魔王様、悪ガキを成敗します
狭い路地を行く、六人分の人影。人気のないこの路地に響くのは、彼ら六人の足音のみ。
この六人の構成は、ガラの悪い男が三人と、幼女が三人。男二人はそれぞれが幼女を腕で拘束して、列の後ろを歩いている。
この中で最も険しい表情をしていたのは、三人の少女のうち、唯一拘束されていない金髪の少女……藤原ミリィだった。
まさか、自分があそこまで、周囲に気を配ることのできない阿呆だったとは……彼女は、自身の行いを恥じていた。
今思えば、彼らが絡んで来たあの時に、怒って反論するべきではなかったのだ。あの程度の侮辱に心を乱されることなく、さっさとあの場を立ち去っていれば、千由里と佳子が危険な目にあうことなんてなかったのだ。
あの時は、まさかあいつらがあんな危ない武器を持って、あろうことか、人の首にあてがい自分を脅すなど、考えてもいなかったのだ。
この世界に来て学んだ知識の中には、これら刃物の所持は年代に限らず違法な行為であるとあった。命を奪う行為は、彼らの住んでいた異世界よりも嫌われることであることも知っていた。
故に、脅しでもそのような行動には出ないだろうという絶対的な自信が……いや、慢心があった。
——まずい、このままでは……。
千由里と佳子は、彼女の人生の中で初めてできた人間の友達だ。彼女らが傷つく事は、彼女には寛容できない。
なるべく大事にせずに解決する術を、彼女は探していた。
「ほら、さっさと歩け!」
ミリィの後ろを歩いていた茶髪の男が、ミリィの髪を乱暴に引っ張る。
魔王であるミリィにとっては、この程度の攻撃では痛みすら感じない。せいぜい、粋がったこの小童の言いなりになっている事に腹ただしさを覚えるくらいだ。
しかし、こうしたことを寛容できない少女が、この場にいた。
「や、やめて!」
そう声をあげたのは、千由里だ。誰よりも自分が危ない目にあっているというのに、自分の友達を心配する心の優しさ。
ミリィは、彼女のそんな健気さに心を打たれた。が、男たちは……。
「あぁん!? てめぇ、そんな口答えできると思ってんのか!」
「うぐっ!」
帽子を後ろ前にかぶっていた男が、彼女の首に回した腕に力を入れた。千由里の首が締まり、苦しい声が漏れる。
「俺、そういうの嫌いなんだよ……友情がどーのこーのとか、友達を守るためにーとか、そういうのが本当に嫌なんだよ。死にたくなかったら黙ってろっての」
帽子をかぶった男は、千由里にそう言い聞かせ、腕の力を緩めた。千由里の瞳は涙で潤んでおり、呼吸も荒い。
自分のせいで、こんな目に合わせてしまったことを悔いて、ミリィは下唇を強く噛んだ。
「ほら、目的地はすぐそこだよ、ミリィちゃん」
ある程度路地を進むと、茶髪の男がある場所を指差してそう言った。
指をさした先には、金網とコンクリートで囲われた、バスケットコートのようなものがあった。汚い場所で、所々にゴミが散らかっており、壁のほとんどにはスプレーで落書きがある。
そのコートの奥……ポツンとあるあかりの側に、一人の少年が立っていた。この場にいる全員に見覚えのある少年だった。
「貴様は……マッケン……」
「け、健二くん……?」
「な、何故ここにおるのじゃ、健二!」
佳子がそう言ったのに便乗して、自分の間違いをうやむやにするミリィ。幸いにもミリィの声は小さく、この間違いは誰にも聞かれなかった。
そう、健二だ。澤村健二が、そこにいた。ニマニマと気色の悪い笑みを浮かべながら、ポツンとそこに立っていた。
「はっ。惨めだなぁ、藤原ミリィ。あれだけ俺を煽っておいて、こんな目に遭っちまうんだもんな」
そう言うと、健二はゆっくりとミリィに近付いてきた。今は、ミリィが睨みつける事すら、彼の愉悦を満たすものでしかない。彼の口元がより一層大きく歪んだ。
そして……健二はしばらくミリィの顔を見た後、茶髪の男へ向き直り、こう言った。
「お兄ちゃん、ありがとう。これで鬱憤が晴らせるよ」
「いいんだよ。俺の大事な弟が恥をかかされたんだ、俺だって、やり返さなきゃ気が済まねぇ」
茶髪の男がそう返し、右の拳を左の手のひらに打ち付けた。パンと乾いた音が反響した。
そう……この茶髪の男の名は、澤村仁。澤村健二の、6歳年の離れた兄であった。
異世界生まれ、異世界育ちのミリィだけでなく、この世界の住人である千由里や佳子から見ても、この二人は似ていない。
男の取り巻き二人とと無関係な少女二人が横にはけ、バスケットコートの中心に、ミリィと澤村兄弟が対面するように残った。
ミリィは二人をにらみ、二人はミリィを勝ち誇ったように見下す。ミリィの状況は良くない。
「なるほど、こやつが兄だったか。兄弟がいることは聞いておったが……全く似てないのう」
「黙れよミリィ。お前、本当に自分の状況がわかってんのか」
健二がそう言うと、動きを見せたのはもちろんはけた二人だ。二人の拘束している千由里と佳子がこちらを涙ぐんだ目で見つめる。
「わかっておらんのはどっちじゃ、たわけが。このまま妾やチユたちに手を出してみろ。後悔するのは貴様らじゃ。後に響くぞ、この非行は」
「はっ! そんな脅しなんざ、怖かねぇんだよ。どうせ殴られたくないだけだぜ、遠慮はいらねぇよ……なっ!」
先に手を出したのは仁だ。側に落ちていた長い角材で、ミリィの腹を思い切り殴りつける。
もちろん、体格の小さなミリィは、その体重では勢いを抑えきれずに飛ばされる。そのまま彼女の体は、背後にあった金網を大きく揺らした。
「ミリィちゃん!」
「おっと、お前らも抵抗するなよ。暴れたりしたら、手が滑って首掻っ切っちまうかもしれないからよぉ」
もがこうとした千由里たちを、押さえつけていた男どもが、彼女らの首筋にナイフをペチペチと叩きつけて脅す。あどけない少女らは、歯をガチガチと鳴らさんばかりに震えた。
「よくも俺の弟に恥をかかせてくれやがったなぁ! ええ!?」
「おら、まだ終わってねぇぞ!」
仁がミリィを金網からひっぺがし、硬い地面に投げつける。
投げ飛ばされ、地に倒れたミリィに、今度は健二が馬乗りになる。そしてそのまま、両手の拳でその顔を何度も殴りつけた。
鈍い音が何度も路地に響く。助けは来ない。二人の人質は耐えきれなくなって、ついには目の前の光景から目をそらす。
一方的に、無抵抗に暴力を振るわれるミリィに向けられるのは、まるで一種のショーを見ているかのような視線ばかり。この場の男どもは何の罪悪感もなく、彼女がいたぶられるのを、彼女をいたぶるのを楽しんでいた。
「はぁっ、はぁっ……はははっ……! どうだよ、ミリィ。これでもう懲りたかよ! 俺に楯突くってのがどういうことか……」
「これっぽっちで満足か? 敵に傷の一つもつけられんで、本当に貴様は満足か?」
健二は「えっ……?」と言葉を漏らした。
ミリィは無傷だった。あれほどボコボコに殴られて、彼女は一切の怪我をしていなかった。
わけがわからない。いくら子供の拳だからと言っても限度がある。彼はその子供の枠の中では力が強く、これほどの力があれば、普通は顔も腫れ上がり、唇を切るだのはするはずだ。
では、本当は当たっていなかった? それこそあり得ない。彼女に拳が当たっていたのはこの場の誰もが見ていたし、彼の手に伝わってきたのは、確かに人の顔を殴った時の感触だった。彼女が身じろいで避けたのも見ていないのだから、間違えるはずがない。
一体なぜ? どうやって? この場の全員が同じ疑問を抱く。
ミリィは、魔王である。異世界よりきたりしこの魔王は、この世界の人間に比べて強力な身体能力を有し、この世界では誰も使用できない魔術の力を、ほんのちょっぴり行使できた。
今のは単純に、彼女の身体的なスペックの産物である。彼女の肉体は、この世界の人間の攻撃でも、刀や重火器などを使わない限りは無傷でやり過ごせる、圧倒的な防御力を有している。目の前のこの男どもでは、そもそも太刀打ちできないレベルなのだ。
ミリィは、困惑して固まったままの健二を軽々と押しのけた。
「久々に怒ったぞ。こんなに怒ったのは、つい先月ぶりだったかの。貴様らの攻撃は痛くも痒くもなかったが……その言動に、その行動に、流石の妾も怒りを抑えきれんかった。他者を傷つけ、いたぶることを是とする貴様らの行動は目に余る……!」
幼い少女から放たれる鋭い眼光に、男どもは……怖気を感じた。
今まで感じたことのない、凄まじいまでの怖気。まるで、この場が冬場の夜のごとく冷え込んだかのように、彼らの全身が震えだす。
この少女、何かやばい。普通の人間とは、何かが決定的に違う。彼らはそう確信した。
「まあ、彼女らを危険に晒したのは妾の行動のせいでもある。その点は反省せねばなるまい……。この失態は、貴様らをしっかり叱りつけた後に、払拭するとしようかの」
ジリジリと、少女が近づく。一つしかないあかりが明滅しだす。
そのうち、この場の皆が今日は一度も感じることのなかった風を感じた。最初はゆらりと髪を撫でる程度のもの。それが、徐々に勢いを増していく。
地に落ちていた塵を舞い上げ、いつの間にか現れていた黒い靄を巻き込んで、彼女の周りを暴風が駆け巡る。
目を開けることも難しくなり、しばらく腕で目を覆っていると……彼らは、風が収まっていくのを感じた。
皆が、ゆっくりと目を開ける。
そこにいたのは……幼女ではなかった。
肩まで伸びた美しい金の髪。鋭い瞳は赤く輝き、冷徹な表情は今まで見たことがないほどの美貌を持っていた。
体つきもまるで違う。その身長は優に170センチを超え、妖艶さを醸し出す黒いドレスは、そのすらりとしたボディラインを一層際立てる。
まさに、絶世の美女と呼ぶにふさわしい女性だが……男たちには、その容姿に見惚れる余裕などなかった。
嫌な予感が、より強まった。彼らの額に汗が溢れ出て来る。間違いない。状況から考えて……この女性はきっと、藤原ミリィその人だ。
「く、くそっ……くそっ! なんなんだよ! 何が起きてんだよぉ!?」
「し、知らない! 知らないよぉ!? なんなんだよ一体!?」
この危機感にやっと体が覚醒し、男どもが騒ぎ出した。
後ろ前に帽子をかぶった男が、自分が人質を持っていることに気がついた。
そうだ、これで脅してやれば良い。そうすれば目の前の化け物は、こちらを襲ってこなくなると、そう踏んで。
「お、おいてめぇ! こ、こいつがどうなっても良いってのか! こっちにきたら、こいつの首を掻っ切るぞ!」
「ほほう……その小枝で何だって?」
枝きれと言う言葉を聞いて、彼は己の右手を見る。
そこにはナイフが……ある筈だった。
その手に握られていたのは、そこらに落ちているような細い枝の切れ端。少し振るったら折れてしまうのではないかと思えるほどに脆い。こんなものでは、首を掻っ切ることなんてできない。
「ひぃっ!? どうしてぇ!?」
「ああ……貴様が探しているのは、もしかしてこれのことかの?」
そう言ってミリィは、いつのまにか持っていた果物ナイフを地面に放り投げた。カランカランと、二つの音が重なった。
そう、二つだ。地面に落ちた果物ナイフは二本だった。
二本目を見て、もう一人も自分の手を見る。握られていたのは一本の立派なエノコログサ……俗に言う猫じゃらしである。自分が何をされたのか理解できず、男らは自分の手に握られていたそれを、怯えの声と共に放り出した。
度重なる不可解な現象に、彼らは完全に戦意を失っていた。身体をガタガタと震わせて、ほとんど腰が抜けている。人質をとらえていた男らも逃げ腰で、千由里と佳子をすでに手放していた。
ミリィは変わらず、ゆっくりとこちらに近付いてくる。彼女が一歩足を出すたび、彼らの心拍は強くなり、脳が逃げろと警告を鳴らす。
「も、もういやだぁっ!」
動いたの仁だけだった。手足をめちゃくちゃに動かして、とにかくその場から逃げようとする。大切だと語っていた弟もほっぽり出してだ。
しかし、路地へ戻る道を入る瞬間に、おぞましい速度で彼女が目の前にあらわれた。瞬間移動という奴だ。
「ひ、ひぃぃ……」
「貴様ら、何をそんなに怯えておる? 妾に復讐しにきたんじゃろう? ほれ、さっさとかかってこんか。貴様の敵はここじゃ。もしかしたら一矢報いることもできるやもしれんぞ?」
馬鹿を言うな、そんなことできっこない。殴られても無傷でいるような奴に、人間離れした奇術を平気な顔して使うような奴に、俺らが敵うはずがないと、男たちはそう思った。
殺される。この女性はきっと、俺らを殺すことなんて造作もなく、また、それを行うことに何のためらいもないのだろうと、男たちは察していた。
「ご、ごめんなさい!」
この空気に耐えきれず謝ったのは、またもや仁だった。
地に頭をつけ、全力で土下座した。こんなことをしたのは彼も初めてで、整っているとは言えないものの、彼の謝罪の意はしっかりそこに込められていたと思う。
少女二人を含めたその場の皆が静まり返る中、仁はとにかく謝り続けた。
「ち、調子に乗ったことして、マジすみませんでした! ゆ、許してください!」
「……そうか、許して欲しいか。復讐だなんだと言う話は、もういいのじゃな」
「はい! もうこんなことしないっす! 馬鹿な弟も黙らせます! 迷惑かけません! だからっ……!」
「……おんしは……」
口調が、穏やかなものに戻った気がした。もう、許されるだろうか……仁は、淡い希望を胸に、ゆっくりと顔を上げた。
ミリィの顔が目の前にあった。彼女は、腰をかがめてなるべく視線を同じ高さに持ってきていた。冷ややかな目は、いまだ健在であった。
「妾が、何に対して怒っておるのか、本当にわかっておるのか?」
「……え?」
「貴様らが突っかかってきたこと自体は、妾はどうも思っておらん。貴様らの顔なんぞ怖くはないし、殴られようと痛くはない。そんなことなぞ、妾にとっては問題ではないのじゃ。妾が怒っているのはなぁ……」
ミリィはずっと立ち上がり……いまだ低い位置にある仁の頭の真横を、思い切り踏みつけた。
普段絶対に聞くことのないであろう大きな音と共に、地面のコンクリートに巨大なヒビが入る。
「貴様らが関係ないはずの千由里と佳子を人質に取り、巻き込んだことじゃ! 貴様ら、よくも妾の友を脅し、首を締め上げてくれおったなぁ! 妾ではない、妾の友をじゃ! 貴様の謝る相手は妾ではない、千由里と佳子じゃ! 許して欲しくば、千由里と佳子に土下座せい!」
「は、はいぃっ!?」
仁は素早く向きを変え、男たちから離れていた二人の少女に頭を下げた。
「す、すみませんでした! もう絶対に、こんなことはしません!」
変わり身の早い仁を、呆然と眺めるその他の男達。何も行動を起こさない彼らを見て、ミリィはさらに一喝した。
「無論貴様らも同罪じゃ! 今謝れば果物ナイフの所持には目を瞑ってやる! そもそも実行したのは貴様らじゃろう! さっさと頭を下げんかたわけ!」
「は、はいっ!?」
「も、ももも申し訳ございませんでしたぁ!!」
仁に続いて、他の男どもも土下座をした。この程度で許されるなら容易いものだとか、そういった惰性があったわけじゃない。そこにあったのは、逆らったら何をされるかわかったものじゃないという、強い恐怖だけだった。
「え……えと、その……」
「わ、分かりました。ゆ、許しますから……その……」
「ほら貴様ら、お許しが出たぞ。二人が許すのならば、妾からは何もせん。さっさと立ち去れ、良いな」
その言葉を聞き終えると、彼らは一目散に逃げ出した。男達は完全にいなくなり、このくらいバスケットコートには、三人の少女が残された。
彼らが逃げ出したのを確認すると、ミリィの体は再び黒い靄に包まれた。しばらくして靄は晴れ、そこには、小学生のような姿の、彼女らの見慣れたミリィがいた。
「なんというか……妾からも、すまんかったの。きっとこうなったのも、妾が必要以上に奴らを煽ったからじゃ。本当に……すまんかった」
ミリィは、二人に頭を下げた。
これで……これできっと彼女らは、自分を嫌ってしまっただろう。あんな奇怪な術を使う自分を嫌ってしまったのだろう……。彼女は、自分が二人に嫌われてしまったのだろうと思った。
今度こそ、自分はひとりぼっちだ。あの時のように、二人が自分を受け入れてくれるはずがないと、ミリィはもう、全てを諦めてしまっていた。
千由里と佳子は、しばらく固まっていた。そして……。
「…………す……」
「……す?」
「すっごおおおおおおおおおおおおおい!」
ミリィは言葉を失った。
「ミリィちゃん、今何やったの!?」
「ま、魔法なの!? もしかしてミリィちゃん、魔法が使えちゃうの!?」
「ぷ、プリチアみたいに変身してた! すごい! すごいすごいすごーい!」
プリチアとは、テレビで現在放送しているアニメーションの一つである。主人公はごく普通の少女達。この少女らが、異世界の精霊の力を借りて、プリチアと呼ばれる、悪を打ち破る戦士に変身し、平和を乱す敵を倒すというものだ。
どう考えても、彼女の変身シーンは、プリチアとは違って禍々しいものであったが、そんなことは彼女らにとってどうでも良いものであったらしい。
これも、彼女らがピュアであったからこそである。ミリィの生涯で、これほど彼女らの純真さに感謝したことなどない。
——そうじゃ、こんな時に使えそうなセリフがあったではないか!
それは、最近視聴を始めたとあるアニメーションの一言であった。まさか使う機会があるとは思わなかったが、これほど合うのだ、使って見るに越したことはない。
そうなったら彼女は躊躇わない。ミリィは適当に可愛いポーズをとると、ウィンクをしながら二人にこう言った。
「く、クラスのみんなには、内緒じゃぞっ!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あれから数日。
ぼろっちいアパートの一室では、勇者と魔王が慌ただしく駆け回っていた。目覚ましが壊れてしまったために、二人が寝坊していたのだ。
「くそっ! 魔王が起こしてくれなかったから大変な目にあったじゃないか! 一度起きたならそのまま起きていてくれよ!」
「うるさい! そもそもあれくらいの衝撃でぶっ壊れるあの時計がいけないんじゃ! 安物なんか買うでないわこの貧乏勇者め!」
「なんだとぅ!?」
朝から賑やかな連中である。
ミリィは身支度を整え、忘れ物がないか念入りにランドセルを確認していた。
あれからというもの、ミリィに突っかかる奴や嫌な視線を向けるクラスメイトは、澤村健二を含めても、全くいなくなった。たった数日の間に、今までミリィに敵対していた連中とも打ち解けてしまったのだ。
あの時突っかかって来たあの中学生どもがどうなってしまったかは分からないが……あの怯えようを見る限りでは、もう二度と悪さをしないだろうと、ミリィはそう思っていた。
「妾は先に出るぞ、勇者!」
「あ! ちくしょう! 待ちやがれ!」
「かっかっか! 貴様がとろいせいじゃ、自分のトロさを呪うがいいわ! 戸締り任せたっ!」
そう言って、ミリィは部屋を飛び出した。そのまま満面の笑みで、ミリィは街を走り抜ける。
ミリィの1日は……そして、魔王の学校生活は、まだ始まったばかりである。
この作品も今回が最後でございます。ご感想や苦情、その他諸々ございましたら、ぜひ感想に書き込んで下さいませ。作者は大変喜びます。
今回もご精読、ありがとうございました!