名無しの黒幕
王家主催のパーティで、四人の貴族令息が「公爵令嬢が男爵令嬢をいじめた」と糾弾したが、公爵令嬢の婚約者である王太子がその主張を退け、その後王太子が男爵令嬢に「身分はなくなるがきちんと養うから結婚して欲しい」と求婚し、振られ、次に子爵の五男が男爵令嬢に求婚し、受け入れられた。
そんな珍事が起こったが、パーティは恙なく終わった。
そのパーティの後。
結ばれた子爵の五男と男爵令嬢は、何故か好意的に受け入れられていた。
愛する女性のため、あの、あの王太子に張りあい、さらに勝った子爵五男は、その度胸と一途な愛情を。
あの王太子からの求婚を断り、国のために尽くせと言い聞かせ、分相応な子爵五男を選んだ男爵令嬢は、その賢明さと勇気を、大いに評価された。
これは、それだけあの王太子に苦汁を舐めさせられていた者が多かった、ということだろう。
完璧な王太子が公衆の面前で、たかだか男爵令嬢に振られ子爵五男の当て馬にされたのは、たいそう胸がすくものだったようだ。
その結果、あれだけ「あなたとは遊びだったんです!」と言った男爵令嬢も、王太子に喧嘩を売った子爵五男も、人々から口々に「よくやった!」と讃えられることになった。
当然ながら、二人は非常に困惑していた。
王太子の婚約者である公爵令嬢からすらも、「誰かがあの男をコケにしてくれないかしらって期待してたの。ありがとう。胸がすっとしたわ」と笑顔で言われていたのだから、当たり前である。
その、嫌われ者で完璧な王太子と、婚約者の公爵令嬢はというと、特に何の変化もなかった。
王太子は少し前から男爵令嬢と親しく、また男爵令嬢の想い人である子爵五男への嫌がらせも止めさせていたことから、純粋に「男爵令嬢が想い人と結ばれるように協力していた」と受け取られていた。
その直前に、公爵令嬢を不当に糾弾した四人を咎めていたことも大きかった。
王太子の求婚は、「四人が悪くしたパーティの雰囲気を立て直すため」やら「立場の弱い男爵令嬢が無理に婚約を結ばされることを回避するためだった」など、「必要に迫られて仕方なくしたこと」と捉えられた。
これも王太子の日ごろの行いのせいだろう。そつがないくせに、遊び心にあふれ、大切な人のためならなんだって叶える。そういう男なのだ。
公爵令嬢も不当に糾弾を受けていたが、即座に王太子が庇って訴えを退けていた上、こちらも日ごろの行いから、同情されただけだった。
あの王太子に溺愛されている公爵令嬢は、完璧すぎて皆が手を焼く困った王太子を、「お願い」と言うだけで操れる、周囲の人間からすると女神のような存在なのだ。公爵令嬢の味方は多い。
そんな二人なので、今回王太子が急に男爵令嬢に求婚したことも、「どうせ茶番だろう」と思われていた。
何せ、王太子は確かに男爵令嬢と親しくしていたが、公爵令嬢と仲睦まじいことに変わりはなく、公爵令嬢も、王太子に好かれた男爵令嬢を気遣うほどだったので、王太子が本当に男爵令嬢を懸想しているなど、誰も思いはしなかったのだ。
だから婚約破棄なんて大事だとは思われず、責任を問われず。
何よりも、たとえ茶番であっても、あの王太子が振られたということが爽快すぎて、言いがかりをつける人間がいなかった。
王太子の実の親である陛下でさえ、「よくやった」と機嫌良く笑っていた。
最高権力者が喜んでいるのに、あえて苦情を言う者はいない。ここで迂闊に王太子を罰したところで、損ばかりで誰にも得がないのだから、なおさら。
しかし公爵令嬢を不当に糾弾した四人は、後日、それぞれに咎を受けた。
宰相の長男は、もし次問題を起こせば、家督は弟が継ぐことになったそうだ。
公爵令嬢の義弟は、養子縁組は継続するが、家督は実子である長男が継ぐことになった。
魔術師長の三男は、実家に見捨てられ、学校を卒業した後は一切援助しない、自力で生活しろ、と言われたらしい。
騎士長の四男は公爵令嬢の護衛は当然辞めさせられ、学校も退学、家からも勘当されたと聞いた。
四人の婚約者は、全員、彼らとは婚約解消した。
宰相長男の婚約者は、直系ではないが王家の血を引く姫だったので、「そんな馬鹿はいらない」ときっぱり振ったたそうだ。
公爵令嬢の義弟の婚約者は、「下賎な血のものに嫁ぐ気はない」と将来性のない義弟を捨て、現在婚活をしているらしい。
魔術師長三男の婚約者は、魔術師長側から望んでの婚約だったが、魔術師長が「こんな馬鹿を押し付けて、すまなかった」と謝罪し、婚約解消。その後、公爵令嬢の兄と婚約した。
騎士長四男の婚約者も騎士長から謝罪され、婚約解消。騎士長のバックアップの下、新しい婚約者を探しているそうだ。
これをもって、ようやく、私はエンディングを迎えることが出来たのだった。
***
幼少期、高熱で寝込んで、気付いたら転生前の記憶を持っていて、転生前は現代日本で、今転生しているここは日本のとある乙女ゲームの世界で、私はそのシナリオと登場人物を知っていて、バッドエンドを避けなければならない理由があるが、あくまでゲームでは名無しの令嬢Fでしたとさ。
ちゃんちゃん♪
はい、テンプレ乙ーーーーーーーーーー!!!!
テンプレ乙女ゲーム転生ものの設定じゃん!っべーわ!マジ、やっべーわ!
百回は見たわこの設定!そんで結局うだうだしてなんかいい感じにふわっと収まる感じのあれじゃん知ってるーーーー!!
どーせあれでしょ???愛し合う男女がキスして世界が救われてハッピーエンドなあれでしょ???愛は世界を救って奇跡起こしちゃうんでしょ????
そもそも、恋が叶わなかった程度で世界がやべえことになるとか、どんな脳内花畑の恋愛脳国家ですか失望しました亡命します。。。。
この自然な流れで、イカれた攻略対象を紹介するぜ!
攻略対象その一!騎士長四男、脳筋馬鹿!バッドエンドでは数日後、ヒロインの実家を襲ってヒロインの家族を皆殺しにするぜ!
攻略対象その二!魔術師長三男、闇メンヘラ!バッドエンドでは一ヵ月後、王都で魔法暴走させて大量殺人するぜ!
攻略対象その三!公爵次男、拗らせお子様!バッドエンドでは数か月後、魔法で王宮破壊して王様殺すぜ!
攻略対象その四!宰相長男、尊大ナルシスト!バッドエンドでは一年後、革命家になって国家転覆目論んで内乱起こすぜ!
攻略対象その五!王太子、中二魔王!バッドエンドでは数年後、独裁政治して周辺国家に戦争吹っ掛けて世界大戦を巻き起こすぜ!
ちなみに、個別ルートに入る、なんて甘い考えはないぜ!強制的に出会いイベントが起きて勝手にストーリーが進むし、誰を贔屓しても全攻略対象のイベントが起こるし、攻略できず好感度が一定以下だとバッドエンドになるぜ!
ただし、どのエンドでもヒロインは生存してるぜ!家族皆殺しにされても大量殺人が起きても王様殺されても内乱起きても世界大戦勃発しても、エンディングまでは生きてるぜ!やったねヒロインちゃん、寿命が延びるよ!
は~~~~~~~^^キレそ~~~~~~~~~^^^^^^^^
ヒロインが攻略対象の好感度を一定以上にしないと複数人死ぬって、ヒロインのパロメーター依存のクソゲーやん。
殺意高すぎかよ。やってられんわ。
もぅマジ無理。。。亡命しょ。。。
でも中二魔王のエンドなら亡命しても無理だお^^
ってわけでぇ、自暴自棄になってぇ、好き勝手過ごしてたらぁ。
「マリーでいいわ。よろしくね」
悪役令嬢と友達になってた(ミャハ☆
悪役令嬢マリーは、王太子の中二魔王を嫌ってた。それも、「いなくなったら清々する」って嫌い方じゃなくて、「自分の手でぶっ殺して人生から存在を抹消しないと気が済まない」ぐらいの、拗らせた憎悪を持ってた。
こわ。
でも、中二魔王は傍から見ても、マリーを好いていた。
「面白い玩具」って感じの、人を人として見てないサイコ思考な感じだったけど、あれだけ嫌われてるのに好意的だった。Mなの馬鹿なの死ぬの?
世界大戦勃発させる力を秘めている中二魔王様に、恐れながら「マリーに嫌われてるよ察して?」と話したこともあるけど、中二魔王はいつも通り笑顔で、「だから面白いんですよ」と言ったから、こいつはやべえ…と察し、以後出来る限り関わらない決意を固めた。
ゲームでは、中二魔王は退屈していた。
悪役令嬢を甘やかすのも、『自分を嫌う悪役令嬢が面白いから』で。
ヒロインに惹かれるのも、『奇矯な行動をするのが面白いから』で。
世界大戦勃発させるのも、『世界征服してみたら面白そうだから』だ。
とにかく行動理念がやばい。
それをやっちゃえる能力と行動力があるのもやばい。もうヤバヤバのヤバ。どうしようもない。
だからぁ、やっぱり無理なんだぁってぇ、好き勝手生きてたらぁ。
「殿下、お願いがあるのですけれど…」
「おや、珍しいですね。何でしょうか」
「父が食べたと言う、どこかわかりませんけれど異国の、よくわかりませんけれど甘いという、菓子が食べてみたいんですの。用意してくださいませんか?」
「……マリアンヌ嬢?」
「あら、出来ませんの?」
「いいえ…、いいえ。マリアンヌ嬢のお願いとあらば、喜んで」
マリーが中二魔王を利用し始めた。
マ??
しかも中二魔王は、魔王パワーを発揮して、その無理難題を叶えちゃってる???
は~~~~~~????
それから、二人は愛称で呼び合うような仲になった。
マリーはなんだかんだ中二魔王に絆されてるし、中二魔王もマリーを人として尊重した上で慈しんでいる。
ちょっと意味が分かりませんね^^;
ってことでマリーに心境の変化について取材してみたら。
「あら、あなたが教えてくれたんじゃないの。私はあの男に愛されてるって。だから、……意地張ってるのが馬鹿らしくなっちゃって」
何故か自嘲気味に教えてくれた。
うーん、全く記憶にございませんねぇ。
秘書が勝手にやったことですね、きっと。
「そうそう、これ、あの男があなたと私にって。相変わらず、憎たらしいぐらいマメな男よねえ」
でも中二魔王からの貢物を持って笑うマリーは幸せそうで。
親友として、よかったなあって、心から思った。
***
ゲームで、疑問に思ったことがある。
悪役令嬢と中二魔王は、生まれた時からの許嫁。
悪役令嬢と尊大ナルシストは、幼馴染。
じゃあ、――中二魔王と尊大ナルシストも、幼馴染じゃね?
「違うわ。私とあの幼馴染は、家が同じ派閥で昔から交流があったから、幼馴染っていう関係なだけよ。あの二人はそれほど交流はないし、幼馴染が一方的に敵視してるってだけの間柄ね」
とか聞いたら、マリーにあっさり否定された。
「そもそも、私とあの男も、そんなに会ったことはなかったもの」と言われれば、確かに王族、それも王太子と『幼馴染』と言えるほど親しくはないのだろうと納得させられた。
そもそも、あの中二魔王に、そんな親しい人間がいるなら、あの魔王は『魔王』なんて言われてないわけで。
ぼっちな中二魔王は親しい友人が特にいない。
婚約者のマリーは、今では二人は仲が良いけど、ゲームでは本当に『甘やかす』だけだった。
同い年の尊大ナルシスト、闇メンヘラ、脳筋馬鹿は、中二魔王の格が違いすぎて遊び相手になれず、交流がほとんどなかった。
マリーのお兄さんと闇メンヘラの兄、魔術師長の長男は中二魔王のお世話役として交流があったみたいだけど、二人とも腹心とか側近っていうより、部下とか配下って感じの関係のらしい。
王族故に弟も妹もいるが、こちらも浅い付き合いしかない。
乳母子も単なる部下の一人。
近しい大人に頼るでもなく、単なる手足の一つとして扱う。
勿論、実の親にだって甘えることはなく。
それでも、王太子としての地位を絶対のものとしている。
♰定められし孤独の運命♰なんて中二臭い、イッタイことしてるのに、孤立無援で信用できない不穏分子なのに、中二魔王を王太子から引き落とそうとする動きは、全くなかった。
第二王子も申し分ない人物だと伝え聞くのに、第二王子を次期王にと推す勢力は現れない。第二王子の後ろ盾の穏健派ですら、強硬派の中二魔王が王太子だと認めている。
この、認めざるを得ない、というか、議論の余地なく認めさせてしまう威光が、カリスマ性とか能力とかではなく、それ以前にもう認めてしまう『どうしようもなさ』が、『魔王』なのだろう。
はっきり言って、あの乙女ゲームは、クソゲーだ。
ハッピーエンドもバッドエンドもノーマルエンドも、全部あのラスボス、中二魔王の前では無に帰す。
各キャラのエンディングの時期は、ハッピーバッド関係なく固定されていて、ノーマルエンドは最終イベントの直後。
すなわち。
中二魔王を攻略しないと、たとえノーマルエンドで終わっても他キャラでハッピーエンドになっても、――数年後、中二魔王が勃発させた世界大戦に巻き込まれる。
いくらメイン攻略キャラだからってやりすぎやろ/(^o^)\
他キャラ攻略無駄ですノーマルに逃げ道もないです中二魔王攻略しないと戦争です^^って、クソゲーにもほどがあるわぁあああああ!!!!
なんでこんな誰得の展開にした!!!言え!!!!!!
分岐の!!!意味!!!!!!!ねーじゃん!!!!
どんだけ中二魔王贔屓してんだ公式ぃいいいいいいい!!!!!
しかし逆を言えば、たとえ他キャラが攻略できていなくても、中二魔王さえ攻略しておけばハッピー確定なわけで。
あの魔王なら、ヒロイン実家皆殺しも王都爆破も王様暗殺もクーデターも、なんとかしてくれそうな万能感がありまして。
マリーが中二魔王を攻略してくれたっぽいので、これで安泰だと油断してまして。
あの孤立してるぼっち中二魔王が、唯一執着している婚約者の親友で、中二魔王自身からも気配りされている変わり者なんて、ええ、目を付けられないわけがないッスね。
「お前の婚約が決まった。相手は魔術師長であらせられるサンソン公爵の三男だ」
穏健派筆頭であり、国内スリートップの公爵家の一つでもある、魔術師長の家に取り込まれました。
デスヨネー!
確かに、魔術師長三男こと闇メンヘラの婚約者の令嬢も名無しでしたが!
何故!私!!!
国内スリートップの公爵家の二つが強硬派で、しかも一つは宰相で、もう一つは王太子の婚約者の実家で、王太子自身も強硬派で、それで穏健派の意見が弱いのはわかりますがねえ!
ろくに派閥争いに参加もしない上、身分も高くない私なんぞに目を付けないでいただきたい!!!
マリーの親友で、中二魔王にも『婚約者の親友』として気遣われてますが!!!あの中二魔王の弱味として取り込んでおきたいところでしょうが!!!!
せやけど!!
せやかて工藤!!!
なんでワイなんやぁああああああ!!!!
嫌だ…。
負け確してる穏健派の一派に加わるとか絶対嫌だ…。
しかもこのゲーム、逆ハーエンドはないのに、ヒロインは全員攻略しないと不幸になる鬱ゲーなのがホントクソ。
ヒロインが闇メンヘラ攻略しなかったら、恐らく高確率で闇メンヘラはしめやかに王都爆発四散させるだろうし、ヒロインが攻略したら、私は名もなき端役として婚約破棄される。
さらにさらにさらーに!
マリーを溺愛してる中二魔王は良いとして、ヒロインが脳筋馬鹿、闇メンヘラ、拗らせお子様、尊大ナルシストを攻略出来なかったら、攻略できなかった攻略キャラのバッドエンドが起こる。
たとえヒロインが誰か一人のルートを選んで、そこでハッピーエンドになっても、それ以前、あるいは以後に、バッドエンドルートの出来事が起こる。
訃報のアンハッピーセットかよ。
中二魔王はマリーによって攻略済みだから、数年後は中二魔王のハッピーエンドとして、泰平の未来が約束されてるんだろうけど、それまでの犠牲が多すぎる。
ヒロイン、乙。
だからせめて、ヒロインちゃんが全員攻略できるように陰ながらサポートするつもりだったのに、……恋敵的立場とか辛すぎんよ…。
案の定、私と闇メンヘラは一切会話が合わず、婚約してる他人状態となっております。
いや、一応歩み寄りはしたのよ?
でもあの闇メンヘラが全部無視しくさってくれやがったんで、今では没交渉です。私は悪くねえ。
そうこうしてるうちに、なんだかんだで乙女ゲームが始まりました。
ヒロインは順調に攻略キャラを攻略してくれ、私もほっと胸をなでおろしたものです。
ヒロインは攻略キャラに一切好意はないようなので、恐らく奴も乙女ゲームの記憶があるのでしょう。落とさなければ大量殺人が起こるなら、落とすしかない。
何にせよ、ヒロインが記憶持ちで、さくさく攻略してくれたのは助かった。逆ハーに興味がないから~、とか抜かして攻略放棄するなら、もうどうしようかとね。攻略しても最後のルート分岐で選ばなければいいだけなんだから、攻略はしろと。
だが、ここで問題が出て来た。
悪役令嬢だったはずのマリーが嫌がらせをしないから、最終イベント移行フラグが立たない。
本来なら攻略されたキャラが、ヒロインをいじめていたマリーを糾弾して、マリーはお縄。ヒロインはその糾弾したキャラたちから求婚される。そこが最終分岐だ。
ヒロインは求婚してきた攻略キャラから誰か一人を選び、そこでルートが確定する。複数を選ぶ逆ハーエンドは不可。誰も選ばなければノーマルエンド。
すなわち、マリー糾弾イベントが起きなければルートが確定できず、エンディングにたどり着けない。
もしかしたら、それでも問題ないのかもしれないけど、出来ればこんな怖いクソゲーはさっさと終わらせてしまいたい。そんで私もあんな闇メンヘラと婚約破棄したい。切実に。
だから、仕方なく。
仕方なく、ヒロインに足がつかない程度に嫌がらせをして、元々マリーを良く思ってない攻略キャラたちにさりげなく『マリーが元凶』って吹き込んで、マリー糾弾イベントが起こるように誘導した、ら。
「これから、マリーを公務で連れ出すことが多くなる。仮に被らなくても、いくらでも誤魔化してやれるが、分かった方がやりやすいだろう?」
ばれてーら☆
ふええ…中二魔王に全部ばれてたよぉ…><
しかも中二魔王、ばっちりマリーにアリバイが出来るように『公務』を入れてくれてた。やだ、中二魔王、有能すぎ…?
一応、「なんのことですか?」ってしらを切ってみたけど、「三日前、後ろ姿だけだが目撃されていたぞ。中庭で俺とマリーのことについて話していたから、見間違いだろうが」なんて微笑まれた。バレてる上にフォローされた…。君のように勘のいいガキは嫌いだよ…。
王太子の証言に、「それは嘘だ」なんて言える猛者はいないだろうから、『三日前は私は中二魔王と話していた』ってことが事実になったんだろう。うっかり私が目撃されたら、『マリーが親友に頼んで嫌がらせしていた』なんて噂になるから、とてもすごく助かったんだけど…。助かったんですが…。
バレたのがこの魔王様だってことが、すごく…怖いです…。
ビビりまくって、「何かお手伝いさせていただけることでもおありでしょうか」なんて全面降伏したら、中二魔王は麗しいお顔で、
「マリーがな、あの四人を、良く思ってないようなんだ。――好きにやるといい。お前はマリーの『親友』だからな」
とろけるように、甘く笑った。
返事は「イエッサー」と敬礼するしかなかった。
あのモンペ、溺愛がすぎる。ゲームで悪役令嬢がクソ女になるはずだ。殺したいほど憎む相手から、デロデロに甘やかされたら、歪むに決まってる。ファッキュー。
それから、ヒロインちゃんの攻略支援と、魔王様の御指令に添えるべく、ゲーム通りになるように陰ながら状況を整えて。
「今までの悪行の証拠はあがっているんだぞ、マリアンヌ・トワネット!」
なんとか、最終イベントまでこぎつけた。
中二魔王がはっちゃけて、ヒロインに求婚なんかしてたけど、ヒロインはモブとくっついて、マリーはさっさと中二魔王を回収してくれて、――私は闇メンヘラと婚約解消出来た。
婚約解消して――、
「――考え事?」
「あ、ううん。なんていうか、……幸せだなぁって思ってただけ」
回想していた私を心配してくれた愛しい人の髪を撫で、頬にキスをする。
彼はくすぐったそうに笑って、私にキスを返してくれる。
――やっと好きな男、マリーのお兄さんと婚約することが出来た。
どうせ婚約解消できるし、出来なくても、マリーを通じてあの中二魔王に頼めばいいと思ってたけど、こうなって本当によかった。
運命的な出会いはなかったし、これだっていうきっかけもなかった。
でも、ふと、この人が好きだと気付いてしまったのだ。
諦める、という考えはなかった。
婚約者がなんだ。こんな時に権力者の親友や、無駄に万能な知人を使わないでどうする。
乙女ゲームの展開も都合がよかった。それもあって後押しした。
身分差なんて知ったことか。私は、国内でも三本の指に入る公爵家の婚約者に選ばれた女だ。将来の王妃の親友だ。将来の国王に目をかけられている女だ。
パワープレイ上等。レベルを上げて物理で殴れ。
肉食系に、ガツガツ奪いに行ったら、相手も肉食系で、狩りに来ていた。
なんとあの中二魔王に、上手いことやったら自分と私の婚約を後押ししてくれ、と頼み、攻略キャラが暴走するように唆してくれていたそうだ。
お互いプロポーズの言葉が重なった時は笑えた。私は「結婚してください。断るなら、マリーに頼んで圧力かけますよ」、彼は「嫁に来て。殿下公認で、拒否権はないから」。見事に二人とも脅し文句だった。
彼が家を継ぐことになったのは誤算だったけど、マリーもいるし、きっとなんとかなるでしょ!ていうか、なんとかする!なんくるないさー!
私は好きな人を手に入れられたし。
ヒロインも攻略キャラ落として、モブと結ばれたみたいだし。
マリーも、あの中二魔王に溺愛されてるし。
まさに圧倒的ハッピーエンド!
めでたしめでたし!
大体こいつのせい