第六一話
「それなら、無事なんですか?」
「無事だ。むしろ、君と一緒で立場が無くなった事を満喫している伏しがある」
「……申し訳ありません」
シルドの様子からリズは家族が元気にしているとわかったようでほっと胸をなで下ろす。
彼女が安心している姿にシルドはイタズラな笑みを浮かべる。
その言葉にはリズは父親達が何をしているか想像が付いたように深々と頭を下げた。
「良く似ているな」
「……言わないでください」
シルドはシーリング家でメイド生活を満喫しているリズとそっくりだとため息を吐く。
リズは耳が痛いと言いたいようで両耳を押さえており、シルドは彼女の姿を見て楽しそうに笑っている。
「まあ、ロクシードにいるよりはガーランドにいる方が安全かも知れないな。もし、良ければ、シーリング家で引き取ってくれると安心するのだけど」
「……シーリング家で? お父様達を?」
「シーリング家も異国で人手が足りないだろう? ラグシア……聞け」
完全に立場が悪くなってしまったリズはバツが悪そうにしており、シルドは彼女の家族をガーランドに送り込むと言う。
その言葉にリズは驚きの声を上げるのだけどシルドは良い事を思いついたと言いたいようでラグシアの名前を呼ぶが、ラグシアはスピアとともに問答を続けている。
その姿にシルドは眉間にしわを寄せるとケーキの包装紙を彼の顔面に向かって投げつけ、ラグシアの顔面に直撃するのだけど、2人が止まる事はない。
「……本当にこの男どもは」
「集中したら周りが目に入らない人が増えた。本当にラグシアのお師匠様なんですね。そっくりです」
「困った物だ」
シルドは反応のない様子に眉間にしわを寄せる。
リズはラグシアとスピアの様子に大きく肩を落とし、シルドはため息を吐く。
「……しかし、このままではどうにもならないな。ラミリーズ家の者達の身柄もシーリング家に引き取って貰いたいんだが」
「あの、もしかして邪魔なんですか?」
「いや、有能だから、いろいろと役に立つのだけど、さすがに王の指示で潰した家の者達を隠しているのは見つかった時に面倒だからな。私達が失脚するような事になってしまえば、この国がどうなるかわからない」
シルドにもラグシア達が自分達を訪ねてきたのは都合が良かったようである。
その言葉をリズは自分の家族がシルドに迷惑をかけているように聞こえたようでリズは申し訳なさそうに聞く。
シルドはラミリーズ家の者達を評価しているようではあるが、それ以上にロクシード王にラミリーズ家の者達をかくまっている事が知られた時の事を考えているようである。
それは保身のようにも思えるのだけど、シルドがいなくなれば無能な王が国のかじ取りをできるわけはない。
リズもシルドが失脚するのはロクシードのために良くない事はわかるようで顔を引きつらせている。
「……でも、シルド様達が全員でガーランドにまとめて移動したら、ロクシードは自然崩壊するんじゃないですかね?」
「確かに自然崩壊する可能性も高いのだが、そうなると民に被害が出る可能性が高いな」
「そうですね」
「別に恥じる事ではない。私はロクシード側、リズとラグシアはガーランド側にいるんだ。当然の事だ」
リズは有能なシルドがロクシードを見捨てれば、ガーランドが主の統一が上手く行くのではないかと思ったようである。
シルドは頷くものの、自分がいなくなってしまえばロクシードの民へ被害がどれだけ出るかわからないとため息を吐いた。
リズは民に被害が出るのはなるべく避けたいようで自分の発言を恥じているのか大きく肩を落とす。
その様子にシルドは目線の違いだと言うと柔らかい笑みを浮かべた。
「ただ、私はこの国の事しか考える事はできないが、二つの国を知るお前達はもっと他の事を見られるだろう」
「ふむ。シルドを落としたか? ラグシア、シルドを落とすためにずいぶんと良いエサを運んできたようだな」
「ええ、ここまではまってくれるとは思いませんでした」
シルドはリズが両国の民の事を心配している様子に彼女を認めたようであり、彼女の様子を見たスピアは小さく笑みを浮かべる。
その言葉にシルドは誤魔化すように一つ咳をするとスピアはラグシアを誉め、ラグシアもリズを連れてくる事でシルドを味方に付けようとしたと笑う。
「どういう事?」
「気にするな。それではシルド様」
「協力はしよう。情報提供くらいしかできないがな。ただ、こちらにも条件がある」
リズは何を言っているかわからないようで首を傾げているがラグシアは気にする必要などないと言い切る。
納得がいかないリズだが余計な事を言っても仕方ないと思ったようで口をつぐむ。
シルドはラグシアの手のひらで踊る事に納得はまだできていないようで小さくため息を吐くが、すぐに表情を引き締めると交換条件を聞くようにとまっすぐとラグシアを見る。
「ラミリーズ家の事なら私に反対する気はありません。たぶん、父上や母上も同じでしょう」
「そうだろうな。シーリング家の人間はそう言う者だ。まったく、ラミリーズやシーリングと言った使える人間がいなくなっているなかで、私にかかる負担を軽減してくれる者はいない者か」
「仕方ないだろう。密約を知る者として、それぞれが考えてそろそろこの茶番を終わらせる時が来たんだ」
ラグシアはスピアと問答を繰り広げていた間も二人の話には耳を傾けていたようであり、ラミリーズ家の者はシーリング家で預かる事を約束する。
シルドもシーリング家の面々の事は良く知っており、この答えは予想していたようで大きく頷くもの、現状でロクシード家をまとめる者達が国からいなくなってしまう事を憂いているようでその表情には疲れの色が見えており、スピアはため息を吐くとラグシアとリズが手土産に持ってきたケーキを一口大に切ると彼女の口元に出す。
シルドは差し出されたケーキに少し戸惑う物の頬張り、リズはその様子に目を輝かせると同じ事をやって欲しいのかラグシアの服を引っ張るが、ラグシアは無理だと首を横に振る。




