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リバティフォー  作者: nap
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四人目の男

 今宵、ある男に一つの印が現れた。

 男は苦痛と不安と激しく打つ心拍数と脂汗を感じ、自分の置かれた立場を信じたくなかった。




 遥か昔、神は己の作った人の形を更に真似て、巨大な塊を作った。その塊は光の届かない海の底や深い山の中に散りばめられ、人がそれを見つけるまで待ち続けた。

 一つ目のそれが見つかったのは今から二十年前。ある晴れた日の事。

 世界の天才達が、有識者達が、それを解読した。しかしそれが一体何なのか分からなかった。

 その当時、この事は大きなニュースになった。未知の何かが見つかったと。そしてそれが何なのかが分かったのは、十五年前の事。


 ある一人の男が言った。


 〝それ〟が呼んでいると。




「君が新しい子?」




 そして今現在、それが何の為に存在し、どういう物なのかを全世界の皆が知っている。


 それは、人類の武器。


 いつからそれは『リバティ』と呼ばれる様になった。


 その名の通り、人類を自由にする為の武器。




「痛むか?」


「いや、今は……」


 今、酷く緊張した面持ちで佇む男の名前は香月湊。彼は今、見た事も来た事もない土地に一人で来た。

 別に来たくて来た訳ではない。来なければいけなかった。

 湊は七日前、誰もが寝静まる真夜中に、酷い痛みで目を覚ました。右肩から肘にかけての焼ける様な、切られたかの様な痛み。

 最初は寝違えたのか、寝ている間に何処かに打ったのかと思った。しかしあまりに痛むその腕に思わず部屋の電気を付けて確認してみると、恐ろしい印が付いていた。


 これが何なのか、湊は知っていた。



「お前、若いだろ。何才だ?」


「……十七です」



 湊はまだ見ていない。何処かにあるであろうリバティを。



 どこから本当でどこまでフェイクなのか分からない。しかし政府は、リバティの事に関してある程度の情報を流していた。


 リバティとは、敵から地球を守る唯一の武器。

 敵とは、宇宙か、果ては異次元か、何処かから現れる異形の者。

 リバティに呼ばれた者は、身体の何処かに黒い紋様が浮かび上がる。そしてそれが酷く痛むのだ。

 そしてその紋様は、いつからか共鳴印と呼ばれていた。


 リバティと、繋がる意味を込めて。



「まぁ力抜け。これからもっと力入れんといけねぇからな」


 今湊の目の前にいる男は、一番初めにリバティに呼ばれた男らしい。十五年前、初めのリバティに呼ばれ、今までリバティと共に戦ってきた。

 そう、リバティは全部で四体あるのだ。

 この男がどうやってリバティに呼ばれ、どうやって生き抜いてきたのかは知らない。しかし紛れもなく初めの男なのだ。


 今まで見つけられた四体のリバティの内、一つがこの男の物。そして残りの三つの内一つが、これから湊の物になる。


 その事に関して、湊は何故自分が、という気持ちしかない。


 世界中にいる沢山の人類の内で、何故自分が選ばれたのかと。




 湊はテレビのニュースで嫌になる程見た事がある。


 血に塗れたリバティを。




「まず初めにね、君とご対面させないとね」


 そう言って湊の前を歩くのは、いかにも頭の固そうな人物だ。

 今湊がいる此処は、昔は人が住んでいた。しかし政府の命令で今は無人の土地になっている。どれぐらい広いのだろうか。少なくとも見渡す限り人の気配は全く感じなかった。此処は一般人は立ち入り禁止の場所なのだ。

 厳重な警護と護送で湊は此処まで来た。昔、人が住んでいたであろう建造物の他に何も無い場所へ。

 しかし其処には、大きな施設が立っていた。どれぐらい大きいのかは一目見て分かる。その両目には収まらないぐらい大きな灰色の建物だ。


 此処は通称ベースと呼ばれる場所。ネットの世界やテレビでは、ただ単にそう呼んでいた。


 ベースの中に入ると、その独特の雰囲気に湊は圧されてしまった。怖そうな大人や、研究者らしき人物が沢山いるのだ。

 暫く歩くと、そんな人物の他に作業着を着ている人物ともすれ違った。そして他にも、色んな人物とも。きっとこのベースと呼ばれる場所で働いている人達なのだろう。それが政府の者か、自衛隊等かは湊には想像出来なかった。


 歩き続ける事十分。それ程までに長い道程を歩いた湊は、前を歩く人物が開けた鉄の扉の先を見て、目を見開いた。


「……!!」


 とても広い格納庫らしき場所に、恐らくそれがあったのだ。


「…こ、れが…」


「そう、リバティ」


 男がそう言う。そして続けた。


「君のね」


 テレビやネットでは見た事があった。しかしいざ目の前にそれが現れると、ただ驚くしかなかった。

 立膝を付いているそれは、恐らく立ち上がればそこら辺のビルよりも大きいだろう。そして一番驚いたのは、湊が見た事のあるリバティと随分と姿が違うところだった。


「白いの、まだ」


 そのリバティは白いのだ。どこからどこまで。

 その隣の並んでいるリバティとはかなり姿が異なった。


 純白のリバティの横には、深い赤のリバティが。そして青を基調としたリバティ。その横には銀色に輝くリバティ。


 男は歩みを進めると、白いリバティまで歩み寄った。湊も恐る恐るそれに続く。


「好きな色にしていいよ」


 自分がこれに選ばれたのか。

 遥か上を見上げてみれば、その無機質な目と目が合った様な気がした。


「さっき喋ってた男いるでしょ?」


「え?」


「ほら、オッサン」


「あ、あぁ…」


 湊はリバティから目を逸らした。

 現実からも逸らしたかった。


「アイツのリバティは、この赤い奴なの」


 自分が、これから、地球を守るなんて。




「感動の御対面、という訳にはいかなかっただろうけど…」


 湊は歩き続ける。目の前を歩く人物の後ろを。すれ違う沢山の人が、自分を奇異な物でも見る様な目つきをしていた。


「質問とかあるかも知れないけど、今はまだその時ではないかな」


 質問なんて、腐る程ある。聞きたい事が沢山あるんだ。でも今の湊には、何も言えそうになかった。



「はい、着いたよ」


 辿り着いたのは一つのドアの前。無数にあるドア達は、綺麗に十メートル置きぐらいに並んでいる。

 男は言った。


「今日から此処が、君の部屋ね」


 湊には、それがどうしても牢屋に見えた。


 止まった男に促されるかの様に、湊は自然とドアに手を掛けた。しかしドアノブの無いその扉は、押してみてもビクリとしない。

 そんなもたつく湊を見て、男は続ける。


「初期番号は0000」


 ふとドアの横を見てみると、小さなカードリーダーの様な物が。しかし湊はカードなんて物は持っていない。


「まだカード出来てないから、とりあえず番号で入って?」


 その言葉を聞き、湊はとりあえずその機械を弄った。0を四回押すと、プシューッと音がしてドアが開いた。どうやら横にスライドするらしい。

 そして目の前に広がった光景に、湊の鳥肌が立つ。


 何なんだ、この殺風景な部屋は。


「まだ何も無いけど」


 男は笑う。しかし湊には、さっき頭を過った牢屋という文字が再度浮かんだ。


 部屋にはベッドの他に、小さなモニターがあるだけだ。

 まさか此処で暮らすのか?

 一生?


「あ、あのっ」


 思わず出そうになった言葉を飲み込む。今はまだ何も聞きたくない。


「い、いや、なんでも…」


 俯いた湊は、自分が持ってきた小さなバッグを背負って部屋に入った。


「いる物あったらリストアップしといてね」


 そう聞こえた瞬間、ドアがスライドする。

 力が抜けきった湊は、バッグを放り投げてその場から動く事が出来なかった。





 ベッドに横たわり、色んな事を考えてみる。


 自分に共鳴印が出来た時の事。

 あまりの激痛で病院に行ったら、周りが慌ただしくなった事。

 家に黒いスーツを着た奴らが沢山来た事。

 次の日には、両親が暗い顔をしていた事。


 家に来た、中年の男は言ったのだ。


『これは法律で決まっています』


 湊は黙ってそれを聞くしかなかった。両親は大声を上げて何かを言っていたけど、男はそれに言葉で押し潰し続けた。


『いかなる人権もありません』


 今のこの時代、ネットでは様々な情報を得られる。

 リバティ、敵、パイロット、政府…

 様々な事が嘘か誠か飛び交っている。

 その中に一つだけあった文字を、湊は何となく覚えていた。


 パイロットって、三人いるみたいだぜ。


 しかしその三人の顔は、何処を探しても見つからなかった。

 本当にいるのかどうかすら怪しいし、そもそもあのリバティに人が乗っているのかどうかも分からない。


 しかし、男は言ったのだ。


『これからは、四人目のパイロットとして地球の為に戦ってもらいます』


 湊は今まで無責任な事を思っていた。

 例えばロボットに乗れるなんてカッコいいとか。

 或いは地球の為に戦えるなんてヒーローみたいで熱いとか。


 しかしいざ自分が選ばれたとなると。


 恐怖でしかなかったのだ。



 男の言葉に両親は黙り込んだ。両手を握り締めながら。そんな親を見て、湊は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 だから、交渉した。


「戦います。しかし、報酬は貰います」


 これが自分に出来る精一杯の事だと思った。自分の人生と命を引き換えに、金に変える。

 断られるかと思った提案だったが、男は即答した。いくら欲しいのかと。


 こうして湊は腹を括った。


 そして今に至る。



 殺風景な部屋に、独りぼっち。






「まず初めにリバティの説明をさせて頂きます」


 昨晩はあまり眠れなかった。しかし朝早くに起こされて、まだ何も準備していないのにこんな事になっている。

 湊は今、真剣な面持ちで目の前の女性とモニターを交互に見つめていた。

 此処はブリーフィングルーム。今、この沢山の椅子と机が並んだ、白くて広い部屋にいるのは湊と女性だけだ。


 女性がPCを動かす。すぐにモニターに映ったのは赤いリバティ。


「リバティとは、二十年前に見つかった人型の兵器です」


 一言も聞き漏らさない様に集中する湊。というよりも、自然と真剣になってしまう。


「発見された当時、リバティは微動だにしませんでした。あらゆる国に調査を行った結果、どの政府も軍隊もリバティに関与している者はおりませんでした」


 これは湊が産まれる前の話だ。


「約五年間、世界中の知恵と知識でリバティを解読しようと試みましたが、無理でした。これが生きているのかどうなのかも分かりませんでした。しかしある男が現れたのです」


 モニターの画像が変わり、昨日少しだけ言葉を交わした人物がそこに映る。


「横島鋭志。彼が初めのパイロットです。リバティに呼ばれたと言った彼が近付くと、リバティは少しだけ動きました」


「動くん…ですか?」


「はい、動きます」


 淡々と言葉を紡ぐ女性とは裏腹に、湊は目を煌々とさせている。女性の一言一言が、刺激的なのだ。


「そこで政府は彼を調べた所、身体の一部に不思議な紋様があるのを見つけました。それが共鳴印です」


 その言葉に思わず右肩を掴む湊。


「共鳴印とは、リバティに選ばれた証です」


 恐らくこの女性はリバティの事をよく知っていて、当たり前の様に喋ってくるが、湊には何が何やらさっぱり分からない。


「選ばれるって何ですか」


「分かりません」


「え」


 てっきり何もかもを知っているのかと思っていたが、どうやらそれは違うみたいだった。湊の質問に、女性はきっぱりとそう答えたのだ。

 呆気に取られる湊。その背後から一つの気配が忍び寄った。


「俺も聞くわ~」


 突然声が聞こえ、湊の隣に人影が落ちた。

 思わずその方向を見てみると、そこには湊と同じ年ぐらいの少年が。


「楓、帰りなさい」


「冷めてーよ玲子さん」


 そう言って少年は、極自然な態度で湊の肩に腕を回してきた。

 何なんだコイツは。そう思い一瞬顔が歪んだ湊に、少年は言う。


「よぉ、よろしく!」


 明るいその笑顔は、今の湊の心境とは反対すぎて。


「俺楓!三人目!」


 差し出された手を、湊は驚きの目で見つめた。

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