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第33話 Re.8月14日 サキの世界④

 


 深夜2時


 楓さんが寝たのを確認して家を抜け出した。


 詩織さんに言われた通り、喫茶店に向かう。


 月の光が良く似合う裏通りにポツンと佇む喫茶店は、人を迎え入れるようにキラキラと輝いて見える。


 ドアを引くと、ガチャ、と音がして冷房の冷たさが漏れ出していく。


 間接照明が僅かに灯っただけの薄暗い空間。


 暫く周りをキョロキョロしていると、奥から詩織さんがやってきた。


 ウエイトレス風の衣装に身を包んでいて、いつもの可憐さは微塵も感じないくらい冷ややかな顔をしている。


「こちらへ」


 言われるがまま店の奥に足を踏み入れる。

 案内された部屋は小さなシアタールーム。


 こんな空間があったなんて……。


「お好きな席にどうぞ」と言われたので、適当に腰掛けた。


 うわっ、椅子やわらか。


 僅か10人程しか収容出来ないからか、その分設備ははるかに良い。


「あ……あの、ここは一体をする場所なんですか?」


 映画を見る場所に決まってるだろ! 何わかりきったことを改めて聞いてんのよ! あたしのバカ!


「あなたは『記憶の停留所』という場所を知っていますか?」


「確か、記憶を売ったり買ったり出来るっていう都市伝説的な……」


「都市伝説ではありませんよ。だってここが、そうなのですから」


「は?」


 目を丸くせずにはいられなかった。

 そんなあたしに詩織さんは訂正を入れる。


「それに、記憶を売ったり買ったりするのではなく、()()()()()()()する所です」


 おもむろにスクリーンを見た。


 売ったり、観たり……つまり、このシアタールームで売られた記憶を観るってこと?


 詩織さんが冗談を言っているようには見えないけど……。


 追い打ちをかけるようにスクリーンにある人の名前が表示された。


『宮田宗治』


 それは、ついさっきまで一緒にいた人。

 あたしが唯一、胸を張って好きだと言える人。


 そんな彼の名前がどうして、こんな物騒な所に……。


「彼と私はとあるゲームの最中なんです」


「ゲーム?」


「そう。ゲームです。ここに宮田宗治が忘れてしまった過去が用意してあります。これを観れば、全て分かるでしょう。彼と私の関係も。『記憶の停留所』がどういう存在なのかも」


 無表情を貫いていた詩織さんが僅かに口角を上げた。


「観ますか?」


 待ってよ……なんでいきなり選択肢を与えるの?


 そんなのズルじゃん。

 気になるようにずっと誘導させておいてそれはないよ。


 誘惑に負けたあたしは情けなく頷いた。


 センパイの知らないところで盗み見するのは罪悪感も感じた。


 けれど、一度フラれた身。可哀想なあたしを許してよ。


 部屋の照明が落ちる。


「それではごゆっくり」


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