第六話
兄の腕から解放されてしばらくすると使用人達が朝食を運んでくる。
使用人達は忙しなく働いており、リズは遊んでいられないと思ったようで仕事に戻って行き、ラグシアは腕をさすりながら席に着いた。
兄と義姉もしっかりとシーリング家で朝食をごちそうになる気のようで席に着くのだが朝食はなぜか八人分は並べられて行き、足りないイスが並んで行く。
「……八人分? 何を企んでいる?」
「何を? せっかくだから、家族で朝食と思ったんだ」
朝食の準備がされて行く様子にラグシアは何かイヤな予感がしているようでテーブルを挟んで兄を睨み付けた。
ラグシアに睨まれる理由がまったくわからない兄は首を傾げた後におかしな事は考えていないと言うが、兄の言う家族にはユフィの家族であるガーランド王も含まれている。
その言葉の意味をラグシアと両親は理解したようで顔を引きつらせるが兄と義姉は事の重大さを理解していないのか特に気にした様子もなく、朝食の前に使用人が用意してくれた紅茶を飲み、笑っている。
「……頭が痛い」
「頭が痛い? 風邪か? ラグシアは昔から身体が弱かったからな。本ばかり読んでいないでもう少し身体を鍛えたらどうだ?」
「……兄上、義姉上、いったいどういう事ですか?」
ラグシアはガーランド王が訪問してくると言う事に頭痛がしてきたようで額を手で押さえた。
それを聞いた兄はラグシアの体調を心配するのだが、兄はなぜ、ラグシアを頭痛が襲っているかまったく理解していない.
腹の底から噴き出しそうな怒りを何とか抑えながらラグシアはゆっくりと言葉を吐き出す。
彼の様子に兄はよくわかっていないようだが、義姉はラグシアが激怒している事は理解できたようで兄の服を引っ張る。
「……なぜ、シーリング家の屋敷にガーランド王が訪れるんですか?」
「なぜ? さっきも言っただろう。家族で朝食でも食べようと思ったんだ。義父上も忙しい人だからな。時間の都合が今日しかつかなかった」
ガーランド王が訪れるとなると下手をすれば自分達の寿命を縮める事になる。
そのため、ラグシアは怒りを押さえながらこのような事になった理由を聞く。
兄はガーランド王の予定が今日しかなかったと言うがそれだけでは説明になっておらず、ラグシアの眉間には深いしわが寄る。
「都合がつかなかったと言っても……突然すぎる」
「えーと、父も皆さんとお会いしたいと言っていましたし」
ラグシアはガーランド王の考えを予想しようと考えているのか眉間にしわを寄せて考え込む。
そんな彼の様子に義姉は苦笑いを浮かべながら、ガーランド王の訪問には他意はないと言うが悪い人ではないとはなんとなく理解できるが信用しきって良いのかわからないラグシアの眉間のしわは取れない。
義姉はガーランド王の一人娘であり、彼が熟考しなければいけない理由は理解できるようで口をつぐみ、デュメルは特に気にもしていないようで紅茶を口に運んでいる。
「……義姉上、なぜ、シーリング家にガーランド王が訪れるのですか? 普通に考えればこちらから足を運ばなければいけないはずです」
「えーと、父上は身軽なので……今も戦場に転移魔法で足を運び、指揮を執っていますので」
「そうですか……」
情報分析のためにわずかでも情報が欲しいラグシアは義姉から情報を引き出そうとする。
その質問にユフィは深く考えずに答えてくれるのだが、彼女もガーランド王の行動には困っているようで大きく肩を落とした。
ラグシアはユフィが嘘を吐ける人間ではないと判断したようで頷くものの、それだけではガーランド王の考えがわからないようで眉間のしわは深いままである。
「……自由な父上で申し訳ありません」
「義父上が前線に出てきてくれたから、私とユフィが出会えたんだから問題なんてない」
「デュメル様」
義姉はラグシアと両親に向かい頭を下げてくれるのだが、兄はガーランド王のおかげでユフィと出会う事ができたと彼女の手を取った。
兄に手を取られて顔を赤める義姉の姿にラグシアはなんとなく面白くないようで舌打ちをすると兄はその音が聞こえたようで見せつけるようにユフィを引き寄せる。
義姉は義理の両親や弟の前で恥ずかしいと言ってはいるものの跳ね除ける気はまったくないようで二人の様子はいちゃついているようにしか見えない。
その様子に両親は微笑ましいと思っているのか優しげに笑っているが、独り者のラグシアは反応に困っているようで席から立ち上がった。
「ラグシア、羨ましいのなら、お前もリズに優しくしてやれば良いじゃないか?」
「……バカな事を言っているなら、その何も考えない軽い頭に少しでも知識を入れてはどうですか? 義姉上はガーランド王の一人娘、王家を兄上が継ぐ事になれば兄上の肩には多くの民の命がのっかかってきます。こんな茶番を考える事無く始めた愚王と同じ評価を受けたくはないでしょう」
ラグシアが席を立った様子に兄はリズの事を気にしてやれと言いたいのかからかうように笑う。
その言葉にラグシアはくだらない事を言うなと兄を睨み付けると何も考えていない彼の様子に自分達が仕えていた愚王を重ねたようでバカにするように悪態を吐いた。
しかし、兄はラグシアの言葉などまったく痛くないと言いたいのか笑顔のままであり、その表情がさらにラグシアの怒りをあおる。
「……バカにしているのですか?」
「バカにはしていない。私がラグシアと違って頭が良くない事はわかっているさ。だから、そう言う事はすべてラグシアに任せようと思っているから、私は担がれている」
「……義姉上、もし、本当にこの愚兄を婿に迎えるつもりなら、義姉上が王位を継ぐ事を私は薦めます。この男が王位につけば国は間違いなく潰れます」
ラグシアはすでに怒りを隠す事はないが力づくで行動を起こしても負けるのは目に見えているため、情けないが距離を取って睨み付ける。
兄はラグシアの怒りの視線を気にする事無く、頭ではかなわないと白旗を上げるとその無責任な態度にすでに会話をするのも嫌になったのかラグシアは食堂を出て行ってしまう。
彼の様子にユフィはどうして良いのかわからずにオロオロとしているが、兄も義理の両親も気にする必要はないと首を横に振った。




