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第86話:きみを探して

 オレが学園で騒がれてから、更に数日が経つ。


 まだ騒ぎは鎮火していないが、なんとかオレが日常生活を送れるくらいに落ち着いてきた。


(ふう……今朝もなんとか無事に、朝のホームルームになったぞ……)


 朝のホームルームになれば担任の先生が来てくれて、周囲の騒ぎも収まるのだ。

 一息つきながら、ようやく心を落ち着かせる。


(今日は少し落ち着いてきたけど、ここ数日は本当に大変だったな……)


 オレのヘアースタイルを変えてから数日間、本当に周囲は騒がしかった。


 特に大変だったのは、他のクラスの女子が殺到する休み時間。

 オレは非難するように毎回、男子トイレに逃げ込こんでいたのだ。


(あと、クラス内の雰囲気も……)


 今までA組の生徒は、オレのことを軽んじて無視してきた。

 それどころか『三菱ハヤト様を追い出した戦犯』や『何かのコネだけでアイフェスに参加した無能野郎!』と明らかに敵対されていた。


 だがそんなクラス内の様子も、数日前から一変していたのだ。


(あっ、“この視線”が、またきたぞ)


 ちょうど今もクラスの女子数人が、チラチラ視線を向けてくる。

 オレに好意的な視線を向けてくる女子が、数日前から何人もいるのだ。


 チラ……チラ……チラ……


 A組の女子は基本的にプライド高い。そのためえ他のクラスの子のようにあからさまに好意はぶつけてこない。


 だがこうして授業中にも、チラチラとオレのことを見てくる子がいるのだ。


(どうして好意的な視線を向けられてくるか、よく分からないけど……まぁ、害は無いから、あまり気にしないおこう)


 今のところ危害を加えられる雰囲気ではない。クラス内の好意的な視線に関しては気にしないでおく。


(それに比べて気を付けておくのは、こっちの“鋭い視線”の方かな?)


 クラス内で、オレに対して鋭い視線を向けてくる者たちが出てきた。

 言葉で説明するなら“警戒心”や“ライバル視”の分類の視線だろう。


 向けてくる者は男子生徒が多く、仕事的には新人俳優やアイドルの人たちだ。

 彼らは『まるで突然降臨した大物』に向けてくるような視線を、オレに向けてくるのだ。


(まぁ、こっちも害はなさそうだから、気にしておこうかな。とにかくA組内も静かになってくれて、本当によかった……)


 基本的にオレは教室内では目立つことを好まない。

 ヘアースタイルを変えて自分を取り巻く環境は一変しが、なんとか日常が戻ってきてくれた一安心だ。


(さて、朝のホームルームが終わったら、一限か……よし、今日も頑張っていくか! ……ん?)


 ようやく落ち着いてきた教室内を見回し、オレは“あること”に気がつく。


(マシロくん……今日もマシロ君は休みなのか?)


 彼の席はここ数日間、空席のまま。

 アイフェスが終了後、春木田マシロは一度も学校に来ていないのだ。


(エリカさんの話だと、仕事で公休じゃなかったんだよな、マシロくんは……)


 同じ事務所に所属する加賀美エリカに、昨日こっそりと『春木田マシロくんは、最近来てないけど、どうしたのかな?』と聞いてみた。


 だが彼女の聞いた話では、春木田マシロが学校を休んでいる理由は不明。

 それどころか事務所のマネージャーも、休んでいる理由を把握していないという。


 なんでもマシロくんはアイフェス直後に『少し休む』とだけマネージャーにメール。

 今後のスケジュールを一方的に全キャンセルして、音信不通状態になっていたという。


(エリカさんの話だと、事務所側もかなり困惑しているみたいだな……)


 興行的にアイフェスは大成功で、一番の人気は春木田マシロだった。

 今後は一気に売り出していくべき主役が、突然の音信不通状態。

 エンペラー・エンターテインメントの担当者は大混乱になっているのだろう。


(突然の音信不通……マシロくん、サボりなのかな? いや……“あの人”に限って、そんなことはないはずだ)


 春木田マシロは狂気な一面を有する、何を考えているか分からない人物。

 だが“彼がアイドル活動に関して本気なこと”を、オレは知っていた。

 アイフェスの一ヶ月間を共にして、ラストステージで一緒になって、彼の本気具合をオレは感じていたのだ。


 “あの春木田マシロ”は一時的な感情や倦怠感で、仕事を休むなど絶対にあり得ないのだ。


(それじゃマシロくんは、どうしたんだろう?)


 エリカさんの話によると、彼は自分のマンションには戻っていないという。事務所が持たせたスマートフォンも電源がオフで、所在地の検知できないのだ。


(マシロくん、今どこにいるんだろう? ……ん? ――――あっ⁉)


 ――――そんな時だった。


 落雷が落ちてきたように、頭に“ある場所”の映像が浮かんできた。


(――――マシロくん⁉ もしかして……マシロ君は、今、“あの場所”にいるの⁉)


 浮かんできた場所は、直感的で予感的な現象。

 確率的に当たっている可能性は、0.1%にも満たないだろう。


(……マシロくんのいる所に、いかないと!)


 だがオレは迷うことなく即座に決断。

 勉強道具を鞄に戻して、移動の準備をした。


 あと、これから一限が始まってしまうため、先に担任に報告をする必要がある。


「先生! すみません、早退させていただきます! 今日、“とても大事な仕事”があったことを忘れていました! それでは失礼します!」


 担任に一方的に早退の意を伝えて、教室を飛び出していく。

 本来なら正式な早退書類を提出しなければいけえないのだ、今は時間が惜しい。


「――――なっ、市井ライタくん⁉」


 ざわ……ざわ……ざわ……


 呆気に取られている担任を横目に、クラスメイトのざわめきを聞きながら、をオレは教室を飛び出していく。


(マシロくん……待っていてね!)


 こうして騒然となったA組を後にして、オレは“ある場所”へと向かうのであった。


 ◇


 A組を飛び出して、二時間ちょっと経つ。


 オレは目的の場所に到着する。


「ようやく着いたか。ふう……ここは、まだ一週間ぶりだけど、もはや懐かしい場所だな……」


 やってきたのは海辺のリゾートホテル。

 先週末までアイフェスが開催されていた会場だ。


「ここにマシロくんがいるはずだ、たぶんだけど、きっと!」


 アイフェス会場が脳裏に浮かんだのは、本当に何の確証もない。


 いきなり『今、春木田マシロはここにいる』と浮かんできたのだ。


(いや……確証はないけど、マシロくんは、ここにいるはず……オレと“共感(シンクロ)”した彼なら……)


 生ライブのラストで、オレは彼と“共感(シンクロ)”をしていた。

 上手く説明できないけど、一瞬だったけど春木田マシロの世界を、オレは見ていた。


 だから今、彼がここにいる……という自信はあるのだ。


「でもマシロくんは、どこにいるんだろう?」


 リゾートホテルの敷地は東京ドームが何個も入る広大さ。

 この広い敷地内で、一人の青年を見つけるのは、予想以上にかなり難しいそうだ。


「とにかく探していくか!」


 オレは思い当たる場所を一個ずつ探していく。


 最初に歌やダンスのレッスンを行った会場へ。


 次は強化合宿中に宿泊したコテージ区画へ。


 食堂や砂浜なども探していく。


 だが、どの場所に行っても、残念ながら春木田マシロの姿は見つからなかった。


「ふう……もしかしたらここにはいないのかな? いや、……最後に一ヶ所、一番思い出深い、あの場所なら、もしかしたら!」


 最後に向かったのはリゾートホテルの中庭。

 アイフェスの集合地であり、一週間前に生ライブを行った場所だ。


 最後の気力を振り絞り、中庭に向かう。


「ようやく着いたか……あっ。あのステージは、もう無いのか……」


 アイフェスの仮設ステージは跡形もなく撤去済み。

 中庭は最初の広大な芝生状態に戻っていた。


「本当にここで、あのライブがあったんだな。オレたちの……」


 まさに“兵どもが夢の跡”

 数千人がここで熱狂していた光景が、まるで幻想だったかのような錯覚に陥る。


 懐かしさとは焦燥感。

 何とも言えない感慨深い想いが込み上げてくる。


「でも、ここにもいないのかな、マシロくんは……?」


 中庭を見回しても、春木田マシロらしき姿はどこにもない。


 もしかしたら最初からリゾートホテルにはいなかったのかもしれない。

 確信をもって学校をサボってきたのに、完全に空振りだったのだ。


「仕方がない。他の場所を探すか……でも、ここ意外に、いったい、どこに?」


 マシロくんのプライベートの行動範囲など知らない。

 それに普段彼が行きそうな場所は、すでにマネージャーが探しているはず。


「どうしよう……」


 打つ手が無くなり、思わず立ちすくんでしまう。


 ――――そんなオレに近づいてくる人影あった。


「……? 市井ライタ?」


 声をかけてきたのは、まるで天使のような美男子。


「マ、マシロくん⁉」


 間違いなく行方不明になっていた春木田マシロ本人だった。


(……ん? でも、マシロくん……この感じは⁉)


 だが一週間ぶりに見た春木田マシロは、別人のようになっていた。


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