寝た1
寝ました
何もかもが嫌になって寝た。
寝ている時にだけは、今いる窮屈な場所とは別の不可思議な世界に行ける。
目を閉じて暗闇に身を委ねて、暗転する景色がぼんやりと浮かぶ中、意識が徐々に薄れていく。
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体が終わりなく落下する様な妙な感覚、目を閉じているままなのに映し出される空色の世界。
大の字で風をモロに浴びながら、ただひたすらに下へと落ちていく。
下を向いてみても何も見えやしない。もがいても落下からは逃れる事が出来ない。
風力が徐々に増していく、空色だった場所は赤みを持ち始めて少しずつ夕暮れに変わる。
太陽と月が両方とも浮かぶあり得ない光景を見ても何故かそれが元からだと納得してしまう。
情景は一転して生活感のある部屋に移り変わる。知っている場所ではないどこかで、見知らぬ女がくつろいでいるの上を跨いでベランダを開ける。
鳥が一斉に群がって体を羽で包み込んでくる。腕や足に爪が体に突き刺さりそこから空気が漏れ出す。
「餌やり君が時間を作らなきゃね」
分かる様な分からない様な事を、先程までいた女とは別な女が語りかけてくる。
それと同時に鳥を引っぺがしていくと、ベランダから電車の良く通る駅構内に目の前に移り変わる。
「定期があってよかった」
そう安堵して懐から海行きの切符を取り出した。淡い青色で潮風の香りがする。
チカチカとライブ会場の様に赤緑と移り変わる電気、それを見て、胸のポケットに刺したセロハン付きの眼鏡を拾って投げ捨てた。
目線を電光掲示板に逸らして見てみる。
そこには世界一周→行き先未定という文字がネオン色に映されている。
階段を降りて下へ向かうに連れ赤と緑の光の主張は落ち着いていきやがて青色の静かな光が場を照らした。
ホームには人が全く居らず、電車が止まる事なくずっと行き来する異様な光景の中、巨大なタバコが天井を突き破り副流煙を撒き散らす
落下する時とはまた別な熱を帯びた風に吹き飛ばされて電車の中に転がり込んだ。
先程まで誰も居なかったホームに反して、席には老人がぎっしりと座っていた。全員がこちらをじっと見てくる。
それこそ動こうものなら目線で追ってくる。妙な居心地の悪さに逃げ出そうとするも、扉が閉じてしまい逃げ場を失う。
しかもその扉の先にもシワに塗れた老人が恨めかしそうに張り付いている。
このままではダメだと思い、先程の切符を取り出してパックリと真ん中で割る。
電車にどこからか勢い良く途方もない量の青色の水が流れ込んできた。老人が全員流されていく中、何故か自分だけはその場に存在出来た。
水の中に沈んで老人を外へ流してしまった電車はそれでも動きをやめない。行き先は海だと知っているのに湧き出す好奇心を抑えられず昂る感情。
優先席と窓に書かれていたのを引き剥がして特等席に塗り替える。そこに腰掛けて肩から力が抜けたタイミングで目の前をエイが疾走していく。
「海が来ている」
言葉を漏らし感動する。空のそのままな透明色の海。暮らす生き物らが和気藹々と電車に流れ込んでは出て行く。
だけど旅も終わりを告げる。
僕の体が流されて電車の外に放り出されたのと同時に電車は珊瑚礁に激突した。
ー
目覚ましの音で起きた。目をかいて大きな欠伸をして背伸びする。
この瞬間が一番嫌いだ。
溺れていたはずなのに引き上げられた様で未だに慣れない。
そして今日が始まる。
起きました