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Chapter4

 君子危うきに近寄らず、という諺がある。賢明な人間は、危険な現場やきな臭い話には手を出さない、ということらしい。

 ならば、明らかに胡散臭い誘い話が半ば強引に自分の腕を掴んだとき、君子ならばどのようにあしらうのだろうか。孫子でもソクラテスでも、誰でも構わないから教えてほしいものである。

 結論から言えば、甲斐美晴は頭のねじが二、三本抜けた女だった。

 よりにもよって、彼女にあてがわれた席は源士の真隣。以降、授業もそっちのけであの鋭い目つきから発せられる熱い視線を浴び続ける羽目になった。

 それだけなら、まだいい。我慢できたと思う。

 性質の悪いことに、甲斐美晴は四六時中、耳元であることないこと大量の質問を浴びせかけてくるのだ。

 『いつからブラストをやっているのか』や『高校での戦績は』、『好きなプロライダーは』だとか。果ては『利き足はどちらか』だの『使っている槍の重量は何ポンドなのか』だのと、ブラストの話題にしても意図のイマイチ読めない質問を、ホームルームの終了から昼休みの始まり――まさに今の今までマシンガンのように浴びせかけてきたのだった。

 最初は困惑しながらも一言二言返答を返す源士だったが、一時間も相手をさせられると、さすがに悟った。

 ああ、この女はやはり真面目に相手をしてはいけない類の人類だ、と。

 とにかく絡む、喋る、小うるさい。何かにつけて、根掘り葉掘り源士の素性を聞き出そうと、隙あらばコンタクトを仕掛けてくるのだ。

 苛烈な尋問はわずかな休み時間まで続いた。あげく、トイレに立った時でさえ尾行される始末。さすがに男子トイレの前まで来たところで気づいたらしく、バツの悪そうに赤面して逃げて行った甲斐美晴であったが。

 ともかく、平生、目立たず空気のように生活することを旨とする源士にとっては、この異常ともいえるアプローチは堪えた。今の状況を外目から見れば、流星のごとく現れた麗しい転校生が、クラスにいるかいないかも定かではなかった地味なクラスメイトに熱を上げているように見える。となれば、あれだけ目の色を変えて熱狂していた生徒たちが黙っているはずもなく……

 クライスメイトの奇異と恨みの視線、それに甲斐美晴の過剰な接触から逃亡を図るべく、昼休みは何とか屋上に腰を落ち着けた源士であった。おかげで兵吾と予定していたマシンの修理も、彼一人に任せる他なくなった。兵吾は苦笑しながらも了承してくれたが、あの引きつった笑顔はしばらく忘れられそうにない……とまれ、ブラスト部のガレージが部外者立ち入り禁止と言え、甲斐美晴はそんなこともお構いなしに押し入ってくるだろう。当然、マシンの前であのマシンガントーク娘が黙っているはずもなく。

 結果、源士が休める場所と言えば、人の出入りが極端に少ない屋上くらいしかなかった、というわけだ。

 自前の弁当をつつきながら、昼下がりの陽光のもと大きくため息をつく源士。まったくもって、今日は厄日だ。しばらくはこの騒ぎが続くかと思うと、気が滅入ってしょうがない。

 こんな気持ちを慰めてくれるのは、彼が手塩にかけて拵えた卵焼きと購買で買い求めたテトラパックの牛乳、一三〇円(税込)くらいのものである。

「みっつけたぁ」

 厄日、依然として継続中。今日半日で完全に耳に焼き付けられた小うるさい少女の声が、この屋上まで追いかけてきた。

「ぶはっ! げほっ、げほっ……な、何でここに……」

 数少ない癒しすら口から噴き出してしまった。白い液体が鼻をつたう様はさすがに見せられず、袖で顔を覆う。外目に見ればあまりに情けない姿だが、そんなことを気にする余裕もない程、慌てふためく源士である。

 昇降口のドアが風に吹かれてギイギイと揺れる。その前で、肩で息をする甲斐美晴。待望の獲物を見つけたからか、その顔はどこか達成感に満ちている。

「探したわよ、山県くん。教室にはいないし、ガレージじゃ小山田くん一人でバイク弄ってるし。彼、君の専属なんだって? 良い腕してるじゃない」

 相変わらず、人にペースを合わせることを知らないと見える。甲斐美晴は牛乳でむせ返る源士などお構いなしにペラペラとしゃべり始めた。

「ま、そいでもって四方八方駆けずり回って、やっと見つけたってわけよ。これだけ私に手間かけさせたんだから、そろそろアレの返事、聞かせてよね」

 腰に手をやり、胸を張る少女。何故そこまで自信満々なのか。彼女、答えは「イエス」しか聞いてくれそうにない。

 そも、源士には彼女の言っていることが理解できないでいた。

 アレ、とは……

『あたしと契約して最強のライダーを目指す気、ない?』

 まさか、と思う。だが心当たりがあるとすれば、朝一番に彼女がのたまった、このセリフくらいしかない。

「甲斐。悪いけど、冗談の相手なら他を当たってくれよ。俺は今忙しいんだ」

「お昼ごはん食べてるだけでしょうが……って、冗談!? それこそ冗談じゃないわ!」

「ふざけろよ。どの口を開けば、そんな大言壮語出てくるんだ。第一、お前と組んで走ってどうなる。お前が俺に何をしてくれるのか、さっぱり分からん。それに――」

「え、えー……そこから説明しないと、だめ?」

「別に説明しなくていいぞ。どうせ、あんたとつるむ気はないんだから」

「ちぇっ……臆病者」

「なんか言ったか?」

「はーい、なんでもないでーす」

 にへらと笑う美晴。が、せめて引きつった口と小刻みに動く眉は隠してほしいものだ。

 ともあれ、いつまでもこのような聴衆不在の茶番劇を演じていると頭がおかしくなりそうだ。手早く弁当を平らげたら、また昼休みが終わるまでどこかに逃亡しておくことにしよう。

 源士がそう心に決めて、弁当をかきこもうとしたとき

 ぐぅぅぅ……

 小型犬の唸り声のような音が、うららかな日差しの下で鳴り響いた。

 何の音だろうと周囲を見回すも、ここは屋上。そんな音を立てるようなものは置いておらず、いたってまっさらのコンクリート床が広がるだけだ。

 と、なれば、この可哀そうな音源はほとんど確定したようなものである。

「……お前は、腹にチワワでも飼ってるのか?」

「っつ~~~~~~……!」

 顔を真っ赤にして、身体を震わせた美晴が立っていた。

「チワワじゃなくて、柴犬だったか?」

「う、ううううう~」

「ボーダーコリーだったか……」

「あ~うっさいうっさい! そうですよ! 腹ペコなんですよ!」

 大きな瞳に涙を浮かべて喚き散らす少女。まあ、さもありなん。年頃の女の子が腹の音を聞かれたのでは、赤っ恥もいいところだろう。そこのところ、源士がいかにトーヘンボクと言えども分からないわけではない。

 さてどうしたものか。幸い、腹もそこそこにくちたところで、ここにはまだ半分ほど残った源士の弁当がある。むさい一人暮らしの男が作った飯だが、まあ彼女が食べられないほど不味いということはないだろう。その、むさい男の食いかけではあるが。

「……ん、食えよ」

 渋々、といった顔を装って、源士は弁当箱を差し出した。

「え、なに? ……食べて、いいの?」

「要らないなら俺が食うぞ」

「でも……」

 さすがに、今日初めて知り合った男から情けをかけられるのは抵抗があるのか、美晴はしばし逡巡した。

 が、再び『ぐぅ』と弱弱しい鳴き声が彼女の腹からすると、ようやく観念したらしく――

「うう、いただきます……」

 顔を赤らめながら、おずおずと弁当箱を受け取った美晴。そのまま、源士の隣に腰を下ろすと、源士手製の弁当に目を落とした。その表情は飯に対するものというよりは、何か得体の知れない物体を観察するようでもある。

「毒見なら俺が直々にしてやったぞ」

「あ、あはは、そんなつもりは……すんすん」

「においを嗅ぐな、においを」

「やだなあ、冗談だって」

 言って、箸で玉子焼きを摘み上げる美晴。多少戸惑ったようだが、覚悟を決めたのか一気に口へと放り込んだ。

 咀嚼すること、一、二秒。

「う、うまっ?!」

 爛々と瞳を輝かせて叫ぶ美晴。なんだこいつ、玉子焼きひとつで大げさな奴だ。

しかし、当の美晴はいたって本気で感動したらしく、黙々と弁当をかきこみ始めた。その必死さたるや、久々に食事にありついた野生動物のようだ。

「はむっ、はぐっ、んぐんぐ……はふ……ほへー……しあっわせっ」

「お手軽な幸せだな。食いかけの弁当だぜ」

「悪かったわね、まともな手料理にありついたのなんて久しぶりだったのよ……しかし絶品ね、この出汁巻き……うわ、この肉団子もうまっ!」

「別に大した手間はかけてねえよ、ちょっと工夫すればこれくらいは――」

「これ、キミがつくってるわけ?」

「お、おう……なんだその反応」

「ふふん、意外な特技、だね」

 白米を頬張りながら満足そうに笑う美晴。多分、褒められているのだろう。別にうれしくはないが……

「だから、大したことはしてないって……一人暮らししてりゃ当然だ」

 照れているわけではない。断じてないが、なんとなく気恥ずかしくて源士は顔を逸らした。

「キミ、一人暮らしなの。ご両親は?」

「いるけど、俺の勝手で一人暮らししてる」

「へえ、なんでまた」

 情けをかけたのが裏目にでたのか。はたまた餌付けの成果か。美晴の態度が急に柔らかくなった。と、いうよりは――

「……お前、さらに馴れ馴れしくなったな」

「ええー、そうかなー?」

 などと笑いながら、幸せそうにもっちもっちとマッシュポテトを頬張る美晴。まるでリスのようだ。

「うーん、いいよ。アタシが当てたげる」

 美晴はそのマッシュポテトをひとしきり飲み込むと、少し何か考えながら、口元を袖で拭った。

 ほとんど空っぽになった弁当箱を源士に押し付ける。すると、空いた両の手を固く握って、胸の前に掲げて見せた。

「これでしょ」

 そのうちの右拳をくるりと何度か回す。

 どうやら、それでバイクの動きを模倣しているらしかった。手首をひねる動作はアクセルを回すしぐさなのだろう。

「部活のレベルで、一人一台マシンがもらえる様な学校は、国内じゃこの芦原学園くらいだもんね。専用のサーキットもあるし、プロ志望のライダーなら喉から手が出るほど欲しい環境よね」

「ん、まあ」

 間違っていないから、源士は曖昧に呟いて肯いた。自分のライディングを形にしたいがために、あのメカニックの兵吾とともにこの学校の門を叩いた。結果は、一年かけても公式大会すら出られないという体たらくだが。

「ふふん、あたしも目的は一緒よ。もっとも、アタシが興味あるのはキミたちライダーの方だけど」

「結局、それだ」

 断片的にだが、この少女が学園にきた理由は推察できた。有望なブラストライダーを探していて、彼女のメガネに適うやつをスカウトしているらしいのだ。

 そうして見つけたライダーと組んで仕立て上げるというのだ。

「最強の、ライダー」

「そう、それよ」

 人差し指を源士に向けて、にっと笑う美晴。きっと、本気なのだろう。

 だが、彼女の目は節穴だ。

「やっぱり他の奴を当たったほうがいい」

「それは無理な相談。アタシはね、キミの料理の腕くらいには、ブラストに関しては自信があるの」

「それで、選んだのが俺か?」

 源士はひどく長くけだるいため息を一つ漏らした。

 卑屈になっている、と思う。他人から評価されているらしい。素直にそれを喜ぶべきだろうが、あいにくと長年低評価に晒されたせいか、疑ってかかる性分がこびり付いてしまった。

「俺の走りは見たんだろう?」

「ふふん、見た」

「はっきり言って、邪道だ」

「そうだね」

「公式戦もほとんど出てない」

「負けまくってるからねー」

「……痛いとこ突きやがる」

 だが、事実だ。そして、それこそが真理だ。

 ブラストは強いやつが勝つのではない。勝った奴が強いのだ。いくら努力を積み重ねても、その姿勢を評価されたとしても、敗北者にその声は慰めでしかない。そこに賞賛はなく、栄誉もない。ただ惨めさが残るだけだ。

「―――それでも、アタシはキミに賭けたいと思ってる」

 そう言い放つ美晴の瞳には一点の曇りもない。空を、どこか遠くを見つめる少女の横顔が少し大人びていて、源士は図らずもその横顔を見つめる羽目になった。

「昨日さ。キミの走り、見たよ」

「ひどいライディングだっただろ」

「ま、ね。カウルにはべったり張り付いてるし、スタンディングもしない。槍なんてあり得ないくらい低いとこから投げてたでしょ。正直、びっくりした」

「初めて見た奴は、みんなそう言う……で、呆れるか、怒る」

 セオリーを無視したフォームだ。常識的に教育者なら、誰もが矯正させようとするに決まっている。もっとも、源士はそれを完全に振り切ってやったが、最初の時期は鉄拳制裁も辞さない勢いで怒鳴られたくらいだ。

 だから、彼女もそういう目で自分を見ているのだと思っていた。

「じゃ、ドキドキしたのは私がはじめてかな」

 だが、ちらと横目に覗いた彼女の瞳は、怒るでも呆れるでもなく、爛々とした光と宿していた。

 それは、初めて見たおもちゃを手にした無垢な子供の様で、源士はしばし、そんな美晴の顔を見入る羽目になった。

(何を考えているんだ、俺は)

 今日初めて会った、しかも初対面の自分に対して執拗に絡んでくるような、ちょっと頭のねじが緩んでいるような女だ。

 それが、どうしてこうも輝いて見えるのか―――

「アタシには断言できる。君は、君の走りは、もっと強くなる。ただ、その走りにはまだ足りないものがある。欲しいんでしょう? もっと、スピードが」

(こいつ……、知ってるのか)

 今朝の、兵吾とのやり取りが頭をよぎる。

『お前、今の出力じゃ不満なんだろ?』

『エンゲージまでにあと、十キロは欲しい』

 そうだ。そのスピードがあれば、今の無様なライディングは本当の姿を露わにし、あらゆる敵を貫き得る無双の槍の源となる。

 その得難き力を手に入れたくて、源士たちが今までどれほど足掻いてきたのか、きっと彼女は知らない。

 知らないから、簡単に『足りない』などと言える。

「ぬけぬけとよく言う。俺たちがどれだけ……くそっ」

 無責任に思える美晴の言葉に、苛立ちが募る。悪気がないのはわかる。だから、彼女の言動を片端から罵るわけにもいかず、源士は結局、のど元まで出ていた悪態を無理やりに飲み込んだ。握りしめた手はポケットに突っ込んで、じわりとにじみ出た汗が、熱い。

「速さが欲しいか……なんて、ね。ふふん」

 美晴のセリフは茶化しているようにしか思えない。それでも、終始自信に満ち溢れた彼女の声音はなんだ。

「どれだけ焦がれても、手に入らないものはある。努力とかお金で得られないもの、ってのはね。でも、君の欲しいモノはそうじゃない。同時に、アタシのずっと探し求めていたものも……今、目の前にいる」

「冗談がすぎる。それが俺だというのか」

「キミが、アタシのあげる速さを望むならね。ま、いいわ。昼ごはんのお礼もあるし、今日の所はこれぐらいにしてあげる」

 スカートのポケットから財布のようなケースを取り出した美晴。そのケースから白い長方形の紙片を抜き出すと、源士の手に無理やり掴ませた。

「おい、なんだよこれ」

「連絡先、その気になったらそこに電話して」

 矢継ぎ早に言い放つと、美晴は飛び跳ねるように立ち上がって駆け出して行った。

 と、出入り口で立ち止まって振り返る。

「でも、君のことを諦めはしない。絶対に、私のマシンに乗っけてみせる」

 少女らしい、爛漫とした笑顔はなりを潜めていた。今、源士をキッと見つめる瞳は、強い意思を携えていて、源士がどこかで見たことのある瞳とダブって見えた。

 いつの事だっただろう。プロのブラスト戦を観戦したことがあった。

 血沸き、肉躍る一瞬の駆け引きに情熱を捧げるライダーたち。彼らが出走間際、ヘルメットの隙間から覗かせる双眸は、皆一様に煮えたぎった闘志を宿らせていた。

 源士に向ける美晴の眼差しは、それに瓜二つなのだ。

 そんな彼女の強い意思が、源士に向けられている。山県源士という一人の人間を、甲斐美晴が求めているという証拠がそこにある。

 きっと何をか応えなければいけないのだろう。

 差し向けられた彼女の手を握り締めるにせよ、払い除けるにせよ、そのまっすぐな思いに、源士はきっとまっすぐな答えを示す必要があった。

 だが、今はその答えがわからない。ほんのわずか顔をそらして、受け流すほかは。

「ふふん、じゃね」

 美晴は何か満足したように、はにゃりと表情を崩して屋上から出て行った。

 後に残されたのは源士一人。口を開けたまま、立てつけの悪い金属音をさせて閉まっていくドアを見ていた。

 終始ペースを掌握されて、彼女の喋るがままに場を憩いの場を乱された。それに関して悪態をつくことも、源士はきっと忘れていた。

 彼女の勢いに圧倒された……いや、それだけではないのだと思う。

 源士が浴びせかけられた言葉は、きっとすべて真摯だった。冗談、あるいは一時の感情による出任せとは違う。それは源士の走りの欠点を言い当てた分析と尋常ならざる瞳の色が示している。

 そうであるならば、彼女は本当に目指しているのだろうか。ブラストで名を挙げることを。プロの門を叩くことを。

「馬鹿げてる」

 欠片ほども現実味を持たない言葉の数々に、源士はそう吐き捨てた。

 仮に美晴の思いがリアルだとしても、それが実現不可能な程遠い道のりだとしたら、結局は妄言でしかなくなる。

 高度なエンジニアリング、膨大な資金、マッチメイキングを可能にするコネクション。そして、類まれなる実力。トップの世界に足を踏み入れるには、ありとあらゆるハードルを突破する必要がある。しかも、その達成すらようやくスタートラインに立つための第一歩でしかない。

 セコハンのマシンですら改造するのに苦労し、アマチュアの部活レベルでも練習相手に難儀する源士である。現実的な思考では、どうしても美晴の言葉は狂言めいた夢物語にしか捉えられないでいた。

 しかし、そんな理想でも美晴は成功を確信しているように話す。現実を見据えているはずの源士にも、淡い期待を抱かせるほどに。

 震える手が訴えるのだ。あるいは……と。

 美晴が残していった紙片に目を落とす。厚手の真っ白なカードには無個性な明朝体で名前と肩書が記されている。かなり本格的な体裁をした名刺だ。が、そこにある肩書は、いち高校生が持つにはあまりに仰々しく、しかも冗談が過ぎる代物だ。

 名刺には、こうあった。


(株)甲斐モータース 代表取締役

 兼

 KAI KAXAN チームマネージャー

 甲斐 美晴

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