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青銅剣のストールがいかにして死に至ったかという話

 ストールという戦士がいた。まだ竜が生きていた時代の話だ。彼はその名の通り剛力無双だった(訳注:ストールという名前にはそのような意味がある)。

 彼は青銅剣と呼ばれる武器を携えていた。これを振るって様々な怪物を倒した。巨人を、竜を殺した。しかし文献を漁るほどに研究者は頭を抱えることだろう。これは青銅でも、剣でもなかった。輝きこそ青銅に似ているが、決して曲がらず、錆びなかった。剣のような形をしているが、刃はついておらず、鍔も、握りもなかった。切っ先だけは尖っており、いっそ杭といったほうが形状的には正しかった。切っ先と反対の側には、長い鎖がついていた。ストールはこの鎖を持って青銅剣を振り回し、己の数倍も大きな怪物と渡り合ったという。つまりはモーニングスターやフレイルのような武器だったということで、なぜ「剣」という分類がなされたのかは不明である。

 彼は数多の冒険の末に、竜と相打ちになって死んだ。竜鱗は硬く、彼の自慢の武器も通じなかった。緒戦で足をやられたが、だからといって逃げるわけにはいかなかった。彼は英雄であり、人々の守り手だった。退くことは名誉を失い、信じる人々を見捨てることと同義だった。

 彼は水場へと向かう竜の通り道に穴を掘って潜み、三日三晩を過ごした。やがて竜がやってくると、鱗のない無防備な腹を狙い、全身の力を振り絞って青銅剣を捩り込んだ。それはちょうど心臓の位置だった。滝のように降り注ぐ竜の血は、強烈な毒素を含んでいた。ストールに逃れる術はなかった。火炙りにされるにも似た苦痛に喘ぎながらも、彼はついに青銅剣を離さなかった。

 そうしてストールと竜は死に至った。

 竜は死んだが、毒の血によって穢された大地と水場は、その後も人間に対して恵みを与えることはなかった。

 ストールの亡骸は丁重に弔われた。記録や詩によれば水場に船葬されたことになっている。興味深いのは、副葬品に青銅剣が含まれていたという記述が一切ないことだ。


 彼の青銅剣は、竜の血を塗布された魔器は、いずこへと消えてしまったのだろうか。




(編注:毒竜の血に穢されたのは、現在オーレインと呼ばれている死の土地のことだといわれている。ご存知のように、真っ白な砂地には植物や動物の影はなく、どこまでも透明な湖にはさざなみひとつ立つことがない。ほの暗い水底になにが眠っているのか、いまだ確かめた者はいない)

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