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愚兄が魔王を継ぎました。~ツンデレ魔導士奮闘記~  作者: まあ
第三部 ラグシア、宮廷魔術師になる。
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第四四話

 ……そう簡単には情報は集まらないか?


 宮廷魔術師の一員に名を連ねたラグシア上役の案内で他の宮廷魔術師との顔合わせを行った。

 それから、数日が経ったのだが、宮廷魔術師達は政務を補佐したりと仕事があるのだが、その多くは魔法の研究を行ったり、古文書を読み解いたりと個人で動いているようで最初に顔を合わせてから、特に接触が起こる事はなかった。

 宮廷魔術師に紛れ込めば、王城に仕える魔導士以外の情報が入ってくる可能性があると考えていたラグシアの計算は外れてしまっている。


 ……仕方ない。もう少し、大人しくしているか。宮廷魔術師の仕事をしていれば、兄上(バカ)の相手もしなくて良いからな。


 計算通りに行かない事も視野に入れていたため、ラグシアは考えを素早く切り替える。

 宮廷魔術師の長は次期王にも現王の優秀な者を求めているようでデュメルのようなバカには好感を持っておらず、宮廷魔術師の職場にはデュメルの訪問が制限されていた。

 それはラグシアにとっても都合の良い事であり、また、宮廷魔術師の職場にはラグシアが毎日のように入り浸っていた書庫とは別に魔法関係に特化した書庫があり、知識を求めるのに貪欲な彼にとっては最高の職場とも言える。

 ラグシアは新たな書物との出会いを求めて、書庫に向かって歩き出す。


「ラグシア、今日はこちらで調べ物ですか?」

「ユフィ様こそ。何か調べ物でしょうか? ……どうかしましたか?」


 書庫で調べ物をしていたラグシアを呼ぶ声がする。

 その声に振り返るとガーランド王の一人娘であり、兄、デュメルの婚約者であるユフィが立っている。

 彼女は王女と言う立場だけではなく、この国でかなりの能力を持った魔導士であり、当然のように宮廷魔術師としての立場も兼ねている。

 ラグシアは臣下の一人であるため、礼節を尽くそうと深々と頭を下げるが彼の態度に納得がいかないのか、ユフィは小さく口を尖らせてしまう。

 彼女の態度にラグシアは意味がわからずに眉間にしわを寄せるとユフィは小さく肩を落とす。


「ラグシア、義姉上です。もしくはお義姉ちゃんでも良いです」

「……しかし、今更ですが、まだ、兄上との婚約も正式な物ではないようですので」

「私が許しているんですから良いんです。だいたい、父上も母上も賛成してくれています。他の者が反対をして、デュメルと一緒になれないのなら、私は王位など捨てるつもりです」

「王位を捨てられては困ります」


 ユフィが不機嫌そうにしていたのは、ラグシアが自分の事を義姉と呼ばなかったためであったが、ラグシアには彼の言い分がある。

 しかし、ユフィは彼の言い分を聞く気は無いようであり、義姉と呼ぶようにとラグシアに迫った。

 まだ、出会って間もないものの、ユフィの性格を考えればやりかねないと思えたようでラグシアは大きく肩を落としながら、彼女のしぶしぶ頷く。

 ラグシアの困り顔にユフィはくすくすと笑い、からかわれている気がしたラグシアの眉間には深いしわが寄る。


「怒らないでください。私は一人娘ですから、昔から兄弟に憧れていたんです。従兄妹はいますがどうしても、どこかで主君と扱うんです。ラグシアやリズは私にとって念願の弟と妹なんですから、私はラグシアの役に立ちたいんです」

「リズも私も弟でも妹でもありません。私は臣下と……せめて、人目のないところでのみ、お願いいたします」

「わかりました。妥協しましょう」


 ユフィはラグシアを怒らせるつもりはないと言った後、義理とは言え弟と妹ができた事が嬉しいのだと笑う。

 その言葉にラグシアは臣下に名を連ねる者として進言しなければいけないと考えるが、ユフィの頬が膨らむのが見えて妥協案を出す。

 あまり、ラグシアを怒らせてデュメルのように扱われるのも遠慮したいユフィはその提案に頷く。


「それで、義姉上は私に何かご用ですか? 私も宮廷魔術師の仕事があるのですが」

「それなら、問題ありません。ラグシアの管轄は私になりましたから」

「……御冗談を」


 ラグシアはユフィが自分に声をかけた理由を聞くが、その態度にはできれば一人にして貰いたいと言っているのが目に見える。

 ユフィは彼の態度のトゲを見ても気にする気など無いようであり、それどころかラグシアの上役になったのだと胸を張った。

 デュメルだけではなく、ユフィにまで振り回されなければいけないと思ってしまったラグシアは悪質な冗談だと思いたいようだが、ユフィは楽しそうに笑っており、それが冗談ではない事は理解できる。


「……なぜですか?」

「眉間にしわを寄せないでください。ラグシアは宮廷魔術師になって調べたいものがあるんでしょう? 他の魔術師や魔導士から話を聞くにしても私の後ろ盾があれば有利じゃないですか?」

「確かに義姉上が手伝ってくれれば、有利になる物もあるかも知れませんが……義姉上が手伝う事で調べにくくなる問題も出てきます」


 ラグシアの眉間に寄ったしわの深さにユフィは自分なりに義弟のラグシアに対して協力したいのだと言う。

 ユフィの気づかいも理解できるのだが、王女である彼女が動くと隠されてしまうであろう事が多くあり、ラグシアが調べたいものはその隠された部分である。

 ラグシアはやる気になっているユフィに事実を突きつけるのは少し心が痛んだようで言葉を選びながら説得に移った。


「不味いのですか?」

「……お気持ちはありがたいのですが、現状で言えばあまり、義姉上と懇意にしているのを見られるのは好ましくありません。他の魔術師や魔導士にも私の力量を認めて貰わなければいけません。このまま、義姉上や兄上の力を借りていれば余計な恨みを買う事になります」

「そうですか……確かにラグシアの言いたい事もわかりますね。わかりました。その代り、私の助けが必要な時はすぐに言ってくださいね」


 ユフィも彼の口調からなんとなく、余計な事を言ってしまったのではないかと考えて首を捻る。

 ラグシアはユフィが聡い事は知っているため、気づいてくれていると考えて少し距離を取って調べ物をさせて欲しいと言う。

 ユフィは完全に納得できないようだが、ラグシアの意見も取り入れようとしたようで小さく頷いた。


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