第四二話
「……ねえ。ラグシア、こんなところに来て大丈夫なの?」
「そう思うなら、付いてこなければ良かっただろう」
「いや」
ラグシア達が魔法陣を破壊して数日が経った頃、ラグシアはゼノンに呼ばれてクルーゼル家の屋敷へと訪れる。
それはデュメルが現れて話の邪魔をする事をゼノンが嫌がったためであるが、ラグシアの後を追いかけて歩いているリズはゼノンが苦手なためか不機嫌そうだが、彼女が付いてくる理由はない。
ラグシアはゼノンの考えが理解できている事やリズも話を折る可能性が高いため、眉間にしわを寄せるが彼女は離れる気はないようで彼の腕をがっちりとつかむ。
「……また付いてきているわけか?」
「文句あるの?」
「黙っていろ」
使用人に案内されてゼノンの書斎に入ると彼はラグシアの腕に抱き付いているリズを見て小さくため息を吐く。
彼女はラグシアの背中に隠れるがバカにされるのだけは耐え切れないようでゼノンを威嚇し、その様子にラグシアは眉間に深いしわを寄せる。
「……とりあえず、本題に移るか。あまり、時間をかけていると話しの内容を理解できないにも関わらず、ここをかぎつけてくる人間も居るだろうからな」
「そうですね」
「それって、お義兄様の事?」
「わかっているなら、言うな」
ゼノンと言え、次期国王とも言えるデュメルが面会を求めてきては断るわけにも行かないため、デュメルが来る前に話を終わらせようとする。
彼の考えにはラグシアも賛成であり、大きく頷くがリズは二人が誰の事を言っているかわからないのか、首を傾げながらデュメルの名前を出す。
ラグシアとゼノンは呆れたようにため息を吐くがバカにされた事に彼女は不満のようで頬を膨らませた。
「……わざわざ、病気の原因を育てて魔法で国中に飛ばすか? ずいぶんと手の込んだ事を考える者がいるのだな。しかし、魔導士か」
「ねえねえ。こんな事をできる魔導士に心当たりは無いの?」
不機嫌そうなリズを無視して、ラグシアはゼノンに先日の事を報告する。
ゼノンは田畑に病気を起こすために行った事の手の込みように眉間に深いしわを寄せると何か考えているのか、両手を組んで黙り込んでしまう。
その様子にリズはゼノンに魔導士に付いて何か知らないかと聞くが、彼は難しい表情をしたままである。
「……ラグシア殿、一つ、良いか?」
「最初に言っておきますが、この魔法については私が犯人ではありません」
「それくらいは私にだってわかっている」
「本当? また、ラグシアを疑っているんじゃないの?」
判断材料が少ないため、ラグシアの意見を聞きたいのか、ゼノンは眉間にしわを寄せながら聞く。
ラグシアは味方までとは言わないが協力者として信じて貰う事が前提だと言いたいようであり、ゼノンはその言葉に小さく頷いた。
しかし、リズはゼノンを信頼していないためか、疑いの視線を向けている。
「……リズ、黙っていろ」
「曲がりなりにも下女なら、主の話を折るな。そのせいで主が低く見られると言う事を考えろ。それがわからないのならこの場から叩き出すぞ」
「わかったわよ」
話が進まない事にラグシアは眉間にしわを寄せるとゼノンはリズに黙るようにと圧力をかける。
リズはラグシアとは離れたくないようでしぶしぶ頷くが、ゼノンの言葉を信じていないようでラグシアの腕にしっかりと抱き付いた。
「……犯人に魔導士がいるとなると厄介なのはわかるが」
「リズが言いましたが、ゼノン殿には魔導士を抱えている者で何かを画策する者に心当たりはございませんか?」
「正直に言えばわからない。この国でも魔導士は貴重だ。王家に仕えて宮廷魔導士として働いている者も居れば、野に落ち、魔法を悪事に使っている者もいる。魔法は強力な力だからな。世に出ていない魔導士を囲い、力を付けている者だって当然いるだろう」
ラグシアはゼノンの持っている情報を聞き出そうとしているようでこの国の魔導士に付いて聞く。
ゼノンにもわからないようで眉間にしわを寄せたまま、首を横に振るとリズは役立たずと小さな声でつぶやいた。
そのつぶやきはゼノンの耳にもしっかりと届いていたようで彼女を睨み付け、リズはすぐにラグシアの後ろに隠れる。
「当然でしょうね」
「王家にも伝えていない魔導士は何かあった時の優秀な手ごまになりえるからな。しかし……ラグシア殿のように頭のキレる人間がなぜ自分が魔導士である事をわざわざ露見させたのだ?」
「深い理由などありません。現状で言えば、シーリング家はこの国ではさほど力を持っていません。手の内を隠して自分達を窮地に追い詰める趣味がないだけです。必要とあらば宮廷魔術師の一員にもなりましょう」
祖国では魔導士だと言う事を隠していたラグシアにも力を隠している魔導士や魔導士を抱え込んでいる者達の考えも理解でき、小さく頷いた。
彼の様子にゼノンはラグシアが魔導士である事を公にした理由がわからずに首を捻る。
ラグシアは自分が魔導士だと証明する事でシーリング家の価値をガーランド王に見せる必要があったと言う。
「宮廷魔術師にでもか……」
「はい。宮廷魔術師にでもです」
「とりあえず、クルーゼル家当主の名を借りて、推薦して見るが上手く行くとは限らないのはわかるな?」
ゼノンはラグシアが何を言いたいのか理解できたようであり、眉間にしわを寄せた。
ラグシアは表情を変える事無く、彼の言葉に頷くとゼノンは騎士の名家であるクルーゼル家の名前を用いてラグシアを宮廷魔術師に推薦する事に了承をする。
その言葉にラグシアは小さく口元を緩ませた後、自分の考えを読み取ってくれた事への感謝なのか深々と頭を下げた。
「……わかっているだろうが、おかしな事をすればシーリング家だけではなく、王家や我がクルーゼル家にも被害が及ぶ。その事を良く心に留めておけ」
「わかっております。ゼノン殿やリア殿には迷惑はかけません」
ゼノンはラグシアの表情の変化が気になったようだが、彼が宮廷魔術師に名を連ねる事で何かを探ろうとしている事もわかっており、強くは出られないのか忌々しそうに言う。
ラグシアはクルーゼル家の面々には迷惑が掛からないように動くと答えるが彼の言葉はいまいち信用に欠けるようでゼノンの表情が晴れる事はない。




