第三十話
毎度、お読みいただきありがとうございます。
今話から第二部となります。
楽しんでいただけるように頑張りますので引き続き、よろしくお願いいたします。
第二部の表題は良い物が決まりましたら、更新させていただきます。
「ふむ、上々か。しかし……」
「ラグシア、凄く怪しいから」
シーリング家が手に入れた領地をラグシアはゆっくりと歩く。
領地には田畑に病気が出ていた村も含まれており、彼に良い印象を持っていない村人達はラグシアの事を冷たい目で見ている者も多い。
しかし、ラグシアは気にする様子もなく、田畑の様子を見て怪しく口元を緩ませた。
彼の様子にラグシアの後を追いかけていたリズは大きく肩を落とすがラグシアは気にする様子など見せずに田畑の様子を見て回っている。
「ラグシア様、リズ様、護衛も付けずに出歩くのは止めてください。この地はシーリング家の領地になりましたが、あまり良い感情を持っていない者も多くいます」
「す、すいません。アルさん、でも……ラグシアがこれですから」
「それはそうなんですが……もう少し、自分の立場をわかって貰えるとありがたいんですけど」
「そうなんですけど難しいと思います」
ラグシアとリズの姿を見つけて一人の青年が駆け寄ってくる。
青年は『アルヴィート』と言い、この村の出身者で野盗に身を落としてラグシア達を襲った一人である。
シーリング家が領地を手に入れた事で彼らの父親は領地運営を行うために才ある者を領地内から募集した。
ラグシアに情けをかけて貰った事を知る者達は彼の元で働きたいと手を上げた者は多く、アルは望んでラグシアの警護をしている。
アル達、村の出身者はラグシアが村のために尽力してくれたと村民達にも伝えているのだが、彼の言葉使いは他人を見下しているように見える事や冷たい印象もあるため、一向に良くなっていない。
そのため、アルは気苦労が絶えないようであり、彼の様子にリズは深々と頭を下げた。
「ですね……それより、ラグシア様は何をしているんですか? 言い難いのですけど先ほどから行動が怪しいんですけど」
「たぶん、病気の状態を見ているんだと思うけど詳しい事は難しくてわからない。領地を貰ったって言ってもほとんどの村の田畑が病気にかかっているみたいだし、収穫がないとシーリング家のこれからにも響くし」
アルもラグシアの性格をわずかながらつかんできたようで困ったように笑う。
ラグシアの様子は見るからに不審者と変わらない物であり、警護しなければいけない人間が一番に怪しく見える。
そのため、この村の出身者であるアルには何をしているか探って来いと言う村人の目もあるようでリズに小さな声で聞く。
リズはラグシアの様子から田畑の事を心配している事はわかっているが彼がどこまで考えているかわからないため、答えに困っている。
「そうですよね。俺達はシーリング家に給金もいただいていますから、収穫が無いと飢え死にです」
「飢え死にはしたくないよね」
「……領民を飢え死にさせるほど、父上は無能ではないが」
収穫がない事で野盗に身を落としてしまった事もあり、アルはシーリング家の財政が気になるようである。
リズとアルは最悪の状況を考えてしまったようで顔を見合わせた後、頭を抱えるが話を聞いていたのか、ラグシアからは冷たい視線を飛ばす。
視線の冷たさにアルはバツが悪いのか、姿勢を正し、リズは視線をそらすとラグシアは場所の移動を始める。
「そ、それでラグシア、何かわかったの? 病気を治す方法とか?」
「治療に関してはすでに方法は伝えてある。それを実践していない家もあるようだがな」
「申し訳ありません」
二人は慌てて、ラグシアの後を追いかけるとリズは田畑を復活させる術はないのかと聞く。
ラグシアは野盗討伐で村に訪れた時に田畑の治療法を指導していたようで簡単に答えるが彼に不信感を抱いている村人達は素直に指示を聞いていないようで効果はバラバラである。
効果が出ていない事でラグシアの機嫌は悪くなっているように見えたのか、アルは慌てて頭を下げるとラグシアはその謝罪に何か思うところがあったのか足を止めた。
「な、何か?」
「別に身構える必要はない。元々、我らはよそ者だ。そんな者が主になって、『はい、そうですか』と指示を聞く者が簡単に出てくるとは思えない。そんななかで少なからず、私の話を聞いた人間がいる事に感謝しなければいけない」
ラグシアの怒りを買ったと思ったのか、アルは身構えるがそのような事はなく、ラグシアは気に病む事などないと言う。
その表情はいつも不機嫌そうにしている彼が時折、見せる柔らかいものであり、アルは胸をなで下ろした。
「でも、ラグシア、病気を治す方法を実践して貰わないとダメなんじゃないの? 収穫が無いとシーリング家だって不味いんでしょ?」
「実践している田畑は症状が収まってきているんだ。少しずつ、やる家も増えてくるだろう」
「そうだと良いんだけど……ラグシア、もう少し、笑ってみない?」
ラグシアは状況を確認して追随する者達が出てくると言うが感情で譲れない物があると考えているリズはラグシアの態度を軟化させる必要があると考えて笑うように提案する。
しかし、彼女の言いたい事が理解できないのか、ラグシアの眉間には深いしわが寄っており、変わらない彼の様子にリズは困ってしまったようで眉間にしわを寄せた。
「笑って何になる? 現状で言えば、戦争のために国力を上げなければならないんだ。へらへらとしている時間などない」
「そ、それはそうかも知れないけど」
「だいたい、この病気をまき散らした人間も探さなければいけないんだ。遊んでいるような時間があると思ったのか? ……何だ?」
「今回の病気を故意に広めている人がいるの?」
ラグシアは眉間にしわを寄せながら、祖国との戦争への備えにやらなければいけない事は多いと言うと田畑の確認に戻ろうとするが、彼の言葉には聞き流してはいけない物があり、リズとアルは彼の肩をつかむ。
二人の行動の意味がわからないのか、ラグシアは怪訝そうな表情をするが、二人は顔を見合わせると深呼吸をして気持ちを落ち着かせてから聞く。
「……何をいまさら言っている?」
「初耳よ!?」
その質問にラグシアは呆れたと言いたいのか大きなため息を吐くがリズは早く言えと言いたいようで彼の身体を大きく揺する。




