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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【るなどる劇場vol.2】理不尽婦人が行く!

作者: るなどる

 やあやあ、ボクはしがない道化師。

 旅をしながら行く先々で面白おかしい話をしては日銭を稼いでいる旅芸人さ。 

 どんな話か気になるって?

 君たちには、そうだね・・・『理不尽婦人』の話なんてどうかな?

 きっと気に入ると思うんだ。

 いつまでも道化の小話なんて聞いててもつまらないだろう?

 さっそく話を始めようじゃないか。

 これから語られるのは、『理不尽婦人』と呼ばれた彼女の物語の一つ。

 このお話が終わった後、あなたは理不尽婦人に何を思うのかな?

 彼女の理不尽さに怒りを覚えるのだろうか?

 それとも・・・

 理不尽婦人は旅が好き。

 従者を一人従えて、自由気ままに旅をする。

 旅先で文句を付けては無理難題を押し付ける。

 従者は知恵を振り絞る。


 おやおや~?

 今日も婦人は旅に出るみたいですよ?

 いつものように突然に、いつもと同じ従者をつけて。

 はてさて、今回はどこに行くのやら・・・



「これから私は旅に出ますの。すぐに準備しなさい」

「はい、すぐに準備いたします」


 従者はすぐに準備をした。

 なぜなら、いつでも旅に出られるように準備をしているから。

 婦人を待たせないのは、従者としての心得だからだ。


「ところで奥様、本日はどちらへお出かけになられますか?」

「そうね、今日は西に向かいましょう。なんでも、砂漠のバザーで珍しい品物が出品されるらしいの」

「では、動きやすくて涼しい衣装を用意いたしましょう」

「それといつもの黒い日傘と扇子もね」

「かしこまりました」


 従者は婦人の服を見繕い、着替えを手伝う。

 婦人がどんなポーズをしていても、上手に着替えさせる。

 いつもと同じ、変わらない日常茶飯事だ。

 それに日傘や扇子も、婦人の気分に合わせられるように様々な色と種類を用意している。

 従者は婦人の服や小物を、行先や気分でコーディネートする。

 今回は涼やかな淡い青色をしたシルクのドレスに、レースの付いた黒い日傘、それと貴重な鳥の羽が使われた鮮やかな扇子を選択した。


「これ、涼やかで動きやすくていいわ。早速出掛けます」

「はい、では馬車の準備をいたします」

「いいえ、今日は少し歩きたい気分なの」

「これは失礼いたしました奥様。今、動きやすい靴をご用意いたします」


 従者は砂漠でも砂の入りにくいようにと、少し底の高いロングブーツを用意して婦人に履かせた。


「では行きましょう」

「御心のままに」


 従者は屋敷の扉を開けて、婦人を先に通す。

 婦人が通り過ぎたのを確認してから従者は後ろから付いていく。

 入り口には真っ赤な薔薇が屋敷を彩っている。

 屋敷から西に延びる草原の街道へと向かって歩き出す。



 暫くすると小麦の畑が見えてきた。

 夏場だというのに、麦の穂が黄色くなっていた。


「ここは何だか埃っぽいわ」

「どうやら水不足で、この周辺はひどく乾燥しているようです」

「このままだと私、埃まみれになってしまいますわ。 なんとかなさい」

「はい、少々時間が掛かりますのがよろしいでしょうか?」

「仕方ないわ、少し待つことにしましょう。 そうね・・じゃあ、それまではあそこの民家を使わせてもらおうかしら。 お金はいくら積んでも構いませんわ」

「かしこまりました。 中の者と交渉してまいりますので少々お待ちください」

「私が埃まみれになる前によろしくね」


 婦人が指定した民家は、この集落の中で一番寂れた家だった。

 それでも従者は文句の一つも言わず、民家の主に交渉に行くことにした。

 婦人の命令は絶対だからだ。

 民家の中にはひどく痩せ細った夫婦が居た。


「はぁ? ここを使いたいから出て行ってくれだって? 何を馬鹿げたことを!」

「左様ですか。 しかし、婦人がこちらをご指定でして」

「婦人だが武人だが知らないけど、出て行ってちょだい! 大体こっちは日照りで今年を、いや明日だって乗り切れるかわからないと言うのに・・・」

「タダでとは言っていません。ですからこれでいかがでしょうか?」


 そう言って従者は懐から袋を取り出した。

 机に袋を置いた瞬間、ジャリッと金属の音がする。


「なんだこれは? こんなもんは・・・ひ、ひえっ?!」


 中を確認した民家の主は腰を抜かしてしまった。

 袋の中には金貨が数十枚入っていたのだ。


「申し訳ありませんが旅の途中ゆえ、今お出しできるのはこのくらいしかありません」

「や、とんでもない! この家はどうぞお好きに使ってください! ほら、行くぞ!」

「そうですか、ありがとうございます。 ではありがたく使わせていただきます」

「やっとこれでまともな飯が食える! ありがたや~、ありがたや~」


 民家の主は金貨の袋を受け取り、急いで外に出て行ってしまった。

 従者は主の居なくなった家の中を綺麗にし、婦人を招き入れた。


「ここは随分味のある古民家ですね。 風通しも良くていいわ」

「では、これから外を何とかしてきます」

「本当は緑が青々としている小道を行きたかったのだけども、この様子じゃ無理そうね。 せめて小川が流れていればいいわ」

「御心のままに」

「じゃあ、私が退屈で死んでしまう前にお願いね」」

「かしこまりました」


 婦人に一礼をすると、従者は外に向かった。

 まずはこの村に水があるかを確認しに行った。


 この集落には川の跡があるようだが、川の水は干からびている。

 井戸もあるようだが、生活するのに最低限の水がある程度だろう。

 他の住民にも水が無いか話を聞いて回った。

 どうやら、何週間も雨が降っていないという話だった。


 雨乞いをする祈祷師はいないかと尋ねたら、川の少し上流に住んでいるという。

 なぜ祈祷師に依頼しないのかと聞くと、お金が無くて頼むことが出来ないと言った。

 この土地は借り物らしく、地主に重い税金をかけられているらしい。

 他へと移り住むことを考えていないかと聞いてもみたが、新たに田畑を切り開くにも貯えが少なすぎると返された。

 このまま問答していても事態は解決しないと踏んで、川の上流に住んでいるという祈祷師の所に行くことにした。


 祈祷師は川沿いに住んでいて、川には水が流れていなかった。

 しかし祈祷師の家の付近には池と、たっぷりの水を蓄えた井戸があった。

 話を聞くために祈祷師が住んでいると思われる小屋を訪ねた。


「失礼いたします。 ここに祈祷師が住んでいると聞いてやって参りました」

「いかにも私は祈祷師だ。 それで私に何か用かな?」

「実は下流の集落の方が水不足で困っているので、お願いに参りました」

「そうか。 では、いくら払ってもらえるのかな?」

「と申しますと?」

「祈祷師というのは雨乞いをして、お金を貰って生活をしているんだ。 慈善事業では無いのは分かるだろう?」

「そうですね。 しかし川に水が流れていないというのは些か趣に欠けると思うのですが?」

「川が水で満たされても懐は満たされない。 それにあなたも見たでしょう? ここには十分な水がある。 雨乞いをする必要が無いんだ。 雨乞いをしてほしいならお金を払ってくれ」

「しかし、このような場所ではお金を使うようなことはほとんど無いと思われるのですが?」

「ああ、毎日の食事にお金は必要が無い。 ただな・・」

「・・誰かに税金を掛けられている、と?」

「そうだ。 砂漠のオアシスに住んでいる商人に、ここは自分の土地だから利用料を払えと言われてね、仕方なく払っているんだ」

「そうでしたか。 しかし、この土地に元々住んでいたのではありませんか?」

「ああそうだ。しかし、数年前にここの領主様が亡くなって治める者がいなくなってな、そんな時にこの土地を商人が買ったんだ。 ああ、あんなに元気で明るい領主様がなぜ亡くなってしまわれたのか・・・」


 祈祷師はそのまま、虚ろな眼差しを天井に向けたまま、ぽかんと口を開けたまま黙り込んでしまった。

 

 従者は何となくではあるが、全ての状況を察した。

 つまり、この土地の住民は地主が変わったことにより重たい税を掛けられて困窮している。

 しかも、領主様は何者かに殺された可能性が高い。

 そして一番怪しいと思われるのは、その商人であると。


「わかりました。 では、私から正式に雨乞いの依頼をさせていただきます」

「え? しかしあなたはこの土地の人間でも無いし、雨を降らせても何も得をすることが無いじゃないか?」

「いいえ、私の主は川に水が流れることを所望しております。 故に、雨を降らせてもらう理由があります」

「そうかい? あなたは随分変わった主をお持ちだ。 それでいいなら仕事を受けよう」

「では、こちらをお納めください。 一時凌ぎにしかならないと思いますが、暫くは持つでしょう」


 従者は集落で渡した袋と同じものを祈祷師に渡した。

 同じように祈祷師も驚いていたが、時間があまりないことを告げると、すぐに雨乞いの儀式を始めた。

 『すぐに降る』という祈祷師の話の通り、天は暗雲に包まれ、間もなく雨が降り始めた。

 それらは周囲の山や川へと降り注ぎ、川に水が戻ってきた。

 従者は礼を告げると、すぐに婦人の元に帰った。

 集落では雨を喜び、飛び跳ねる住人たちが見えた。

 扉を開けると婦人は少しコクリコクリとしていたが、従者が入ってきた気配を察するとすぐに顔を上げた。


「お帰りなさい、少し転寝していたようね。 日が暮れる前に出発しましょう」

「御心のままに」


 水で満たされた川と喜ぶ住人を横目に、砂漠へと向かって再び歩き始めた。

 砂漠のオアシスにはお昼を少し回った頃に到着した。

 水の周辺には人が集まり、色とりどりのパラソルの下で珍しい商品が並べられていた。


「さあさあ、こちらは砂漠の西で織られた高級織物だよ! ここで買わなきゃ、砂漠で砂まみれになって西の果てまで枯れ果てながら歩かないといけないよ! さあ買った買ったー!」

「砂漠は暑くて大変だっただろう? だったら、このオアシス特製ジュースを買ってごらん。 甘くて喉も潤うよ? 何、要らない? このオアシスの水は飲めないから、干からびてしまっても知らないよ?」

「こっちは世にも珍しい砂漠でしか手に入らない生き物だよ!」


 あちらこちらで、元気よく商品を売る声が聞こえている。

 しかし、どれも婦人の目的では無いようで目の前を素通りする。

 そして一軒のテントの前で止まった。

 テントには『珍しい宝石あります』と書かれた看板が掲げられていた。


「ここが目的の場所みたいね」

「そのようですね」


 従者はテントの入り口の裾を持ち上げて、婦人を中に招き入れる。

 中には大小様々な宝石類が飾られており、後ろにも大きな宝箱のような箱が置いてあった。

 中央には椅子とテーブル、その真向かいに店主と思しき人物が座っていた。

 店主の両隣にはボディーガードと思われる人物も立っている。


「んっふっふっ。 いらっしゃいませ、今日は何をお求めでしょうかな?」


 店主の歪な顔が、これまた歪な笑顔でさらに歪になる。

 婦人はそれを気にするでもなく、すぐに用件を持ちかける。


「今日はこちらに珍しい宝石が出ると聞いてね、それを拝見にきたの」


 店主は婦人を下から上から舐めるように見つめ、厭らしい笑顔を浮かべる。

 商人独特の、獲物を狙うような目つきである。


「へっへっへっ、お客さんお目が高いね。 あんたもこの『砂漠の光』をお求めですかい?」

「ええ、見せてもらってもよろしくて?」

「どうぞどうぞ、見るだけでなく、ぜひ買っていって下さいよ」


 店主は後ろの宝箱の中から、一つの箱を取り出す。

 箱には様々な宝石が散りばめられ、それ自体も一つの宝石のようだった。

 箱を開けると、中には大粒の赤い宝石があった。


「あら、これは綺麗な宝石ですこと」

「そうでしょう、そうでしょう?! これぞ砂漠に舞い降りた一筋の光! 天然物の大粒のルビーですよ!」

「そうね。 で、これはおいくらなのかしら?」

「これは貴重なものですからね、安くはありませんよ? そうですね・・・お客様は大変お美しいので、特別に金貨1000枚、いや800枚でお売りしましょう!」

「そうですね・・・手持ちはあったはずだけど、どうですか?」


 婦人はそう言って、従者に視線を向けた。

 しかし従者は首を横に振った。


「申し訳ございません。 道中で大分使ってしまい、ご指定の金額には到底足りません」

「そうですか、なら仕方ありませんね。 今日は珍しい物が見れた、ということでまた今度にしましょう」

「おや、お買い上げにならないんですか? こんな貴重な一品は次にあるかどうかも分かりませんよ?」

「まあその時はその時です。 世の中一期一会、次に来たときはまた珍しい物が入っていることを期待しましょう」

「そうですか、それは残念です・・。 しかし、今度もまた珍しい品物を揃えてお待ちしていますので、またのご来店をお待ちしてますよ」

「・・・ええ、期待しておきますわ。 今日の所は帰りましょう」

「・・御心のままに」


 従者は主人の意図を組んで、その場を後にした。

 帰りの道中、婦人は従者にあることを命じた。



 数日後、例の集落のある領主が変わった。

 領主である商人が亡くなったのだ。

 遺体はオアシスの付近で見つかった。

 その遺体は全身が赤く塗られ、両目を抉り取られていた。

 しかしその特徴的な顔や体は、あの砂漠の光を売っていた商人であることを示していた。



 ここからは、とある筋の情報通から聞いた話である。

 商人は私腹を肥やすためにあの集落の領主を殺し、住民に重税を掛けた張本人だった。

 そして商人が『砂漠の光』と言っていたルビーは、ガラス玉に色を塗った文字通り真っ赤な偽物だった。

 商人は、偽りの宝石を売りつけようとしたのだ。

 新しくなった領主は、以前のように優しい領主で住民の暮らしも大分落ち着いてきているらしい。

 婦人はどうなったかというと、昨晩から行方不明になっている。

 もちろん、従者共々だ。

 そして、婦人の住んでいた屋敷も消えていた。

 最初からそこになかったように、草原が広がっているだけだった。

 屋敷のあったその場所には1枚の赤い薔薇の花びらが落ちていた。


 さあさこれで、話はおしまい!

 真っ赤な嘘には、真っ赤な罰を!

 消えた婦人はどこへやら?

 それは誰にも分からない。

 なぜなら婦人は旅が好き。

 今日も気ままに旅をする。

 それはどこだか分からない。

 明日はどこに行くのやら?

 今度はどんな無理難題を押し付ける?

 しかしそれはまた、別のお話。

 今日はこれにてお開きにしましょう。

 

 ご拝聴ありがとうございました。

 では、またどこかで・・・


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