精霊であるアルフについての覚書
アルフ(訳注:いわゆるエルフのこと)は、はるか神話の時代より存在している太古の種族である。
その姿は非常に醜い。体色はどす黒く、体毛はなく、貴族が美食のために育てる豚のごとくぶくぶくと太っている。しかして体重は極めて軽い。これは彼らが天や空、風といった領域に属しているためである。彼らは食事を必要としない。また暑さ寒さに悩まされることもない。そのため住居を持たず、衣服をまといもせず、ただふよふよと宙に浮いている。傍目には生物であることすら疑わしい。そもそも陽光を嫌う傾向があり、夜の中に紛れていることが多いため、この「闇のアルフ」の存在を認知している人間はきわめて少ない。おおよそは雲と見間違えている。
そんなアルフの中に、時として変わり者が生まれることがある。彼らは思考する。光を求め、焼かれた肌は白く晒される。光の作用か、能動的に動くが故か、枯れ枝めいて痩せ細り、異様に膨張していた身体は人間と同程度にすぼむ。黒いはずの瞳は蒼や碧に変わる。陽射しに耐えるためだろう、金糸や銀糸を思わせる体毛が生える。特に頭髪は男女を問わず長く伸びる。寒暖は感じずとも、羞恥を覚え、衣服を求めるようになる。われわれが日々の生活の中で出会う、「光のアルフ」と呼ばれるものがこれだ。彼らは闇のアルフに比べ、非常に短命となる。せいぜい数百年程度の寿命しか持たない。また人間と交流を持ったがために、傷病に倒れる、さらには殺されることも珍しくはない。彼らの毛髪の一房が闇市で数百枚の銀貨と交換される場面を、私は見たことがある。
彼ら光のアルフは、闇のアルフを憎み、蔑み、敵対する。人間の世界で覚えた「豚」という言葉で罵る。しかし同時に、怠惰で鷹揚ですべてを寛容する、二度と戻ることのできないその醜悪な姿に、深く焦がれてもいるのである。