第13話:周りからの評価
新しく友だちになった金髪ミュージシャン天道ユウジに、クラスと学園の特殊な事情を聞かされる。
「えっ……オレが値踏みをされていた⁉ どうして⁉」
「その理由を説明する前に、ライタお前、転校してきた時に、D組に配属された理由を聞かされたか?」
「えっ、配属の理由? たしか……『当校の評価システムによって一年D組』って言われたけど」
今日の朝、教室まで案内された事務員さんから、そんな感じに言われた記憶がある。今思う『当校の評価システム』ってなんだろう?
「この学園の芸能科は、生徒を水面下で評価付けして、クラス分けをしている、ってことや、それは」
「えっ、生徒を評価付け? なるほど、そういうことだったんだ」
少し驚くが、この芸能科は全国でも珍しい特殊な専攻科。
進学校が学力でクラス分けをするように、おそらく“芸能人の力”を似たような感じで評価しているのだろう。
そう考えたら違和感はない。
前の高校でも、Aクラスが成績トップ者の集まる教室だったし。
「ん? ということは、オレたちのいるDクラスって……」
「ああ、そうや。芸能科で一番評価が低い生徒の集まめられたクラスや。まぁ、公にはされておらへんけど」
ユウジの説明によると、学校側の評価方法は隠された部分が多いというが、主に所属事務所や経歴が一番大きな要因になるという。
内部生や情報に明るい生徒にとっては、これらは公然の秘密だと。
「なるほど。そういった評価方法で、クラス分けをしていたのか……ん? ということはユウジも、評価が低いの?」
「まぁ、そういうことやな。自慢じゃないが、ワイは才能がある! けど、ルックスはアイドル連中に比べたら普通やし、音楽でもまだメジャーデビューはしてへん。一応は動画サイトの登録者は多めだけど、事務所ランクも中の下程度やからなー。学校基準からしたら、ワイも今のところはD組っていう訳や」
「へぇ……そんな色んなことが評価されているんだね。でも、なんか判断基準があいまいだね?」
「最初はそう思いやろな。分かりや見せると、ワイの評価はこんな感じや、ほら」
ユウジはスマートフォンを取り出し、何かのアプリを起動させていく。初めて見るタイプのアプリだ。
アプリ内の、ある画面を見せてくれる。画面に表示されていたのは次のようなものだった。
――――◇――――
《H腰学園 芸能科生徒 評価アプリ【神ノ目】》
氏名:天D ユウG
クラス:一年D組
芸能ジャンル:ミュージシャン
☆総合評価:D+
――――
芸能界実績:F
事務所力:C
ルックス:C
動画サイト登録者数:B
《→next》
――――◇――――
こんな感じで色んな項目が表示されていた。
「えっ⁉ これって…ユウジのことじゃん⁉」
名前は『天D ユウG』伏せ字になっているが、分かる者が見たら一目瞭然の内容。これはいったい何なんだ?
「驚いたやろ? これは芸能科の生徒内で使われている秘密のアプリや。ほら、ワイ以外にも、芸能科の全生徒のページがあるんやで」
「あっ、本当だ⁉ でも、こんなのがあって、学校側は大丈夫なの⁉」
「ああ、今んところは大丈夫らしい。こいつは数年前に誰かが作った、非公式wikiみたいなもんやから、学校の方も放置しておるんやろ」
「非公式wikiか……なるほど、そういうことか」
ファンが集まって作っている非公式wikiサイトは、アイドル業界にもある。あくまでもファンが勝手に書きこんで作っているサイトなので、特に悪質なものはない限り取り締まられてはいない。
この【神ノ目】も一応は全てに伏せ字が使われている。そのため学校側も特に削除はしていないのだろう。
「ちなみにこのアプリは今のところ、芸能科の生徒しかダウンロードできへんシステムらしい。仕組みはよく分からへんけど」
「えっ、芸能科の生徒しか使えない? っていうことは、このデータを編集しているのは……」
「ああ、そうや。芸能科の生徒たちや。各自が評価ボタンをAからFまで押していき、平均的な数値がここに表示されるんや」
「やっぱりそうなんだ」
この非公式サイトは予想以上に本格的なものなのかもしれない。
(それに信ぴょう性も高いのかもしれないな、そのシステムだと)
評価システムは少数だけが行うのなら、数値に個人的な偏りがでてしまう。
だが多くの人が評価していけば、その信頼性は高くなる。
食べ物屋系の口コミ評価と同じで、大人数によって評価されていけば、平均点数の信ぴょう性は高くなるのだ。
(でもユウジの評価を見たん感じだと、項目によって、重要度の大小はありそうだな)
頭の中で【神ノ目】評価システムについて整理していくと、次のような感じに分析される。
・最も重視されているのは《芸能実績》の項目だ。
・次に大きく評価されるのは《事務所力の大きさ》。
・《ルックス》と《自分の動画サイトの登録者数》はあまり重みがない。
・《潜在的な才能の有り無し》と《現時点の能力》は項目さえなく、まったく重視されていない。
・つまり【神ノ目】にとって大事なのは《今までの芸能実績》であり、今後の仕事の肝となる《事務所の力の大きさ》なのだ。
「客観的な評価をランク付けしたのか……」
少し厨二病的な感じはするけど、芸能人にとって『自分やライバルを客観的に評価できる能力』はかなり重要。
自分の長所や短所を客観視できなければ、どんな番組や仕事に合うかセルフプロデュースできないからだ。
「あと噂によると学校側も、この【神ノ目】と同じような評価システムでクラス分けをしているらしいんや」
「えっ、どういうこと⁉」
「いや、正確にいえば、この【神ノ目】を作った奴が、学園の評価システムを調べて、このアプリを開発して実用している……っていう都市伝説や」
「都市伝説……ああ、なるほど、そういうことか」
でも可能性はゼロではない気がする。何となく学園の雰囲気が、オレの勘にそう告げていたのだ。
「それにしても生徒同士の評価アプリか……ん? ということは、オレに対する値踏みするような視線は、もしかして?」
「ああ、そうやな。クラスの連中はライタのことを評価査定していたんや」
「ああ、やっぱりそうか」
芸能科に通う生徒たちは、ほぼ全員が各事務所に所属するプロの芸能人。新しく転校してきたオレを、どんな人物か値踏みしていたのだろう。
ピコ―――ン♪
そんな時、ユウジの【神ノ目】のアプリが音を立てる。
「ん? 『新人の評価ができました』……やと? ああ、なるほど。ライタの評価項目が新しくできているで、ここに」
「ええ、オレのページが⁉」
今はちょうど昼休みということもあり、学校中の生徒がスマートフォンを使っている時間。おそらく一年やクラスメイトの誰かが、オレの項目を作ったのだろう。
「どうする、ライタ。自分のページ、見てみるか?」
「うん、もちろん!」
大勢の人からの自分の評価は、どうなっているのか?
正直なところ密かに気になる。
ユウジのスマートフォンからを見せてもらうことにした。
「うっ……これは……」
だが表示されていたオレの評価は予想を超えるものであった。




