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第二九話

「ラグシアは相変わらずですね」

「ラグシアだからね」


 野盗討伐を終えたラグシアは調査した報告書をガーランド王に上げた。

 すでに村人達が野盗に落ちる原因となっていた貴族はすでに処罰されており、処罰していた貴族が統治していた領地のいくつかをデュメルの今回の功績としてシーリング家の領地として分け与えられ、シーリング家はこの国の臣下として正式に迎え入れられた。

 処罰された貴族の屋敷は縁起が悪いと言う事や住み慣れた屋敷が古くからの使用人がいるシーリング家には良いのではないかと言う事でシーリング家の屋敷はユフィの魔法で移動させられたのだが、ラグシアはユフィから転移魔法を教えて貰い、リズとともに王城の書庫に入り浸っている。

 その姿はすでに王城に仕える者には日常とも受け取られるようになっており、様子を見に来たユフィは一心不乱に書物を読み込んでいるラグシアの姿に苦笑いを浮かべた。


「リズは屋敷が王都から離れてどうですか? 不便ではありませんか?」

「特に不便ではないですね。買い物があればラグシアの転移魔法で王都まですぐだし」

「そうですね。毎日、書庫に来るくらいですから」


 ユフィに気が付いたリズは彼女に駆け寄るとユフィは義妹とも言える彼女の事を気づかうがリズにとってはラグシアさえいればそれで良いようで気にした様子もなく、彼女の様子にユフィは小さく笑みを浮かべる。


「ですけど、ラグシアは本当に恩賞を辞退してしまったんですね」

「本人は書庫で調べ物をさせてくれるだけで充分に恩賞を貰ったと思っていますからね」


 野盗討伐での報奨は総指揮であったデュメルと筆頭にラグシアに騙されて利用されたゼノン達騎士とリアに続き、ラグシアにも与えられるはずであった。

 しかし、ラグシアは自分に与えられるべき、報奨を自分の策にはまり、村に同行した者達にすべて譲渡してしまったのである。

 ユフィはラグシアの行動に首を傾げるがリズは苦笑いを浮かべながら、ラグシアは充分な報奨を貰っていると言う。

 彼女の言葉にユフィはもう一度、ラグシアへと視線を向けると納得がいったのか小さく頷いた。


「でも、私だって活躍したんだから、ラグシアも指輪の一つくらいくれても良いと思いませんか?」

「それはもう少し後でしょう」

「だ、だって……」


 名目上、シーリング家の使用人の一人であるリズには報奨は与えられなかったため、リズは代わりの物が欲しいようである。

 彼女の欲しい物はラグシアからの正式なプロポーズである事は容易に想像がつくが捻くれたところのあるラグシアが素直に言うとは考えられず、ユフィはリズを落ち着くように言う。

 ラグシアの性格を誰よりも知っているリズも理解できているようだが、心配な事があるようで書物から視線をそらさない想い人へと視線を向けるがその視線にラグシアが気づく事はない。


「まあ、リズが心配するのもわかりますけどね。今回の野盗討伐の件でラグシアの評価はかなり高くなりましたからね。お父様のところにも縁を結べないかと伺いを立ててくる者もいるようですし」

「そうなんですよ。それで用もないのに書庫を訪れる人達も多くて、それに、お義兄様とお義姉様の事を考えるとラグシアを落とせば王族とも縁を結べるわけですし、いろんな人達がこの間から用もないのに引っ切り無しに来るんですよ」

「……本当にどうにかして貰いたいです」


 野盗討伐で手際や報告、その後の村の田畑への被害状況と対応に彼の才覚を認めた者達も多く、ラグシアを身内に引き入れてしまえば良いと考え始めた者もいるようである。

 その噂はユフィの耳にもしっかりと届いており、少しだけ困ったように笑う。

 リズはラグシアに近づいてくる者の邪な考えに気に入らないと言いたいのか頬を膨らませていると疲れた顔をしたリアが二人に近づいてくる。


「リア、どうしたんですか?」

「いろいろと疲れました……リズ、睨まないでいただけますか。私にはそのつもりはまったくないんですから」

「何があったんですか?」

「先日の件でお父様がラグシア殿と懇意になれと言っていまして、私はラグシア殿にはリズがいると言っているのですが、使用人とクルーゼル家、選ぶのは決まっているだろうと言って話も聞いて貰えません」


 仲が良かったはずのリアをリズは睨みつけており、その様子にユフィは首を捻った。

 ラグシアを味方に引き入れたいのはクルーゼル家も同様のようで彼女の父親はリズにラグシアを籠絡するように言い聞かせているようである。

 そのせいか、リズはリアにも警戒しているようであり、ユフィは困ったように笑うと二人の仲を元に戻そうと説得する方法を考え始めるが良い考えは浮かばないようでバツが悪そうな表情をする。


「だ、大丈夫です。何とかお父様を説得しますから、今回の件に関して言えば、兄様も私の味方をしてくれていますし」

「ゼノンがですか? 確かに相性は悪そうですからね」

「はい。ラグシア殿に騙された事にかなり腹を立てているようで……言い難いのですけどもう少し周囲に気を使った方が良いと思います。言いたくはありませんが兄様は気に入らない者を排除する事を何とも思っていませんから」


 主君であるユフィにあまり心配をかけてはいけないと考え、リアは何とか笑顔を作った。

 彼女の兄であるゼノンは出世欲が強いのだが、自尊心もかなり高いためか自分の事を良いように利用したラグシアの事が気に入らないようである。

 ユフィは村や王城で見たラグシアとゼノンの様子にあまり、良い関係には見えなかったようで問題は多いと肩を落とす。

 兄の性格を誰よりも知っていると言いたいのか、リアはリズに睨まれても警護の手を緩めるわけにはいかないと言い、好感を持っているラグシア達シーリング家とクルーゼル家に挟まれた気苦労で胃が痛いようで腹をさする。


「……リア、あなたも大変ですね」

「はい。私としてはこの騒ぎを収めるためにもラグシア殿にはっきりとして貰いたいんですけど……無理でしょうね」

「そうですね。今は調べ物に夢中ですから」


 リアはラグシアとリズの間に入り込める人間などいないと考えており、早くまとまって欲しいと言うが当の本人は書物から目を放す様子はない。



 いつもありがとうございます。

 第一部完と言ったところです。

 とりあえず、ガーランド王の治める国に居場所をシーリング家は確保したわけですが二国間の争いにこれから本格的に巻き込まれる事になります……きっと。

 これからも頑張って書いて行きますので引き続きよろしくお願いいたします。

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