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ふたつの波長の組み合わせで綴られる会話

 石の王は森の中

 ずっと ずうっとそこにいる


   *


 石の王とは、その名の通りの存在だ。人の背丈の三倍ほどもある磨きぬかれた黒色の石球である。その身は一見すると漆黒だが、木漏れ日に七色に透ける。感覚器はなく、手もなく、足もない。しかし思考を巡らせることはでき、その独特な言語を解するものとは会話を行うこともできる。私は一度だけ、その様子を見たことがある。

 男は石の王の前に座り込むと、静かに瞼を閉じた。呼吸がゆるやかになっていくのが感じられた。まるで生きながら石の像になっていくかのようだった。そっと手を触れてみると、冷たく、硬くなっていた。視線や吐息で生物を石化させるという、伝説の魔獣に襲われたらこうなるのだろうかと、らちもないことを考えた。そのまま八日が過ぎたが、彼は微動だにしなかった。私はひとたび森を離れた。書き物をしているうちに冬になってしまった。じりじりと春を待って探しに行くと、彼らはまだそこにいた。石の王の姿は変わらなかったが、男の服は風雪に汚れ、肩口や頭髪には土埃が積もっていた。

 夏に至った。

 秋が訪れた。

 時間が経過するにつれ、男の姿は灰色に汚れていった。出来のよい彫像めいて。足元など苔むし、伸びた植物の蔓が絡んでいる。もはや生きているなどとは思えなかった。──が、不意に頬に赤みが差すや、彼はゆっくりと両腕を振り上げた。のびをしたのだと理解できるまで、ややも時間がかかってしまったのは仕方のないことだろう。

 苔を払いながら男が語ったところによると、これだけの時間をかけて、十数語程度の言葉のやりとりがやっとなのだという。それが鉱石類に流れる時間の感覚なのだろう。なるほど、自身も石にならねば、聞くことすらままなるまい。きっと私や男が死んだ後も、石の王は存在し続け、その沈思を重ねていくのだろう。


   *


 石の王は森の中 

 ずっと ずうっとそこにいる


 神が生まれて死に絶えて

 世界が消えてしまうまで


 石の王は土の上

 ずっと ずうっとそこにいる

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