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「めでたしめでたし」で終わる乙女ゲーム系恋愛騒動  作者: 一九三
番外:めでたしめでたし、では終われない
6/12

コンプレックスで突っ走る系男子

 私には、決して敵わない相手が、二人いた。


 一人は、気に食わないが幼馴染と言われる関係の女。

 もう一人は、将来、己が頭を垂れる主君となる男。


 女は男を必死に追いかけ、いつしか男の隣に立っていた。

 男は女を温かく見守り、自分の隣に立つ存在として認めていた。


 私は、二人には決して敵わなかった。


 女は、自分もあの男には追いつけなかった、諦めただけだ、と自嘲していた。その女自身にも敵わなかった私を、敵とも味方とも認めず、ただあの男だけを見ていた。

 男は、女しか見ていなかった。否、女すら見ていなかった。

 男は、私と女が自身を追いかけているとも思わず、自分の後を追っているとも考えず、自分に追いつこうとしているなんて想像もせず、単に『女』として女を慈しみ、私を視界に入れることは、ついぞなかった。


 私では、二人には決して敵わないと、思い知っていた。


 私が決して敵わない二人は、私のことなど気にも留めてくれなかった。

 敵としても、味方としても、認めるには足りないと言外に断じられた。

 もし女が私を、共に男を追う友と認めてくれたなら、きっと私はそれで、男の隣に立つ女を支援しただろう。

 もし男が私を、私たちを男の敵として、否、後を追う後輩としてでも目を向けてくれたなら、私はきっと、最大の忠義と敬意をもって男に敬服していただろう。


 しかし女は男だけを追い求め。

 男は誰も必要とせず、ただ女のみ、側にいることを許した。


 私は、私が決して敵わないを思い定めた二人にとって、見る価値もない存在だった。



            ***




 私は焦っていた。

 父が宰相職であるといえど、我が家は王太子と何のつながりもなく、このままでは宰相職は別派閥のものに任されそうだと感じていたからだ。

 私の焦りは、恐らく間違いではない。

 次期王である王太子は強硬派。王妃となる婚約者も強硬派。王太子の世話役だった二人は、穏健派と強硬派で釣り合いが取れていたが、二人とも王太子の単なる部下でしかない。

 そのため、次期宰相は王太子と対抗できるよう、穏健派か、せめて中立派が望まれていた。

 王太子が、穏健派の魔術師長の家の娘を第二王妃にでも選べばまた変わっただろうが、第二王妃を迎え入れるぐらいなら、あの婚約者を溺愛している王太子は、ろくに繋がりもない我が家を宰相職から降ろすことでバランスをとるだろう。


 ああ、忌々しい。

 本当なら、同い年の男児で、派閥も同じ自分が王太子の遊び相手として交流し、側近としての地位を築くはずだったのに。

 あの憎むほどに優秀な王太子は、同い年なんて、未熟で幼稚な子供など必要としていなかったのだ。

 王太子は、自身より年上の魔術師長の長男と、婚約者の家の長男を手下として選び、便利に使った。

 王太子より年上であるため、世話役、という名目だったが、王太子は将来の主君として有無を言わさず命令していたらしい。

 私の家は、私が長男であるため私より年上の男児がおらず。

 三トップの公爵家のうち、私の家だけが王太子と繋がりが持てなかった。


 第二王子ならば弟が側近や友といえる地位に着いているが、第二王子は魔術師長の家の娘を婚約者にしているため穏健派で、何よりも第二王子が王位につくことはほぼありえない。


 あんな王太子がいるのに、他の王族が王位につくなど、考えられない。


 せめて、と私の婚約者は王家の血を引く姫にしたが、それではまだまだ足りない。

 そのぐらいのことで、あの王太子が判断を変えるわけがない。

 あの王太子に頼みたければ、それこそ、溺愛している婚約者から言わせないと聞かない。


 ああ、ああ、忌々しい。


 今になっても、私はあの二人には決して敵わない。

 私は、あの二人に…。




 「どうしてそんなに、その方々に囚われてるんですか?あなたはあなたで、こんなにとっても素敵な人なのに」


 思いつめていた時、一人の少女と出会った。

 桜色の少女は、私を見てくれた。私を認めてくれた。私で良いと、言ってくれた。



 私は彼女に夢中になった。

 彼女しか見えなくなって、周りが見えなくなって、あれほど見据えていたあの二人すら、見余って。


 「――そんなものを真に受けるとは、情けない。そんなことで、どうして宰相など出来るものか」


 ――私は、届かない夢を追う事も出来なくなった。

 宰相候補から外され、婚約者を失い、次に失敗をしたら家督を弟に奪われる。

 周りの目も、一層厳しくなった。


 私を支援してくれていた人々は途端に離れて行った。

 今まで、こんなに支えてくれていたなんて、気付かなかった。

 私は一人で立っているつもりだった。

 自分の足元なんて、自分の後ろなんて、顧みることもなかった。

 ああ、なんだ。

 後ろの人間を見ていないのは、私も同じだったのか。





 「なーに、たそがれてるんですか?」


 横から、無遠慮な声がかかった。

 そこにいたのは、あまり得意ではない、はっきり言えば苦手な人物だった。


 「……お前か」


 つい、苦々しい声が出る。

 そこにいたのは、王太子の婚約者である幼馴染の親友だった。

 幼馴染と昔から親しく、その関係で幼馴染を溺愛する王太子からも一目置かれている女。身分は決して高くないが、将来の王妃と王と親しいことから注目を集めている変人。

 魔術師長の三男の婚約者にさせられていたが、あの騒動で婚約を解消し、幼馴染の兄であり王太子の世話係の一人であった男と婚約したと聞いた。


 この変人の身分からすると、この態度はあまりに不敬。

 しかし次期王妃と次期王が背後に控え、国内三トップの公爵家の婚約者であるため、今までその不敬を指摘する者はいなかった。

 さらに現在では、その公爵家との縁は切れたが、代わりに同格の公爵家の跡継ぎになった者と婚約したので、こいつも次期公爵夫人だ。もう誰もこいつに不敬を指摘出来はしないだろう。

 否、そんな地位や後ろ盾がなくとも、こいつを咎める奴はそういなかっただろう。

 私自身、幼馴染と共に行動するこいつと話したこともあるが、こいつを前にすると、不思議と不敬だなんだと騒ぐ気がなくなる。


 飄々としていて掴みどころがなく、妙に図太く肝が据わっていて、そのくせ馬鹿で迂闊で感情的なところもある。

 そして、あの王太子の『とんでもなさ』を私たち並みにしっかり認識している上で、王太子にも平然と気安く接する。

 不思議な、変わり者だ。


 「宰相になれなくなったことに落ち込んでるんですか?でもそんなの、今更ですよね?殿下があんななのに、宰相まで強硬派だったら、バランスが取れなくなりますから。あなたが頑張ってたから宰相候補になってましたけど、最初から望みはなかったですって」

 「五月蠅い」


 絶対お前には追いつけない、と言われているように聞こえ、踵を返した。

 が。


 「――それに、そもそも宰相になんか、なりたくなかったでしょう?」


 「……っ」


 見透かすような言葉に、足が止まった。

 体がこわ張る。


 「あなた、殿下たちに認めて欲しかっただけですもんねー。認めてくれないから、優しいこと言ってくれる男爵令嬢で妥協して、ナンバーワンよりオンリーワン、なーんて負け惜しみ言って諦めようとしてましたけど。あ、でもその男爵令嬢も――」



 「――っ黙れ!」



 怒鳴ったが、足は動かない。

 振り向くことすらできない。

 ――だから、こいつは苦手だ。

 他意なく、人のことを見透かして、見逃してくれない。


 「……殿下も、あの男爵令嬢に求婚して、こっぴどく振られてましたね。あれ、ものすっごく、スカッとしませんでした?ざまぁ、とは違うんですけど、なんていうか、良い気味っていうか、人の不幸は蜜の味っていうか、――この人も失敗して、格好悪いところもあるんだなーって、ほっとしたっていうか…」


 そして、嫌いになれない。

 見通して言いたいことを言うが、それだけで、悪意も敵意もない。

 なんて変わり者だ。あの幼馴染が好むはずである。


 「あなたはどう思いました?マリーは、殿下を振って地味な少年を選んだ男爵令嬢を見どころのある人だって褒めてましたし、殿下も、自分から男爵令嬢を勝ち取った少年を男爵令嬢を幸せにする男だって認めてましたよ」

 「……そうか」


 幼馴染はあの桜色の少女を、王太子はあの地味な少年を、褒め、認めたらしい。

 私では駄目だったのに。

 何故、どうして私では駄目だったのか。

 どうやったら私は、あの二人に…。


 「……あの、別にあの人たち、そこまで周り見てませんよ?見て見てって、アピールしてあげないと気付かないんですから。仮にあなたが宰相になったって、あの人たち、なーんにも気付かないですよ、絶対。自分勝手で、自分のやりたいことしかしませんもん」


 つい黙ってしまった私を、変人がそろりと慰めてくる。

 その王太子にも幼馴染にも私にも失礼な物言いに、自然と苦笑がもれる。


 「……相変わらず、お前は自然に不敬をするな」

 「事実でーす。だからほら、律儀にせっせか追いかけてないで、こっち振り向けバカヤローって、叫んでやればいいんですって。てゆーか、追いつきたかったなら、宰相とかなってる場合じゃないでしょう」

 「何が言いたい」

 「宰相じゃ、あの二人の下で後ろじゃないですか!ここはドーンと同じ地位、一国一城の主を目指しやしょうぜ!」

 「一国一城の…、……クーデターでも起こさせる気か?」

 「く、クーデターは駄目です!ダメ、ゼッタイ!ほらほら、殿下が言ってたみたいに、裸一貫で成り上がる、みたいな!」

 「馬鹿を言うな…」


 そんなことが出来るのは、あの王太子ぐらいだ。でなければ、将来の公爵夫人まで成り上がった、目の前にいるこの変人ぐらいだ。



 とはいえしかし。

 確かに、どうしても宰相になりたかったわけでもなく、むしろバランスを考えればならないほうがいいだろうと常々思っていた。

 では何故こうも固執していたかというと、――やはりあの二人に追いつき、勝ちたかったからなの、かもしれない。

 否、きっとそうだ。


 私は、決して敵わないと認めている二人に、認めて欲しかったのだ。



 「――とにかく、視界に入って自分に利があれば、あの男爵令嬢と少年程度の人間だって認めちゃうんです!あのワールド・イズ・マインな二人はそういう人間です!つまり!」

 「……つまり?」


 「ちゃんと周りを見て、目標を間違えさえしてなければ、あなたが認められないわけがありません!」


 だから自棄になんかなっちゃ駄目ですよ!と、背中を押され、やっと振り返る。

 あの変人はただ知人と世間話をしただけのように、普通に歩き去っていた。


 二人に認めさせたくて、認めさせたいという気持ちも認めずに、儘ならないことに鬱々としていたが――そうか、少なくとも一人、自分を認めてくれている変人はいたのか。


 あの桜色の少女のように、見てくれる人もいる。

 完璧で敵わない王太子だって、地味な少年に当て馬にされて、女に振られた。

 当時は素直に受け取れなかったが、幼馴染が「ほどほどに頑張んなさい」と、励ましてくれたときもあった。



 宰相ぐらい、なんだ。

 後ろに来ている、眼中にない有象無象が、なんだ。

 私の目標は、そんな小さいものではなかった。

 心が折れるほど遠くて完璧すぎる男と、それに追いつく偉業を成し遂げた女だ。

 宰相候補から外されたぐらい。

 女から振られたぐらい。

 婚約者から捨てられたぐらい。

 周りから見限られそうなぐらい。

 小さなことだ!あの二人の前では!


 絶対に見返してやる。

 いつか必ず、認めさせてやる。

 だから、――今はきちんと、自分の罪を反省して、落ち込もう。


 長年目指していた夢が閉ざされたことを。

 好きだった少女から振られたことを。

 なんだかんだ傍にいてくれた婚約者に捨てられたことを。

 今まで支えてくれた人が手の平を返してきたことを。

 惨めに悲しんで、馬鹿な自分を後悔して、期待してくれた人を裏切ってしまったことを責めて、傷つけてしまった罪を刻みつけて、遠くなった目標との距離に省みて、もう二度とこんな過ちは犯さないと誓って、それでもまだ蹲って。

 ――必ず、立ち上がる。



 見返してやる。認めさせてやる。

 諦めるものか。諦めてなるものか。





 このままでは、終われない。




こいつは本当に魅了(チャーム)の被害者。婚約者との仲も普通に良いし、婚約者に不満も持ってない。人望があるから支援者も多い。ただ今回は、恋に目がくらんでいつも以上に猪突猛進になった結果、馬鹿みたいなミスをした

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