犯が凄いのよ…」

 『スミマセン、仕事に遅れますので、また。』

 このひとに捕まると、永遠に話しが止まらない。

 宇宙警備隊大好きなのだ。

 いつぞやは、「お掃除係の募集でいいからないかしら」と毎日駄目もとで電話をしていると言っていた。

 まぁ、一度も繋がらないらしいが…。

 何とか道に出てタクシーを捕まえる。

 タクシーも運悪く、馴染みのおしゃべりな運転手に当たってしまう。

 ラジオからは今日の宇宙警備隊放送について何やら悪く話している、どうやらゲストがアンチ宇宙人派らしく内容も聞き苦しい。

 「見ました、レオナールさん。今日の…」

 (…はぁ、またか…。)

 『済まないがラジオを消してくれないか。』

 そう告げて、目を閉じて寝たふりをする。

 話しかけるなオーラも出してやると、運転手は諦めてラジオを消した。

 30分ほどで練習場に着く。

 今度やるオーケストラと練習だ。

 しかし、入って見ればやはり皆がスマホやタブレットで今日の宇宙警備隊の放送についてあちこちで話していた。

 (…はぁぁ……もう時間なんだが、仕方ない。)


 パンパン!!


 両手を強くたたいて、全員の関心を戻す。

 みんな、はっと我にかえると急いで、準備にとりかかる。

 「スミマセン、レオナールさん。すぐに準備します。」

 コンマスが頭を下げながら俺の所へやってきたので、指で10を示す。

 頷いたコンマスが、皆に指示をだす。

 「10分後には始めるぞ!!。」


 俺も荷物から譜面と指揮棒を準備する。

 今度やる曲は3曲。

 明後日にはピアノソリストと男性ソリストが合流し、本番会場で練習が出来る。

 それまでに、オケをそこそこ仕上げておかなければ。



 4.2030年✕月1日 8時 アメリカ ライアン


 「おはよう、ソフィア。」

 キッチンに立つ愛する妻の頬に軽くキスを落とす。

 「おはよう、よく眠れた?」

 「あぁ、久しぶりぶりの我が家は最高だよ。」

 妻の腰に腕を回してその温もりを確かめる。

 あぁ、今日も生きている事に感謝する。

 「もう、シャーロットを起こして来てちょうだい。」

 照れながらも、久しぶり振りの包容に嬉しそうなソフィア。

 すると、二階から降りてくる足音が、

 「パパ!!」

 9歳になった娘のシャーロットが勢いよく飛びついて来る。

 「シャーロット!!」

 抱き止めると、そのまま娘とクルクル回りはじめた。

 「もう!パパが帰って来るまで待ってるつもりだったのよ。でも寝ちゃったみたい。悔しい!!」

 「遅く帰ったパパが悪い、ゴメンな。ただいまシャーロット。」

 昨日夜遅くに飛行機が一時間遅れて到着したので、帰りが夜中になってしまったのだ。

 「さあ、朝ご飯にしましょう。」

 ソフィアに促され、ダイニングにシャーロットと向かう。

 久しぶりの我が家。

 今朝の朝食は、俺の好きな両面焼いた目玉焼きにカリカリベーコン.トーストにカフェオレ。

 なんて事のない普通の朝ご飯。

 でも、家で愛妻が作って娘と3人で食べる、たったそれだけの違いなのに最高の朝食になるのだから幸せだ。

 

 幸せな食事を終え、シャーロットを学校のバス迄送る。

 戻ると、新聞を開きリビングのお気に入りチェアに座る。 

 リモコンでテレビをつけて、久しぶりのゆったりタイムだ。

 新しいコーヒーを入れて、ソフィアが入って来た。

 ガッシャーン


 「きゃあ!!」

 

 「ソフィア!!。大丈夫か?」

 あわてて駆け寄る。ソフィアはテレビ画面を見つめ座り込み震えている。

 

 「…化け物! 気持ち悪い!」



5.2030年✕月1日 カナダ 8時 エマ田中


 誰かが私を呼んでいる。もう少し眠りたい。

 「おい。エマ起きろ!!」

 肩を強く揺さぶられて、急速に意識が睡魔から離れて行く。

 「う、ぁ~。おはようございます~編集長。」

 「また、徹夜したな。原稿出来たなら帰って寝ろ!。」

 「仮眠室で、寝ます。午後はやりたい事が…」

 「却下、今日こそ、休め。どうせ仕事に、ならん。」

 編集長がフロアを横目で見る。

 (そういえば何か騒がしいなぁ。)

 フロアにはちらほら出勤した人が半分位いるが、見んなテレビに釘付けになっていた。

 「あぁ、今日1日でしたっけ。」

 「この部署で今日に興味ないのは、お前くらいだろ。」

 宇宙警備隊ねぇ、あたしにはまったく興味が湧かない。

 みんなは、結局宇宙人なんていないって思っていたのにある日突然現実に現れた宇宙人。

 未だ現実受け入れられていないんじゃないかなぁ。

 あたしは、もう人生いろいろ極限越えてるから。

 今さら宇宙人が来ても、「あ、以外に早かったじゃん。宇宙人。」くらいにしかおもわなかった。

 「帰ります。確かに仕事にならなさそうですし。」

 顔だけ洗うかぁ。立ち上がり背伸びする。

 今日も宇宙警備隊のアイさんが、にこやかな笑顔で話していた。

 一部女子社員はキャー、カッコいい、眼福!などなどいつも目をハートにしている。 

 あたしに言わせると、作り笑顔で幼稚園の先生みたいに話しをしていて胡散臭い。

 地球人女子達よ、バカにされてるの分からんかねぇ。

 洗面所に向かうと冷たい水で顔を洗う。

 (とりあえず帰って寝るかぁ。)

 洗面所を出ようとしたら、バタバタと足音が近づいてきた。

 (ん?!)

 バン!。

 勢いよくドアが開き、同僚のケイトが飛び込んでそのままトイレに入る。

 「ケイト?」

 ケイトはうずくまり吐いている。

 あわてて、背中を擦る。

 「うぅ、…エマ?…ぅぅ、ありがとう…。」

 しばらく擦ってやると、落ち着きを取り戻したようだ。 

 「まさかとは思うけど、とうとう出来たとか?」

 「エマ…、それならどんなに嬉しいか。残念ながら違うから。」

 そう言いながら、立ち上がったケイトは。洗面所で手を洗い、くちをゆすいだ。

 彼氏と同棲中のケイトは、出来ちゃた婚を狙っている。

 「体調悪いなら、編集長に言っておくから今日は帰える?」

 「うーん、大丈夫。今日中に、やらなくちゃいけない仕事があるの。映像見なければいいわけだし。あー、あれはないわぁ。」

 ケイトと一緒に編集部に戻ると、何やらいつもよりざわついている。

 他の人達も眉間に、シワを寄せてスマホを見ていたり、青ざめている子もいる。さっきまでついていたテレビは消されていた。

 (あれ?基本1日中テレビつけてあるはずなのに、珍しい。)

 各編集部はいつどんな情報が入ってくるかわからないので、テレビはつけたままが基本だ。

 「ケイト、大丈夫か?。無理しなくていいぞ」

 編集長が私達に近づいて、ケイトの様子を確認する。

 「大丈夫です。仕事に戻ります。」

 「無理すんなよ。エマ、お前は帰れよ!」

 編集長はみんなにも指示を出して行く。

 「具合の悪いやつは無理するな。あーこりゃクレームものだな。」

 この時点でわかってないのは、どうやら私だけらしい。

 そしてその原因はテレビ→宇宙警備隊放送→テレビ消すほど、と言う事なのはわかった。

 カバンを肩にかけると、急いで編集部を出る。

 スマホを開いて宇宙警備隊のホームページにアクセスしたが繋がらない。

 もう炎上してんのか。

 挙げ句、

 「ピ-、ピ-、ピ-。」

 充電切れの音がむなしく鳴る。

 (チッ!、急いで、帰るしかないのか。)

 エマは、自宅まで走る事にした。



6.2030年✕月2日 アメリカ 8時 ライアン


 「パパ、おはよう。…ママは?」

 シャーロットが起きて来た。

 いつもならお起こしに行くが、珍しく自分で起きたようだ。

 「おはよう、シャーロット。ママはまだ寝かせてあげよう。ちょっと疲れちゃったんだ。さぁ顔を洗っておいで。」

 少し目が赤い。心配であまり眠れなかったかもしれない。

 (今までソフィアが倒れたことなどなかったからなぁ。)

 昨日ソフィアがテレビを見たとたん、真っ青な顔で言った言葉が忘れられない。

 

 「化け物!気持ち悪い!」

 

 その後吐きそうなソフィアを急いでトイレに運び、ベッドに横にさせる。

 ソフィアが落ち着き眠りに落ちるまでベッドサイドで付き添った。

 そっとベッドルームから出ると、リビングがまだあの時のままだったことに気がついた。

 ソフィアが運んでいたお気に入りのコーヒーカップが割れ中身のコーヒーとミルクが飛び散っている。

 (はぁ、後でソフィアが落ち込みそうだ。)

 床もかれこれ数時間たっているのでシミが残りそうだ。

 今俺に出来る事は、後でソフィアが落ち込まないよう一生懸命掃除する事だけだ。

 掃除道具を取りに行こうとして、まだついていたテレビを消そうとリモコンに手を伸ばす。

 『では、朝見逃した方にもう一度ご覧にいれましょう。最初に言っておきます。この映像を見て体調がすぐれなくなる方が続出しております。出来ればお子さま等にはあまり見せないよう、大人の方もご覚悟をもって見ていただけますよう。』

 何だ、そりゃ。

 そのせいでソフィアは倒れたのか。

 いったい何の映像が…

 『では、今日の宇宙警備隊放送で新たに指名手配された宇宙人5人がこちらです。』

 (………ん?……は?)

 えっ、これって。

 絶句した。そこに写った宇宙人に。

 俺はしばらくそこから動けなかった。


 シャーロットが着替えて、キッチンに入ってくる。

 「パパ、手伝うよ。」

 「ん、そうか、ありがとう。じゃあパンを焼いてくれるかなぁ。」

 「OK。」

 考えるのは後だ、今はシャーロットに朝ごはんを食べさせてを学校へ送り出さねば。

 「パパ、卵焦げてるよ。」

 「うわぁ!。」

 普段家にいない分、こんな時こそ俺がしっかりしなくては。

 「ふふっ、やっぱり私がいないと駄目見たいね。」

 「ママ!」

 「ソフィア!」

 キッチンの入り口で、ソフィアが笑っている。

 「起きて大丈夫何のか?」

 「一晩寝たらスッキリしたわ。ちょっと疲れも溜まってたみい。シャーロット、ママのパンも焼いてもらえるかしら。」

 「うん。」

 「ママは特製カフェオレを作ります。みんな飲みたいでしょ。」

 ソフィアが笑ってる。良かった。

 「ママのカフェオレじゃなきゃ1日が始まらないよ。」

 「パパのじゃ駄目なのか?」

 「うん!」

 キッチンに笑い声が響き会う。

 (昨日のことが夢であったならいいのに…。)

 昨日までの俺の幸せに、ほんの少しヒビが入った気がした。



7.2030年✕2日 カナダ 8時 エマ田中


 (ふぁ~!よく寝た。)

 昨日は帰って充電機にスマホを差し、シャワーを浴びてる途中から睡魔の激しさに負けて、ちょっとだけ寝ようとベッドに横になった。 

 気がついたら朝だったのには、さすがのエマも驚いた。

 「うーさすがにお腹空いた。」 

 やっぱり2日徹夜は、あかん。お肌もちょっと荒れてきた。

 テレビをつけ、冷蔵庫を開けて食べ物を探す。

 最後の一枚食パンをトーストして牛乳をグラスに注ぐが、半分もなかった。

 「あちゃー。帰りに何か仕入れてこねば。」

 ソファーに座って、テレビのチャンネルを変える。

 だいたい次の日は警備隊情報はやってない。

 テレビ局に勤めてる友人に聞いた話では、どこのチャンネルも次の日は動物ほのぼの系なニュースを伝えていたり、スポーツの話題など和やか路線で行くのである。 

 最初こそ2.3日警備隊のニュースで深堀したり討論したりしていたが、地球人はいがいにメンタル弱い人が多かったようで、局や国への苦情が後をたたない。

 仕方なく1日のみ警備隊ニュースを伝え、次の日は一切報道しない決定が各国で決められた。

 見たい人は宇宙警備隊のホームページに各自アクセスするしかない。

 しっかり充電が終わったスマホを操作して宇宙警備隊ホームページにアクセスしてみる。

 「あちゃー、今日も駄目かぁ、珍しいなぁ。」

 いつもは次の日にはアクセスできるのに、今だ繋がらない。

 こんなことは珍しいのだが、よほどなにがあったのか気になって仕方ない。

 こうなったら、とっとと編集部に出勤して昨日の事誰かに聞いて見たほうが早そうだ。

 エマは急いで残りのパンを口に放り込むと、着替えて家をでる。

 走って15分、歩くと30分位の距離にエマの働く会社がある。

 中堅の出版社で成果をあげて締め切りさえ守れば良しという社風。

 出勤時間も自由に選べる。

 と、言っても記者達は常に現場や取材に昼夜関係なく外に出かけているのでほとんど会社にいない。

 決まり事は、月曜日午前中に会議を必ずするので全員出席.毎日予定を編集長に報告.締め切りは守る.週に1日は休日を作る.のみだ。

 実際のところ休日については怪しい。

 うちの会社にいる記者で独身者なんて、休日に休んでいるやつはいないだろう。

 みんなこの仕事が好きな仕事バカばかりだ。

 エマも、まともに休むのは月に1日位で、出かけたとしても、取材の下見とか情報収集を兼ねたお出かけで1日潰れる。

 何よりも、記者という仕事が好きなのだ。

 (日本に居た時とは大違いだなぁ。)

 日本じゃ、こんな風に仕事は出来なかった。

 つくづくカナダに来て良かったと思っている。

 そんな事を考えながら歩いていたが、何だか街の雰囲気がちょっと違うことに気がついた。

 いつもより、何だか空気か重いような顔の大人達、子供達はいつもどうり楽しそうだ。

 (何だろう、違和感?!)

 記者の観察力はだてじゃない。

 だいたい次の日は、何事もなかったかのようにみんな普通に生活している。むしろ子供達は、警備隊のニュースを話題にして盛り上がっているくらいだ。

 正義のヒーロー達に憧れを抱いている子供達も少なくはない。

 今年のなりたい職業ランキングジュニア部門で宇宙警備隊がランクインしたことで益々警備隊の株はあがっているのだ。

 学校でも1日は授業の一環で警備隊ニュースをクラスで一緒に見る。

 世界各地で10歳からだと決められている。

 最初に先生達が録画しながら内容を見て、問題なければそのまま、問題がある時はカットして生徒達に見せる。

 しかし、どんなに、カットしてもホームページにアクセスすれば見れてしまう。

 小学生はアクセス出来ないようになっているが、掻い潜る方法なんていくらでも、あるのだ。 

 お兄さんお姉さんが見せてしまえば終わりである。

 違和感を感じはしたが、圧倒的に情報が足りないので、それが何かエマには分からない。

 会社にたどり着けば、何か分かるはずだ。

 

 「おはようございます。」

 「あ、エマ、おはよう。昨日はありがとう。」

 コピー機の前でケイトが手を振る。

 第一容疑者発見!

 「ケイト具合大丈夫?…あの~、出来れば何でああなったか聞きたいのだけど、聞いてもいい?。」

 「…エマ、宇宙警備隊関心なかったもんね。まさか昨日の見てない?」

 「…見てない。間が悪くって。充電ないし、アクセス出来ないし、睡魔にまけたし。」

 ケイトは笑いながらコピーを終えて、休憩スペースに二人で向かう。

 「あー、今回はまだアクセス出来ないらしいね。ここまでくると故意じゃないかなぁ。あたし見たいに具合悪くなった人沢山いたらしいよ。あ、いた、マイク!あなた昨日の映像あるわよね。」

 休憩スペースにいた後輩のマイクに声をかける。

 「おっ、さすがのエマさんも、とうとう見たいんですね。」

 何だか嬉しそうだな、こいつ。

 マイクは、宇宙警備隊崇拝者だ。

 『後10年早く宇宙人が襲来してくれていたら、俺は警備隊に入っていた』が彼の口癖で今でもまだワンチャンあるかもと、ジムに足しげく通っている。

 (地球人には後100年たっても無理だって。)

 せっかく休憩スペースに来たから眠気覚ましにコーヒーでも飲もうと思い、ブラックコーヒーをカップに注ぐ。

 「エマさん、飲むの後にしたほうが…。」

 そういいながらマイクはスマホを差し出してくる。

 「あたしは大丈夫だよ。」

 (宇宙人なんて今さら驚かないっての。)

 イヤホンを耳につけて再生ボタンを押す。

 マイクが調整してくれていたので問題の映像から再生された。


 ブッッ、!!


 飲んでいた、コーヒーを吹き出した。

 あたしの反応を楽しみに見ていたマイクがゲラゲラ笑っている。

 「ほら、さすがのエマさんでも気味悪いですよね~。」

 (気味悪いって…、)

 あたしが驚いているのは、気味が悪いからじゃない。

 (え、これって…天使さま…。)

 時々、夢を見る。

 この指名手配された5人の。

 (…何で、天使様達が…指名手配って、どうして。)

 エマは茫然とした。



8.2030年✕月2日 8時 宇宙警備隊基地 カイ



 やってしまった。

 昨日の放送終了直後、各国からの苦情電話が鳴り止まない。

 昨日の放送は2パターン撮ってあった。

 ギリギリまでどちらのを流すかサイ隊長とアイ隊員と検討した。

 その結果、まだ地球人には早いだろうと今回の手配犯は見送ることにした。

 なのに、おいらがやってしまった。

 間違えたのだ。

 (ゆうべ遅くまでビデオ見てたから、朝から半覚醒状態でボーッとしてたんだよな。)

 すっかり地球の特撮ものにはまってしまったおいら。

 そして最近はアニメに夢中になりガ◯ダムにどはまり中だ。

 ゆうべはアイ隊員と一緒にガ◯ダム鑑賞しながら、本国から届いた差し入れの物資を開けて二人で夢中になって見ていた。

 あ、ちなみにアイ隊員はおいらがガ◯ダムに引きずり込んではめてやった。

 最近じゃあ、偵察用の宇宙船がガ◯ダムにならないか、いや、いっそのことガ◯ダムを本部に作ってもらえないか何て考えている可愛い後輩だ。

 それがおいらの思惑だとは知らない彼は、まんまんまとおいらの作に乗っかって、日々本部にガ◯ダム素晴らしさと実用性を提案するためのレポートを書いている。

 おいらが書いてもいいんだけどさ、実戦要員のアイ隊員が書いた方が、本部のお偉いさん達の目に止まりやすく可能性が広がるかもしれないからだ。

 …というのは、建前で。

 可愛い子には旅をさせろと言う言葉を日本のアニメで見て、地球に来てショボくレテた可愛い後輩に少しでもやる気が出るならやらせて見ようという先輩の優しさ。

 (まぁ、新人じゃ無理だろうけど。本当は自分でやった方が早いンだよね。)

 こう見えて機械の扱いはプロレベルなので、本部の信用度は俺の方がある。

 でも、新人を育てるのも仕事だ。

 次は一段会レベル上げて更に実用性が上がりそうなマ◯ロスをアイ隊員に見せるつもりだ。

 

 月の始めは警備隊ニュースの放送日。

 わかっては、いるけどなかなかアニメが止められずアイ隊員と二人ほぼ完徹してしまった。

 いつもは生放送でやっていて、時には録画だったりもする。

 今回は録画だったからすっかり気を抜いて夜更かししてしまった。

 もちろん隊長に二人して朝から大目玉くらいましたよ。

 放送中はお説教の最中であっと気がついたら流さないはずの映像が流れ始めたので、慌てて止めに入ったが3分のほとんどか流れたた後だった。


 俺達の顔は一気に真っ青になった。


 やはりまだ地球人には早かったらしく具合が悪くなった人が多数出てしまったのだ。

 隊長が今電話では拉致があかないので、緊急会議を開いて各国に謝罪している。

 

 最近新たな指名手配犯の情報が、本部から送られてきた。

 5人だ。

 同じ星の出身で名前と似顔絵のみ。

 その星はかなり辺境の星で、存在こそ確認されていたけれど調査にはいたっていないまだ未知の星だった。

 その点、地球は宇宙警備隊がひそかに調査済だったのですぐ助けも出せた。

 友好関係を作りあげるのも、過去の調査情報があったので早く出来た方ではないかと思う。

 しかし、その星は名前すらない。

 文明も地球でいうなら原子時代レベルに相当する。

 服は着ているし王国のようなものもあるが宇宙と交流出来るレベルではまだないと判断され、そうそうに調査を打ち切られた星だ。

 そんな星は宇宙を探せばまだまだいっぱいある。

 そういうところにはまだ手をつける必要はないと警備隊では決められている。

 あの星が、警備隊に次に目をつけらるようになるまで1000年か2000年か先の話になるはずだった。

 なのに、指名手配犯。

 正直驚いた。

 名前のない星だ。

 普通こんな場合、一時的に仮の名前が付けられ、のちに文明が発達して星に名前がついたらそれを正式に登録する。

 かなり先の話だ。

 しかし、今回はそれすら意味をなさない。

 何故なら星自体が消滅してしまったのだから。

 (しかし今回は異例過ぎて、本部も困惑しているらしいし。) 

 そもそも宇宙全部に指名手配されるなんてよほどな凶悪犯で。

 この広い宇宙のどこかに逃げているから宇宙警備隊に指名手配されているわけで。

 宇宙をまたにかけて逃げるだけの高度な文明が発達した星の出身者でもない限りそんなこと無理なのだ。

 宇宙には無限に星はあるが人が住んでいる星は一握り。

 そこからさらに高度文明な星はさらに一握り。

 その一部の高度文明が、時々侵略とか戦争を始めるので、その脅威に未発達の星が巻き込まれないよう宇宙を守る為できたのが宇宙警備隊なのだ。

   あの星に宇宙に逃げる技術があったのか?

   未発達だと思っていたが違ったのか?

   なぜ星は消滅したんだ?

 本部ではかなり困惑していた。

 かなり辺境の地だった為、本当に消滅したのかの確認さえ時間がかかった。

 結果星は消滅し回りの宇宙にも少なからず影響があった事が判明した。

 一つの星がなくなれば近くの星にも少なからず時間差で影響があるだろう。

 警備隊の方ででき得る限り情報を公開し近くの星に警告はだした。

 もちろん地球には何の影響もない出来事なので公開しないつもりでいたのだ。

 さらに地球人には見た目が受け入れられないであろうことも考慮された。

 なのに、

 「はぁ、おいら終わったかも。」

 解雇はないにしろ良くて減給、悪くて移動だろう。

 それより一番最悪なのは、地球文化禁止とか言われたら…。

 「まだまだ、観たいものが沢山あるのに!!。」




9.2030年✕月2日 フランス16時 西園寺ヒメノ

 

 「ヒメノさん。お久しぶりです。」

 フランスの空港に到着してゲートを出た所に、馴染みのあるお迎えの現地スタッフが手を振っている。

 「ジャスミン、久しぶり元気だった。」

 ハイタッチして、バグ、いつものお決まり。

 そして、ここからはフランス語に切り替えだ。

 「まあまあよ。」

 ジャスミンは日本語も話せる現地マネージャー、初めて会った時から意気投合して仲良くなった3歳年上のお姉さんといった感じ。

 こっちにいる間はあえてフランス語で会話をお願いしている。

 「今日はこのままホテル直行で、疲れてないなら荷物置いてリハーサル見に行く事も可能よ。」

 ジャスミンの誘導で駐車場へと向かいながら、今日の予定を決めて行く。

 「飛行機で寝たから、疲れてないよ。でも時差があるから少しだけリハーサル見てすぐ帰る感じでもいいかな。」

 (本当は、あんまり寝てないんだけど。)

 昨日の事があまりに衝撃的だったので、いろいろ考えてしまいなかなか寝付く事ができず、飛行機の中でも余り寝られなかった。

 明日でもいいが、少しでも早く会場とオケの空気で昨日の事を頭から消し、ピアノに集中出来る環境を作りたい。

 「OK。ではホテルへ。」

 ジャスミンの車に荷物を積み込み、助手席に座る。

 ホテル迄は、30分分くらい。

 到着するとすぐにチェックインして部屋に荷物を置くとまたすぐにロビーに戻る。

 ロビーで待つジャスミンと外に出た。

 会場となるホールは歩いて5分ほどのところにある。

 フランスの空気を取り込みながら歩くこの時間がヒメノは好きだ。

 その土地独特の空気や匂いが身体に浸透していく時間を大切にしている。

 あまり人のいない朝の散歩で澄んだ空気を取り込み、夕方の人混みの中で人間が発するエネルギーを感じ、夜は外の風にあたりながら星を見て癒しをもらう。

 その土地と一体になって奏でた音は、自分の指先から溢れて空気に溶けて最高の音を響かせる。

 その為に、来られる時は少しでも早く現地

に入ることにしていた。

 今日の会場は初めての場所で、どんな音が響くのか楽しみである。

 オケは一度一緒に演奏したことがあるが、指揮者は初めて会うので少し緊張もしている。

 (うゎ~、とうとう会えるのかぁ。緊張するなぁ、『甦った指揮者』レオナールどんな人なんだろう。)

 会場でのリハーサルは今日からで、本番は3日後。

 それまでに上手く音を合わせなくては行けない。

 (ガンバらなければ。)

 会場にはすぐに着いた。

 去年新しく出来たホールで、確かフランスの有名建築家がデザインをし世界中で話題になったので覚えている。

 こけら落とし公演で演奏したのが、同じオケと指揮者レオナールで素晴らしいと絶賛されたのだ。

 ヒメノもイタリアにいたがネットで生配信を観ながら感動し、いつか共演出来たらと思っていた。

 (まさか一年で、願いが叶うとは思っても見なかったけどね。)

 レオナールがヒメノを指名したのには驚いたが、理由を聞いて親近感を覚え、是非と快諾したのだ。

 ヒメノにもあるのだ、もう1つ世間で言われている名前が。

 

『奇跡のピアニスト』

 

 二人の共通点は、一度死の底から戻って来た事であった。

 (楽しみだなぁ。)

 関係者入り口から中に入る、微かに聞こえてくる音楽にヒメノの心は踊っていた。



10.2030年 ✕月2日 17時 フランス レオナール


 一年前、このオーケストラと一緒にこのコンサートホールで演奏した。

 その時も最高のオケだと思っていたが、あの頃よりさらに良くなっている。

 一曲目を通しで演奏してみたがまず問題はなさそうだ。

 コンマスを呼んで、いくつか気になったポイントを調整してもらうようにお願いする。

 私が演奏したい音を理解して話しを各パートにしっかり分かりやすく伝える事が出来る優秀なコンマスがいる事が、このオケ最大の魅力なのかもしれない。

 (私が直接話せばよいのだがな…。)

 10年ほど前、首に大怪我をした。

 それから私の声は少し聞きづらい。

 話せない訳ではない、普通に会話は出来る。

 しかし、少し耳障りな声になってしまったのであまり話さないようにしている。

 指揮者として全体に的確に指示を出さないといけないのだが、あれ以来大声は出せなくなった。

 皆事情を知っているので、私の代わりに話しをしてくれたり皆をまとめてくれたり協力してくれるのだ。

 (正直、今こうして生きている事が奇跡。いや、あれは神のプレゼントかもしれない。)

 

 12年前、18歳の頃レオナールは悩んでいた。

 父が有名なバイオリニストで世界中を飛び回っていた。

 子供はレオナールと1つ年下の弟エリック。

 母は名家のお嬢様で、二人は恋愛結婚だった。

 愛する人の子供を産んでも父は世界各国で演奏しているので、ほとんど家にいない。

 母は寂しかった。

 少しでも父の気を引くため、子供達にバイオリンやピアノをやらせた。

 子供達も父に褒められたい一心で一生懸命練習した。

 久しぶりに家に帰った父はたまにしか会えない子供達の成長に驚き、褒めてくれた。

 レオナールが10歳くらいになると兄弟に少し差が出てくる。

 兄は父の才能を受け継いだらしく音楽の神に愛され才能を発揮し始めた。

 弟は母に似たのか音楽に関しては非凡だった。

 しかし諦めず父に認めてもらいたいと、睡眠時間を減らし努力で才能を補っていた。

 二人とも音楽学校に入学し、数々のコンクールで名を馳せ切磋琢磨しながら腕を磨いていた。

 しかしレオナールはずっと誰にも言えない事があった。

 バイオリニストではなく、指揮者になりたかったのだ。

 父にも母にも、そして自分を最高のライバルと思っている弟にはなおのこと言えなかった。

 しかし、自分の夢を捨てきるないレオナールは18歳の時、父に話した。

 意外にも、父は苦笑いしながらあっさり承諾してくれた。

 レオナールの才能を理解していたから、バイオリンだけの狭い世界じゃもったいないと前から思っていたのだ。

 そして、こっそり指揮者の練習をしていたのも知っていた。

 さらに聞けば、子供達に音楽をやらせるつもりもなかったらしい。

 気がついたら母が音楽をやらせいたのですぐに話し合い、無理やりやらせずに二人が辞めたくなったら辞めさせる事、他の道を選んでも全力で応援していく事を夫婦で話し合い決めていたのだ。

 ところが二人とも辞めたがらなかったので、ならば父としてではなくバイオリニストとして徹底的に教えて行こうと考えた。

 父が間に入ってくれたので、母もしぶしぶながら理解して応援してくれた。

 しかし、エリックだけは認めなかったのだ。

 「裏切り者!!」

 俺が根気強く話して説明したが、聞く耳はもってくれなかった。

 その間に出た新人指揮者コンクールで上位入賞してしまった事で、さらに関係は悪化。

家の空気はどんどん悪くなっていき、家族の間もギクシャクしていた。

 20歳の時、父からエリックと距離を置くようにいわれ、指揮者コンクールで声をかけてくれた教授がいる学校へ転校し心機一転頑張る事にした。

 やると決めたからには指揮者として大成する事も誓い、がむしゃらに勉強にはげんだ。

 エリックには悪いが、指揮者の勉強はとても楽しかった。

 バイオリンもピアノも嫌いではなかったが、心の底から楽しい事ではなかったのだ。

 自分の夢を追いかけることがこんなに楽しい事だと気づいてしまった。

 次のコンクールでは優勝を狙っていて、日々音楽三昧。

 転校してしばらくしたら、エリックの事さえ忘れ指揮者の勉強に集中していた。

 そして、あの日。

 天国から地獄へ

 一機にすべて失った。

 

 20歳の冬、フランスの若手が皆目指す指揮者コンクールに出場した。

 これに優勝すれば、おのずと指揮者として未来が約束される。

 なかなか厳しいコンクールで有名で、去年は優勝者なしだった。

 尚且、教授クラスの人間か、有名指揮者のが推薦状を貰えないと出られない。

 教授の推薦を貰えてコンクールに出る迄が、また大変だった。

 教授はなかなか有名な方なので、教わる生徒達も厳選されていたので、皆レベルが高い。

 その中で、2人だけしか選ばれない。

 みんな死に物狂いで、勉強した。

 選ばれた時は、あまりに嬉しくて泣き出してしまったくらいだ。

 父にも、知らせた。

 近況を聞けば、エリックも大分落ち着きを取り戻し、バイオリンも頑張っていると。

 可能なら、皆で観に来て欲しい。

 そう願った。

 しばらくして父から、「皆で観に行くが観に行くのは決勝のみ。それ以外は行かないから頑張って残れよ。」とエールを貰う。

 嬉しくて、また泣いた。

 この1年、ろくに連絡も寄越さなかった息子に父の声は優しかった。

 エリックにも観てもらいたい、これを機に仲直りが出来たら。


 コンクールは、順調に進み決勝まで勝ち残った。


 そして、全ての力を出しつくし優勝した。


 「レオナール!!おめでとう!!」

 「あぁ、レオナール素晴らしかったわ!!」

 父と母とエリックが楽屋に来てくれた。

 二人とも満面の笑みで、強くハグしてくる。

 「来てくれてありがとう、父さん母さん、エリック。」

 エリックの方に目をやると、満面の笑みで花束を渡してきた。

 「兄さん…、」

 

 次の瞬間、エリックの顔が歪んだ。


 「サヨナラ。」


 俺の隣にいた母の顔に向かって花束を投げつける。

 そちらに気を取られた瞬間、

 

 ブシュ!!


 激しい痛みと、父の叫んだ「止めろ!!」の声、母の悲鳴、目の前に飛び散る大量の赤い液体。

 

 倒れながら意識が消える前に見たのは、血に濡れたナイフを持つ弟の満面の笑顔。


 そこで俺の命は終わった。


 ……はずだった。


 次に目が覚めた時、病院のベッドの上。

 

 目覚めてからも意識は朦朧としていて、何が起きたか頭が整理できなかった。

 1ヶ月ほどで意識もはっきりしてきて、普通の病室に移動した。

 そこでやっと、面会がや許された父と母に会えた。

 二人は、とてもやつれていた。

 じきに警察もやってきて、医師立ち会いのもとで何があったか説明がされた。

 あの時、俺は弟に首を切られ大量出血。

 救急車が来たが、助からないと誰もが思ったくらい深い傷と大量出血だったらしい。

 弟はその後父にもナイフを向け、腕を切りつけた。

 近くにいた人達がすぐに拘束して警察へ。

 父はその時の時の傷が原因で指が上手く動かなくなり、引退する事になった。

 そして事件は大々的に報道され、スキャンダラスにある事ない事が世間で話題になり、家族だけでなく教授達も巻き込まれた。

 今はだいぶ落ち着き、俺が奇跡的に助かった事が大きく報道されている。

 (本当は一度、死んだんだけど。)

 まぁ、話しても。頭がおかしくなったと思われるだけだな。

 宇宙人から命貰ったなんて、誰も信じないだろう。

 (それに、声も出ないみたいだしな。)

  

 あの時、死がよぎった。


 (俺の指揮者としての人生これからなのに…こんな所で人生終わりたくない!!。)


 消えゆく意識の中で誰かが呼び掛けてきた。


 {イキタイ? オンガクヤリタイ?}


 やりたい!!、死にたくない!!


 必死に叫んだ。


 {キミノタマシイニシンクロシタ。イイヨ、ボグノイノチアゲル。ジョウケンハオンガクツヅケルコト}


 何でもする…音楽が出来るなら…


 この後1ヶ月、意識が戻るまで恩人の宇宙人の魂と融合していた。

 彼らがどこで生まれ、なぜ今ここにいるのか話しをしている感じだろうか。

 目覚めた時、2つの魂が融合されて新しい自分になった事を感じた。

 恩人との約束、音楽を続ける。

 その為に、1年かけて必死にリハビリをした。

 ドラマやアニメではこういう時、目が覚めたら傷も治っていた!…なんてなるだろう。

 残念ながら命が助かっただけなので、傷跡もバッチリ残っているし、痛みもある。

 首周りが引きつくし、腕を上げる事だけでも痛い。

 特に話しが出来るようになるまで半年近くかかった。

 父と母、教授や仲間達が支えてくれた。

 そして、1年後。

 指揮者コンクール優勝者に贈られるコンサートが一年遅れで開催され、マスコミに絶賛されたのだ。

 『死の淵から甦った指揮者、コンサートに不死鳥のように、舞い戻る。』


 何故かあの時の事を思い出した。

 (最近、宇宙警備隊なんてものが来たもんだから、時々彼らの事を思い出す。)

 記憶が融合されたからレオナールにとっても彼らがいた星は故郷のような感じになった。

 いつか、行ってみたい。

 地球レベルでは無理なのはわかっていたが、そんなことさえ思っている。


 「レオナールさん、一回休憩入れます。」

 5分後にもう一度同じ曲をやる事を告げ、足元に置いた水を手にする。

 (?、なんだこの気配…)

 客席の方から懐かしい気配を感じとり、振り返った。

 「あ、レオナールさん、ピアニストの方紹介しますね。こちらがヒメノ西園寺さんです。」

 そこにはフランス人のジャスミンと日本人の女性が立っている。

 そして、日本人女性は驚愕の顔をしていた。

 「…ヒメ…。」

 あわててジャスミンが訂正してくる。

 「違いますよ。ヒメノさんです。」

 (…まさか、また逢えるとは…)

 


11.2030年✕月2日 22時 宇宙警備隊 隊長 サイ


 (はぁ、……やっと終わった。) 

 朝から、苦情処理.謝罪会議.本部への報告.その他もろもろ。

 何とか、話しをまとめて地球側に許して貰った。

 (後で、本部に送る反省文かかなければ。)

 カイ一人の責任では済まない、3人の失態。

 やはり、地球の娯楽を制限するべきか。

 地球は他の星ではみられない娯楽が発展した面白い星だ。

 映画、テレビ、ラジオ、ゲームにパソコン、音楽も多種多様で、スポーツは何種類もある。

 地球の情報として最低限の娯楽もスポーツも名前だけは知っていたが実際にこの星に来て見ると、多種多様なスゴいモノばかりだ。

 こんな辺境の星に赴任する事になった時、同僚も家族もみんな貧乏くじ引いたとか散々言われた。

 大きな星だと派遣人数も5人以上になるが、地球は最低限の3人のみ。 

 その内一人は新人隊員だ、それだけ扱いは最低レベル。

 そんな俺達はつまらない地球生活を送る予定だった、が実際は毎日楽しい。

 地球人と交流する機会をたくさんつくり、いろんな国の文化に触れてきた。

 アメリカではスポーツ対決で野球やバスケット、アフリカで100m走対決やオーストラリアで水泳対決。

 はたまた最新ゲームで対決、魚釣りなんてものもあった。

 各国のメディアで放送され、それがネットで世界中に流れる。

 中でも一番地球の言葉でいうバズったのは、日本で制作された『宇宙ポリス』という特撮番組。

 4人の宇宙人ポリスと1人の地球人が正義の戦士宇宙ポリスに変身して、悪の宇宙人と戦うストーリー。

 恋愛あり、友情あり、巨大ロボットあり、本物の宇宙警備隊の友情出演アリ。

 おかげで世界中の子供達が警備隊への興味をもってくれた。

 最初にカイが過去の戦◯ヒーローの映像データを入手したことから、3人で地球人を知るためにと勉強会的な感じで観始めた。

 ラ◯ダーになり、ウ◯トラ戦士になり、スーパー◯ンやバット◯ン。

 そのうちアニメになり、アン◯ンマンからドラ◯もん、この辺り迄は純粋に地球文化を知る為の勉強会で良かった。

 おかしくなってきたのは、ガ◯ダム辺りから?だと思う。

 気がつけばロボットの製作企画書を作っていたり、バトルスーツの開発案や変身道具の構想を練っていたり、戦闘機の改良プランを考えてる俺。

 カイは気づけば部屋中プラモとフィギュアだらけだし、アイは世界中の音楽にはまって仕事中以外はずっとイヤホンで何か聞いているし、いつの間にか部屋に見知らぬ楽器が大量に増えていた。

 (これでいいのか?、宇宙警備隊?。)

 地球人が見たら驚くだろうな、とてもプライベートは見せられない。

 (まあそもそも、こんな辺境の星にまでわざわざ来る様な宇宙人はいない。10年前に来た奴らも戦闘力に差が有りすぎて、なめてかかってたしな。)

 10年前、地球に侵略を仕掛けてきたとある宇宙人の一団がいた。

 地球人達も応戦したが戦力は赤子と大人の差であり、このままでは侵略から逃れられず奴隷のように扱われ人々は苦しめられる。

 何度も会議し宇宙人と交渉を試みるが、相手にされず困り果てていた時、宇宙警備隊の戦闘部隊がたすけに来て敵を殲滅、ボスを逮捕してくれたのだ。

 おかげで地球は宇宙人の奴隷にならず、自由を取り戻した。

 尚且、宇宙警備隊という協力な助けを手に入れるのだから喜んで警備隊を受け入れしてくれた。

 しかし、地球は多民族が集まり国もいっぱいある星で、いざ契約になると予想通り揉め始めた。

 

 何処の国が主導権を握るかで大国が揉め。

 誰が代表で契約するかで、国のトップ達が言い争い。

 何処の国に宇宙人を受け入れるんだ!。

 その金は何処から出るんだ!。

 だいたい、宇宙警備隊なんて信じていいなのか?

 いつか裏切られたらどうする!!


 ……


 時間がたつと、宇宙人受け入れの気持ちもだんだん覚めてくる。

 こうなる事を予測していた本部代表は、

  

  隊員は、あくまで連絡窓口で非戦闘員を主軸に最低人数で、居住は宇宙船内で、地球の外で待機。

  何かあったらすぐに本部から戦闘部隊がワープで駆けつける。

  金銭の要求はなし、ワイロも一切受け取らない。

  新しい技術の提供は警備隊の受け入れが落ち着いたら10年後をメドに少しずつ提供をしていく。

 

 かなり甘い契約だ。

 

 各国の思惑は新しい技術提供。

 どの国も喉から手が出るほど欲しい餌で釣って、あっというまに契約をしてしまった。

 契約者もなし、あくまでも善意の無料奉仕だと。

 ただ、各国で専用の担当者を一人決めて会議を定期的に行う事。

 会議の内容は全ての国民に開示する事。

 そして、全ての国が宇宙警備隊と宇宙人を受け入れ、態勢を整える事にお互いに協力する事。

 あれから5年。

 受け入れは、思ったより順調に進んでいると思う、もちろんいまだ反対派もいるが少ないほうではないか。

 (ちょっと順調過ぎて、中だるみしてたかな。次の5年に向けて気合いを引き締めなければ。)

 ここ5年の間、定期的に地球に降りて一国ずつ順番に視察している。

 行く場所はランダムで、直前までどこに行くかは公表せず、終わってからどこに行ってきたか警備隊のホームページで発表する。

 最近は抜け駆けして何とか接触し、他の国を出し抜こうってやからが定期視察で地球に降りるたび何処で予定を嗅ぎ付けてくるのかやたら多い。

 地球の196ある各国を順番に回っているが、予定はその訪れる国にしか伝えないし、ランダムに場所も変えている。

 (誰かがリークしているんだろう。)

 まだまだ、地球人には宇宙の技術をもたせるには早いと、本部でも結論はでている。

 平和のために使われるなら良いが、地球は常に争いが絶えない星でもある。

 この5年間、地球の事は観察し続けているが小さな争いから大きな争いが絶えない星なのが残念だ。

 (宇宙人に侵略されそうになった時一つにまとまる星もあるが、ここはならなかったし変わらなかった。)

 宇宙警備隊が介入したタイミングが早すぎれば、この様になる事も多い。

 遅ければ、沢山の犠牲者がでていた。

 宇宙警備隊としては後者を選ぶ事しか出来ない。

 助けた後、加入を促しても入らない所もある。

 (まぁ、加入したからには協力はするけど。今日はもう寝るかなぁ、流石に疲れた。)


 ppp…ppp…


 「げっ!!!!」


 本部から緊急コールだ。

 慌てて、通信をつなぐ。

 「はい、太陽系地球警備隊サイです。」

 『サイ君、今日はご苦労様だったね。』

 「本部長、いえこちらこそご迷惑を…」

 『その事は後で始末書で、地球にて緊急案件が発生した。』 

 「は!?、緊急案件ですか?地球に?」

 『そうだ。今日問題になった手配犯、地球に潜伏している可能性がでてきた。』

 「……へ?……マジですか?」

 『あくまでも可能性だが。』

 

 地球に指名手配犯?


 あり得ん!!


 『30分後に緊急会議をひらく。準備してくれ。』

 あぁ、寝れないのか…。

 「かしこまりました。」


12.2030年✕月2日 23時 フランス 西園寺ヒメノ


 コンコン


 ホテルの部屋のドアが軽くノックされた。

 ヒメノは、ドアスコープから外を確認する。

 扉の前にレオナールが立っている。

 ドアを少し開け外に他に人が潜んでないか確認して、レオナールを招き入れた。

 そのまま中を指さし部屋の奥へ行くよう、目で合図する。

 しっかり閉めておいたカーテンの隙間から外もしっかりチェック。

 『あの、ヒメ…何故そこまで?』

 「何故って、さっきも思ったけどあなた何も知らないの!?」

  そういうと、ヒメノはパソコンの画面をレオナールに見せる。

 「さっきやっと見られるようになった。」

 画面には宇宙警備隊のホームページ。

 『はっ? えっ? 指名手配? 俺達が?!』

 画面を見たレオナールは、放心状態になり固まった。

 ヒメノは備え付けのコーヒーをいれながら話しかける。

 「昨日からどうしようってずっと悩んで、とりあえず普通にしていれば解らないはずって考えていたら、…あなたさっきテレパス使ったでしょ。」

 コーヒーをテーブルに置きながら、レオナールをにらむ。


 先ほど会場であった時、突然頭の中に声が響いてきた。

 〈ヒメ、まさかお会いできるなんて…〉

 (これって、テレパス…!?。マズイ!!。)

 レオナールに向かって、軽く首を振りきつく目で訴える。

 レオナールもとっさの事に驚いているが、ヒメノの険しい顔から何か察したのかおとなしくなった。

 ヒメノは、にこやかな笑顔を作り、レオナールに近寄る。

 「始めまして、マエストロ.レオナール。ヒメノ西園寺です。」

 『…あぁ、初めまして。よろしく頼むよ。』

 「早速ですが、少し曲についてお話しても?。」

 『少しなら、…すまないジャスミン席を外してもらえるか。』

 ジャスミンは少し不審そうな顔をする。

 マネージャーとしては、初めて会う二人の間を取り持ち、ヒメノの良きアドバイザーでもあるので一緒に話を聞くのが普通である。

 「あぁ大丈夫よ、ジャスミンそこにいて。とりあえずレオナールさんが持つ曲のイメージを…。」

 『それなら…。』

 曲について話しを始め、さりげなくジャスミンに向かって背を向けてたつ。

 とりあえず、曲について話しをしながらレオナールが持っていたペンをさらっと奪うとホテルの名前と部屋番号を端の方に書く。

 「なるほど、ここの解釈はそんな感じですね。わかりました。」

 わざとらしく声をだし、礼を言う。

 「では、また明日よろしくお願いいたします。」

 『あぁ』 

 その後、オケに挨拶しジャスミンとすぐに引き上げたのだ。


 「いい、宇宙警備隊に目つけられたのよ私達!!テレパスなんか使って見つかったら…。」

 『…スミマセン、ヒメ。』

 「ヒメって呼ぶのも禁止。あたしは西園寺ヒメノ。」

 『はい、ヒメノ。』

 ヒメノも向かいに座りコーヒーを飲む。

 『しかし、この身体になってテレパスが使えるとは思っていなかったので、自分も驚いて。』

 「確かに!それはあたしもおもわなかったけど、…今まで気づかなかったなぁ。」

 『彼らの星ではテレパスが会話だったから自然とでてきた感じでしょうか。多分私達が出会わなければ、死ぬ迄気づく事なく終わっていたでしょうね。』

 そう、彼らの星には言葉なんてない、文字もない、そして

 「口ないもんね。」

 今、地球でこうしてコーヒーを飲むなんて彼女らには考えられないことだっただろう。

  

 ヒメノの中には彼女(ヒメ)の記憶がある。

 

 彼女達がこの星、地球にたどり着いたのは15年前くらい。

 たどり着いた青い星は、美しくて心を踊らせた。

 しばらくは、宇宙船ごと深海に身を潜めて地球を観察していた。

 そして彼女達の願い通り、地球は音に満ち溢れた素敵な星だったのだ。

 数年観察したのち、彼女達は特殊な眠りについた。

 彼女達にしか出来ない秘密の魔法、それは 


 《この星の人間に転生する》


 条件はいくつかある。

 死んで地球人の赤ん坊に産まれて来るのとは違い、地球人と融合する感じだ。

 誰でも良いわけでもない。気が合わないといけない。

 相手が少しでも受け入れてくれなければ駄目だ。

 なおかつ、この魔法は相手が死の淵にあることが絶対条件なのだ。


 ヒメノも、15歳の時死を宣告された。


ヒメノの家、西園寺家は明治時代から続く由緒あるお家、…の末端。

 名前こそ名乗っているが、しがない分家。

 親は本家の顔色伺いながら、小さい関連会社を任され一応社長でヒメノも社長令嬢だ。

 産まれた子供が女で体もあまり丈夫ではなかったので、母は本家でいろいろ嫌みを言われていた。

 ヒメノは、小さなころからいろいろな習い事をさせられた。

 体が弱いのでどれも長く続けられなかったが

、3歳から始めたピアノで才能があることがわかった。

 本人も楽しんでやっていたので、両親もピアノ一本に絞り全てをかけた。

 10歳の時には天才少女と言われるようになり、海外からもオファーが来るようになる。

 そのころになると本家の態度も変わって来て、両親への嫌みは賛美に変わりふたりとも喜んでいた。

 全て順調だった15歳、来月かなり有名なウィーンのオケに呼ばれ演奏する事が決まり、毎日張り切っていた。

 学校とピアノの練習で充実していたある日、突然ヒメノは倒れた。

 そして医師からは、不治の病宣告。

 それも、あと数ヶ月持つかも解らない。

 幸せの絶頂から奈落の底へ。

 

 (…誰か、助けて…。まだ死にたくない…。)


 若いから進行も早く、どんどん体が動かなくなる。

 毎晩病院のベッドの上で泣いていた。

 

 そして、明日はウィーンでピアノを弾く予定だった日。

 (…体中に繋がれた…コードや点滴を…引きちぎって…今すぐウィーンに行きたい…ピアノ…弾きたい…)


 (…神様、…お願いします…今すぐウィーンに…  )



 ピー


 

 病室には、誰もいない。


 両親はヒメノが不治の病と知ると、あっというまに離婚した。

 本家からの罵倒に耐えられなかった母はヒメノを見捨て逃げるように実家へ帰った。

 父は親権を持ったが、西園寺家の見栄のためにだけ。

 一度も見舞いに来なかった。


 一人きりで、ヒメノは死んだ。

 

 しかし、ヒメノには奇跡が起きた。

 ヒメが命をくれたのだ。

 ヒメの願いはただひとつ。


 {コノイノチツカッテオンカクヲツツケテ}

 


 ピ ピ ピ



 ヒメノの答えはもちろん…  YES。


 (そこからがまた大変だったんだけど。)

 命はもらったが、病気が治った訳ではない。

 しかし、それから少しずつ病状は良くなっていった。 

 (あたしの体で何かが変わったの?ヒメのお陰?。)

 一月もすると完全にヒメと融合し、朦朧としていた意識もハッキリしてきた。

 (助かったんだ、あたし生きてる。)

 医師も、今日にも明日にも死にそうだったヒメノが、少しずつ回復していくのに奇跡としか考えられないと驚きを隠しきれなかった。

 その頃になると、やっと父親が面会に来たが拒否した。

 (今さら父親ずらするな!。)

 まさかヒメノが回復すると思ってもいなかったが、回復したならまだ利用価値があるとでも思ったのだろう。

 医師も看護士もヒメノの味方で、父親の面会を禁止してくれた。

 とは言っても、まだ15歳で未成年の為親の世話にならざるをえない。

 ヒメノは悩んだ。

 (どうせすぐには復帰出来ないだろうし、こっちがあいつらを利用してやる。)

 18歳になるまでに、体を完璧に回復させる。

 (ATMだと思おう。後3年の我慢。それまでに何とか家を離れる手段を見つけよう。)

 ヒメノは、固く決意した。

 3年後、ヒメノは今の事務所と契約して日本を出た。

 両親達には、絶縁宣言をして。

 

 ヒメノはソファーから立ち上がり腰に手を当て、レオナールに向かって指を指す。

 「とにかく、テレパスは禁止。」

 『はい。』

 「あなたは、マエストロ.レオナール。」

 『はい。』

 「私は西園寺ヒメノ、わかった。」

 『はい。』

 何かへんな感じ、まるで上司と部下だ。

 「あの、さっきから「はい」しか言ってないけど。何で?」

 『…本能ではないでしょうか。過去私はあなたの護衛だったわけですし。』

 「なるほど…。」

 彼は、ヒメを守る護衛係だった。

 ウーン、長年の主従関係は簡単には消えない訳ね。

 『…ヒメ。』

 レオナールが立ち上がり、ヒメノの側に来ると跪く。

 「えっ?、ちょっと!!」

 驚くヒメノの手を両手で優しく包みこむ。

 『…ヒメお逢いできて良かった。』

 「…」

 

 そうだよね。

 過去のなつかしい記憶が、よみがえる。

 指名手配なんかされてから、悪い事しか考えてなかった。

 「うん、逢えて嬉しいよ、…テオア。」

 (良いこともある。もう、今日だけ特別だからね。)

 

 レオナールの体をそっと抱きしめた。



13.2030年✕月2日 20時 カナダ エマ田中


 「エマさん、明日の取材の手順確認しておきましょう。」

 フライトまでもう少しある。

 「そうだね、飛行機の中は寝たいし。」

 明日は長年夢だった音楽家にインタビューをするため、アシスタント兼カメラマンのトミーとフランスだ。

 いつもは、一人で取材してカメラも自分でという事の方が多い。

 しかし今回は違う、相手は今人気上昇中のピアニスト。

 ちゃんとしたカメラマンを連れて行かないと失礼になってしまう。

 30分くらいで搭乗が始まり、無事飛び立つ。

 トミーは、すぐにアイマスクをして寝てしまう。

 どこでも眠れる、それは記者なら当然。

 エマもそうだ。

 しかし、今夜は眠れないだろう。

 (はぁ。昼間は忙しさで考えなくてすんだけど…。本当に存在してた。)

 ずっと、夢だと思っていた。

 (じゃあ、あれは夢じゃあない?現実!。)

 さすがに、混乱している。

 (それに指名手配…、罪状は書いてないし、発表もされてないので何で指名手配なのかわからない。どうなってるの??。)

 エマが見てきた夢が事実なら、彼らはただ星を出てきただけだ。

 

 音楽を求めて。


 彼らの星には音楽がなかった。

 何故かは解らないが禁じられていた。

 しかし、音はある。

 歩く足音、葉っぱが風でゆれる音や道具が使われる音。

 音と音が混じり重なり、連なり、リズムが生まれ、やがて音楽になる。

 しかし、彼らの星ではずっと禁じられてきた。

 この星の会話がテレパスなためか、進化の過程で口は消えた。

 いや、最初からなかったのかもしれない。

 しかし、音はある。

 あの5人は、隠れて音楽を楽しんでいた、秘密を共有する仲間。

 

 確か…ヒメの護衛についたテオアと、家庭教師になった先生、二人とも上流階級の出身で王家の血を引く素敵な方々。

 ヒメの姉的存在の世話係。

 そして、もう一人…。


 考えているうちに、だんだん睡魔が襲ってきた。

 (ダメだ…、明日にしよう…。)

   

 エマもアイマスクをすると、睡魔に身をゆだねた。



14.2030年✕月3日 10時 アメリカ ライアン


「おはよう!」

 会議室のドアを開ける。

 「ライアン、元気ね。休養はばっちりとれたかしら。」

 部屋には俺のマネジメント会社女社長リリーさんと、その隣で秘書のマックスが電話中らしく話しながら頭を軽く下げてくる。

 俺は軽くマックスに手を上げ荷物を置くと、近くにあるコーヒースタンドに向かう。

 飲むのはブラックコーヒー、カフェオレは家ソフィアが入れたものしか飲まないと決めている。

 「電話が終わるまで少し待っててね。」

 「はい、大丈夫です。待ちますよ。」

 しばらくしてマックスの電話の話しがまとまったのか社長へ電話が渡されて、マックスが興奮しながら近づいてきた。

 「ライアンさん、例の仕事決まりましたよ!!。」

 マックスが電話の邪魔をしないよう小声で話してくる。

 「例のって…何だっけ?」

 「忘れてます、謎のシンガーのバックアップメンバーオーディション!!」

 「…あぁ、あれか。」

 先月密かに行われたオーディションはオーディションとは名ばかりで、俺の担当楽器ドラムはほぼ決定だったらしい。

 話によると謎シンガーのご指名らしいが、オーディションに姿を見せなかったので本人にはいまだに会えてない。

 オーディションで会えるのかと思っていたが、映像を撮って後で見せるとかで、何時間もドラムを叩き続けてクタクタになったのが記憶にある。

 (あれね?まだ連絡来てなかったのか。)

 ギター、ベース他の楽器もオーディションがあったらしいが難航していると界隈で噂になっていた。

 (何で俺だけ、即決定だったんだか?。そいつの人となりがよく解らないからあまり乗り気じゃないんだよなぁ…。)

 謎のシンガー、名前さえ公表されてない。

 一年くらい前に彗星のごとくネットに現れ、その美声で世界中から注目の的になった。

 顔も年齢も性別も出身も非公表。

 単独で歌っていたが、何処かマネジメント事務所と契約して活動範囲を広げるらしく、バックアップバンドメンバーオーディションの話しが舞い込んできた。

 事務所は話しが俺にきたことに大喜びで、その時は俺も素直に嬉しかった。

 しかし、オーディションに行ってからあまり乗り気じゃなくなった。

 事務所のみんなは大きな仕事が決まりそうで期待されまくりなので、断りづらい雰囲気だ、。

 (それに、今は指名手配の件がなぁ…。あれさえなければもう少し喜べたのかな?)

 指名手配が何故なのか解らない今、気持ちは守りに入っている。

 (せめて理由が分かれば、何か対策が出来るかも…いや、そもそも捕まるはずはないと思うんだが…。)

 正直何度記憶をたどって考えても、捕まる理由なんてないのだ。

 あるとすれば、誰の許可もなく勝手に星を出て行った事くらいだ。

 だとしても、やはり捕まるはずはない。

 何故なら

(もう彼らの星はないから…。消滅した星から指名手配なんて出来るはずない。だとしたら誰が俺達を?)

 

 社長の電話がまだ続いていたので、また余計な事を考え始めてしまう。

 考えても、何も解らない。

 考えるだけ無駄なのだが、不安で仕方ない。

 今ライアンは家族がいて、好きな仕事が出来て幸せなのだ。

9年前に一度失いかけた幸せ。

 今こうして生きているのは彼らのお陰なのだ。

 

 9年前、ライアンは人生最大の日を迎えていた。

 かなり有名なバンドのサポートメンバー、ドラム担当が年齢を理由に引退する事になり、後任のドラマーを選ぶオーディションの最終選考に残っていた。

 各事務所にそこそこ経験のある若手で将来有望株を推薦して欲しいとオファーがあった。

 ライアンは今の事務所に推薦してもらい、参加していた。

 実力はあるのに、なかなか仕事が上手くいかない。

 ライアンは身長も高く、がっちりした体格で色黒。

 見た目がいかつすぎるとNOを言われる事も多い。

 職人がたきで、言い争いになる事もしばしば。

 ゆえに、なかなか仕事が続かない、一回限りとか短期の仕事ばかりだ。

 事務所から最後のチャンスと言われてしまった。

 これに落ちたら、解雇されてしまう。

 そして、私生活では結婚したばかりでもうすぐ子供が産まれる。

 (絶対に、このオーディション勝ち取る!!。)

 最終審査で、他のバンドメンバーと演奏して感触も良い。

 (きっと大丈夫!。)

 演奏が終わり控え室に戻ると、すぐ携帯の電源を入れる。

 審査中は集中するため電源を切っていたが、もう終わったので今度はこっちに集中する。

 今朝、妻のソフィアが陣痛が始まったと義理の母から連絡があった。

 メールでお義母さんから逐一報告が届いていたが、産まれたとはまだきてない。

 すぐに妻の携帯にかけると、お義母さんがでた。

 「産まれましたか?。」

 「分娩室に入ったからもうすぐよ。」

 電話の向こうから、ソフィアの力む声が聞こえる。

 コンコン、扉がノックされた。

 「もうすぐ終わるので、即効で病院行きますから。ソフィアの事よろしくお願いいします。」

 (もう、決まったのか?。)

 急いで電話を切り扉を開けると、最終審査に残っていたジョージが立っていた。

 「何だ、ジョージか。」

 「…。」

 ジョージはハイスクール時代に知りあったドラマー仲間の一人。

 最近はお互い仕事が上手く行かない仲間で、よく飲みに行って愚痴っていたが、俺が結婚してから連絡が取れなくなっていた。

 「なんだよ俺今暇じゃないんだ、用があるなら早くしてもらえるか?。」

 ジョージは下を向いて黙りこんでいる。

 「おい、どうした?。」

 ジョージは俺の手をはらいのけると、血走った目で俺を睨む。

 「ソフィアに子供が産まれる?。お前の?。」

 「?!、もうすぐ産まれるけど、それが?。」

 「…俺がソフィアと結婚して子供産ませるはずだったのに、横からかっさらいやがって!」

 「?!、おい、いったいなんの話だよ??。」

 俺とソフィアは子供の頃からの知り合いで

いわゆる幼なじみだ。

 ハイスクールに入った時から恋人になった。

 ジョージとはたまたま二人でいた時に、一度だけすれ違った程度だったはず。

 「うるさい!うるさい!馬鹿にしやがって!。女だけでなく、仕事まで横取りか?。裏金でも渡したのか!。」

 ジョージは、大声で叫びながら俺につかみかかってくる。

 騒ぎを聞きつけスタッフが駆けつけ、ジョージを取り押さえた。

 暴れるジョージをスタッフが他の部屋に連れていき、俺は事情を聞かれる。

 「いや、すみません。俺もよくわからないので…。」

 とりあえず、俺達の関係とさっきの会話を説明する。

 「…困ったね。」

 「?!。」

 今ので印象最悪!。

 人生終わりかも。

 「この後、お祝いもかねてみんなで食事会をしようと思ってたのに、…残念だ。」

 (あぁ、ソフィアになんて言えば…。)

 「まったく、本当に仕事バカだね。すぐに、病院いきなさい!。奥さんに早く合格したって報告して安心させてあげて。」

 「…えっ?!。」

 「合格だよ。おめでとう。」

 スタッフみんなニヤニヤ笑ってる。

 「ジョージの事はこっちに任せて、はやく!。」

 俺は頷くと、急いで荷物をまとめ帰ろうとしたが、携帯が鳴る。

 「産まれたよ!!。女の子だ。」

 義母の興奮した声が大きく、みんなにも聞こえ喜びの声があがる。

 「ライアン、おめでとう!!」

 スタッフみんなからお祝いされ、二重の喜びになった。

 「ありがとうございます、すみません行きますね。」

 みんなに見送られスタジオから出て、タクシーを拾うために大通りに向かって走る。

 時間はもうすぐ夜になろうという時間で、天気も曇りなので薄暗かった。

 (あぁ、早くソフィアと産まれた子供に会いたい!。)

 まさに、俺は舞い上がっていた。

 周りが見えていなかった…。

 突然、俺の後ろから激しい車のエンジン音が聞こえてくる。

 「!!。」

 後ろを振り返ろうとしたが、


 ドン!!


 車は猛スピードで俺の背後に追突してきた。


 空中に数メートル撥ね飛ばされた俺は地面に叩きつけられた。

 (…ジョージの車…。)

 かすかにある意識、見覚えのある車。

 その車が、今度は猛スピードでバックして俺に向かってくる。

 (ソフィア…。)


 ドン!!


 そこで俺の意識は途絶えた。

 

 …はずだった。

 しかし、生き返った。

 気がついたら、病院のベッドの上。

 身体中にいろんなコードがついていて、動けない。

 しばらくすると、看護士が驚いて医師を呼びに行き、さらに子供を抱いたソフィアが駆けつけて号泣した。

 両親も駆けつけて、事務所の社長もみんな泣いていた。

 (あぁ、そうだ…。俺は、一度死んだのか。)

 不思議な出来事があった。

 誰かが、俺に命をくれたのだ。

 

 {ドラムトハオモシロイガツキダ、ボクモタタキタイ、ボクノイノチアゲルカラ}


 (俺はただ一度でいい、我が子を抱きしめたい。

 頑張って産んでくれた妻に、ありがとうと言って抱きしめたい…。)

 

 {ジヨウケンハ、オンガクヲツヅケルコトダケダドウスル}

 

 (聞くまでもない、生き返るなら悪魔とだって契約する。)

 

 {ケイヤクセイリツ}


 俺は、1ヶ月意識不明だったらしい。

 奇跡的に、身体は何ヵ所か骨折ですんだし、リハビリすれば元通りの生活を遅れそうだ。

 日頃から鍛え上げておいたおかげだな。

 打ち所が悪ければ即死でもおかしくなかったと医師は言っていた。

 (ゴメン、実は死んでたんだけど…。)

 意識さえ戻れば大丈夫だと医師も太鼓判をおした。

 

 ジョージは、現行犯逮捕された。

 警察が駆けつけた時、ジョージは一人で車の運転席で笑っていたらしい。

 隣の部屋に押し込めらてスタッフに事情を聞かれていたジョージは、外から「産まれたって」「おめでとう」の声を聞いて様子がおかしくなり、外に一瞬気を取られたスタッフの隙をついて逃走。

 追いかけるスタッフを振り切って車に乗り込み発進。

 そのまま、猛スピードで俺を撥ね飛ばした。

 オーディション現場は悲鳴と怒号が飛び交い、何人かスタッフにも怪我人がでたため、沢山の救急車とパトカー、野次馬にテレビカメラで一晩中騒がしかった。

 (オーディション会場で殺人事件!!)

 メディアが、俺達家族の周りに押し掛けてきたが、社長達が報道を規制してくれた。

 婦人は子供を産んだばかりで、そんな日に旦那も生死をさまよい精神的に参っているからそっとしておいて欲しいと。

 警察がジョージを取り調べたが、まともな会話は出来なくなっていた。

 携帯から、ソフィアに宛てた送られていない大量のメールと隠し撮りされた写真や動画が見つかり、ストーカーだった事が判明。

 メールについてはソフィアに相談されて俺も知っていたが、誰からか分からず気持ち悪いのですぐに拒否に設定していたしアドレスも変えていた。

 それを聞いたソフィアも驚いたと言う。

 二人が会ったのはほんの一瞬、俺と買い物帰りに偶然すれ違っただけなのだから。

 後から、あれは誰だと聞かれて「恋人だ。」と答えただけだ。

 それ以外は何も話してなかった。

 ジョージを知る友達達によると、ソフィアと言う恋人がいるとよく話していたらしく、真実を知るとかなり驚いていた。

 仕事が上手く行ったら、結婚する予定だと話していたとも。

 事件は、ストーカーの妄想による暴走殺人未遂事件としてジョージは精神鑑定が行われていると警察が教えてくれた。

 

 俺は一週間もしたら普通の病室に移り、やっと子供を抱っこ出来た。

 「可愛い。」

 一人ではまだ無理なので、ソフィアに支えてもらいなが赤ん坊を抱いた。

 (暖かい。)

 俺は一生この温もりを忘れない。


 つい、想いでに浸ってしまった。

 社長はまだ話中だ。

 「で、どんな感じで話は進んでいるんだ?。」

 椅子に腰掛けマックスに小声で質問する。

 「まずは内密にメンバー顔合わせがあります。それで問題なければ、メンバーお披露目ですね。まだ正式決定ではないですけどネットで発表らしいですよ。」

 前からネット中心で活動は続けて行くと聞いていた。

 仕事を受けたのも、無駄に動き回らず済みそうだから。

 ドラマーの仕事を始めて早10年。

 あの後、先輩ドラマーは事情を知って引退を一年延ばしてくれ、一年後華々しくライブで引き継ぎ式をしてくれた。

 それから俺は【不死身のドラマー】なんてあだ名がついて仕事に引っ張りだこの生活を送っている。

 (俺に触ると、お守りより効果あるとか一時期あったな…。)

 今はとある人気シンガーのバックアップメンバーとしてツアーに参加して世界中を飛び回っていたり、いろんなレコーディングに参加したり、結構忙しい。

 3日前迄はツアーでオーストラリアに行っていた。

 明日からツアーのラストを締めくくるアメリカツアーが始まる。

 今日まではつかの間の休養日だった。

 (家族水入らずで、ゆっくりする予定だったのにな。)

 社長が電話をしたまま、俺に向かって手招きしている。

 「どうしました?。」

 「話たいらしいよ、シンガー君が!」

 そう言いながら、今度は俺に電話が渡された。

 (始めは、お電話からか。顔を合わせるのはいつになる事やら?!。)

 「はい、変わりました。ライアンです。」

 少し緊張しながら電話で話すと野太い男性の声で。

 「…変わります。」

 は?。

 用心深い、確実に俺に変わってから相手も変わるってどんだけ秘密主義何だよ!

 「…やぁ、久しぶりだね。」

 さっきの声とは明らかに違う、透明で澄んだ心地よい声が耳に入ってくる。

 ライアンもネットで何度も聞いた謎シンガーの声、どうやら本人で間違いなさそうだ。

 しかし、久しぶりとは?、会った事はないはずだ。

 それとも、オーディションに隠れて潜入していたのか?。

 顔がわからないから、スタッフの振りで紛れ混む事も出来たはずだ。

 「始めましてだと思うが。」

 ちょっとムッっとした声になってしまった。

 「相変わらず真面目君だねキミは。」

 電話の向こうで笑いながら話す奴に更にムカついて、

 「失礼な奴だな!、用がないならサヨナラだ。」

 電話を切ろうとすると、近くで見守っていた社長とマックスが真っ青な顔で「頼むから切るなー!!」と口をパクパクさせている。

 「まぁまぁ、落ち着きなよライアン。じゃあこう言えばよいかな、…久しぶりだね…ワムス。」

 

 (!!! …この人をおちょくる話し方…。)

 

 「とりあえず俺の電話番号言うから、…いや、やっぱり君の電話番号教えて。謎シンガーの秘密はばれてはいけないから。ほら、早く!」

 

 (こいつは…)

 

 相変わらず自分勝手な奴だ。



15.2030年✕月3日 16時 フランス レオナール


『少し早いが休憩しよう。』

 指揮棒を置くと、所々で息を吐き張り詰めた空気が緩んで行く。

 「このまま夕飯いれてしまいましょう。」

 『そうだな、じゃあ少し長めに取ってくれ。』

 「では16時過ぎたので18時から再開するから。各自ゆっくり飯食ってこい。次は地獄の3曲目だからな。」

 コンマスの指示で各々散って行く。

 このコンサートホールを出れば、沢山の店があるからみんな息抜きを兼ねて外で食べる事が多い。

 今日は朝からここで1日リハーサルが行われている

 なので昼と夜の休憩は長めに取り、休憩を挟んで軽く3曲仕上げる予定だ。

 1曲目がオケだけで演奏する交響曲。

 2曲目はヒメノとやるピアノ協奏曲。

 3曲目はソリストとやるオペラの曲で、ソリストはシークレットになっていて舞台に上がるまで誰かわからない趣向になっている。

 今日の午前中にヒメノを交えてリハーサルだった。

 明日は、朝からシークレットゲストがリハーサル予定だ。

 レオナールも指揮者控え室に戻ろうと歩きだすが、何人か個々の質問が始まり歩きながら質問に答えて行く。

 控え室の前で全員の質問に答え終わったら15分も経っていた。

 「レオナールさん外行きませんか?。」

 一人が、声をかけてきた。

 『いや、少し寝たい(笑)。食事は買ってきたのがあるから大丈夫だ。』

 「じゃあ、俺たちは行きますね。」

 『あぁ、起きて来なかったら起こしに来てくれ。』

 部屋に一人になると携帯でタイマーをかけて電気を暗くし、ソファーに横になる。

30分だけ目を閉じて、脳内をリセットしたい。

 が、無理かも…しれない。

 頭に流れてきたのは、今日の朝の音楽。

 (朝のヒメノとの音楽は最高だったなぁ~。)

 思い出すだけで体が震える。

 

 今までは一人だった。

 一人でも音楽を奏でられて幸せだと満足していた。

 しかし、仲間に巡り逢えた。

 音楽を続けて来たからこそ、巡り逢えた。

 そして、念願のセッション。

 仲間と初めてセッション出来た。

 その喜びで、泣きそうになった。

 ヒメノを見れば、同じく泣いていた。

 「…スミマセン、皆さんと出来た事にあまりにも嬉しくて…。」

 ヒメノの言葉につられて、泣いてる奴もいた。

 (素敵だ、音楽は。)

 その後、ヒメノは俺と目を合わせて、軽く微笑む。

 二人にしか解らない、この感情。

 

 (微笑んだヒメノも素敵だった…。)

 

 そうして、もうひとつ新しい感情。

 

 (…そうか、これが恋という感情なんだな…。)


 地球に来て、しばらく地球人を観察していた時に自分達とだいぶ違う生き物な事に驚いた。

 地球人は、口と言うものが付いている。

 人だけではなく、他の生物にも。

 口は、栄養を取り、この星で生きる為に必要な酸素を吸い込み、二酸化炭素を吐き出す。

 これをしないと地球人は生きられない。

 そして口を使って会話する。

 星の中で、いろんな言葉がある事にも驚いた。

 自分達は1つの言葉でテレパスで会話するだけだったから。

 さらに驚いたのが、家族の有方、作り方。

 男女が恋に落ち、口と口をくっつける。

 これをキスとか接吻とか言う。

 更に体を繋げて繁殖する。 

 繁殖は自分達も子孫を作る一貫としてあるのだが、そこに感情はない。

 しかし、地球人は繁殖するまでがとても大変だった。

 自分の好みを見つけ、まずは恋人という関係に

なる、ここまでが長い時間がかかる。

 次に婚約者というものに関係が変わるのだが、

そうなる前に失敗する、とまた恋人探しから最スタート戻る。

 婚約者に変わるとすぐに夫婦と言う者になり

繁殖が許される。

 これが基本らしいが、夫婦にならなくとも至るところで繁殖活動はされていて、子供ができてから夫婦になる場合もある。

 自分達の星では考えられない事ばかりで、正直受け入れずらかった。

 自分達は、産まれた時からツガイが決まっている。

 ある程度成人すると、家族になり繁殖する。

(そこに、愛とか恋とかいう感情はなかったからな。)

 そう言うレオナール、テオアにも家族がいた。

 仕事は王家の護衛隊、ヒメ付き。

 仕事がらなかなか家には帰れなかったが、帰ればツガイの妻と可愛い子供達が待っていてそれが当たり前にあった。

 そこに感情などない。

 おかしいと思う事もなかった。

 産まれて、成長し、成人したらツガイと新しい家族を作り家を出て、繁殖して子供を産む。

 ただそれだけの繰り返し。

 仕事も決まっていた。

 テオアの一族は王家の護衛隊、父は国王の、母は王妃の護衛。

 仕事を選ぶとかはない、一族は同じ仕事のみ。

 他の仕事など考えた事もなかった。

 なのでこの星に来て家族の有方、働くのを選べる自由と苦難、ツガイを選ぶ戦い、驚く事ばかりだ。

 感情なく生きてきたテオアはレオナールと融合したが、彼も音楽一筋の音楽バカ。

 恋や愛など興味はなく、頭の中は音楽で一杯。

 イケメンで雑誌で特集されるほど人気だが、女の影すらなく、一部では同性愛疑惑もある。

 なので、レオナールにとって初めての恋だ。

 恋というものがどんなものか、観察していた時に誰がまとめた資料によると。 

 その人を見ると心拍数が上がる。(怖い場合もあがる。)

 体温が上がる。(病気の時も上がる。)

 その人をつい目が追いかけてしまう。(怪しい奴を見かけた時も追いかける。)

 寝ても覚めても、その人の事を考えてしまう。(間違えるとストーカーになり、捕まる。)

 接吻や繁殖がしたくなる。(同意を得る。無理やりすると嫌われるが、一部では無理やりを希望する人も。)

 

 『はぁ、恋とは恐ろしい病だというたとえがあるが、本当に恐ろしい。進行具合が半端ない。』

 まだ数時間しか経っていないのに、今すぐヒメノに逢いたくて仕方ない。

 抱きしめたい、キスしたい、もうこんな事を考えてしまっている。

 恐ろしい病だ。

 

 コンコン


 控えめにノックがされる。

 (もう時間か?。)

 「…レオナールさん、起きてますか?。」

 少し扉が開いて、小声で確認される。

 『すまない、時間か。』

 「いえ、まだなんですけど…、ちょっと困った事態が起きまして…。」

 ソファーから立ち上がり伸びをする。

 ドアを開けるとスタッフが興奮したようすで立っていた。

 『どうした?、』

 「突然来たんですよ、ビックリで、いや本物なんでみんな驚いちゃって!。」  

 『??、落ち着け、何が来たんだ?。』

 「あ、スミマセン興奮しちゃって、宇宙警備隊ですよ!それも3人揃って。」


 (!!  …それって、最悪かもしれない…。)

 

 終わったかも…。


 捕まるのか、逃げるか?

 

 呆然として立ち尽くす俺を見てスタッフが声をかける。

 「スミマセン!寝てるところ起こしましたよね。顔色悪いですよ、大丈夫ですか?」

 『…問題ない。』

 「なんか全員に話しが聞きたいらしく集まって欲しいみたいです。まだみんな外に出てるので待ってもらっているのですが、予定より10分早く戻ってもらえますか。」

 『分かった。』

 扉を閉めると、頭を抱えソファーに座りこむ。

 (頭が混乱して、どうしたら…。)

 とにかく、ヒメノに連絡を。

 携帯を取り出すと、昨日交換したヒメノのナンバーをコールする。

 「はい、ヒメノです。」



16.2030年✕月3日 16時 フランス 宇宙警備隊 アイ


 (やっぱりあり得ないよなぁ。地球に指名手配犯とか、あり得ん。)

 俺達は今3人でフランスという国に来ている。

 フランスの宇宙警備隊責任者のトーマスさんも一緒だ。

 トーマスさんの顔からは、不安が滲み出ている。

 (そりゃそうだよな、突然呼び出されて、指名手配犯がいるかもなんて言われたら。)

 俺達だって驚いた。

 昨日の本部との緊急会議で話しを聞いて、しかも地球にいる可能性は…。

 (0.0001%って、言われても。いやいないだろ。)

 やる気は全く上がらない。

 しかし、0.0001とは言え調査しない訳にはいかない。

 勝手に地球に降りて、捜査するわけにもいかないので、トーマスさんにも同行をお願いしなければならない。

 トーマスさんも上に報告しなければならない。

 とりあえず大事にしない視察を装おった調査にする事で話しはついた。

 しかし、その0.0001%の発生源と思われるこの場所はしっかり調査しない訳にはいかない。

 (音楽ホールか。)

 昨日、この場所から地球外生物の存在0.0001%感知した。

 もちろん、過去にも感知されて捜査したが、今の所発見したのは、ガラクタばかり。

 特に一番多いのが隕石だ。

 何度かテレビクルーがついて来て、『世紀の大発見、地球に宇宙人は居たのか!』なんて番組が作られた事もある。

 しかも、隕石は0.01%位で感知されるので結構多い。

 その度調査していたら拉致があかないので、地球の隕石専用探知機が作られ格段に調査は減っていた。

 その隕石より劣る、0.0001%。

 今、カイさんが探知機を持って会場の周りを一周するのにお供しているが、もちろん反応はない。

 次は範囲を広げて行きながら、この作業を何回か繰り返す。

 (ふわぁ、眠い。…隊長いいな、待機とか。)

 仕方ない、隊長は昨日ほとんど寝てない。

 後始末が終わってさぁ寝ようという所で、緊急会議、その後フランスのトーマスさんと連絡とって話し合い。

 準備は俺がやるからお前達は寝とけ、その代わり調査は任せた。

 宣言どうり、隊長は挨拶だけ済ませて車で寝てる。

 カイさんは失態を取り戻す為に、メチャクチャ張り切って調査してるし。

 (正直外れだろ、これ。マジで退屈。…ん、?)

 音楽ホールの正面入口に戻ってきた。

 入口に貼られたポスターをちらっと見る。

 明後日の公演ポスターだ。

 【一夜限りの夢共演マエストロ.レオナール◯◯◯…】

 (クラシックねぇ~。あれ眠くなるんだよなぁ。)

 前に他の国に挨拶&交流で行った時に、どこかの国でクラシックコンサートに招待されて聞きに行ったのだが…。

 (あの時、一応地球人にいるとばれると騒ぎになるからって配慮して上の隅っこの目立たない席で良かったよなぁ。二人とも5分とたたずに寝たし。)

 一応音楽に興味のあった俺は最後まで頑張って起きて聞いてたが、あの時の担当さんの冷たい視線…。

 終わった後、平謝りしてた隊長とカイさん。

 担当さんも笑顔で大人の対応していたし。

 「地球人にも価値観に違いはあるからそこは仕方ないですよ。で、アイさんいかがでした?、最後まで聞いていらっしゃいましたよね!。クラシックって言うものには歴史がありまして…。」

 担当さんはいかにクラシックが素晴らしいか、嬉々として語り始める。

 隊長とカイさんも、素直に寝とけば良かったのにばかだなぁってこっち見て苦笑いしていた。

 (あの後、隊長が機転利かせでうまい事終わらせてくれたけど、夜な夜な話す勢いだったもんなぁ。)

 帰る俺にお土産と称してクラシックのお勧めCD

をたくさんくれようとして、隊長に止められていたし。

 あれ以来、音楽は好きだがクラシックは確実に遠ざかっている。

 が、しかし明日はこのコンサートを聞く事が決まってしまった。

 人気らしく席が空いていないので機械室で見る事になっている。

 (まぁ仕事だし、二人も流石に寝ないだろうし。)

 「はぁ。」

 「何してるアイ!次、行くぞ!!」

 カイさんが探知機片手に次の測定ポイントに向かって歩き始める。

 次はここを中心にさらに500メートル先をぐるりと一周、その後は1キロ先。

 「はぁ、今行きますよ。」

 夜中までかかりそうだ。



17.2030年✕月3日 18時 フランス 宇宙警備隊隊長サイ


「どうも皆さま初めまして!。宇宙警備隊隊長のサイと申します。今日は貴重なお時間を少しだけお借りさせていただきありがとうございます。なに、ちょっとだけ皆さんに確認したいことがあるだけです。10分もかかりませんのでご協力お願いします。」

 集められた人々は、少し不安そうな顔をしていたが、俺の言葉と隣でニコニコ笑顔を振り撒いているアイの存在で少し落ち着いた感じだ。

 特に女子の視線はアイに釘付けでみんな携帯片手にソワソワしている。

 (写真撮りたいんだろうな…。)

 「さっそくですが、昨日の16時30分くらいから17時30分くらいにかけて何かこの辺りで変わった事はありませんでしたか?。その時間皆さんこの辺りにいらっしゃいましたよね。」

 関係者一同お互いを見渡して話しているが特に何もなさそうだ。

 【隊長、とくに有益な情報はなさそうです。】

 会場の端に隠れているカイから通信が入る。

 彼は、わざと姿を見せず探知機片手に隠れている。

 彼にはちょっとした特殊能力があり、一キロくらいならそこにいる人間の会話を網羅して処理する事が出来る。

 なので、俺は質問するだけでくいい。

 ひそひそ話も小声でも、カイの耳には届くから。

 「ありがとうございます、特に大丈夫そうですね。お時間いただきありがとうございます。あ、アイと写真撮りたい方どうぞ、ネットに上げない自分だけの保管が条件になりますが。」

 アイが、チラッとこっちを見てくる。

 勘弁してくださいと眼で訴えて来たがもう遅い。

 「キャー、アイさん写真お願いします!」

 「ずるい!あたしが先よ!!」

 「家宝にします!」

 群がる女子と遠巻きに写真をとる男子たち、中には「団長さん、お願いします!」なんてレアな女性もいる。

 …う、まずいな収拾がつかなくなってきた、適度に切り上げないと。

 

 パンパンパン!!


 騒然としていた会場内に、棒の乾いた音が響く。

 すると、一瞬で全員が我に返り静かになる。

 ステージに二人の男が立っていた。

 右の男が棒を片手に、呆れた顔で立っている。

 (さっきの音はあの棒か?)

 さらに左の男が手を叩くと、全員に向かって話し始めた。

 「ほら、時間が勿体無い始めるぞ。」

 しかしまだ写真が撮れてない一部女子から不満の声があがる、こんな機会二度とないからなぁ。

 「わかった、わかった順番に並べサクサク撮って終わらすぞ。携帯準備して、お前らカメラマンしろ。」

 テキパキ指示を出すと、さっきまでの混乱が嘘のように写真撮影会は3分で終わる。

 「よし、みんな満足したか!じゃあ最後は俺とお願いします。」

 みんなが一斉に笑う!

 「なんだ、コンマスも撮りたかったんじゃないですか!。」

 男は自分のカメラを出してニコニコ笑顔でシャッターを押した。

 「妻と息子がファンなんだよ、悪いか?!。ありがとうございました、よし始めるぞ!!。」

 コンマスと呼ばれた男はステージに戻って楽器を持つと、右にいた男と話し始める。

 「よし、一回通してやるから。」

 

 これ以上は邪魔になるので会場の外にでる。

 「隊長、止めて下さいよ無茶振り。」

 アイは笑顔を作りまくり過ぎたのか、げっそりした顔で抗議してくる。

 「すまんすまん。」

 後から出てきたカイと合流すると、さっきまで俺が仮眠していた車に一回戻って情報交換タイムだ。

 「全員の話しを聞いた限りでは、特に何もなかったようです。いつもどうりだったみたいですよ。」

 カイの特殊能力、探知機からも何もでない。

 「やはり、隕石とか?それも凄く小さなやつ?もしくは探知機故障説。」

 「アイ、ふざけるな!おいらが苦労して作った探知機バカにするなよ!。」

 「わかんないじゃないですか!!だって反応しないじゃないですか、0.0001すら。」

 「止めろ。」

 二人の会話をさえぎった。

 「昨日いたのはコンサート関係者だけではない。コンサートホールの周りにはいろいろなショップがあるし、ちょっとした公園になっていて犬の散歩してる人もいる。近くにはホテルもある。100%は無理だ。」

 二人も不毛だとわかっているからお互いに軽く謝る。

 「まぁ流石に疲れたな。今日は近くのホテルをトーマスさんがとってくれたから休もう。今後の事は本部に報告してからだな。さぁ、美味しい飯でも食おうぜ。」

 二人の肩をバシッと叩きながら、外で待機してるトーマスさんに声をかける。

 「トーマスさん、今日は切り上げます。」

 「そうですね、ではホテルの方へご案内しましょう。美味しいフレンチでも…。」

 「あ、いや多分こいつらは…。」

 振り返って二人を見ると、目を輝かせてこっちを見ている。

 あー、やっぱり今日も始まるか。

 「トーマスさん、ありがたいのですが正式な視察ではないので、遠慮してもよいですかね。」

 「はい、問題はないですが。」

 カイが勢いよく手を挙げる。

 「はい、マ◯ド。おいらの勝ち!。」

 「あ、ずるい、前回は泣く泣く譲ってあげたじゃないですか!!今日こそケ◯タにして下さい!!」

 「言ったもん勝ちだよ、フランスのビックマ◯クお前も食べたいだろ?。」

 「どこで食べても一緒です!!。」

 毎回、どこの国に行ってもいつもこうなる。

 各国でいろんな民族料理を味あわせてもらったが最終的にはここに落ち着いた。

 何故なら安くて美味しい、そして何処の国に行ってもあるから。

 「…あの、両方行けばよいのでは、ほら。」

 トーマスさんが指差す方を見ると、どちらのお店の看板も目に入る。

 「おお、ここは天国か!。」

 「いいところですね。最高過ぎる!!明日の朝は朝マ◯ク食べましょ。」

 「お、いいね。それ最高!!」

 二人ともすっかり意気投合してメニューを検索し始める。

 「まとまりましたね、団長さんもメニュー決めて下さい。私買ってきますよ。」

 トーマスさんが、ニコニコしながらメモを取る準備を始める。

 「はぁ、スミマセン。こいつら結構食いますから荷物持ち行きます。よろしくお願いいたします。」

 


18.2030年✕月3日 17時 アメリカ ライアン


 「やぁ、ライアン。懐かしいなぁ。ずいぶん大きくなって、立派りっぱ。」

 部屋に入ると若い男が出迎えてくれた。

 部屋の中なのに、帽子を深くかぶりマスクをしサングラスまでかけている。

 「なんだ、相変わらず失礼だな、全部外せよ!!。」

 「駄目ダメ。僕達が初めて会うのは、来週。今日はまだ顔見せられないよ。君初めて会う演技とか出来る?下手そうだから来週までのお楽しみ。」

 そう言いながら、ソファーに座ると。

 「あ、冷蔵庫からお茶出して。」

 俺を顎で使う。

 仕方なしに冷蔵庫からペットボトルのお茶を2本出して奴の前に一本置くと反対のソファーに座る。

 朝の電話で「実は近くまで来てるから会いに行くよ。」と、夕方ホテルに来いと部屋番号をいわれた。

 くれぐれも目立たないように来いとも。

 俺は帽子とメガネだけをチョイスした。

 あまりやり過ぎるとかえって目立つ、こいつまさかとは思うがこの格好で入口から入って来たのか?。

 お茶を一口飲み、奴の事を観察する。

 (意外と若い?、身長も高くないし、小柄だな。)

 その体でよくあんな声が出せる。

 (脱いだら、結構マッチョなのか?。)

 「…何だよ、じろじろ見すぎ。昔より自分がでかくなって、俺が小さくなって、違和感でしょ。」

 確かに、昔融合する前の俺はオウジに比べたら小さかったか。

 (小さいというか、普通サイズよりちょっと小さいくらいだったし、オウジが普通より高いだけだったのに。)

 今の俺はドラマ-なせいでがっちりした体格で身長も190センチくらいある。

 「で、あなた様をなんとお呼びしたらよいでしすか、謎シンガーさま。」

 「うーん、本名教えてあげたいんだけど、そもそもないんだよね。」

 「は、!?」

 「君だって聞いた事あるだろ、無戸籍ってやつ。名前すらないんだよね、この体の子。国籍も判らん。」

 「…また、変な奴と融合したな。」

 無戸籍とは、産まれた子供を届けることが出来ない事情があったのか。

 「でも声は最高なんだ。君だって知っているでしょ。」

 「まぁ、…じゃあオウジと呼びましょか?!。」

 「えー、そこは謎シンガー様で行こうよ。」

 「…謎シンガー様、何で俺をご指名で。」

 「やっぱ、オウジでいいよ、何かめんどくさい。」

 「…何で呼び出した。」

 オウジは、足をテーブルに投げだす。

 マナーのない奴。

 「ご指名は、君の腕が一流だからさ。僕のお眼鏡にかなうって凄い事なんだよ。」

 それが本当なら、まぁちょっと嬉しい。

 「でも、今日はその件で呼んだんじゃない。」

 オウジは一枚のパンフレットを取り出して寄越した。

 「なんだ、これは。」

 クラシックコンサートのパンフレットのようだ。

 「俺がわかるのは英語のみだ。何語?」

 「フランス語、それみて何か感じない?!。」

 写真にはイケメンのフランス人らしい男性と、東洋系の若い女性が印刷されている。

 「それ、ヒメとテオア。」

 「え、!?」

  もう一度写真をみるが流石に分からない。

 「何で分かるんだよ…。」

 オウジは、ニヤニヤ笑っている。

 「驚いた?。いや、俺って昔から特別じゃん。」

 「おい、ふざけてないで真面目に答えろよ。」

 昔からこんな感じで話が進まない。

 「もう、昔から君ってくそ真面目だよね。面白くない!。」

 そっぽむかれた。

 「はぁ、今それどころじゃないだろ。宇宙警備隊ニュース観たんだろ?!。」

 「まぁね。」

 正面に向き直ると、お茶に手をだす。

 キャップを開けるとわざわざ横むいて飲み始める。

 「僕はね、君らとは違うんだ。」

 「何が?。」

 また正面を向き直り、お茶をテーブルに置くと、ゆっくり話し始める。

 「僕が融合した彼はさ、命あげるって言ったのに断られたんだ。このまま死なせてくれって。」

 全員が生きたい訳じゃない、そう言う奴もいるだろう。

 「みた感じ若いし、生きる事に執着なかったのか。よく融合できたな??。」

 「彼はさ、路上で歌ってたんだ。その辺は君も知っているだろ。」

 謎シンガーの話しは顔とか年齢は非公表だが、路上で歌ってたのをスカウトされたと言うのは有名な話し。

 しかし、この手の話しはよくある。

 彼は少し違う。

 「路上ライブで最高の声で歌えたんだ。彼は満足して死んだ。だから俺が命あげるから生き返るように言ったけど満たされた彼は望まなかった。むしろ死にたがってた。」

 

 日本の新宿という街の片隅で1000人近い人が立ち止まり聞き惚れていた路上ライブ。

 彼の歌声で聞いていた観客達は涙を流し拍手喝采。

 しかし、数秒後。

 シンガーが前向きに倒れ込み、観客達も何が起こったかわからず起き上がらない彼の異変に混乱。

 たまたま居合わせた医者と看護士が助けに入り蘇生措置をして助かった。

 その後、命をとりとめた彼は、デビューした後にこの話しを公表し、命を助けてくれた人々に感謝した。

 最初のシングル曲の売り上げの一部を日本の医療関係に寄付したと。

  

 「まぁ、ここまでは皆が知ってるし。」 

 もちろん、俺が知ってるのもこれくらいだ。

 「まぁ、さっきも言ったけど融合断られちゃって。でも俺はずっとあいつを見てた。あいつの歌が良かったから何度もお願いしたんだ。この俺様

がだぜ!!」

 確かに、いつものオウジなら一回駄目ならすぐに諦めて…いや、なんて面白くない!とか言って他に行くだろう。

 「で、本人の同意なしにできないだろ。どうやったんだ?。」

 「うーん、粘り勝ち?!。最後は、君の好きにしなよって。」

 粘り勝ちって、どんだけ粘ったんだ。

 「だから融合したけど、体だけ。意識は100%俺な訳。」

 あぁ、そう言うことか。

 融合する時お互いの記憶は共有するが、死ぬ間際に俺達の命を与えても、俺達になるのでわなく、元の人間として100%生きて行く。

 オウジは本体に拒否され、体はもらえたが意識は100%オウジのままなのか。

 「彼の意志もかすかに奥底にあるんだけど、呼び掛けても全然ででこないんだよな…。」 

 少し悲しそうな顔でオウジが話す。

 「一応入院中なんども対話を試みたんだけど、頑なでさ。一度だけ返事してきて、「君達の事情は理解したから好きにして。僕は君がどうやって生きるか、ここで観てる。」だって。だから好きにする事にしたんだ。」

 入院中にいくつかオファーが来ていたから、うまいことやれば売れる。

 後は簡単だった。

 (確かに、オウジなら簡単だろう。むしろ、こいつを自由にしたこと後悔してるんじゃないか?。)

 オウジはよく言えば、自由奔放。

 頭の回転も速いし、なんだかんだ人望もある。 

 次期国王になるために産まれてきただけのことはあるなと感心させられた事もなくはない。

 が、俺達側近に見せる顔は、わがままでひねくれもの、1言えば100返ってくる口の悪さ。

 (口の悪さは地球的表現だな、テレパスで

頭の中に直接くるからたちが悪い。)

 今思い出して、考えるとぞっとする。

 遠くにいても頭に直接声が届いて、あれやこれやわがまま言ってきて、何処にいようが何をしていようがお構い無し。

 地球人なら即ノイローゼだ。

 「お前、周りに迷惑かけてない?。」

 「はん!ばかにするなよ。俺様だぜ。うまくやるに決まっているだろ。」

 地球人の少年の振りをして、無戸籍.無国籍.名無しを不器に助けてくれた医者.病院を泣き落としで見方につけた。

 さらにそれをむしろ不器にしてくれそうなレコード会社を探して、情報操作で向こうから接触してくる様に仕向けて契約。

 新しいYouTuberが誕生した。

 「で、こっちは落ち着いたから君達を一応探して見ようかなって、暇だし。」

 俺達が有名になってメディアに出始めたらすぐに気づいたらしい。

 「みんな死の淵からよみがえったみたいな報道されるからめっちゃわかりやすかったよ。」

 携帯をひらいて二人を検索する。

 ヒメノ西園寺は、15歳の時に不治の病にかかり奇跡的に回復。

 マエストロ.レオナールは、首に大怪我を追って駄目かと思われたが手術は成功し奇跡的に一命を取り留めたと書かれている。

 「実はこっそり会いに行ってみたわけ。余り近付くと流石に気付いちゃうかなぁと思って少し離れた場所から。君はライブ観たんだ、野外で広かったから大変だったよ。あ、でももう一人いただろ。あの女は未だにさっぱりだけど。」

 「で、何が言いたいんだよ。」

 「すぐ怒るの禁止!。これからが重要なんだから。今、宇宙警備隊がフランスにいるんだよ。」

 「それって。二人が見つかったってことか!!。」

 あぁ、どんどん悪い方へと向かっている。

 「まだ分からないよ。」

 そう言うとオウジは携帯とパソコンを取り出し、いくつかの投稿を見せてくれた。

 「宇宙警備隊がきてから、俺様はちゃんと警戒して奴らの行動は全てチェックしてるんだ

。」

 一応警備隊の写真や映像を無断で投稿出来ない規則になっていて、公式なもの以外は見つかると直ちに削除されるように各国手配されている。

 「ところが、消されるまでに少し時間があるから一瞬でもアップされれば俺のパソコンに記録が残るように改造してある。まぁ地球の技術じゃまだまだ無理だな。」

 パソコンを操作して、今日のアップされた動画を見せてくれた。

 (宇宙警備隊らしき人発見?!アイさんの美しさは作業着では隠しきれない。)

 と言う文字とともに、作業着を着た警備隊の隊員アイとカイが小さな機械を手に歩いている動画がアップされていた。

 「アップされたのはフランス、場所も特定してある。まさにこのコンサートが開催される会場の近くだった。」

 あぁ、明後日開催されるなら二人はもう会っているはず。流石に目と鼻の先までくれば二人だってお互いの招待に気付いただろう。

 「って、俺達もヤバいんじゃないのか?!。会ってていいのか?!。」

 慌てて立ち上がる。

 「うーん、多分大丈夫。一応俺達は()()()だから。

 そうか、冷静に考えればそうだ。

 俺は宇宙人ではなく、地球人ライアンだ。

 死にかけて命はもらったが、ずっとライアンだ。

 (3日前まではただのドラマ-ライアンだったのに…。)

 相変わらず、幸せが壊れて行く感じが消えない。

 「あの二人何してくれてんのか。普通にしていれば、ばれるはずはないんだけど。」

 オウジも困り顔だ。

 「で、どうするんだ?。」

 「うん、どうしたらいいと思う?。」

 しばし沈黙。

 「わざわざ来たから何か策があるんだろ?。」

 「え、ないよ。」

 「…。」

 「とりあえず様子見かなぁ。まぁバカじゃなきゃあの二人だって何とかするんじゃない。一応何かあった時の為に、フランス行っておきますか。一緒に行く?フランス。」

 「俺は、明日からまたライブツアーだ。」

 「えー、残念。一緒にエッフェル塔登りたかったのに~。」

 「もういいだろ、俺は関わらない。帰る。」

 俺は、立ち上がるとドアに向かう。

 もう話す事はない。

 少しでも早く家に帰りたかった。

 「ライアン、…君は幸せなんだね。」

 驚いて振り返る。

 あのオウジの口からそんな言葉が出てくるなんて。

 「…俺の幸せ邪魔しないで下さい。フランス行って何があったとしても俺は関係ない。」

 「…それが正解だよ。ここ出たら今日までの俺達の接点全部消しておいて。来週顔合わせがはじめましてで。」

 頷くと、俺もめがねと帽子を被り部屋を出る。

 警戒しながらエレベーターに乗ると、オウジの電話番号を消して着信履歴も削除する。

 電話番号は頭の隅に記憶に残した。

 多分、二度と掛けることはないだろう。

 (仕事も断ろう。)

 社長達になんて言って説得するか、かなり大変だな。



19.2030年✕月3日 17時 フランス エマ田中


 (うー、なんだろう、凄く緊張してきた。)

 エマとトミーはとあるホテルの会議室の前の廊下で待機していた。

 インタビューの順番待ち中だ。

 本当は、演奏の後にも取材したいのだが、前取材しか取れなかった。

 (まぁ、家は、お堅いクラシック雑誌ではないからな。仕方ない。)

 エマの勤めている出版社は、お堅い大手出版社とは違い、中堅出版社。

  むしろ、取材許可が取れた事が奇跡に等しい。

 (許可取れて良かった。編集長も喜んでたし。)

 演奏後の取材は出来ないので本番は記者席で聴いて感想を記事にする。

 隣にいるトミーは、カメラを準備しながら少しそわそわしている。

 トミーは、今日の取材が終われば次があるので帰ってしまう。

 「次は、アメリカだっけ?。」

 「はい、最終便に間に合いそうですね。」

 トミーは優秀なカメラマンで引っ張りだこなので忙しい。

 しかし、その合間を縫って山に登り野生の花や植物の写真、山頂からの景色を写して回る山岳カメラマンでもある。

 体力は半端ない。

 今はとあるバンドのライブツアーに帯同しながら取材している他の記者に頼まれて、カメラマンとして一緒に回っている。

 ちょうどラストツアー前の休みと重なって手が空いたのと、新しい音楽ホールの写真が撮りたかった他の雑誌からの依頼でついてきてくれたのだ。

 「しかし呼ばれませんね、前の人が終わってからだいぶ立ちますよ。いくらなんでも遅くないですか?。」

たしかに、前の取材の記者が出てから15分は過ぎた。

 「電話とか言ってたよね。」

 前の取材が終わった直後担当の女性ジャスミンさんが、「マエストロから電話が入ったので少しお待ちください。」と言われた。

 マエストロ.レオナールからの電話じゃ、待つしかない、けど…。

 扉をそっと、物音立てずに1cm位開く。

 「(小声)ちょっと、エマさん!。マズイですって。」

 そう言いながら、トミーも隙間に耳を傾ける。

 何も聞こえない。

 隙間から覗くと、ジャスミンさんが続きの扉の前でソワソワ落ち着かない様子。

 記者魂とカメラマン魂が、こりゃ何かあるとビンビンくる。

 トミーが、私にここにいるように指でサインを出すと、静かに、隣の部屋に続くドアに近づきそっと隙間をあける。

 見つかったら、取材許可取り消しとかになるかも。

 トミーはしばらく聞き耳を立てていたが、静かに戻ってきた。

 こっちの扉もそっと閉めると。

 「何か小声で話してたんでよくは聞こえなかったんですけど、ちょっと意外な事に西園寺さんが怒ってる感じがしたんですよね。」

 「マエストロに?!。意外!。」

 マエストロ.レオナールは見た目に反して音楽バカで浮いた話しひとつなく堅物で、根っからクラシック人間だ。

 もちろん取材は申込みしたが、話しも聞いてもらえなかった。 

 「聞こえた単語があったんですけど、何故か(ユニバースポリス)、宇宙警備隊でした。」

 「は?。」

 マエストロ.レオナールと西園寺ヒメノの会話が音楽についてではなく、宇宙警備隊?。

 前情報で調べた時、噂ではマエストロは反宇宙警備隊らしいが。

 「うーん、何かよく解らないな。」

 「とりあえず、ジャスミンさんに一回声かけてみましょうか。いくら僕らが取材最後でも、時間押してるし。」

 「そうだね。」

 エマは立ち上がると軽くドアをノックし、ドアを開けようとする。

 すると、先にドアが向こうから開き、エマの

上げた手は空振りに終わる。

 「あの-、…スミマセン。申し訳ないのですが、取材は明日に変更していただきたいのですが…。」

 ジャスミンさんが頭を深く下げている。

 「えっ!?」

 突然の事に驚く。

 「本当に申し訳ありません!!。」

 さらに頭を深く下げられてしまう。

 「…エマさん。」

 「…。」

 正直腹立たしい。

 しかし、ここで切れたら今までの苦労が全て終わる。

 「…わかりました。」

 ジャスミンさんも、少しほっとした様子になる。

 「…スミマセンが、カメラマンが同行出来るのが今日だけなので、明日は私のカメラになりますがよろしいでしょうか。」

 「…はい、こちらの約束反古なので。」

 正規のカメラマンを付けるように言ってきたのは、西園寺側からだった。

 「明日また連絡させていただきます。」

 そう言うと、ジャスミンさんは扉を閉める。

 ポンポン。

 トミーが、あたしの頭をやさしく撫でてくれる。

 「俺の事は気にするな、こんなの良くある事だろ。」

 そう言いながら、今度は背中をバチーンと叩かれた。

 「!!痛っ~い。」

 「後で写真チェックするからな!!カメラ持ってきてるだろ。」

 トミーは、自分の仕事カバンを開けると、数冊のジッパーに入ったノートを差し出した。

 「これ読んで頑張れよ。じゃ俺行くから。」

 そう言うと、トミーは荷物を持ってエレベーターに乗る。

 ジッパーから取り出し開いて見ると、写真の撮り方についてまとめられた古いノートだった。

 (ちょっと!何これ、泣かせたいの?。)

 その古さをみれば、トミーの頑張ってきたのがわかる。

 いつもカバンに入れて持ち歩いているのかノートはしなっている、何ヵ所もテープで補修されているのは何度も開いているから。

 泣くのをこらえると、エレベーターに向かって歩き初めた。

 早くホテルに帰って、ノートを読まねば。



20.2030年✕月3日 17時 フランス 西園寺ヒメノ。


 「えっ、宇宙警備隊が来た!?!。」

 『はい、それも3人で。』

 

 ホテルの会議室を借りて、午後から取材を受けていたヒメノに電話が入った。

 ちょうど取材が終わり、あと一組で最後というタイミングだ。

 ジャスミンが携帯を預かっていたので、着信相手がだれか見られてしまった。

 レオナールの電話じゃ立場上でないわけにはいかない。

 「はい、ヒメノです。」

 『あぁ、()()大変です!!。』

 よほど慌てた声が聞こえる。

 「ちょっと、待って下さい。マエストロ.レオナール!。」

 少し強めの口調で名前を強調して言う。

 ジャスミンに、隣の空き部屋に行くと伝えて少し時間をもらう。

 元々2つの部屋は区切れるタイプの会議室で扉を動かせばひとつの大きな部屋になるタイプだ。

 今日は使っていないので両方使って良いと、ホテルから言われて借りている。

 扉を閉めると、部屋の真ん中辺りまで歩く。

 「お待たせ、どういう事?。」

 『スミマセン、順を追って話します。』

 少し落ち着きを取り戻したレオナールは、先ほどの会話をヒメノに話す。

 「…はぁ、絶対昨日のテレパスでしょ。それしか考えられない!!。」

 大きな声を出しそうになってしまい、、あわてて声を小さくする。

 『…どうしましょうか。』

 「そう言われても…。」

 落ち着けヒメノ。

 落ち着け、落ち着け。

 「今の所、私達が勝手にあたふたしてるだけで、まだ何も分からないわ。」

 『そうですね。テレパスだって一瞬でした。』

 そう、一瞬。

 時間にして一秒ほど。

 「とりあえず、何度も言うけど。私は西園寺ヒメノ。地球産まれで日本人。宇宙人じゃないわ。そしてあなたは、マエストロ.レオナール。地球で産まれたフランス人。」

 『はい、そうです。』

 「いつも通り、自分でいればいいの。余計な事はしない。」

 『はい、ではこの電話も今日のリハーサルで気になる事を話したと言う事で。』

 レオナールも落ち着きを取り戻してきたようだ。

 『あ、でも昨日部屋に行った事は…。』

 うっ!。

 流石にそこは突っ込んで聞かれたら何と答えたらいいものか。

 一応、私たちは昨日初めて会ったのだ。

 (今日以降なら、演奏した後だし音楽について語りあったと言う事もまだ出来るけど…。)

 流石に無理がある。

 「さすがに、宇宙警備隊もまだ私達を疑っているわけではないわ。」

 『そうですね。しかし、今決めておいた方が…。今後この話はしづらくなるかもしれません。』

 確かに、万が一目を付けられたらあの日の二人の行動はチェックされる。

 初めて会った二人がいきなり夜密会していれば怪しさ満載だ。

 100%二人は知り合いだと思われる。

 それも、ヒメノはかなりこそこそしていたし。

 (うっ、昨日の私に全力でバカって言いたい。)

 過去にはもどれない。

 (あぁー、もうどうしたら!!。次の取材も大分待たせてる!!)

 今日の取材の最後は、ヒメノが興味を持って会って見たかった記者だ。

 参考に送られてきた彼女の記事を読んで見て、会って見たいと興味が湧いた。

 一番最後にしたのは、話しが合いそうならそのまま夕飯に誘うつもりでいたから。

 『あの、ヒメノ。冷静になって考えたら、あの日私達は初めて会った。がしかし、私はヒメノと演奏したくて指名した。つまり前から気になっていた。』

 「…そうね。」

 『ヒメノも私の事は知っていましたか?。』

 思い出すのは、一年前。

 「うん、そうだね、一年前のこけら落とし公演パソコンで見たよ。感動したよ。」

 『その話しは他の方にしましたか?。』

 「いろんな人にしまくった。良かったとか感動したとか。」

 『今回の共演話が来た時は?。』

 確か3カ月くらい前だったか。

 「滅茶苦茶喜んだよ。周りの人が引くくらい。」

 今でも事務所では、時々あの時の話しをされるが恥ずかしい。

 『なおかつ、ヒメノは私の楽譜に部屋番号とホテル名を書いた。』

 はっ、書いた。

 ここまで聞けば、ヒメノにも分かる。

 「…書いたわ~。端から見れば完全にレオナールを誘ってるね…。」

 『はい、お互いに興味を持っていて、誘われた部屋に私はのこのこ行った訳です。時間にして2時間ちょっとだったと。』

 完全にやったと思われる。

 『ですので、100%肉体関係を疑われます。』

 「…だよね。」

 無いことには出来ない。

 『なので、そういう事にすればよいのでは。』

 「?!。どういう事?。」

 『ですから、二人は肉体関係にあると。』

 「!!。」

 『それが自然です。』

 確かに、そうだけど…。

 「レオナールは、困らないの。彼女とか?。」

 『いません。問題ありません。ヒメノは?。』

 「…私も、問題はないけど…。」

 『では、決まりですね。今夜も行きます。』

 さらりと言われて驚く。

 「えっ、何で?!。」

 『今日も行かないと不自然だからです。』

 う、確かに。

 『では、同じ時間に。』

 そういうと、電話がきれた。

 

 (何で、こうなった??。)

 立っていられずにしゃがみこむ。

 頭ではわかっているが、脳で処理しきれない。

 「ヒメノ!!。」

 様子を見に来たジャスミンがあわてて駆け寄ってくる。

 「どうしたの、顔色悪いよ。」

 何とか立ち上がる。

 「…大丈夫、ちょっと疲れちゃったみたい。」

 足元がふらつく。

 「今日はもう休んで。取材は明日にしてもらうから。」

 「…うん、部屋で休むよ。えっと、エマ田中さんにお詫びを…。」

 「それは、私の仕事。そんな顔で記者の前に出る何て、ノン。違う取材になるわよ。」

 確かに、下手に詮索されたら大変マズイ。

 エマさんだって記者だ。

 (あいたかったなぁ。明日謝らないと。)

 ちょっと残念だ。



21.2030年✕月3日 23時 フランス レオナール


ホテルの裏口から入るとエレベーターで15回まで上がる。

 昨日は少しおどおどこそこそしていた。

 今日も少しこそこそしたほうがよいだろう。

 一応サングラスをかけている。

 分かる人には私が誰か、見れば分かるくらいの変装だ。

 (むしろ、少し噂になるくらいがちょうどよいはず。)

 今日は1日いろいろあった、イヤ有りすぎたくらいだ。

 ヒメノとの演奏ですっかり恋に落ち、浮かれていた所に宇宙警備隊がやって来て、浮かれきっていた心もどん底まで落ち、今はまた浮かれていた。

 夕方はヒメノと話して平常心を取り戻した。

 平常心になれば、何て事はなかった。

 元々宇宙警備隊大嫌い人間で通っていたから、

みんな俺が遠くにいても何も言わないし、むしろ俺の機嫌が悪くならないかスタッフ一同はビクビクしていた。

 (まぁ、すぐに本物の警備隊が近くにきて興奮してみんな俺の事忘れてたけど。)

 しかしいつまでたっても、興奮は収まらず始まった警備隊との写真タイムは長引きそうだ。

 しばらくぼーっと眺めていたら横から視線を感じ、隣にいたコンマスの方を見る。

 『何だ?。』

 「いや、いつもなら怒りません?!。」

 『そうか?。あれは、無理じゃないか。興奮した人間は手に負えない。』

 「時間押してますよ。」

 確かに、予定時間が3分ほど過ぎた。

 「止められるのは、あなたくらいですよ。」

 『仕方ない。収集がつかなくなっているみたいだし。』

 仕方ないので、指揮棒を鳴らす。

 全員が一瞬我に帰りこっちを見る。

 「さすがです。」

 俺にだけ聞こえる小さな声でコンマスは言うと、全員に聞こえるように声を張り上げる。

 「時間が勿体ない。始めるぞ!。」

 さすがなのは、君の方だろ。

 全員を上手くまとめる天才だろ君は。

 みんなとコンマスの信頼度は半端ない。

 さっきまで雑然としていた写真タイムも、彼が入ればキレイにまとまりあっと言う間に終了した。

 さらに、「妻と子供がファンなんだよ。」

何て言いながら写真まで撮って場を和ませる。

 (イヤ、お前独身だろ!。)

 みんなわかっているからドット笑いが起きる。

 ホントさすがだ。

 (俺には出来ない芸当だ。)

 コイツには、敵わない。

 もちろん、本職であるバイオリンも。

 (初めて聞いた時にはショックだったんだよな。)

 レオナールも元々はバイオリニストだ、それも天才何て呼ばれていた。

 だからこそ解る。

 自分が天才なら、かれは神だと。

 コイツと奏でる音楽は最高何て言葉じゃ表現出来ない。

 (もっともっと高みに行けるはず!!。)

 そして、ヒメノだ。

 (彼女のピアノなら、さらに最高の音楽が完成される。)

 そう思い、オファーを出したのだ。

 (まさか、こんな事になるとは。想像もしなかった。)

 今レオナールは、再びヒメノの部屋の前に来た。

 (心臓が破裂しそうなくらいドキドキいってる。)

 少し感動する。

 本当に恋に落ちると、心臓が早鐘のようにドクドク音を立てる事が実証された。

 (ヒメノは怒ってないだろうか、それとも私と同じように心臓をドキドキさせて待っているだろうか。)

 先ほど電話で話した時に、ヒメノの意見は聞かずに、恋人の振りをする方向で話しをまとめた。

 誰がどうみても、深夜に密会してた。

 部屋で2時間もなにしてた?。

 記者にでも見られていたら、スキャンダルである。

 しかし宇宙警備隊が絡んできた今、少しでも疑われないよう注意しないといけない。

 そこにレオナールの思惑も重なる。

 (部屋に入ったら、後ろから抱きしめてヒメノにこの気持ちを伝えよう。)

 レオナールは、さらに先まで考えている。

 いわゆる、既成事実だ。

 (少しでも、ヒメノがその気がありそうならそのまま…。)

 ドアの前で決意を固めると、軽くノックをする。

 少ししてドアが開くと、ヒメノが腕を掴んで強引に引っ張り込まれた。

 (?!)

 そのまま部屋の奥まで引っ張られてソファーに座らされた。

 (もしかして、怒ってる?!)

 ヒメノは仁王立ちで拳を握りしめて震えている。

 『ヒメノ、あの…。』

 「…どうしよう。」

 『無理に恋人設定じゃなくても…。』

 「あり得ないんだけど…。」

 『なんなら、生き別れの兄妹とか…。』

 「信じられない…。」

 『ですよね、無理があるか…。』

 ヒメノがこっちを見る。

 「何の話しよ!!!。ヤバいのよ。会っちゃったの!!」

 『ヒメノこそ何の話し?。』

 ヒメノは顔を真っ赤にさせて、少し言いずらそうにしている。

 『ヒメノ?。』

 「…アイさんに…。」

 『アイさん?。』

 って誰?!。

 「…宇宙警備隊のアイさんに、会っちゃったの!!。」

 『えっ、それはマズイのでは?。何を探りに?。』

 向こうからヒメノ個人に接触してきたという事は何か奴らは掴んでるのか、俺達の情報を。

 「多分、違う…。」

 ヒメノは首を振る、相変わらず顔は赤いままだ。

 『ヒメノ?、顔が赤い?。まさか熱?!。具合が…。』

 「悪くない。これは、違うから。」

 『?!。』

 「…ゴメン、さっきの肉体関係の話しは無しで。やっぱり無理。」

 『何故です、それ以上に良い考えがあるのですか?。』

 「ない。」

 『では何故です?!完璧にはなしを作っておかないとボロが出ますよ。』

 「とにかく無理なものは無理。」

 どうしてこうなった?。

 『まさか、奴に何か言われたんですか。』

 ヒメノに問い詰めようとするが、更に顔を赤くして、アタワタし始める。

 「何かって、そんな何か言われた訳じゃないよ、ただちょっとお話しただけで…。」

 ん?、何かヒメノの様子がおかしい。 

 これではまるで、恋する乙女みたいではないか。

 さらにじっとヒメノを見ると、何も聞いてないのに話し始める。

 「アイさんに会った瞬間雷が落ちたみたいに衝撃が走ったの。アイさんも何だか積極的で…。」

 幸せそうに真っ赤な顔をさせているヒメノをただ呆然と見ていた。

 (えっ、俺失恋?。)

 よりによって、相手が宇宙警備隊??。

 『あのヒメノ、今自分たちのおかれた状況わかってます?』

 「わかってるわよ、だから一応さりげなく情報収集も疑われない程度にしたわよ。…あんまり聞けなかったけど…。」

 とりあえず、落ち着く必要があるな、…いろんな意味で。

 「はぁ、ヒメノ。ゆっくり話しを聞こう。まずは座って。」

 反対側のソファーに座るように促す。

 冷蔵庫から飲み物を取り出しながらレオナールは数分前の浮かれていた自分を思い浮かべそっとタメ息をつく。

 さっきまでドキドキしていた心臓が普通になっていた。

  


22.2030年✕月3日 18時 フランス 西園寺ヒメノ


 少し外の風に当たりたい。

 そう思ったヒメノは、4階にあるホテルの

庭園に来ていた。

 (やっぱり素敵。)

 4回はエレベーターを挟んで片方は屋内レストランが2つ入っていて、もう片方は屋外で庭園とカフェがある。

 昨日はホテルを観察する余裕もなかったが、今朝エレベーターで下まで降りる時、この素敵な庭園をみつけた。

あの後ジャスミンと一緒に一度は部屋に戻ってみたが、どうにも頭がスッキリしない。

 本当は夕食を4階のレストランでとって、その後庭園を散歩しようと予定していた。

 部屋でゆっくり休めば大丈夫、そう言ってジャスミンには部屋に帰ってもらった。

 ジャスミンも、時差ボケかもしれませんねと言っていたが少し不審に思っているだろう。

 レオナールとの電話から何かあったんじゃないかと思われている。

 (さっきも、レオナールさんに何を?って言ってたし。)

 少し気をつけないと。

 ジャスミンは到着から演奏が終わって次の日の取材が終わるまでお世話をしてくれる、ヒメノが所属している会社の現地マネージャーだ。

 ヒメノが所属している会社は、世界中を駆け回る音楽家達が多く在籍している。

 契約すれば、行った先でジャスミンの様なマネージャーがついてくれる。

 ジャスミンはフランス人で、日本語と中国語が話せるのでヒメノはいつも担当してもらっていた。

 ヒメノもいろんな国に行くようになってからその国の言葉を勉強中の為、ジャスミンは先生でもある。

 (階が違うとはいえ、ジャスミンもこのホテルに泊まっているし。本当に気をつけなきゃ。)

 万が一、レオナールが部屋に入るのを見られたら本当にヤバそうだ。

 

 ヒメノは軽く庭園を散歩してカフェにより、温かいコーヒーとサンドイッチを買う。

 広い庭園にはいろんな所にベンチや小さなテーブルと椅子のセットもある。

 ヒメノは、奥の方にあった半円系で東屋風の屋根付きの場所が気に入ったのでそこに腰をおろす。

 他の場所は夜景がよく見える席だったが、この辺りは木に囲まれてあえて夜景は見えないようになっている。

 (それが落ち着くのよね。これ考えた人天才。)

 地球人は、何かと夜景を見たがる生物だ。

 (たしかに、キレイだけど。あたしはこっちのほうが落ち着くなぁ。ヒメ達の住んでいた所もこんな所だったし。)

 ヒメと融合してから彼女の命だけでなく、記憶ももらった。

 彼女達が住んでいた所は地球的に表現するなら森だ。

 緑が豊かな森の中で生活していた。

 ヒメノも、それ以来こういう場所が落ち着くようになってしまった。

 ヒメノは目を閉じる。

 かすかに風があり、木々を揺らす。

 この音が心地よい。

 (ヤバい、少し眠くなってきたかも…。)

 目を閉じたまま、今日1日を振り返る。

 (…あぁ、エマ田中さん。怒ってるだろうな。)

 エマ田中の記事は堅苦しいクラシック雑誌とは違い、音楽全てを愛している人間が書いているなと感じる内容だった。

 取材対象もクラシックだけではなく、ロックからアイドル.演歌.歌謡曲、楽器の製作工房の熱い思いを伝える連載、作詞家.作曲家.編曲家を密着した一つの曲が出来上がる苦悩を取材した連載。

 気がつけば、夢中になって読んでしまった。

 (面白い!。エマ田中って事は半分日本人だよね?。)

 すぐに検索をかけて見ると、カナダと日本人のハーフ、YouTubeチャンネルもやっていた。

 観てみると、まさかメインはパン屋の取材。 

 (何故パン屋?。)

 カナダのパン屋がメインだが、他の国での取材先でもパン屋を見つけて歩いているらしい。

 (これは、是非会いたい。) 

 すっかりエマ田中にはまったヒメノはチャンネル登録し、取材を許可する旨会社に連絡を入れた。

 (楽しみにしてたから、明日本当に謝らなければ。)

 明日こそ夕食に誘えたら嬉しい。

 (できればお友達になりたいけど、さすがに無理かなぁ。)

 そんな事を考えていたら、あまりの気持ちよさに意識が遠のいていた。


 フワリと暖かいものが体を覆った。

 「…風邪ひきますよ。」

 誰かが何か体にかけてくれたらしい。

 (ん、寝ちゃた。)

 微かに目を開けると、見た事のある顔が見える。

 (店員さんでは、ない?。)

 少し警戒して目を開けると、心臓がドクンと音をたてる。

 「え、アイさん!?」

 驚いて飛び起きる。

 (何で?!。)

 アイさんも、驚いて少し離れる。

 「す、すみません。驚かすつもりは!。」

 アイさんは、頭を下げながら手をブンブン振る。

 「や、やましい事は何も、ただ寒そうだなって、店員さんにお願いしてブランケットを。」

 ヒメノの足元にブランケットが落ちている。

 「あ、ありがとうございます。すみません何か気持ち良くて寝ちゃったみたい。」

 ブランケットを拾いながら、アイさんにお礼を言う。

 (どうしよう、本物のアイさんだ。メチャクチャカッコいい。)

 ヒメノの心臓はバグバグしている。

 (レオナールには言ってないけど、実は隠れアイファン、通称【アイラ-】なんだよね。)

 ピアニストとしてのイメージがあるので公にしてないが、毎月の宇宙警備隊ニュースはアイさんに会える唯一の日なので楽しみにしている。

 いくつかあるネットのファンクラブにも入って情報収集しているし、世界中のファンと交流できるので、目撃情報なんかもすぐに入ってくる。

 (どうしよう、アイさんすぐに行っちゃうかも。何か、何か?!。)

 「あの?。」

 「はい!!。」

 「と、隣に座ってもいいですか?!。」

 見ればアイさんの顔は真っ赤だ。

 つられてヒメノも赤くなる。

 「あ、どうぞ。」

 「あ、ありがとうございます。」

 アイさんがヒメノの隣?いや、ゆうに5、6人は座れる半円の椅子の反対側、端と端に二人は座る形になる。

 (そこは隣ではないのでは…。)

 

 シーン。


 (えっとー。何を話したら…。)


 「あの!。」

 「はい!。」

 「…ここは、気持ちよい所…ですね。」

 「はい!。」

 アイさんが、赤い顔をしたままこっちを少しみる。

 (なにそれ、可愛すぎるんだけど!。)

 「ここは、故郷の星を思いだす。」

 「はい、あたしも…!!。」

 うっかり話しにのりかけて、我にかえる。

 (えっ、今の誘導?!。)

 「夜景は見飽きたので、こっちのほうが落ち着きそうだなって、寝ちゃうほど。」

 「気持ちよさそうに寝てましたよ。」

 アイさんは、ニコニコしながら頷いている。

 (浮かれて忘れてた。この人は宇宙警備隊。まさか、本当はばれてる?。)

 「まさか、アイさんにお会い出来る日がくるなんて。あ、いつも警備隊ニュースみてますよ。地球の平和を守っていただいてご苦労様です。」

 軽く頭を下げる。

 「!!、そんな。頭何か下げないで下さい!。警備隊隊員として当然の事をしてるだけで。」

 アイさんはまた両手をブンブン振り、片方をテーブルの角にぶつけた。

 「フフ、大丈夫ですか?。」

 思わず、笑ってしまう。

 「スミマセン、恥ずかしい。」

 「大丈夫です、私しか見てないですよ。」

 てを擦りながら、アイさんが何かブツブツ言っている。

 「…そういえば、アイさんがここにいるのはお仕事ですよね。あ、もしかしてあたしお邪魔では…。」

 「お邪魔なんて、とんでもない!!。今は仕事が終わってプライベートタイムですから。」

 「良かった!。じゃあコーヒー冷めてしまったのでおごりますから暖かいの一杯だけ付き合ってもらいませんか?。」

 「はい、喜んで!!。」

 アイさんは、立ち上がりスッと手を差し出してくれた。

 (カッコいい!!。)

 思わず手を取りそうになるが、なんとか堪える。

 (手でふれただけで、何か読み取られるかも…。)

 一人で立ち上がり冷めたコーヒーの乗ったトレーを持つ。 

 「手、痛いでしょ。」

 アイさんは、恥ずかしそうに苦笑いしながら手をさする。

 「実は、結構痛いです。」

 お互いに笑いながらカフェに行き、ヒメノはココアを、アイはコーヒーを頼む。

 その間もヒメノは余裕ぶりながら、アイから適度に距離を保つ。

 さっきの場所に戻りながら、うまい事情報を聞き出せないかと考える。

 (一番知りたい事…、なんだろう。)

 欲を出すと失敗するし、ボロが出るかもしれない。

 時間にして30分が限界だろう。

 たわいない話しを交えて、本命を聞き出す。

 無難なのは、この前の警備隊ニュースか。

 「そういえば、アイさんはいつもつなぎ着てるんですか?。」

 「今日は町中で仕事だったので、この格好です。まぁ一応変装というか、どうしても俺達目立ってしまうので。」

 「特にアイさんが、でしょ。」

 「まぁ、はい。」

 元の東屋に戻ると、ココアを一口飲む。

 「大変な仕事ですよね-。」

 「意外と地道な作業が多いのでそれほどでは。」

 「そういえば昔見ましたよ、隕石探すやつ!。」

 「はは、今日も同じような事してたんで、地味に疲れました。」

 なるほど、同じじゃない、すなわち隕石ではない何かを探して町中を歩いていたって事だ。

 「隕石もなかなかロマンありましたけど。」

 アイさんは、嬉しそうにうなずいている。

 「そう言ってもらえると、嬉しいです。なかなかそういう話しが聞けなくて。」

 地球人と交流はしているが、偉い人はみんな本心を隠して近づいてくるので上部の言葉しか言わないとアイさんは、悲しげに話す。

 「むしろ、反対派の方達の方が素直で気持ちいいと思うほどです。あ、スミマセン変な話しをしてしまって。」

 アイさんは、頭を下げる。

 「大丈夫です、ここでの話は部屋に戻ったら忘れますから。」

 「それは助かりますけど、…僕の事まで忘れないでください。」

 アイさんが、まっすぐこっちを見てる。

 ヒメノは、一瞬で顔を赤くする。

 「忘れませんよ。あ、だって毎月初めに会いますもん、警備隊ニュース。」

 (よし、話しをうまい事警備隊ニュースにつなげたぞ。)

 「…あなたは、見れても僕はあなたが見えない。」

 さらに顔が熱くなる。

 (この人なんなの!!。ヤバい、心臓飛び出そうなんだけど!!。)

 アイさんの真剣な顔がまた素敵すぎて、もう倒れそうだ。

 「そうだ、まだ名前も聞いてなかった。君の名前を教えてもらえませんか?。」

 そんなキラキラした目で見つめないで-!。

 「…ヒメノです。」

 「ヒメノ!、なんて素敵な名前だ。」

 今にも近づいて、手を握られそうな勢いに、ギブアップだ。

 「あ、ゴメンなさい。そろそろ行かないと。」

 まさに立ち上がりかけていたアイよりも早く立ち上がると、ココアを持って急ぐ振りをしながら歩きだす。

 「じゃあ、アイさんお休みなさい。」

 言いながら軽く小走りで逃げる。

 「ヒメノさん?!。」

 驚くアイさんを残して、急いでエレベーターまで走った。

 タイミングよく、エレベーターがきたので乗り込み15階の自分の部屋に飛び込んだ。

 ソファーに座ると、深いタメ息が出る。

 (…結局なにも聞き出せなかった。)

 時計を見れば、21時を過ぎた所だ。

 後2時間もすれば、レオナールがやって来る。

 (もう、今日のキャパシティ超えてるよ。)

 ソファーに体を投げ出すと、また深いタメ息をついた。

 (アイさん、素敵だったな…。)

 考えなければいけない事がたくさんあるのに、頭の中はアイの事で一杯だった。

 さっきの出来事を思いかえして、ニヤニヤしてしまう。

 (明日もあそこに行ったらまた会えるかな。)

  

 忘れたいな…指名手配犯とか、宇宙警備隊とか。



23.2030年✕月3日 21時 宇宙警備隊 アイ


 アイは、東屋で立ち尽くしていた。

 「振られたな、ありゃ。」

 「ガツガツ行きすぎですよ。」

 後ろから聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 振り返ると、カイとサイがいる。

 「いつから、ここに??」

 二人はコーヒー片手に立っている。

 隊長に肩を叩かれ無理やり座らせられると、二人が両隣に座ってくる。

 「なかなか上玉じゃないか、残念だったな。」

 「普通にいけばいいのに、その顔なんだから。あの子もらまんざらじゃなかったぞ。」

 「だから、いつから、って、まんざらじゃなかったですか?!。」

 アイは、カイの肩揺らす。

 「落ち着けって。」

 隊長がアイの頭をナデナデする。

 「やめて下さい!隊長?!。」

 アイの星では、頭ナデナデは弱点なので、アイは何かある度に隊長にこれをされる。 

 カイさんは何度かやろうとして来るが、身長差で有利な為なんとか回避している。

 「全く、お前がいつまでも帰って来ないから一応心配して探しにきたんだよ。」

 「また地球人女子に見つかってトイレでも逃げ込んだんだろうって。」

 う、前例が有るから否定出来ない。

 あの時は、トイレに2時間位いたし。

 他にも逃げ回ったあげく、どこにいるか解らなくなり迷子になったことも。

 「仕方ないから、カイの能力使って探してやったんだよ。」

 たしかトイレ2時間の時も迷子の時も、カイさんが見つけてくれた。

 「ホテルにはいるだろうから、騒ぎになっている所を見つければ。でも騒ぎは起こってないからどうしたもんかと。そしたら隊長が「4階じゃあないか?」って言うから、せっかくだしお茶しに行くかって。」

 「エレベーターからめっちゃ見てたもんな。」

 隊長には何でもお見通しか。

 「おっ、いた。と思ったら女の子くどいてるし。」

 「いつから…。」

 「店の前で仲良く飲み物買ってる所から。」

 うは、ほぼ見られてる。

 「お前初対面だろ、あれはないわ。「あなたは見れても僕はあなたが見えない。」…ちょっと引く。」

 ウグ!!

 テーブルを叩いて立ち上がる。

 「だって、運命の女神だったんです!。」

 「は?。」

 「一目見た瞬間、僕の女神だって!!。」

 「はい、アイ君落ち着こうか。」

 また隊長にナデナデされながら、座らせられた。

 少しぬるくなったコーヒーを一気に飲む。

 ヒメノは、見た目もタイプで品があり、話して見たら他の地球人女子達と違い普通に話が出来た。

 (地球人女子には、あまり良いイメージがないんだよなあぁ。肉食イメージが強すぎて正直引いてるし。それに比べたら、ヒメノは落ち着きがあった。)

 他の地球人女子達は、グイグイ身体を押し付けてくるが、ヒメノは適度な距離で隣を歩いていたのもかなりぐっときた。

 手を取ってくれなかった時は少しショックだったが、自分を心配してくれての行動に感動した。

 (ただ、ぶつけたのは左手で、右手を差し出したのだけど…?。まぁ、そこまで気がつかなかったんだろう。)


 「落ち着いたか。」

 少し冷静になったが、結局名前しか聞けなかった事に気づいた。

 もしかして、二度と会えないかも知れないことにも…。

 一気に落ち込む。

 「…俺、嫌われましたよね。よく思い返せばわざとらしく急に帰りましたもん。」

 カイさんと隊長が、顔を見合せて首をひねる。

 「どちらかと言うと、顔を赤くして今にも心臓止まりそうな感じだったぞ。アイの顔であんな事言われたら地球人の女子はみんな気絶するだろ。

その前に限界で逃亡したんじゃないか?。」

 だとしても、挽回のチャンスはない。

 「でも、もう会えない…。」

 カイさんと隊長はまた顔を見合せる。

 「えっと、確かヒメノちゃんだったよな。」

 「隊長、ヒメノちゃんなんて呼ばないで下さい。僕の女神…。」

 「ヒメノ西園寺だろ?。」 

 「カイさんも、ヒメノ西園寺って呼び捨て…、えっ何でフルネーム…。」

 何で、どうして。

 二人はさも当然のような顔でコーヒーを飲んでいる。

 「お前、ちゃんと真面目に仕事してなかったな。0.0001%だからとか思って。」

 「みたいだな。」

 えっ、どういう事!?。

 仕事に関係あるのか?。 


 その時、カイさんが急にマジな顔をする。

 コンコン。

  

 突然会話を遮り、カイさんがテーブルに合図を送ってきた。

 (カイさんの合図、見つかったか。)

 俺と隊長は合図を見てすぐに立ち上がり、カイさんが指さす方へ歩きだす。

 遠くの方でかすかに騒がしい声が聞こえる。

 (俺達がいるのがばれたか。)

 カイさんの能力でいつも助けられてる。

 こんな時でも、能力を使ってちゃんと回りをチェックしている。

 (本当この人には、頭が上がらない。)

 地球に配属された時、正直ハズレ部署だと思った。

 新人なので、文句も言えない。

 (せっかく警備隊になれたのに、とんだハズレくじだ。)

 隊長は定年前間近だし、カイさんは文官で非戦闘員。

 いざとなったら戦えるのは俺だけ、つて調子に乗ってた。。

 一年立たずに、一番の役立たずが自分だと気づいた。

 隊長の貫禄、交渉技術は一流だし、戦闘訓練を定期的にやるが一度も勝てない。

 カイさんは情報収集能力は完璧で、新しい機械をすぐに作れる機械工作技術、本部でも有名らしくいまだに製作依頼がわざわざくる。

 何より、仕事しながらちゃんと趣味も楽しむ余裕がある。

 一年目、仕事に慣れない俺に、二人はきちんと向き合っていろいろ教えてくれた。

 3年もすると、カイさんの仕事を手伝えるようになったし、隊長と行動をともにしても隣で堂々と立っていられる。

 とてもいい先輩達に、地球に配属されて良かったと心から思う。

 (…隊長の絡み酒と、カイさんのオタク談議がなければね。)

 俺達は、見つからないように、そっとカフェを出てエレベーターに乗る。

 見つかって騒ぎをおこすと、ホテルとトーマスさんに迷惑がかかる。

 「そもそも、お前がかってに部屋から消えるからこうなるんだぞ。」

 カイさんに怒られた。

 「…何で、何も言わずに出たんだ?、お前らしくない。」

 隊長が、じっと顔を見て静かに訪ねてくる。

 (確かに、何も言わずに部屋を出るなんて…。)

 エレベーターが15階に到着する。

 扉が開くと左に歩きだす。

 他の階は8部屋あるが、この階は4部屋しかな

い、いわゆるセミスイートルーム。

 今日からアイ達は3人で泊まる。

 「窓から下を見たら、庭園が見えて…何か呼ばれた気がしたんです。気がついたら庭園にいて、フラフラ歩いてたら、ヒメノを見つけて…。寝てる彼女見たら心臓がギュッて。女神が寝てるのかと…。」

 カイさんと隊長は、タメ息をつきながら、部屋に入って行く。

 「ダメだこりゃ。」 

 「重症だな。」

 (あぁ、ヒメノ!君は今どこに!!)

 

 まさか、同じ階の端と端に泊まっているなんて想像すらしていなかったアイである。

 

 


 




 





 

 




 






 

 

 


 

 

 








 

 




 

 










 


  


 

 




 

 


 



  

 


 

 



 



 


 


 







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