人でありながら獣になる者についての定義
杯斧王は豪快で気風のよい指導者だった。分捕り品など気前よく分けすぎたほどで、食うに困って部下に無心することも珍しくなかったという。ただし酒だけは別だ。彼は並ぶ者なき酒好きで、とんでもない飲兵衛だった。彼の目を盗んで酒をくすねた輩は、ただ一人の例外もなく、斧で首を落とされたという。
晩年の彼は、酒よりも強い快楽を求める研究に没頭した。酒では酔いきれなくなっていたからだ。毒蛇、毒蟲、毒草、毒茸……それらの劇薬を試す過程で、幾人もの人間が命を落としたが、王にとっては大した問題ではなかった。奴隷は山といたからだ。
こうした実験の果てに、王はとある秘薬を調合することに成功した。それは確かに人を酔わせるものではあったが、彼が望んだようなものではなかった。戦いの場において高揚に狂わせる類のものだったからだ。
薬杯をあおった戦士は忘れる。恐れを、痛みを、さらには死すらも。鎧など要らぬ。盾など要らぬ。剣では足りぬ。斧を持て。全身の血管が膨れ上がる。真ッ赤に充血した眼に映る、すべてのものを打ち砕いてやろう。人に遭っては人を、獣に遭っては獣を、それが神であるなら神でも構わぬ。すべてを台無しにしてやろう。──すべてを!
彼らは熊や狼の毛皮をまとわされた。目印として。狂える獣と同じように、敵も味方もなく、視界に入ったあらゆる動くものに対して牙を剥くからだ。素性を知る者なら、あるいは一度彼らとまみえたことのある者なら、誰もが顔を蒼ざめさせ、獣皮を被った戦士から身を隠した。それは人の形をした魔獣だ。学識ある者ならば、英雄ヘルテイトの四足なる友の姿を見出したことだろう。
人々はこれを狂戦士と呼んだ。
狂戦士の群れは周辺諸国を恐慌に陥れたが、最後は無残な同士討ちによって滅びた。人を獣に変えてしまう秘薬の製法は、杯斧王の死と共に失われたとされている。