新宇宙の砂浜
地球は平らだった。
海の端には奈落へ注ぐ滝があり、大地は一匹の亀と三匹の象と九匹の獅子によって支えられていた。
そして獏也が生まれた時代では、一匹の象が寿命を迎えようとしてた。
象が死ねば、バランスをとれなくなった大地は傾き、生ける者全てが虚空に放り出されるだろう。
「一番北の大地にはね、いるんだって」
彼の隣には、少女が立っていた。晴天の空に浮かびそうな、あるいは足元の砂浜に溶け込みそうな、白い白い少女だった。
「旅の人に聞いたよ。あそこには象のご先祖様が暮らしてるの。茶色くて毛むくじゃらで、すっごく大きいんだって。きっと代わりが務まると思う」
水平線を見つめる彼女のまなざしは、海面に反射される光のようにきらきらと輝いている。獏也も一緒に海を眺めたが、待ち受ける旅への不安で逆に表情は険しくなる。少女は獏也に振り向いてそれに気づくと、くすりと笑った。
「あれを見て」
少女の指した方向には丘があり、丘の上にはこの町の教会があった。特徴的な建物で、西洋風の一階部分と対照的に、二階部分は現代的。縦型のガラス窓が何枚もフロアをぐるっと囲むように配置され、それを上からお皿で挟んだような形をしている。さらに屋根には小さな白い風車がとりつけられていた。
風車の羽を通り過ぎた風は、見たこともない虹色の靄を吐き出していた。
「あんなに風の機嫌がよさそうなの、私初めて見た」
少女は獏也の左手をとり、両手でぎゅっと握った。雪のように冷たい手のひらから、汗がにじんでいくのがわかる。無理をした微笑みが、すごく愛おしい。
「ちゃんと帰ってくるで、な?」
彼女の手をほどき、空を飛ぶサーフボードを砂浜に置いた。ボードの周りには風が纏い始め、目元の高さまで浮かび上がる。抑え込んで乗ると、少女と同じぐらいだった背丈が、大人と子供ぐらいの差になった。
行ってきますの代わりに微笑んで、獏也は海へ向かって飛んだ。ボードは水を切り、加速し、さらに上へと昇っていく。
「バクくーーーん! 帰ってきたときはーー!」
後ろを振り返ると、ぐんぐん遠ざかっていく少女が、口に手を当て叫ぶ姿が見えた。
「ウェデイングドレスで迎えてあげるからあ!」
結婚。
頭にその二文字が瞬時に浮かびあがって、遅れてプロポーズされたのだと知って、獏也は顔がみるみる熱くなっていくのを感じた。突然の動揺は体制を崩し、バランスをなくしたボードは不愉快だとばかりに獏也を宙へ放り出した。
声にならない叫び声をあげた。
目の前に真っ青な海が広がる。
視界が暗転する。
「うあぁっ!」
目を開けたらそこはいつもの教室で、僕の頭は支えていたはずの左手からこぼれていた。
クラスメイト、みんなの視線が僕に集まっている。
「望月獏也」
世界史の佐久間は、静まり返る中、厳かに僕の名前を口にした。
「立ってろばーたれ」