四話
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音ゲー、正式名称、音楽ゲーム、この類のゲームをスマホでやっている人なら誰もが一度はあるであろう体験がある。それは、プレイ中に通知がきてプレイの邪魔をされることだ。もしこの通知が誰かからのメールなどだった場合その人に一瞬、殺意が湧くのは当然の事だと言える。しかし、頭が冷えると自分が通知を切っていなかったのが悪いと理解し、これも実力の内か、と納得する。これが今朝起きたことだ。ちなみにメールを送ってきたのは綾野だ。
「おはよう」
この一文が送られてきた。このようなことが朝から起こるといつも以上にやる気をなくすのは仕方のない事であると俺は思う。
「同好会を作ることを許可します」
入学4日目の放課後、俺達は生徒会室にいた。昨日言った通り同好会を作るためだ。そして今、俺達は晴れて、お悩み相談同好会、を結成したのだ。なんだかあっさり作れたな。特に質問とかをされるわけでもなく生徒会長に申請書を出したらすぐに許可するなんて。まあ、楽なのはいいことだ。さて、サッサとここから出よう。
「ちょといい、あなた達?」
サッサとここから出たいと思っていた時期が俺にもありました。
「何ですか?生徒会長さん」
小雪が答える。
「ええ、あなた達はお悩み相談同好会よね。早速相談したいのだけどダメかしら?」
まさか作ってすぐにこんな事になるとは。面倒な事じゃなければいいが。
「大丈夫ですよ。ね、猫八、白川さん」
「まあ、相談を聞くのが活動だしな」
「猫八がいいなら私もいい」
「そう、ありがとう。単刀直入に言うと、ある空き教室を私たち生徒会が掃除しなければならなくなったの。でも、この時期は私たちも忙しくて。どうすればいいかしら。もし誰かやってくれたらその人に空き教室を部室として使えるようにするのもいいかもしれないわね」
何だこの人。つまり、部室やるから掃除しろ、ということを遠回しに言っているのか。
「ど、どうしましょう。猫八」
「やるしかないだろ。これ、半分命令みたいなものだし」
「命令だなんて、そんなつもりはないわよ。これはあくまでお悩み相談なんだから」
「白川さんはどう?」
「猫八がやるなら私もやる」
「2人がやるなら私もやります」
「それでは、空き教室の掃除をお願いします。終わった後はその教室をあなた達の部室にしておくので思う存分掃除してください」
生徒会長がいい笑顔で言った。いや、真っ黒な笑顔の間違いか。
「「「失礼しました」」」
俺達は声を合わせて挨拶すると、生徒会室を後にした。
「部員を集める前に1つ仕事が増えましたね」
俺達は夕日が窓から差し込む廊下を歩きながら会話する。
「ほんと、面倒くさいな~」
「私も面倒」
「面倒ですね」
3人そろって溜息を吐く。
「それでいつやるんだ、掃除。俺はいつでもいいぞ」
「私もいつでもいい」
「私も特に予定はないです」
「じゃあ明日でいいか。面倒ごとはお早めに、だ」
「猫八がいいなら私もいい」
「私もそれでいいですよ」
なんだかさっきからテンポがいいな。まあ、いい事だけど。
「そういえば、この前顧問の先生は気にしなくていいって言ってたけど結局誰なんだ?」
「ああ、そのことですか。実はその先生と私のお母さんが知り合いなんですよ。それで、私の事も知っていたので頼んでみたら引き受けてくれたんです。名前は・・・あっ!ちょうどあそこにいる先生ですよ」
小雪の指さす方向へ顔を向ける。そこには、俺のクラスの担任がいた。
「臼井先生ぇ~」
担任に向かって行く小雪を追いかける。
「ん?ああ、晴奈じゃない。何か用?」
「はい。実は部員ができたので紹介しようかと思って」
「そう、この2人が部員ね。男子の方は月森君ね。私のクラスだから覚えているわ。女子の方は・・・ごめんなさい思い出せないわ」
「女子の方は白川 綾野さんです」
「・・・どうも」
「白川さんね覚えておくわ。月森君は知ってると思うけど、私の名前は、臼井 真冬よ、これからよろしくね」
担任の名前って臼井だったのか。すっかり忘れてた。これからは臼井先生と呼ぼう。
「よろしくお願いします」
「・・・よろしくお願いします」
挨拶が終わった後、生徒会での出来事を臼井先生に説明する。
「そんなことがあったのね。でもいいじゃない。まだ同好会なのに部室が手に入るなんて。こんなこと滅多にないわよ」
「まあそう言われればそうですね」
まあ、今回の件をポジティブに考えるとラッキーだったと言えなくもない。
「それじゃあ、私は会議があるからこれで。明日、掃除頑張ってね」
そう言い残して臼井先生は歩き去っていく。
「まさか俺のクラスの担任が顧問だったなんてな。少し驚いた」
「私もさっきまで臼井先生がD組の担任だって事忘れてました」
まあ、まだ入学したばっかりだし他のクラスの事なんて知らなくても不思議ではないか。
「そういえば、俺まだ小雪と綾野のクラス聞いてなかったな」
「確かに、教えていませんでしたね。私はBですよ」
「私はC組」
小雪がBで綾野がCか。
「なるほど。一応覚えとく」
それから雑談しながら廊下を歩き教室に戻る。
「それじゃ、俺は帰るわ」
「はい。また明日会いましょう」
「また明日」
俺は2人に背を向けて歩き出した。
俺は自宅で母さんと話している。
「そういえば猫八、部活はもう決めたの?」
「ああ、決めたよ。お悩み相談部、いやまだ同好会か。まあそれに入るつもり」
「お悩み相談部?それって何をする部活なの?」
「まあ、名前の通り悩みを相談される部活だよ、建前は。実際は、ただダラダラするだけの部活だと思うよ」
「そうなんだ。なんか猫八らしい部活ね」
「俺らしいってどういうことだよ」
「だって猫八はいつもダラダラしてるから」
そんなことはないだろ。うん、そんなことないはずだ。・・・そんなことないと思いたい。
「そ、そんなことより俺、風呂入るわ」
俺は逃げるように風呂場に行く。何となく、チラッ、と後ろを見たとき、母さんが優しく微笑んでいたことはきっと気のせいだろう。気のせいだ。・・・気のせいだとおもいたい。
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