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色。  作者: 天童美智佳
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葉隠

テーマは「緑」です。

 物言わぬ草花のようだ。彼女はそう言われていた。


 渾身の絵を描き溜めた自由帳を破られたときも、大切に使っていた上履きを隠されたときも、彼女は決して怒らなかった。大事に育てていた鉢植えを割られたときでさえ文句ひとつ言わず、無残に潰れた花々に涙しながら陶器の欠片を拾うだけだった。


 一切の抵抗をしない彼女に、級友たちは味を占めた。はじめは彼女の持ち物を、次に彼女の自身を。どれだけ傷つけようとも、彼らには一片の悔いもなかった。彼らにとって彼女は、都合のいい玩具、或いは踏みつけても誰にも責められない、名もなき緑のようなものだった。


 虐げられてなお、彼女は笑顔を忘れなかった。道に咲く花を見つけたとき、小鳥の美しい声を耳にしたとき、ふとした瞬間に零れる微笑みは、薄い桃色の(あざみ)のよう。誰にともなく向けられる優しげな表情は、彼らを苛立たせた。その程度の攻撃など、私は微塵も気にしていない。目の濁った彼らには、そのような挑発に映ったのである。


 そうして、彼らの暴力は激しさを増していった。ほっそりした二の腕に赤い痣ができたと思うと、次の日には目の周りを腫らしてくる。大人が問い質しても、彼女は黙って首を横に振った。


 彼女は片親らしかった。家に一人ぼっちの日が、何日も続くこともあるという。家族と呼べるものはただ、庭先に植わった枇杷(びわ)の木だけ。その下で無心に鉛筆を動かすのが、彼女にとって最も幸せな時間だった。


 そんなある日だった。彼女は学校に来なくなった。心配した担任が家に押しかけると、戸の傾いた荒屋はもぬけの殻。対応を見送っていた彼も、これには慌てざるを得なかった。


 行方不明者として捜索される間も無く、彼女は発見された。枇杷の葉に隠された庭の土が不自然に柔らかいことに目をつけた警察官が、変わり果てた姿で埋められていた彼女を発見したのだ。


 掘り出された彼女の身体からは、凄惨な暴行の痕跡があった。首はありえない方向に曲がり、指は折れ、全身には酷い打撲の痕。紫に変色した肌を覆っていた深緑は、主人の死を嘆くように艶をなくしていた。


 荼毘に付された彼女は、あの枇杷の下に埋められた。静かに、静かに、眠れますように。いつか緑の一片になって、鳥達と戯れることができますように。


 可憐な白い花を見上げて。私は今日も祈り続ける。


思いつくままに書いていたら勝手にこういう方向に転びました、まる。

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