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星はいらない 姫になって

作者: 仲乃 斉希

「さようなら」 闇の中で 細い背中が遠ざかる


「大好きだったよ」 ほのかに甘く高い声が ノイズに混じって耳を突き抜ける


 脳天に電気が走るように 心臓が跳ねて 身体が疼き 足が鞭打たれように ボクは闇を駆けた


 コツ コツ ボクがプレゼントした赤いヒールの音


 ふわり ふわりと ボクと選んだ シトラスの香水の匂い


 細い背中 黄色のワンピースを翻して キミは闇の奥へと逃げた


 どうか消えないで 置いていかないで 


 涙混じりの懇願は 闇の風にかき消されて 声を殺されたボクはただ無心に駆けた


 キミの細い背中を追いかけ続け 手を伸ばす


 お願いだ もうキミしかいないんだ


 掠れ掠れの 負け犬の遠吠えを 無様に吐き出して


 ガサツに伸ばした手は 闇に溶け込みそうなキミの華奢な肩をつかんだ


 キミは振り返る ボクに振り返る


 ボクに不釣り合いなほどの優美な美貌を飾るキミは ぽろり ぽろり と涙が跳ね飛び


 潤んだ眼差しが じっとボクの熱っぽい眼差しを絡め取った


 闇の中で ただ二人


 見つめ合うボクらは あの頃の青春を生き写して


 肩を抱き寄せ 頬を染め合い 唇同士を引き寄せる


 まるで手繰り寄せた糸のように ゆっくりと ゆっくりと


 魔法のキスで 王子と姫は幸せに


 永遠に一緒に


 そんな夢物語に酔い ふわっとボクは目を細め キミと 一つに────


「いやあああああああああああああああっ!」


 触れる寸前 姫の悲鳴は 王子を突き放し 下民でも見るような下目遣いで ぽろり ぽろり


 闇の底に這いつくばるボクに キミはまた 闇の果てへと駆けて消えた


 白い底光りが遠くから浮かび上がって


 白く 白く まっさらに ぼんやりと 視界は霞み

 


 ボクは目覚めた つまらない現実リアル


 

 埃だらけの床 傷だらけの壁 低い天井


 セミの鳴き声 車のクラクション 犬の吠え声


 うだるくらい騒々しいのに このボロ屋にはボク一人だけ


 可愛いキミの笑顔と 不釣り合いにみっともないボクのアホづらの古びた写真が一枚だけ


 キミは嘘つきだ


 病室のベッドで最期 ふっと 星になるんだって呟いたのに


 どれだけ夜空を仰いでも 何もキミを感じない 流れ星が駆けても キミはよぎらない 掠りもしない


 ただ キミは ボクの夢に舞い降りては消えてしまう 哀しい蜃気楼


 キスをしてしまえばボクらは永遠に 一つに


 息づかない闇の絵本に閉じ込められようが キミといれるならそれは本望


 だけどキミは 誘っているようで ボクを跳ね除ける


 優しいキミは迷っている


 キミは姫になりきれない


 ボクは王子になりたい


 満天の星なんかいらないから


 真っ暗な闇に誘っておくれ


 昨日も 今日も 明日も 永遠に


 ボクはキミを追いかける


 キミが残酷な姫に成り果てるまで


 ボクはキミだけを追いかける


 届かない光なんて寂しいから


 星になんかならないで

お読みいただきありがとうございます。


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