魔法ははたして天恵であるのかという命題
人は魔法の力を秘めて生まれてくる。ただしそれがどのような力であるか、知覚することは難しい。些細な力であれば、一生涯、己の持つ力に気づかないことも多い。知覚し、理解しても、秘密にする者も少なくはない。それが利を得られるものであったり、他者から利用される可能性のあるものであったりすれば、なおさらだ。
また、魔法は再現性に乏しいとされる。一度上手くいったからといって、二度目も、とは限らない。状況によっては、まったく違った効果が現れることさえある。ゆめゆめ気軽に使うことなかれと、誰しも一度は幼少期に戒められたことがあるはずだ。
たとえば風を呼ぶことのできる男がいた。彼はこの力で風車を回し、麦を挽くことで生計を立てることができた。ある時彼は、遠く海を渡る旅に出た。凪のために船の帆がたわんだとき、同行していた友に乞われて風を呼んだ。彼らと彼らの乗った船は、突如として巻き起こった竜巻によって天空高く舞い上げられ、海原へと叩きつけられた。
たとえば魅了の声を持つ少女がいた。可憐な外見の彼女は、その力で人々に愛され、猫のように遊んで暮らすことができた。そんな彼女は、ある日、美しい旅の楽士に恋をした。精一杯の愛を込めて告白したとき、彼女の顔は醜いあばたで覆われてしまった。治らなかった。絶望した彼女は部屋に閉じこもったまま死んでしまった。
かように不定で、不可思議で、大抵はろくな結果をもたらさない魔法を使いこなせる者こそが、「魔法使い」と呼ばれる。彼らの使う魔法は一種類とは限らないし、威力も群を抜いている。中にはたった一人で王都の軍隊と渡り合える者すらいた。
魔王と呼ばれた魔法使いがそれだ。
彼は死の魔法を自在に使いこなした。睨むだけで他者の生命を奪い、逆に数百の矢に貫かれても死ぬことはなかった。誰も逆らうことなどできず、やがて世界の半分を手に入れた。名前を呼ぶことさえも恐れられ、いかなる伝承にも個人名は残されていない。そのような恐ろしい魔王であっても、世界を手にすることはできなかった。彼は突如として、居城の奥で消えてしまったのだ。
聖者と呼ばれた魔法使いもいた。エイルという名の彼女は、左手を患部にかざすだけで、いかなる傷病をも瞬く間に癒した。数百、数千の命を救い、最後に王の病を癒して死んだ。衰弱死だった。おそらく彼女の魔法は、自らの命を代償としていたのだろう。
また、人ならぬ精霊・妖精・妖魔の類は、こうした魔法を息をするかのごとく容易に行使できるのだという。実際私は、ドヴェルグが目の前で姿を消したり、アルフが暁の光を武器に変える様子を見たことがある。おそらく魔法に対する親和性が、我々よりもずっと高いのだろう。そういう意味で彼らは生まれながらの魔法使いなのだといえる。あくまで人間の観点からではあるが。
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こまごまと解説してきたが、私には魔法よりも呪詛のほうが恐ろしい。
人の編み出した、黒く穢れた言葉のほうが、よほど。