贅沢で我儘な引きこもり
備考:なし
と、書かれるような人間になりたかった。
自分の一番上の兄は、家の跡取りとして教育され、王太子の世話役として取り立てられ、将来の王とのパイプを作った。
自分の一つ上の兄は、一番上の兄の補佐が出来るように教育され、その為というわけでもないだろうが、一番上の兄との仲もよかった。
自分の妹は、第二王子の婚約者に選ばれ、優秀だと言われている第二王子と共に王族となるための教育に励んでいるらしい。
自分も、そういう、役目を与えられたかった。
役目がないのならば、こんな過剰な力など、与えないで欲しかった。
次期魔術師長として期待されている一番上の兄を、優に凌ぐ魔力と魔法の才能。
そんなもの、単なる三男でしかない自分に、与えないで欲しかった。
一番上の兄も、一番上の兄と仲が良い一つ上の兄も、自分を避けた。
一番上の兄を脅かしかねない自分は、邪魔者らしい。
自分だって、こんなもの、自分ではなく一番上の兄に与えて欲しかったと思う。
どうして自分に、こんなものを。
特出事項:なし
と、書かれるような人間になりたかった。
だって自分は、こんな力を使いこなせるような人間ではないから。
分相応でよかったのに。
あまりに完璧で、天才すぎる王太子は、友も家族も寄せ付けず、孤立してる。
それでも笑ってられる王太子は、まさに天才で。
あんな方にこそこんな力は与えられるべきで。
あんな風に孤立なんかしたくない自分には、不要のもので。
ああはなりたくない。自分は家族に愛されたい。
ああはなりたくない。自分は友達が欲しい。
ああはなりたくない。自分は化け物扱いされたくない。
天才になんかなりたくない。
特技:なし
と書かれるような人間になりたい。
だからこんな力いらないって、内に閉じこもった。
消えてなくなりたい。
何もしたくない。
自分は一人でも笑える強さはない。みんなと笑いたい弱い人間だ。
王太子は恐怖の対象であり、同時に密かな安堵の材料だった。
ああ、自分はあそこまで化け物じゃない。自分はあそこまで周りに見放されるほど、どうしようもないほど天才じゃない。あの方に比べたら、自分はまだマシだ。
見上げることで見下して、密かに心の安らぎを得ていた。
それなのに。
あの王太子は、あろうことか、婚約者と心を通じさせ、孤独ではなくなってしまったという。
嘘だ。
自分よりも化け物なのに。
自分よりも天才すぎるのに。
どうしてお前の隣には人がいるんだ。
しばらくして、自分にも婚約者があてがわれたが、王太子の隣に立った女性の親友と聞いて、まともに向き合うことが出来なかった。
そのまま避けていたら、婚約者には他に意中が出来ていた。
自分は一人、残された。
「こんにちは。お隣、いいですか?」
だから声をかけてくれた彼女に固執した。
誰でもよかった。
自分の傍にいてくれるなら、誰だって構わなかった。
自分の婚約者のように、自分以外に意中がいる女性だったが、もう構わなかった。
ため込まれ続けた寂しさがあふれていた。
傍にいて。
逃げないで。
ずっとずっと一緒にいて。
もう寂しいのは嫌。
おいて行かないで。
一人で息が出来るような強い人間じゃないの。
あなたがいなければ、しんでしまう。
執着して纏わりついて、縛り付けようとしていたら。
「――公衆の面前で、いや、この俺の前で堂々と不正を行うとは、中々に度胸があるじゃあないか。勿論、その後のことも、覚悟しての行いだろうな?」
あの孤高に笑う王太子から、微笑まれた。
賞罰:なし
と、書かれるような人間でありたかった。
不正をしたつもりなんてなかった。
度胸なんてない。
覚悟なんてしてない。
何でもない人間になりたかった。
普通の人間になりたかった。
兄弟喧嘩なんかしたり、友達なんか作ったり、恋なんかしたり、努力なんかしたりしちゃったりする、平凡な人間になりたかった。
ほら、やっぱり彼女が選んだのも、平凡な人間だ。
婚約者の意中も、魔力なんかない、何でもない人間だ。
化け物なんかじゃない、人間だ。
家では、自分を甘やかしすぎた、学校を卒業した後は一切援助せず追い出す、と言っている。
それでもいいと思った。
何もしないままに消えたい。
これで兄たちは自分を脅威とは思わないだろう。
家族の中で腫物扱いされるなら、追い出されて野たれ死んでも同じだ。
自分はあの王太子のように、ひとりでは笑えない。
彼女に捨てられて、また一人に戻るなら、今すぐにでも、消えてしまえばいい。
「憎らしいことに、あなたへの処罰はほとんどないから、あの子の代わりに恨みに来たわ」
王太子の婚約者が、自分の元婚約者について話しに来たけど、それもどうだってよかった。
恨もうが憎もうが、一人よりは良い。
「……ちょっと、謝罪もないの?本当に何もしない男ね。本当に、なんであの男はこんな人間に…」
王太子の婚約者には、どろどろと憎しみが漂っていた。
とても強い感情。
「あなたは『何もしてない』わ。あの男爵令嬢に執着していたけれど、具体的な言葉も態度も取ってない。私に、あの男爵令嬢に謝らないと呪う、なんて言ったけれど、言っただけで何もしてないし、する気もなかったでしょう?あの男爵令嬢の意中の少年がいじめられてたりもしてたらしいけれど、あなたは少年に一言『自分の意見』を言っただけで、何もしてない。だからあなたへの処罰はほとんどない」
けれど、と彼女は自分を睨み続ける。
――いいなあ。
もっともっと憎んで、執着して、一緒にいてくれないかなあ。
あの化け物の隣にいられる強い子なら、自分の傍にもいてくれるだろう。
いいなあ。羨ましいなあ。欲しいなあ。
傍にいて欲しいなあ。
「婚約者だったあの子への態度にしたって、あなたは元々引っ込み思案だったし、あの子も私の兄を懸想していたから、責めることは出来ないわ。私に呪うなんて言ったから、私を溺愛してるあの男が言いがかりをつけただけ。だから、あなたに与えられる処罰はほとんどないわ。でも、あなたは実家から追い出される」
いいよ。
だって誰も自分を愛してくれない。誰も自分を憎んでくれない。真綿で包むように遠ざけて、誰も傍にいてくれない。
ひとりじゃいきていけない。
しんでしまう。
自分はあんな、王太子のように、化け物じゃない。
人間なんだ。
人は一人では生きていけない。
「正直に言うわね。私はあなたなんか、死んでしまえばいいと思ってるわ。あの子を蔑ろにしたから、だけじゃないわ。あなたが野放しにするには危険すぎる、だけでもない。――私はあなたのことが、憎いのよ」
憎んで、嫌って。
憎悪して、殺したいほど恨んで。
孤独に死んでしまう前に、嫌って殺して。
一人で死んでしまいたくない。誰か殺して。
「今では誰も触れないけれど、あなた、魔術の才能があるわよね。あの男に、追いつける可能性がある、力があるわよね。一分野だけでも、あの男に追いつけるかもしれない可能性が、あるわよね。あの、あの男に、私たちがどうしたって追いつけないあの男に、あの男に、追いつける望みがあるのよね。――それでなんで何もしないのよ!」
嗚呼、嗚呼!
この激昂と憎悪!
昂った熱が、激しい憎しみが、殺意が!
たまらない!
もっと!もっと憎んで嫌って拘って交わって!
ひとりにしないで!
その憎しみを自分にも向けて、追いかけて来てよ!
「私たちには、そんな才能、なかったのに!なんでそれがあるあなたが、何もしないで腐らせてるのよ!あの男に、追いつけるかも、しれないのに!私たちじゃ、万が一にも億が一にも兆が一にも、どうしたってどうなったって、追いつけないのに!私たちにはそんな可能性ないのに!どうしてあなたにはそれがあるの!なんで、あなたなのよ!なんで――それが私にないのよ!」
彼女が美しい顔を歪めて、獣みたいな顔で、欲をにじませている。
もっと求めて。
求めて、奪ってよ。
自分だって、こんなもの、いらなかった。
「私にあったら!私だったらっ!もっと努力して、諦めたりなんかしないで!あの男に追いついたのに!諦めないでいられたのに!あの男を追い続けていられたのに!いつか!あの男の隣に!立ったのに!頑張ってどうにかなるなら、どんなに辛くたって頑張ったのに!頑張ることが、出来たのに!」
自分だって、頑張ることが出来たなら、頑張りたかった。
出来ないなら、出来るようになりたかった。
でも、出来るのに、出来ないようになるのは出来なかった。
だから、出来てもしなかった。
欲しくても、手を伸ばせなかった。
「なんで、どうして、私でもあの幼馴染でもなく、あなたなのよ!なんであなたはあの男を追いかけないのよ!そんな力があるのに、どうして!私なら!なんで私じゃないの!私にあったら、諦める口実なんて、探さなくてよかったのに!諦めたくなんか、なかったのに!頑張ってもどうにもならないから諦めるしかなったのに、どうして頑張ればなんとかなるかもしれないあなたが、何もしてないのよ!そんなの、追いつこうとしてた私たちが、私たちのこれまでが、全部、無駄だったみたいじゃない!最初っから、あの男に追いつけなんかしないみたいじゃない!私たちが追いつけなくっても!追いつこうと思った最初から間違ってたみたいじゃない!追いつきたかった気持ちが、馬鹿みたいじゃない!」
「……あんなのに、追いつきたくなんかない」
彼女の言葉に、つい、声が出ていた。
なんでって、あんな化け物になりたくなかったからだ。
自分に、孤立して笑えるような強さはない。
ひとりでは生きていけない。
今より頑張って、化け物に近づいたら、今より孤独になってしまう。
出来ないようになれないなら、これ以上出来るようになりたくなかった。
生まれ持った才能が大きすぎて人を遠ざけるなら、生まれ持ったもの以上を獲得したくなかった。
取得資格:なし
と、書かれるような人間になりたかった。
「っあの男に追いつきたくないなら、あなたはどうなりたいのよ!」
彼女は怒髪天を突いている。
その気持ちを、自分にも向けて。
自分のことも、そうやって追いかけて。
執着して。
――その王太子に向ける気持ちの欠片でもいいから、自分にも向けて。
「……みんなみたいに、なりたかった」
競い合って、負けたり勝ったり、喧嘩したり、したかった。
化け物を追いかけ、力ある自分を羨む、君たちみたいになりたい。
人と人の結びつきが欲しい。
傍にいてくれる人が欲しい。
でも、自分は化け物だから。
化け物が出てきたら、一番上の兄を怯えさせてしまう。一番上の兄を怯えさせたら、一つ上の兄が自分を疎むから。
王太子が一番上の兄を取り立ててくれ、なんとかバランスが取れてるんだから、化け物はこれ以上出しゃばっちゃいけない。化け物だから、一番上の兄を薙ぎ払ってしまうかもしれない。
一番上の兄は、一番上にいないといけないのに、化け物はそれより上にいるから。精一杯身を縮めて、頭を下げないといけない。
一つ上の兄は一番上の兄の一歩後ろに立ってるから、仲良くできてる。こんな高い場所の化け物なんか、死んでしまえばいいと思っているだろう。
妹も王家に嫁ぐ。でもそれは第二王子だ。王太子の第一王子は自分以上の化け物だから大丈夫だろうけど、万が一、同じ化け物の力で、あの化け物に対抗しようなんて思ったら、大変なことになる。自分ではあの化け物ほど強くない。化け物同士で争ったら、周りの人間が潰されてしまうから、戦いたくない。
甘やかしすぎた、なんて、嘘つき。
手が届かない場所にいる化け物に、手を伸ばしたこともないくせに。
化け物が手を伸ばしたって届かない場所に引っ込んで、手を伸ばしてもくれないくせに。
手を伸ばさないの、だって?
化け物が手を伸ばしたら、人間は怖がるじゃないか。
なんで自分は何も出来ないの。
なんで自分は頑張れないの。
なんで自分に、こんな力があるの。
頑張れるなら、自分だって頑張りたかった。
でもみんな、自分が手を伸ばしたら、怖がって、逃げていくじゃないか。
みんなのために引きこもっても、誰も近づいて来てくれない。
何にもしないのに。
自分は、何にも出来ないのに。
みんなから近づいてくれないと、自分は欲しがることすら出来ない。
「ひとりでは、いきられない」
配偶者:なし
と、書かれるような人間になってもよかった。
自分のものになって、なんて言わない。
連れ添って、なんて望まない。
傍にいて欲しいだけ。
見てるだけで、近くにいてくれるだけでいい。
誰かのものでいいから、傍にいて。
傍観者でいいから、誰か。
「――何言ってるのよ。あなた、ずっと一人じゃない」
だれかはやくころして。
僕がここを焼いてしまう前に全部に絶望してしまう前に消えたくなってしまう前に化け物と呼ばれる前に私を殺して殺して殺して一人では死にたくない孤独に殺されても一人で死ぬのは嫌だ死ぬときぐらい誰かと誰か俺と一緒に自分は自分は自分は自分は人間は一人では生きられないから人間だから化け物はだからひとりじゃなくて人間になりたくて手を伸ばしたいのに孤独は孤独は孤独で僕は私は俺は自分はははははなんでどうしていらなかったのにいらないのに他に欲しい人はいるのになんで何もないのにこんなものがこんなこんなものが家族に愛されて友達を作って恋なんかして努力して平凡になりたかった死にたくない死にたくない死にたくないころしてころして殺してころしてひとりでは生きられないひとりは嫌だ殺してひとりになる前に死ぬ前に誰でもいいから誰か化け物の近くに来てその手で殺してくれよ。
交通手段:なし
と、書かれるような化け物だから。
「一人が嫌なら、なんとかしなさいよ。出来るでしょう?いいえ、出来ないなんて言わせないわ。あなたは、私たちが渇望していた、可能性があるんだから。あの男に追いつける可能性を持っておいて、そのぐらいのことが出来ないなんて、言わせないわ」
無理、出来ない。
だってそんなことをしてしまったら、みんなが怖がってしまう。
だからそっちから近づいてくれないと。
「何、首なんか振ってるのよ。出来るでしょう?」
出来ない。
「出来るでしょう?」
出来ない。
「他の人のせいにしないで頂戴。出来るでしょう?」
でき、ない。
「出来るでしょう?」
「……出来る」
出来る。
しないだけで。
出来ないわけじゃない。
出来ないようになりたいのに、出来る。
「じゃあ、しなさい」
彼女は女王然として、憎しみを目に燻らせて自分を見下ろす。
「今までだって、一人で普通に生きてたじゃないの。それで一人で生きられないとか、一人でなくなることが出来ないなんて、説得力ないのよ。歩み寄ったあの子も無視して。あの男も追いかけないで。何にもしないままなんて、許さないわ」
「……許さなくていい。終わらせて」
傍にいてくれないなら。
ころしておくれよ。
「はあ!? あなた、本当に憎たらしいわね!」
でも彼女は自分のお願いを跳ね除けた。
「何もしないままなんて許さないって言ったばかりでしょう!終わらせてって、何よ!終わるなんて、あなたに出来るはずないわ!」
終えることは出来るけど、終わらせて欲しい。
ひとりは嫌だから、誰かに。
自分は一人では生きられない。
人は一人では生きられないから。
一人では、生きられないから。
「終わる前に、あなたは何も始めてないじゃない!」
――自分は一人として、生きられないから。
ひとりにはなりたくなかった。
ひとりでは生きられないと思っていた。
ひとりではないと、信じていたかった。
でも一人でも生きていた。一人なのに終わらなかった。
終わるわけがなかったんだ。
人生を、人としての生を始めてないんだから。
――自分は人ではないから。
自分はずっと、化け物だった。
「あの男を追いかけもせず、あの子の手も取らず、あの男爵令嬢にだって、何もしなかった。始める前から出来ないしない終わりだってうじうじして、やってみないとわからないこともあるでしょう!いいえ、あるわ!何かを始める前から諦めることが正解だなんて、認めないわ!じゃないと、私たちは、何だって言うのよ!」
また彼女の激情が滾る。
王太子は、自分以上の化け物は、こうやって執着してくれる人がいたから、ひとりでも笑っていられたのかもしれない。
ひとりでも生きていられたのかもしれない。
「終わりだなんて諦めるなら、何百回も何千回も何万回も何億回も!挑んで挫折して絶望してからにしなさいよ!私はあなたも、私の幼馴染も嫌いよ!何もしないままにお高くとまって、どうせ駄目だって諦めてるあなたも!どうせ駄目なのに未だに諦めないあの幼馴染も!大嫌いだわ!ずっと追いかけてた私たちが馬鹿みたいじゃないの!もう諦めてしまった私たちが根性なしみたいじゃないの!」
清々しいほどに私情ばかり叫ぶ彼女は、それでも自分の心を揺さぶって。
一人として生きられないのに。
ひとりでいたくないのに。
――自分も、ここまで一生懸命になれば、一人として生きて、終わらせてもらえるんじゃないかと思ってしまった。
しない出来ないと引きこもって、欲しい欲しいと言いながら手も伸ばさず、いつしか何もしないことに慣れてしまってはいなかったか。
誰かに何かしてもらうことを期待してばかりで、彼女のように、命を燃やすように渇望していただろうか。
他人を羨んで環境を呪って、自分から何かしようと、しただろうか。
本当に、出来ないのか。
出来ない。
自分はあの王太子に、自分以上の化け物に目をつけられた。実家からも追い出される。
こんな状況で、何が出来るのか。
何も出来やしない。
――だったら、今こそ人らしく、出来ないことが出来るようになるよう頑張っても、許されるんじゃないか。
「いい加減、始めなさいよ!」
「わかった」
返答したら、何故か彼女はぎょっとしていた。
たきつけたのは彼女なのに。
頑張って良いなら、頑張りたい。
欲しがっていいなら、欲しがる。
手を伸ばして良いなら、伸ばす。
そうしてみっともないぐらいに縋って、私欲で喚いて、自分ばっかりで周りのことなんか見ずに、媚びへつらって、一生懸命に生きる。
その愚かなまでの必死さが、孤高でも美しく笑うあの化け物や、何も出来ないと引きこもった自分にはない、人間らしさってやつなんだろう。
自分が暴走しそうになったら、きっとあの化け物が止めてくれる。
あの化け物なら、きっと終わらせてくれる。あんな化け物に殺されたくはないけれど、ひとり終えるよりはマシだ。
化け物になりたくないと思っていたけど、もうずっと化け物だったと言うのなら。
それでも一生懸命生きていいと言うのなら、もう気を使わなくてもいいほど弱体化されているのなら、ちゃんと退治してくれる化け物がいるのなら。
今までだって人として生きていなかったと言うのなら。
せめて人らしく生きようとしてみても、いいんじゃないか。
彼女は「もしかして、不味いやつを起こしてしまったのかしら…」と目を泳がせている。
もう遅い。
早く殺してくれないから。
家族:なし
権力:なし
コネ:なし
職歴:なし
住所:なし
友人:なし
恋人:なし
と、書かれるような化け物になってしまったなら。
学歴:学校 卒業
と、書ける人間になりたい。
何もしないでいた今までもみんなと同じでなかったのなら、これからどんなに頑張っても、みんなみたいにはなれないだろう。むしろ、どんどんみんなから離れていく一方だろう。
自分に待っているのは化け物の悲惨な末路で、ハッピーエンドでは、決して終われないだろう。
でも、無駄だとしても、頑張りたい。
人間になれなくなって、人間らしくありたい。
そして――人間らしく終わりたい。
たとえ化け物でも、人間になろうと努力することを止めたくない。
人間に憧れ続けていたい。
人間のように、『出来ないこと』に挑み続けたい。
人間よりも人間らしく、生きて、死にたい。
そのために。
今、ここから、始めよう。
実はこいつは自分から魅了にかかりに行った。そうしたらヒロインが離れて行かないと思って、繋ぎとめるために、抵抗出来るところをせず、魅了された。でもヒロインは離れて行った