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愚兄が魔王を継ぎました。~ツンデレ魔導士奮闘記~  作者: まあ
第二部 ラグシア、領地を回る。
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第四一話

「安心しろ。この周辺に魔導士はいない」

「どうしてわかるんですか? な、何が起きたんですか?」


 ラグシアは自分以外に魔導士がいないと確信しているようである。

 しかし、アル達は魔導士と言う人種に付いて知識がないためか、警戒色を弱める事はない。

 彼らの姿にラグシアが小さくため息を吐いた時、何かが弾けるような音が響く。

 その音にアルは驚きの声を上げると先ほどまで周辺を飛び回っていた光は空に溶けて消えてしまう。


「……この場に仕掛けられていた魔導式を砕いただけだ」

「魔導式を砕く? ……申し訳ありません。もう、何を言っているかわかりません」


 ラグシアはこの場に仕掛けてあった魔導式を取り除いていたようだが、魔法に付いて知識の無いアル達はすでに話について行けないようで眉間にしわを寄せている。

 彼らの様子にラグシアも説明は意味がないと考えているようで何かを確認するように歩き出す。

 一人で勝手に動き回れては困るアル達はすぐにラグシアの後を追うが、ラグシアはすぐに足を止めると懐から緑色の石を取り出し、地面に置く。

 歩いては地面に緑色の石を置く作業を何度かラグシアが続けているのだが、彼は円を描くように歩いており、遠くに行くようにも見えなかったためか、アル達は周囲を警戒しながらも少しゆっくりとし始める。


 しばらくするとラグシアは歩き回っていた場所の中心地に立つと最後の緑色の石を置き、目を閉じた。

 その姿は彼が魔法を使う前の仕草であり、アル達はどんな魔法を使うかはわからないが、彼が魔法を使う事は理解できたようで集中の邪魔をしてはいけないと声量を落とす。

 ラグシアの身体を緑色の光を包み、その光に呼応するようにラグシアが先ほど地面に並べた緑色の石が輝き始める。


 足元に有る石から緑色の石をつなぐように光が走り、地面に魔法陣を描いて行く。

 大地に描かれた魔法陣から緑色の光が広がり、その光を浴びた枯れた草木は色を取り戻し始める。

 色を取り戻して行く草木を見て、アルは状態を確認しようと思ったのか、側に生えている葉へと手を伸ばす。

 先ほどまでは触れるだけで崩れ落ちていた葉はみずみずしく、病気に打ち勝ったように見える。


「ラグシア様、何をしたんですか?」

「……説明して理解できるのか?」

「理解できるようにお願いします。って、ラグシア様!? ど、どうしたんですか?」

「……大きな魔法を続けて使ったから疲れただけだ」


 状況が理解できず、アルはラグシアに説明を求めるのだが、すでに彼らに説明をするのは無駄と判断している彼は眉間にしわを寄せて言う。

 彼の険しい表情にアルは怒られると思ったようでバツが悪いのか苦笑いを浮かべた時、ラグシアは膝から崩れ落ちた。

 アルは慌ててラグシアに駆け寄り、彼の身体を支える。

 ラグシアの顔色は真っ青になっており、息が荒くなっている。

その様子はただ事ではないように見え、アルは何かあったのではないかと声をかけるとラグシアは何でもないと言いたいのか手で彼の言葉を止めた。

 口では大丈夫だと言ってはいるが、その様子からは大丈夫だとは思えず、アルは肩を貸すとラグシアを休ませる場所を探す。


「大丈夫ですか?」

「……少し休んでいれば落ち着く」

「魔法も便利だと思っていたんですけど大変なんですね」


 腰を下ろすのにちょうど良い石が見つかり、ラグシアを座らせ、アルは一息ついて欲しいと水を渡す。

 ラグシアは素直に水を飲むと息を整えようとしているのか呼吸は荒いままである。

 魔法をラグシアが使えると言う事で頼り切っていたと思ったのか、アルは気まずそうにつぶやく。

 同じ事を思っていたのか、昨日から彼の部下になった者達も小さく頷いた。

それはこれだけ苦しい思いもしているのにも関わらず、文句一つ言わないラグシアの様子に感じる事があったようにも見える。


「ラグシア様、転移魔法を使うだけの魔力はあるんですか?」

「……もう少し休めば使える」

「もう少し……日が暮れますよ。それなら、そうと言ってください」

「何をする」


 ラグシアの顔色が戻るにはかなりの時間が経ってしまい、日が暮れ始めている。

 森の中で夜の迎えるのは危険のため、アルはラグシアに魔力残量を聞くがまだ魔力は足りないようでラグシアは小さく首を横に振った。

 その言葉を聞き、アルは大きく肩を落とした後、ラグシアの身体を支えて立ち上がらせる。

 彼の行動の意味がわからないラグシアは眉間にしわを寄せるが、この場に長居しない方が良いと判断しているのか帰還の準備を開始する。


「……魔力が回復すれば戻れる。下手に動いて道に迷うよりは安全だ。私には皆を屋敷まで連れて戻る義務がある」

「それなら、俺達も一緒です。ラグシア様を無事にシーリング家に戻すのが俺達の使命です。日が落ちると危険が増えます」

「……アル殿、忘れていると思うがこの道を戻っても崖があるんだ。どうやって降りるつもりだ?」


 薄暗くなってきた事もあり、下手に動くのは危険だと言うラグシアだが、アル達はこの場所で待っているよりはラグシアを連れて戻りたいようである。

 アル達の主張にラグシアは眉間にしわを寄せるが、アルは気にする事無く、彼を背負い込んだ。

 非力なラグシアはアルの腕力にかなう事はなく、不機嫌そうな表情をすると崖の上まで転移魔法で来た事を思い出すように言う。


「……忘れていました。でも、くだれる場所があるかも知れませんし。あ、あの、ラグシア様、転移魔法って移動する距離や運ぶ人数で使う魔力って変わるんですか?」

「そうだが……言っておく。誰かが残ると言うのは論外だ。先ほども言ったが、私には皆を連れて帰ると戻ると言う義務がある」

「そ、そうではなくてですね。それなら、一番近い村までは移動できないんですか?」

「それなら、できなくもないが今日中に魔力は回復しないな……」


 アル達は自分達の考えの甘さにバツが悪そうに笑った後、アルはラグシアに転移魔法に付いて聞く。

 それをラグシアは自分にだけ、転移魔法で移動しろと言っているように聞こえたようで淡々としているが声には怒気が含まれている。

 耳元で聞こえる怒りが混じった声にアルは近場に移動できないのかと提案し、ラグシアは少し考え込むと村には移動できるようだが歯切れは悪い。


「移動できるなら、村で休んで明日、お屋敷に戻りましょう。それが一番安全です」

「それはそうだな……」

「どうかしたんですか?」

「いや、屋敷に戻らないとリズに文句を言われると思っただけだ」


 村で一晩休憩する事をアルは提案するがラグシアには何かあるのか難しい顔をしている。

 その様子に何か問題あるのかと聞くとラグシアの心配事はリズの事であり、彼の言葉にアル達からは生温かい笑みが向けられた。


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