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リバティフォー  作者: nap
2/10

ブリーフィングルームにて

 自分以外の人間…自分以外のパイロット。

 この人が、もう一人のパイロットなのか。

 湊は急に現れた人物に戸惑いを隠せない。


「しけたツラしてんなぁー」


 そう言って湊の横に座った人物は、無理矢理湊の右手を取った。その瞬間、触れた温かさに今まで緊張していた湊の力が、少しだけ抜けるのが分かった。


「そらそんな顔になるのも分かるわぁ~」


 ブンブンと、握った手を一通り上下に振った少年。湊はされるがままに手を委ねた。どの様な反応をすればいいのか分からなかったのだ。


「………はぁっ」


 ふと大きな溜息が聞こえ前を見てみると、今まで淡々と話していた女性の顔がうんざりしたかの様に歪んでいた。何となく、冷たそうな女性だなと思っていた湊は、その顔を見て考えを変える。


「ついでに三人目のパイロットの説明をします」


 眼鏡をくいと上げ、女性は態勢を変える。


「三人目のパイロットは秋永楓、十八才の男です」


 目の前のモニターに映されたのは、今まさに湊の隣にいる人物と同じ顔をしていた。どうやら本当に三人目のパイロットらしい。

 十八という事は自分の一つ年上だ。湊は瞬時にそんな事を思った。

 そしてよかったと思った。自分と同じ様な年頃の人がいて。


「とりあえず話を進めます」


 女性がそう言うと、隣の人物、楓は足を組みダルそうに机に上半身を投げだした。それとは真逆に、湊の姿勢はピンとしたまま動かない。

 女性は続けた。


「リバティは選ばれた人間にしか乗れません。貴方達四人の事です」


「俺達…」


「そう、貴方達です。他の人間が乗ると、その人間は得体の知れない不快な感覚や身体の異変が起こり、到底コックピットにはいられなくなります」


「そうなんですか……」


 湊には全てが初めて聞く事だ。しかし楓は全てを知っているのだろう、全く興味が無さそうにしている。


「そして湊、貴方には今日から敵と戦ってもらいます」


「…!」


 その言葉を聞いた瞬間、湊の心臓がドクンと脈打った。


 今まで聞いてきた事がある。

 敵の事を。


 でもそれは全て不確かな情報で、湊は〝それ〟をテレビの中やネットでしか見た事がなかったのだ。


 今まで現れた敵で、ここ数年大変な事になったのを湊は知っている。


 突如現れる異形の者は、街を破壊し尽してきたのだ。

 今まで死んできた人の数はおよそ六万人。それ程までに凄まじい敵の脅威。


「敵に名称はありません」


 女性は尚も続ける。


「ただ単純に〝敵〟と呼ばれるそれは、貴方もご存じの通り沢山の犠牲を生み出してきました」


「……はい」


「初めに現れたのは十三年前の東京です。その時は色んな軍が動きましたが、被害を止めるのに時間が掛かりました。そしてその三日後、初めてリバティが導入されたのです」


 もう湊の頭はパンクしそうだった。自分の知ってる事と知らなかった事が同時に脳内を駆け巡り、中々ついていけない。

 十三年前の記憶なんて、湊には殆ど残っていない。だからその時の事も、あまりよく知らない。


 湊が知っているのはもっと最近の記憶からだった。

 それは現れる敵と当たり前の様にリバティが戦っているところ。


「敵は、今現在の軍の攻撃では倒せません。リバティにしか倒せないのです」


「何故ですか?」


「分かりません」


「え…」


「一つだけ分かる事は、敵を殺す事が出来るのは、リバティの持つ何か、というだけです。それが信号なのか、或いはリバティの未知の力なのかは分かりません」


 そう締め括ると、女性はふぅと一息ついた。それを見た湊も少し力が抜け、椅子に深く腰掛ける。

 隣で机に突っ伏していた楓が、チラと湊の方を向いた。


「とりあー、ぶっ殺せばいいんだよ」


 その口から出てきた台詞は、分からない物は分からない、だから深く考えるなとでも言いたげだ。


「ここまでで何か質問は?」


 女性がそう言う。すると湊は迷わず手を上げた。

 そして言ったのだ。


「何故俺なんですか」


 そう言った瞬間、楓の上半身が起き上がった。


「……分かったら苦労しねーわな」


「…………」


 そうか、そうなのか。それも分からない事なのか。黙る女性と楓の反応に、湊は嫌でも納得するしかない。


「敵は不定期に現れます。それもリバティのいる此処に、です」


「…と言うと?」


 モニターの画像が目まぐるしく変わる。今映っているのは日本の地図だ。


「最初の東京を除き、全ての敵が此処に来ます。湊、此処が何処か分かりますか?」


 先日家に来た、恐らく政府の者か、軍の者かは言っていた。今から本部のある場所に行ってもらうと。そこは湊の住んでいた家からはとても遠く、まるで縁の無い土地だったのを覚えている。

 そしてベースがある場所も知っていた。


「…奈良です」


「そうです。此処は奈良です」


 敵による被害が大きくなった現在、リバティのある場所に現れる敵の習性を利用して、日本政府は奈良県を閉鎖した。

 それなりに時間は掛かったが、無人になった奈良県は今、恐らく人一人としていないだろう。ネットで有名になりたいとカメラを持つ奴とか、度胸試しにと入る人間を除いては。


「敵は、外国はおろか、奈良以外には現れません。今のところは、ですが」


「どうしてですか?」


「はい?」


「どうして敵は、此処にしか来ないのですか?」


「分かりません」


 なんだ、思ったより分からない事だらけなんだな。湊はそう思った。てっきりこういう裏で研究等をしている者達は、一般人は知らない事とかを知っているものなんだと思っていた。


「ここまでで何か質問は?」


 女性がそう言って一旦区切る。すると、楓が威勢良く手を上げた。


「はい!!」


「……はい、楓」


「玲子さんは結婚しないんですか!?」


 楓がそう言った瞬間、玲子と呼ばれた女性は顔を顰めた。突然出てきた素っ頓狂な質問に、湊の力も思わず抜ける。


「しません」


「えー?なんでー?だってもうババァじゃん」


 固まる湊。目を見開ける女性。その場の空気が一瞬で凍った。


「楓……」


 でも、元々凍っていた空気が少し変わった様な気がする。

 今まで意味の分からない話をされ、未だによく分かっていなかった。それを必死で理解しようと気を張っていた。それを一瞬で解く彼は、きっとムードメーカーとでも言うのだろう。


「秋永君って、面白いね」


 湊ははにかみながらそう言う。すると楓は笑った。


「楓、でいいよ」


 自分の置かれた立場が、いまいちよく分からないまま。

 それでも湊は、此処で生きていかなければならないのだろう。


 今まで湊に色んな説明をした女性は、最後に言った。


「敵は不定期に現れます。それはニュースやネットを見ていた湊もご存じだと思います」


 敵はこの十三年で百二十五体現れたという。それは長い間が空いたり、短いスパンで襲来したりと色々だった。

 その度にリバティは出撃し、全て殲滅したのだ。勿論リバティだけの力ではない。軍もあまり力にならなくても援護してくれる。


 そして今まで、誰一人としてパイロットが死んだりリバティが破壊されたという事はなかったという。

 つまり、この楓という男も精鋭なのだろう。


「楓君は…強いの?」


 湊はそう聞いてみた。


「俺?俺はまだまだペーペーだよ」


 すると楓はそう答えた。


 昨日、少しだけ言葉を交わした最初の男は一体どういう人なのだろう?初めの男と言うからには、いくつもの死線を乗り越えてきたのだろう。

 そして残ったもう一人の人は、女性なのだろうか、男性なのだろうか、どんな人なのだろう?


「何か質問は?」


 女性は何回目かの言葉を言った。


 湊は一息つき、聞いたのだ。


「もし乗っているリバティが壊れたり…破壊された場合は?」


 その質問に女性は少し黙る。隣の楓も少し顔色を変えた。

 女性は、少し目線を逸らしながら答えた。


「今までその様な事はありませんでした。それはパイロットが優秀だったからです。ですからこれは仮定でしかないのですが……恐らく死にます」


 その言葉が湊の胸にズドンと音を立てて降りかかる。


「……貴方も、他の三人の様に頑張ってね…」


 優しい女性の声を微かに聞きながら、湊は襲い来る吐き気を押さえるのに必死だった。

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