命を共にした英雄と魔獣についての伝承
英雄と呼ばれたヘルテイトは、常に一匹の魔獣を伴っていたと伝えられている。彼らが二身一体となり、互いに陰になり陽となって戦う様は、まるで美しくも激しい舞踏のようであったと詩歌には謳われている。
しかしながらヘルテイトについての記述は多いわけではない。その得物でさえも判明していない。文献には「切りつける」「切り裂く」などといった表現が残っていることから、刃を持った武器を使っていたのであろうと考えられてはいるが、これらは言動や行動の比喩である可能性も否定しきれないからだ。
伝承においては彼よりもむしろ、魔獣の描写のほうが詳しい。たとえばこうだ。
魔獣は平素は人間のなりをしていた。
戦いに臨んでは、化物としての本性をあらわにした。
身の丈は天を突き破るほどに巨きくなる。
全身は熊に似た毛皮に覆われる。
爪もまたしかり。
頭は狼のそれに変わる。
毛皮は赤熱し、近づく者をことごとく焼き殺した。
いくたびも刃を受けてなお死なず。
矢もまたしかり。
火すらもその身を焦がすに能わず。
百人の兵を、千匹の獣を退け、なお吼え猛るなり。
魔獣は不死不滅であったが、ヘルテイトはそうではなかった。
英雄が死の顎に捉えられると、彼を追って死の国まで下っていったという話だ。