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Chapter41

 ウィニングラン。この広いサーキットをたった一人で走る、勝利者のみに許された栄誉。

 今、コース上を一騎の紅いマシンが悠々と駆けていく。数々の傷と欠損からは激戦の名残が伺える。事実、人々の記憶に強烈刻み込まれる熱闘であったのは、未だ冷めやらない観客の熱狂が証明していた。

 マシンと同様に傷だらけのプロテクタをまとったライダーは、いくらかぎこちない動きで、ギャラリーへ向かって右の拳を掲げている。この戦いの勝者である。もっと誇ってもよいのだが、無理もあるまい。 これがデビュー戦にして初勝利の彼には、まだ勝手が分からないのだろう。

 だが、勝利したのは紛れもなく彼だ。ブラストライダーとして、輝かしい一歩を踏み出した、その事実だけは変わらない。

 やがて、マシンが一周を終えてホームストレートに凱旋すると、彼はいたわる様にマシンをゆっくりと停車させた。

 すると、待ちわびたように三人のスタッフが彼に駆け寄った。

 ライダーを押し倒さん勢いで抱きつく少年。もう一人、長身の男は何かを呟くと、どこか気恥ずかしげに握手を求める。

 そして紅一点、茶色身を帯びたショートボブの少女。持ち前の強気を形にしたような吊り目がちの両目は、淡く潤んでいた。その双眸は、ひたすらに眼前のライダーだけを見つめる。

 相対するライダーは、いくらかぎこちない手つきでヘルメットを脱ぎ去った。赤く高揚した顔には、まだ興奮冷めやらぬ雰囲気が見て取れる。

 二人は向かい合う。しかし、互いに語りかけることはない。ただ、代わりに思いを重ねようとするかのように見つめ合う。

 その内、歩み寄ったのは少女の方だった。

 確かな足取りで、一歩一歩確かめる様にライダーへと近づいた少女は、彼の両肩に手を掛け、そして――

「あああああああっ!」

 羞恥に塗れた美晴の叫び声が木霊した。その手にあるものを力いっぱいブン投げると、それは兵吾の耳元を掠めた。

 ボン、と言う音がしたとかしないとか。

 次の瞬間には、激しい音をたてて目の前のテレビモニターが爆ぜ、朦々と灰色の煙を立てていた。見ると、液晶のど真ん中に野太いスパナが刺さっている。

 青ざめた顔で振り返ったのは兵吾である。引き攣った口もともじゃあからさまな恐怖が見て取れた。

「か、甲斐? こいつがさすがにやり過ぎじゃあ……?」

「うるさいわね! 電気代だってタダじゃないんだから、いつまでもそんなくっだらない動画みてるんじゃないの!」

「も、モニター代の方が、高くつくと思うんだがなぁ……」

 と、絶句する兵吾。

 そうは言っても、あの動画をあれ以上見せるのは美晴の沽券に関わる。感極まっていた、テンションが天井知らずになっていた当時の自分をぶん殴ってやりたい気分だ。

 なぜなら、あの映像の先には――

「まだ遊んでいるのですか。もうすぐプレエントリーです」

 乱れまくった美晴の思考を遮る様に、抑揚のない雅丈の声がした。いつものようにインテリじみた銀縁眼鏡をクイと押し上げる様は冷静そのものである。

 彼の手には一台のタブレット端末。そこにはワードプロセッサで作成された簡素なタイムスケジュールが写されていた。スタッフミーティングに始まり、メディカルチェック、マシン搬入……そして、試合開始。

 そう、ここは試合会場。広大なるサーキットの外縁に位置する、控えチームの待機エリアである。

あの勝利から一週間が過ぎた。源士と隆聖の死闘はメディアを通じて世界中に拡散され、その熱気はサーキットに集った以上の人々の心を動かした。

 そうして語られるようになった源士の二つ名。

曰く、《ブラスト界の新星》。あるいは、《デッドリー》を使い手であるが故に《古からの使者》とも。

 かくして、源士と《甲斐カザン》の名は、一日にして轟いた。

 ところが、これが存外に良い事だけでもなかったのである。脅威の新人を打ち倒せば自分の名声も上がると言うので、あちこちから挑戦の依頼が後を絶たないのだ。

 一週間、と言うは易いが、こんなものブラストの試合スパンとしては無茶もいいところだ。

屑鉄寸前だった《四式カザン》も、今しがたやっと修理が完了したところである。傷をすべて癒し、欠損した部品は補った。そして、ギリギリのタイミングながらピカピカ新品同然になったマシンが、美晴の背後にある。

 美晴は雅丈からタブレットを受け取った。スケジュールに今の所問題はない。タッチペンで承認のサインを書きこむと、ディスプレイ上に《ENTRY》の文字が浮かび上がった。

「でもま、ここで勢いを殺さないようにするには、戦って勝ち続けるしかないわけで……」

「そういうことです……まあ? あのお嬢様の恥ずかしい名シーンなら? 何度見てもやぶさかではありませんが?」

「さらっと変態じみたこと抜かすなバカ! ……小山田くんも、呆けてないで搬入の準備!」

「わ、悪ぃ……いやよ、なんか夢みたいだなって、思ってさ」

 そう言って、兵吾がはにかんだ。

「そりゃ、いつかはこの舞台に来るんだと思ってたさ。そいで、勝ちあがって最強になるんだって……いや、どうかな。もしかすると、そんなのガキの戯言で、やっぱりただの夢だと諦めてたかもしれねえ」

 そうだろう、美晴も思う。

 ブラストをやるにはあらゆる条件が必要だ。カネもコネも、運さえも。まして、常識的には何の結果も残せていない源士や兵吾がプロの領域に足を踏み入れるのは、不可能に近かっただろう。

「けどよ、甲斐。お前が現れた。そんで、えげつねぇマシンがここにあって、俺はそいつを弄ってる。これってすげえよ、信じられねえよ……だから、ありがとな」

 気恥ずかしげに兵吾が笑う。

「っ~~~~~!」

 こいつはまた青臭いことを……美晴は思わず顔を熱くさせた。

 だけど、違うのだ。感謝するのは彼だけではない。

 マシンとコネクション。彼らが手に入れられなかったそれらを確かに美晴は提供した。同時に彼女も手に入れたのだ。

 共に戦うべき存在。掛け替えのない、仲間を。

 でもそんなこと言えない! だって、恥ずかしいから! 顔から火が出るほど!

「あーもう! あのバカは? 源士はどこ行ったの?!」

「さあ、その辺をうろついているのでは?」

「アタシ、探してくる! 小山田くん、マシンの最終チェックと搬入作業よろしく! 駒井君は作戦の総まとめな」

 それだけ告げて、美晴は逃げ去る様にスペースを後にした。


 ***


「逃げたな」

「ああ、逃げた」

 後に残されたのは男二人である。監督とライダーが試合を前にして行方不明になるなど前代未聞だが、実の所あまり気にしてはいない。彼らが人の話を聞かないのも、終始暴れっぱなしなのも、そして、必ず戻ってくることも分かっているからだ。それだけの、ブラストバカだからだ。

 そんなバカたちを頭に据えているのである。フォローする身としては骨がおれる。それは、二人の共通認識だった。

「まったく、ちゃらんぽらんな方々だ」

「……だけど、悪かねえんだよなぁ」

「ああ。無理も、無茶も、無謀も。彼らならやる。そう思わせてくれる何かが、お嬢様にも山県にはある」

「ははっ、理論派のあんたが言うじゃねえか、駒井先輩?」

「僕とてロマンを介さないわけではない」

 バツの悪そうに眼鏡を押し上げる雅丈。

 兵吾はその様を横目に鼻を鳴らした。立ち上がり、モニターに突き刺さったスパナを担ぎ上げる。

「やれやれ……じゃあま、今回もフォローしてやりますか。あの我儘な騎士様とお姫様を……」

「無論だ。勝利のために」

 二人は顔を見合わせて、互いに拳を突き合わせた。


 ***


 ギャラリーの最上段からサーキットを見下ろす。走る身としては笑えない程広いと思えたコースは、ここからではミニチュアの様に思えた。

 あそこを自分が走ったと言う感慨は……あまりない。喉元過ぎれば熱さを忘れる、というやつか。だからこそ、何度も何度でも、あの修羅場に突っ込んでいけるのだろう。

 それが、自分たちの様なブラストライダーなのだ。

 我ながらアホのすることだと、源士は苦笑した。

 源士の試合は、もう間もなくのはずであった。本来ならば、ここらでチームのブリーフィングに顔を出すべきところだが……ここに来ずにはいられなかった。

 一週間前、真田隆聖を打ち倒したあの日。源士は確かに飯富虎生の姿をここに見た。

既に死んだはずの男だ。脳内物質を垂れ流しにした源士の脳が見せた幻影には違いないが、それでも確かめたかったのだ。

「アンタなら、どう言うかな。俺の《デッドリー》について」

 隆聖との一戦。その、最後の一勝負。源士は渾身の《デッドリー》を放った。少なくとも、源士のブラスト人生で最大最強と言って良い。届かないと思った高みに、あの一瞬だけは体が思うように反応した。まるで吸い込まれるように、ランスは隆聖の懐へ食いついた。苦痛と疲労に塗れた肉体が、あの瞬間だけは思うように動いたのである。脳裏に焼き付いたイメージの通りに……いや、それ以上だ。自分でも信じられぬほど理想的なモーションは、はたして血の滲む努力の賜物か、あるいは偶然か。

 ただ一つ言えること。それは、同じ《デッドリー》で隆聖に打ち勝ったということだ。恐らくは、飯富虎生を完全な形でトレースした隆聖に、勝ったのだ。

 そんな奇跡の一撃を、飯富虎生が目の当たりにしたら、果たして何と言っただろうか。だから、そいつを問いただしてみたかった。例え源士の見た幻影であったとしても、既になき亡霊であったとしても、再び相見えたならば――

 もっとも、簡単に起きないから奇跡であり、偶然である。

 死者は、やはり死者だった。

 どの道、期待はしていなかったのだ。仕方ない、帰ろう……と、源士が踵を返した時だった。

「よう、少年」

 飯富虎生……ではない。しかし、源士が良く見知った男だった。

 真田隆聖が、特徴的なキツネ目で笑いかけながら立っていた。今日はプロテクタでなくスーツ姿、その襟には六つ星のピンバッジが光る。

「試合前やろ、こんなとこで油売っててええの?」

「単なる息抜きだ。あんたこそ、今日は非番じゃないのか。試合もないのにサーキットの見物かい」

「敵情視察も立派な仕事。違うか?」

「熱心なことだな……」

「そう、熱心やねん。僕みたいな人間はな」

 そういう嘘か真か分からぬ事をニカリと笑って言うのだから、この男は信用がならない。本当に、源士が勝てたのが不思議なくらいの相手だ。

「……なんてな。今日は君に会いたくて来た。この前は君、試合が終わってすぐに病院に担ぎ込まれたからなあ。せや、結局無傷やったんやて? 丈夫っつっか、不死身っつうか」

「俺もそう思う。医者が目ん玉ひん剥いてビビってたよ。生きてるのも不思議なくらいなのに、ってな」

「ははははっ、せやろなぁ。ま、それなら――」

 言いつつ、隆聖は源士の傍らのシートに腰かけた。彼は手の内にあった缶コーヒーを源士に差し出すが、試合前に不要な飲食はしない主義である。それを手で制して断った。

 断られた隆聖は、少しだけ詰まらなさそうしながら自分で缶のタブを引いた。

「それなら、今度は最初から本気でやりあえるな?」

「抜かせよ。今度はもっとあっさりと返り討ちにしてやる」

 お互いに、本気でそんな軽口を叩いているわけではあるまい。死にもの狂いで戦ったのだから、それが如何に困難かは承知しているつもりだ。だが、「お前は強かった」などとは口が裂けても言えない。

 そういうプライドは一人前の二人だから、わずかばかり威嚇するように睨みあう……が、すぐに滑稽に思えて、二人して笑みを零した。

 ひとしきり声を出して笑いあうと、隆聖は息を長い息をついた。

「……聞きたいことがあったんや。最後の、《デッドリー》について」

「あんたもか」

「どういう意味や?」

「いや、こっちの話だ……あんたに教えられることなんて、俺にはないよ」

 源士自身、あの一瞬の超越が何なのか分からないでいるのだ。それを簡単に説明できる方法など、持ち合わせていない。

 そうか、と一言つぶやくと、隆聖は残念そうに視線を手の内の缶コーヒーに落とした。

「正直な、僕はかなりびっくりした。途中までは、僕の槍の方が速かったはずやったのに、いつの間にか君の槍は僕の腹に刺さってた……元は同じ、虎生のニイさんの《デッドリー》のはずなのにな……?」

 確かに、元を正せば源士の《デッドリー》も隆聖のそれも、大本は飯富虎生が極めんと研鑽を積んできた技の模倣に過ぎない。

 そして、隆聖が最後に打ちこんできた一撃は、明らかにコピーとは違う真作に迫ったものだった。だからこそ、面喰ったのは源士も同じだったのだが。

 自分の《デッドリー》が、それを上回った。

「そいつが分かってたら、俺は今頃世界チャンプになれる。テンションがハイになってたとしても、いつも以上に気合が入ってたとしても……そんなものは、アンタだって一緒だろうからな」

「……アスリートが言うところの『領域ゾーンに入った』ってやつや。いくつも条件が重なって、初めて発動する一種の覚醒状態。そう簡単にできる様なもんやない、か」

 隆聖は嘆息すると、缶コーヒーを一息に飲み干した。そして、ゆっくりと立ち上がる。

 その横顔には寂寥とした感情を感じたが、源士には何をか言うべき台詞が思い浮かばなかった。

「邪魔したな、源士君。ま、頑張れよ。負けた僕の査定が落ちんように、な?」

「あんたは、まだ《シックスセンス》に?」

「勿論。一回こっきり負けたぐらいで辞めさせるほど、ウチのチームもブラックとちゃうよ。それに僕かって、無為に負けたわけとちゃうからな。君なら分かるやろ?」

 隆聖が首を傾けて言った。その声は、どこか誇らしげにも聞こえる。

 源士は敢えて答えなかった。が、顔を伏せてかすかに笑って見せた。それが、意地の悪い源士の、せめてもの意思表示であった。

「ほな……安生、気張りや」

「あんた――隆聖さんこそ、またここで会おうぜ。ただし、勝つのは俺だがな」

「くははっ、言いよる!」

 隆聖は後ろ手に手を振りつつ去っていく。

 やれやれ、だ。戦いづらいライバルが出来てしまった、と思う。ベテランを気取っていいた頃はまだマシだった。何かしらの驕りが、そして、諦めがあった。そいつは、真田隆聖という男の限界を定義づけていたから。

 だが今、目の前を颯爽と歩いていく男は違う。ただ一目散に、勝利だけを追い求める獣。生粋のブラストライダーとなった。そんな隆聖は、まだ強くなるのだろう。

 ――ならば、自分は?

 源士は隆聖の後姿を眺めながら、言い知れぬ不安を覚えた。かすかに、足が竦むほどに。

《デッドリー》は、ある種の高みに至った。限界を超越した。

この先は、あるいは頂点と呼べるものは、果たしてあるのか。雲か霞を掴むようなその理想は――

「源士!」

 ネガティブな思考の渦をかき消すように、少女の声が源士を呼んだ。

 去り行く隆聖の向こうに、人の姿が見える。

 真赤なポロシャツに、膝丈の黒いパンツは《甲斐カザン》のユニフォーム。小柄な肩を上下に揺らすと同時に、少し乱れたショートボブの髪の毛がふわりと流れた。

 強い意思を宿した瞳は、今は大きく見開かれて源士を見つめている。まるで、ずっと探していた失せ物をようやく見つけたかのように。

 甲斐美晴。そう、彼女がいた。

 源士は苦笑した。何が、『限界を超えた理由は分からない』だ。理由はあった。あまりにも近くに、決して忘れてはいけないところに。

「隆聖さん! ……一つだけ、言えることがあった」

「ほう……?」

 振り返る隆聖を前にして、源士は人差し指を突き出した。その指し示す先は、隆聖ではない。

「つい最近な、良い仲間ができた。大切な相棒だ」

 紛れもない本心で、源士はそう告げた。

「なっ! ……ばっ?!」

 美晴が言葉にもならない呻き声を漏らす。彼女の髪の毛が逆立つのが見えた。次の瞬間には、頬を高揚させて俯いて、髪をくしゃくしゃとかき回した。

「その反応は、良いのか悪いのかどっちなんだ?」

「き、キミってやつは……たくもぅ」

「くっくっ……はははは! そうか、相棒か! 丁度ええわ。僕ももう一個だけ、聞きたいことがあった」

 源士と美晴のやり取りに吹き出したらしい隆聖。思い出したかのように、振り返り源士に問いかけた。

「君、飯富のニイさんが逝った日にコースまで入ってきた少年やろ? 僕が首根っこ引っ掴んで離した――」

 そういえば、居たな。細目で妙な方言を使う少年が。

「なんだ、今頃気付いたのか?」

「やっぱりか。運命、ってやつかもな……お嬢さん、ええ人見つけたな?」

「駒井君まで……ったく」

 と、困ったように苦笑する美晴の肩を叩き、隆聖は去って行った。

 後に残されたのは、源士と美晴だけである。

「……で、キミは駒井君に何を吹きこんだのかな?」

 美晴がジト目で源士を睨んだ。

まったく、何を疑っているのだか。源士はため息をつく。

「何も……いや、そうだな。お前に会えてよかったって、そんな話さ」

「はあ、キミって人は……まあでも、そうかもね?」

「今日はやけに素直だな」

「……源士がひどい。アタシをツンデレみたいに言う」

「デレたところ、見たことないがな」

 などと、愚にもつかない軽口の叩きあい。だが、それが妙に心地よかった。

 源士はいつかと同じように、美晴の頭に手を置いた。ただし、できるだけ優しく、ゆっくりと。

 源士は再び、小さく見えるサーキットに目をやった。今はまだ、静寂に包まれたコースである。が、もう間もなくすれば、自分はそこに一人飛び込んでいくのだ。

 そして、そこには倒すべき敵がいる。

 人を狂わせ得る熱狂がある。

 あるいは、恐怖も。

 だからこそ、行くのだ。何処まで上り詰められるのかを証明するために。

 ――亡霊と再び相見えるのは、それを見極めてからでも良いだろう。そこが終着点ならば、尚更である。

 故に、今は。

「美晴、マシンの準備は?」

「……ふふん」

 問いかける源士。美晴は、上目づかいに不敵な笑みを浮かべて、言った。

「私を誰だと思ってるの? キミこそ、どうなの?」

「問題ないね。お前と兵吾に、駒井先輩がいれば――」

 そう、やることはたった一つだ。源士は美晴の頭に置いた手を離し、彼女に掲げてみせた。

 美晴と視線を交える。彼女は鼻を慣らし、源士の手に自らの手を重ねる。

 乾いた音が、周囲に響き渡った。

 一歩、歩み出る。口元が、自然に吊り上った。

「俺は、ただ貫くだけだ」


***


 ブラスト、という競技がある。それは、血沸き肉躍るサーキット上の肉弾戦。

 彼らは今日も、槍を手に《機馬》を駆る。


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