表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/48

08:エンディング





 ノアがソレル研究所を出た翌日。ノアはサムと共に、レイチェルが入院する病院へ向かっていた。


「今ならやめてもいいんだぞ、サム」

「何を言ってるんですか。ここまで来た以上、後には退けません」


 サムとノアは、車を病院の駐車場に停める。そして、警備室へと入って行く。


「警察の者です。緊急の用事で、面会させていただきたいのですが」


 時刻は夜。一般的な面会時間は過ぎている。しかし、警察という肩書が効いたのか、病棟に入るためのカードキーを手に入れることができた。


「国家権力の濫用ってやつだな」

「面白そうに言わないでください、ノア」


 そして二人は、病棟のあるフロアに向かう。


「ノア、待ってください。ボブです」


 二人は壁の陰に隠れる。エレベーターホールの前で、ボブが一人うろついている。出入りするファミリーの人間を監視しているのだろう。


「ここは、僕が何とかします。エレベーターから彼を引き離した隙に、ノアは彼女の病室へ」

「頼んだ」


 サムは、余裕を持った表情を見せながらボブに話しかけ、喫煙所へと誘導する。何を言ったのかは知らないが、口が立つ奴だ、とノアは思う。

 そしてノアは、エレベーターで最上階へと昇る。一番奥にあるのが、レイチェルの個室だ。しかし、最大の難関は、彼女の個室を守っているであろうファミリーの存在である。実際、彼らは有能なボディーガードに遭遇した。


「お前、確か……」


 金髪の、ケヴィンと呼ばれていた男。彼が個室の前に立っていた。


「警察が何の用だ。しかもあんた、アンドロイドの担当だろ。今さらそれについて文句でも言いに来たのか?」

「違うね。ごく個人的な用事で来たんだ」

「個人的?確かあんた、お嬢の知り合いか」


 ノアは、彼が警護についていてむしろ良かったと思う。話が早い。


「見ての通り、お嬢は重傷の身だ。いくら警察で、いくら知り合いだからって、ここを通すわけにはいかないな」

「ケヴィン?誰か来たの?」


 レイチェルの声がする。


「アンドロイドの捜査官の野郎だ」

「……いいわ、入ってもらって」

「でも、お嬢!」

「聞こえなかった?入れろって言ってるの」


 ケヴィンは渋々、扉を開ける。そうしてノアは、レイチェルの待つ病室へ入って行った。




「手ぶらでお見舞い?嬉しくないわね」


 レイチェルは、半分身を起こし、ノアにそう言ってみせた。


「悪かったな。花が良かったか?」

「そうね。白い花が良いわ」


 何がおかしいのか、クスクスと笑うレイチェル。


「俺さ、感情受容障害起こしちまって、しばらくソレル研究所にいたんだ」

「あらそう。大変だったわね」

「お前の方が大変だったな」

「確かにね。でも、大分具合はいいのよ?」


 その言葉を裏付けるかのように、彼女に通されている管は点滴一つのみ。ずいぶんと回復しているようだ。


「俺さ。言いたいことがあって、ここに来たんだ」

「何?」


 ノアは呟くように言葉を紡ぐ。


「研究所にいたあの時から。俺はお前のことを、大切に思ってきた。それは、今も変わらない。気づいたんだ。やっと」


 レイチェルは何も答えない。指を組み合わせ、じっと俯いている。


「お前が俺のことをどう思っているかは関係ない。ただ、伝えたかった」

「そう」


 短い返事。訪れる沈黙。そして、零れ落ちる涙。


「何で今さら……そういうこと言うのよ、バカ……」


 レイチェルは、堰を切ったように泣き始めた。ノアは彼女に近寄り、背中に手を当てる。


「こうなる前に、言えればよかった」

「本当にそうよ。あたしだって、ずっとあんたと同じ気持ちだったんだから」

「なあ、このまま二人でどこかへ行くか?警察もファミリーも関係ないところへさ」

「バカね。映画のエンディングならそれでいいけど、あたしたちはこれからも生きていくのよ?」


 ノアはレイチェルの唇を奪う。レイチェルもそれに呼応する。


「あなたのこと、嫌いじゃないわ」

「俺も、嫌いじゃない」

「もう行った方がいいわ」


 ノアはレイチェルから離れ、こう言い放った。


「またな、由美子」




 病院を出たサムとノアは、あてもなく車を走らせていた。しかし、ずっとそうしてもいられない。サムがノアに問いかける。


「どこへ行きましょうか?」

「そうだな、例のカフェに行こう」

「なぜです?」

「あの看板娘をからかいに行こうぜ」


 そうして二人は、ネオネーストを駆けていく。その日は月が白かった。

 「ネオネースト」を読んで頂き、まことにありがとうございました。いかがだったでしょうか?

 本格派SFを好まれる方にとっては、物足りない出来だったかもしれません。逃げるような言い方をすれば、割とライトなSFに仕上がったと思っています。

 「アンドロイドとの共生」という重いテーマを扱うには、まだまだ私の腕が足りなかった面は否めません。

 しかし、連載中は数多くの励ましを頂き、ホッとしているのも事実です。応援、ありがとうございました。


 さて、今作は作中にも出てくるとおり、フィリップ・K・ディック「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」「ブレードランナー」を大いにリスペクトした作品です。

 あまりにも有名なSF小説・映画なので、今作を読まれた方のほとんどは、その存在を知っているのではないでしょうか。

 高校生時代、SF映画にハマっていた私は、「ブレードランナー」を見てあまりのカッコよさに痺れ、「電気羊」を手に取ったという経緯があります。

 以下、両作品のネタバレがありますので、避けたい方はお読みにならないでくださいね。







 ディックの描いた「アンドロイドとの未来」は、ディストピアだったと言って差し支えがないと思います。

 アンドロイドは強制労働をさせられ、差別され、逃げ出せば殺される。とても可哀相ではありませんか?

 実際、「ブレードランナー」の評価では、真の主役はデッカードではなく、アンドロイドのロイ・バッティだったとも言われています(出典は忘れてしまいました……)。

 ロイの最期を見て、彼に感情移入してしまった人は多いことでしょう。私もその内の一人です。


 そこから私は、ぼんやりと考えるようになりました。アンドロイドをただの機械、労働をさせるためのものではなく、共生できる未来が来ないかどうかと夢見ました。

 しかし、想像すればするほど、それは困難なことだと判りました。それは、「ネオネースト」でも描いた通り。

 特に、クレマチスのセクサロイドたちがそうです。完全に言うことを聞く、人に近しい存在が、性のはけ口として利用されることは容易に想像がつきます。

 結局、人間が造るものですから、人間のいいように、彼らは扱われるわけですね。例えそれが愛情だったとしても。押し付けの愛情にしかすぎないんです。

 よって、私は考えました。最大限共生のための努力が尽くされた時代においても、やはり「デッカード」は必要なのだと。

 そうして生まれたのがこの作品です。


 また、「アンドロイドに感情はあるか」というのも大きなテーマでした。

 作中では、主にエンパスの二人によって、徹底的にそれが否定されます。非エンパスたちは、懐疑的、といったところですね。

 作者の私としては、否定する立場を取っていました。それは、ノアのセリフに投影したとおり。「感情は、俺たち生き物だけのものだ」というものです。

 しかし、もしかしたら、という願いもあります。自壊(自殺)したアリス、マシューの結婚式でひとり言を言ったリアレがそういった存在です。

 書き上げた今となっては、将来的にアンドロイドが感情を持つのか、それは分からなくなってしまいました。

 みなさんはどうですか?アンドロイドに感情を持って欲しいでしょうか。


 そして、私のいつもの悪い癖なのですが、五章では完全にノアとレイチェルの恋愛話になってしまいました。アンドロイド関係ないやん、という域になってます(笑)。

 最後にレイチェルが言う、「バカね。映画のエンディングならそれでいいけど、あたしたちはこれからも生きていくのよ?」というセリフは、お察しの通り「ブレードランナー」のラストからきています。

 一応、本当に二人を逃避行させる案もありました。しかし、そうするには二人の距離は開きすぎており、遅すぎた。

 よって、ノアはサムの元に、レイチェルはファミリーの元に帰る選択肢を取らせました。

 こうした恋愛要素が、この作品にどう働いたのかは、読者のみなさんの判断に委ねたいと思います。


 最後に、このような蛇足まで長々と読んで頂き、ありがとうございました。

 「アンドロイド」について考え、悩み、苦しみながらも楽しんだこの執筆期間のことを、私は忘れないでしょう。

 もし、アンドロイドについて他のアプローチがある作品があれば、コメントにて教えて頂けると喜びます。

 読者のみなさまに、盛大なる感謝を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ