途切れたフィルム⑦
海の中を漂っていた。
見上げても光が見えないほど深いところだった。どうしてこんなところにいるかはわからない。僕は底までたどり着けないかと考え、下へ下へと泳いだ。そのうち、暗くてよくわからないが、建造物らしきものがそこかしこに生えているのが見えて、地面はすぐそこだとわかった。
足をつくと途端に水が引いて、白い世界が露わになった。蛇行した青い道が一本、地平線まで伸びていた。時々銀色に発光するその道は、よく見ると透けていて、下では魚達が鱗を反射させながら先へと泳いでいく。
そしてさっきは暗くてわからなかった、道に沿うように埋まっている建造物は、どれもちゃみかんの一部だった。風車の羽と小屋、円形の屋根、無数の窓ガラスと煉瓦、苔むした井戸などなど。すべては現実と同じぐらいボロボロだった。
「どこへ行くの?」
逆さまに地面に刺さった風車小屋のてっぺんに、白い少女が座っていた。少女は難なく飛び降りると、僕の前に手を後ろ組みにして立ちはだかった。
「カスカはどこへ行きたいの?」
「それはおまえが決めるんだ、獏也」
後ろからしわがれた男性の声がした。振り向くと、コック姿のじいじが立っていた。
「僕は――」
思い出すのは、これまでに見た夢。知らない星の砂浜、懐かしい商店街、昼と夜が同時に進む夏祭り。
「ここより遠くに」
僕はあたりを見渡す。廃墟となったちゃみかんが散らばっている。
「もうカスカを縛るものは何もない」
白い少女は後ろに手を組みながら僕の目の前まで近づいた。目線が同じ高さであることに今さら気づき、自分が子供の姿に戻っていることを知った。
「もうこうして会うのも最後かもね」
そう話す少女に、寂しそうな素振りは微塵も感じられない。そうなるのが当たり前であるように、平然としている。僕は彼女の肌に触れようとして、手をぐっと握りしめこらえた。
わかっている。別れの時が来たのだ。
途切れたフィルムを、つなぎ合わせる時が来たのだ。




