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愚兄が魔王を継ぎました。~ツンデレ魔導士奮闘記~  作者: まあ
第二部 ラグシア、領地を回る。
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第四三話

「……ねえ。ラグシア」

「いつまでも、私の側にいないで、自分の仕事でもしていたら、どうだ?」

「ほら、私ってなんと言うか、ラグシア専門のメイドだから」


 宮廷魔術師への推薦を約束して貰い、クルーゼル家から戻ったラグシアはシーリング家の書斎で調べ物をしている。

 リズは宮廷魔術師の件で聞きたい事があるようで彼の名前を呼ぶが、ラグシアは相手をしているヒマはないと言いたいようで書斎を出て行くように言う。

 しかし、リズはラグシアの側にいるのが仕事だと言い切り、彼の背中に抱き付いた。


「……あ、あの、俺、邪魔でしたか?」

「……いや、何かあったのか? リズ、降りろ」

「イヤだ」


 リズが騒いでいたせいで書斎のドアをノックする音が聞こえなかったようでドアを開けたアルが二人の姿を見て気まずそうに笑う。

 ラグシアは小さく一つ咳をすると背中のリズに降りるように言うが、彼女は降りる気は無いようで笑顔で言い切ってしまう。

 その様子にラグシアは眉間に深いしわを寄せ、アルはどうして良いのかわからないようであり、困り顔をしている。


「それで、何かあったのか?」

「い、いえ、デュメル様とユフィ様が屋敷を訪れているのですが……居留守で良いですよね? ご当主様もラグシア様の邪魔をさせたくないと言っていますから、今は奥方様がお相手をしてくれています」

「当然だ。義姉上とはしておきたい話もあるが、兄上がいると邪魔でしかないからな」


 リズを引き離したラグシアはアルが書斎を訪れた理由を聞く。

 デュメルがまた王城での仕事をないがしろにして屋敷に戻ってきたようでアルはラグシアに面会を求めていると言う。

 アルだけでなく、シーリング家の当主や使用人達もデュメルが現れるとラグシアの仕事が進まない事はもう理解できているようで口裏を合わせて二人を追い返そうと考えているようだが本人の許可は必要だと考えているようで代表してアルが聞きに来たようである。

 ラグシアもいろいろと忙しいようで相手をしているヒマはないと言い切ってしまう。

 その答えを聞き、アルは深々と頭を下げた後、書斎を出て行く。


「ラグシア、良いの?」

「……話をしても無駄だからな」

「でも、お義兄様の事だから、居ないって言っても、勝手に入ってくるんじゃないの? 元々、勝手知ったる我が家なわけだし」


 アルを見送った後、ラグシアは本棚から資料を探そうとするが、リズは何かあるのか首を傾げて彼を呼ぶ。

 ラグシアにとってデュメルとの会話は疲れるだけで実の無いものであり、無駄でしかない。

 しかし、兄であるデュメルは話を理解できないにも関わらず、ラグシアにいろいろな説明をさせる事が好きであり、それだけではなく、無駄な行動力まで付いてくるのである。

 武勇に優れたデュメルを止められる人間は使用人や先日から迎え入れたシーリング家の兵士達にもおらず、彼女の言葉にラグシアの眉間には深いしわが寄った。


「……」

「お義兄様の事だから、居ないって言われても、お義母様とのお話が終わったら、ここに一目散に向かってくるんじゃないかな?」

「やっぱり居たな」


 リズもどちらかと言えば性格的にデュメルに近いものがあり、彼の考えを理解できるようで苦笑いを浮かべている。

 その言葉に納得できる部分のあったラグシアは眉間にしわを寄せながら、ドアにカギをかけようと手を伸ばすが行動に出るのがわずかに遅く、勢いよくドアが開いてしまう。

 デュメルはラグシアの顔を見て、笑うが彼の後ろではユフィとアルはバツが悪そうに笑っている。


「兄上、何かご用ですか?」

「居留守を使うなんて、どういうつもりだ?」

「私も忙しいので、兄上の相手をしているほど、ヒマではないのですよ」

「ラグシア、そう言えば、こちらに来る前にお父様から、クルーゼル家があなたを宮廷魔術師に推薦したと言う話を聞いたのですが」


 デュメルは屋敷にいるにも関わらず、居留守を使おうとしたラグシアを責めるように言う。

 ラグシアは小さくため息を吐くと相手をする気が無いようで本棚から書物を手に取り、追い払うように手を払った。

 二人のやり取りにユフィは苦笑いを浮かべながらも、彼女もラグシアに聞きたい事があったようで宮廷魔術師の推薦があった事を話す。


「そうですか……」

「もう? 仕事、早いわね。口先だけじゃないのね」

「ラグシアの企みなのですか? ……そうですか」


 自分とゼノンで打ち合わせをした事を話したくないラグシアは話を聞き流そうと興味がなさそうに言うが、リズはゼノンの行動の早さに驚きの声を上げてしまう。

 二人の反応を見て、ユフィは小さく首を傾げるとリズは不味い事をしたと思ったのか、苦笑いを浮かべる。

 ラグシアの眉間には深いしわが寄っているが、デュメルに変な気を使われては自分が調べたいものを邪魔されても困るため、何も言う気は無いと首を横に振った。

 ユフィはラグシアの考えを理解してくれたようで苦笑いを浮かべるが、デュメルは何があるのか気になるようであり、目線で話すように促している。


「……ラグシア」

「ゼノン殿の御厚意で推薦してくれたのですから、私から話す事は何もありません」

「リズ、ラグシアはゼノンと何を話していた?」

「私、仕事があるから、行きますね」


 ラグシアは平然ととぼけるとデュメルはリズから話を聞こうとしたようで彼女へと視線を向けた。

 リズはこれ以上、余計な事を言ってラグシアに怒られるのは勘弁したいため、視線をそらすと逃げるように書斎から出て行ってしまう。


「……逃げたか」

「デュメル、あまり、リズとラグシアを困らせないでください。それにこの間の野盗討伐の件でもラグシアが宮廷魔術師に推薦される理由には充分なはずです。ラグシアを宮廷魔術師に推薦しようと言う話は他の者達からも出ていたではないですか」

「それはそうかも知れないが……ラグシアだからな」

「デュメル、私達にもやらなければいけない仕事があるのですからお義父様とお義母様に挨拶をして帰りましょう……ラグシア、宮廷魔術師の件は私からもお父様に推薦しておきます」


 閉められたドアを見て、デュメルは眉間にしわを寄せるとユフィは苦笑いを浮かべながら、この話は終わりにしようと言う。

 デュメルは頷くものの、ラグシアの性格を考えれば何か企んでいるとしか思えないようで疑いの視線を向けるが、ラグシアは相手をする気など無いようで本棚の前で資料を探す。

 ユフィはあまり長居もできないとデュメルに言い聞かせるとデュメルは書斎を出て行く。

 その背中を見送った後、ユフィはラグシアの考えに協力すると笑い、デュメルの後を追いかける。


 その数日後、ラグシアは宮廷魔術師の一員として名を連ねる事になった。


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