第五話
……一先ずはガーランド王と面会の時に殺されない事を祈るしかないか?
現金化できる物の選別は調度品などをまとめたリストを作成していた事もあり、無事に終わったのだが終わった頃には夜も更けていた。
部屋に戻って休みはしたものの、不安は拭いきれず、早く目を覚ましてしまったため、イスに腰掛けてため息を吐く。
……協力しろと言うのなら、もう少し情報を渡せないのか。このまま、何も情報がない状況でガーランド王と面会など恐ろしくてできないぞ。
現在のこの状況に兄であるデュメルへの不満しか湧き上がらずに乱暴に頭をかくと視線を窓へと向けた。
窓の外からは光が漏れてきており、考え事をしている間にかなりの時間が経ってきた事に気づき、兄が何時にガーランド王との面会約束を取り付けているかわからない。
ラグシアは兄がどのように行動してくるか察しがつかないようで眉間に深いしわを寄せると着替え始める。
「……こんな朝早くから何をしている?」
「何で、起きているのよ」
着替えを終えて一息ついていると寝室のドアのノブがゆっくりと回り、中の様子をうかがう気配がする。
その視線にラグシアは眉間に深いしわを寄せると勢いよくリズがドアを開けて寝室に入るなり、不満そうに声を上げた。
「……元々、朝は早いんだ。それより、何の用だ? 私は朝に起こしに来るように頼んだ事など一度もないぞ」
「いや、ラグシアの寝顔を眺めて、あわよくば……」
「リズ、お前は……」
ラグシアは仕事に戻れと言いたいようで追い払うように手を払いながら彼女が寝室に来た理由を聞く。
リズはラグシアの寝顔を眺めに来たようで照れくさそうに顔を赤らめるが、言葉から推測すれば完全に夜這いであり、ラグシアの眉間には深いしわが寄っている。
「だって、ラグシアは悪い方に向上心があるから、こっちの国で権力を手に入れるために貴族の令嬢といろいろとしちゃいそうだし。それにお義兄様がこの国を継ぐんでしょ。それなら、姻戚関係を結ぼうと考える人達だって出てくるでしょ」
「それは考える人間も出てくるだろうが……」
「ラグシア、起きているか!! ……すまん。邪魔をした。俺達は食堂にいるから、楽しんでくれ」
リズはラグシアが良からぬ事を考える前に手を打っておきたいと言うと不安げな表情でラグシアの顔を見上げた。
その表情にラグシアは困ったように笑うと彼女に不安に思う事などないと態度で示そうと思ったようでリズの身体を抱きしめようとした時、兄であるデュメルが勢いよくドアを開ける。
ドアが開いた時には大きな音がし、その音でラグシアとリズの時間は止まった。
何とか、状況を整理しようとラグシアとリズはドアの方向を見ると二人の近すぎる距離を見て楽しそうに笑っているデュメルとバツが悪そうにしているユフィの姿が見える。
兄は気を使っているつもりなのか、最高の笑顔でラグシアを応援し、ユフィの腕を引っ張って行く。
「ま、待て!! おかしな想像をするな!!」
ラグシアは兄に何を言われるかわからないため、リズから離れると廊下を駆け出す。
リズはラグシアが優しくしてくれたためか邪魔が入らなければと思ったようで頬を膨らませるものの、一人で寝室に残っていても仕方ないため、落ち込んだ様子で三人を追いかけて行く。
「まったく、だいたい、兄上は何をするにも突然すぎます。いくら、長子とは言え、こんな朝早くから弟の部屋に乱入など何を考えているのですか!!」
「悪かった。悪かった。せっかく、リズと一勝負と言うところだったのに邪魔をしてしまった」
デュメルとユフィは屋敷に来た時に両親を起こすように使用人達に伝えており、両親はラグシア達に遅れて食堂に現れた。
二人の目に映ったのはデュメルを責めたてているラグシアの様子であり、二人はしばらく考えるものの、顔を赤く染めているリズを見て、なんとなく悟ったようで使用人に朝食の準備を頼み、自分達の席に腰を下ろす。
怒りの収まらないラグシアは両親が食堂に入ってきたのも気が付いていないようで声を荒げており、彼の様子にユフィは反省しているようで気まずそうに肩を落としており、反省した方が良いとデュメルの服を引っ張っているがデュメルは反省する気などないようでラグシアとリズの顔を交互に見て楽しそうに笑い、リズは積極的にラグシアに求愛しているものの、その場を見られるのは流石に恥ずかしかったようで顔を伏せた。
「聞いているのか?」
「別に今更、照れる事でもないじゃないか。リズがどこの馬の骨に手ごめにされても困るから父上と母上が屋敷に引き取ったんだ。私がガーランド家を継ぐのだから、シーリング家はお前が継ぐんだ。おかしな縁を結ぼうとする者達が現れる前にしっかりとした関係を結んでおいた方が良いだろ」
「デュメル、あの、そう言うのは本人同士の事ですからあまり口を出さない方が……後、邪魔をしてしまったのは私達ですし、暴力を振るうのは間違っていますよ」
ラグシアは怒りで顔を真っ赤に染めてデュメルの胸ぐらをつかむが彼は身体が弱いため、勇者とまで祭り上げられたデュメルにかなうわけもなく、その腕は簡単に捻られてしまう。
デュメルは年の離れた弟と幼い頃から知っている妹と言っても差し支えの無いリズの事を大切に思っているようで一線を越えてしまっても何ら問題はないと満面の笑顔で言い切った。
シーリング家とラミリーズ家は友好を結んでいた事でラグシアとリズの両親はリズの婿にラグシアを考えており、本人同士も政略結婚ではなく、このまま行けば自然にまとまると考えていたため、両親は使用人が運んできた紅茶をすすりながら大きく頷いている。
ユフィはこの状況や義両親の様子にラグシアとリズがお互いに想っている事は理解できているようだが、流石に自分達が口を出す事ではないと考えているようでデュメルに手を伸ばし、彼の腕をラグシアから放そうと試みる。
しかし、彼女も魔法を使う身であり、腕力でデュメルにかなうわけもなくラグシアを解放する事はできない。