第二八話
「……お疲れ様です。兄上、義姉上」
「お前は、まだ、疲れているな」
「そうですね。この状況を見て、疲れました」
襲撃者の捕縛を完全に終えたようでデュメルはゼノン達騎士と兵士を率いて、ラグシアがいる村の中央部に現れる。
ラグシアは深々と頭を下げるがデュメルの隣にはなぜかユフィが立っており、二人が並ぶ姿にラグシアの眉間には深いしわが寄った。
ユフィはラグシアの眉間のしわの原因が自分にあると理解できたようで苦笑いを浮かべるがデュメルは気にする事はない。
「ラグシア、報告してくれるか?」
「……見てわかりませんか。私はまだ兄上と違って忙しいのです。だいたい、兄上に話したところで何も頭に残らないでしょう」
「確かにその通りだ。夜も明けてきたし、食事の準備を始めろ」
デュメルはこの部隊の総指揮として村で起きた事や野盗の原因について説明を求めるがラグシアはケガをした者達への治療がまだ終わっていないため、追い払うように手を払う。
その言葉は完全にデュメルをバカにしているのだが、バカにされた当の本人はまったく気にした様子を見せず、日が差してきたのを見て兵士達に食事の準備の指示を出すと自分も手伝う気のようで腕まくりを始める。
デュメルの行動に苦言をする兵士達もいるが村に来るために無理をしたようで兵士達の疲労や空腹も限界のようであり、すぐに準備に取り掛かり始めた。
最初の村でラグシアが報告書をガーランド王に送っていたためか、デュメル達は食料を馬車で大量に運んできていており、兵士達は村人達にも食料を配って行く。
その様子に村人達はゼノン達と言ったプライドの高いもの以外の兵士達と距離を縮めている。
「……義姉上、願いを聞いていただき、ありがとうございます」
「いえ、報告がしっかりとしていたため、お父様もすぐに次の対応に移れたようです。そのため、この村を襲撃するように指示を出した者にもすぐに兵を向ける事ができました」
その様子を眺めながら、小さく表情を緩ませたラグシアだがすぐに表情を元に戻すとユフィが村まで来た理由には察しがついていたようで深々と頭を下げる。
ユフィはそこまでかしこまらなくても良いと言いたいのか苦笑いを浮かべるとガーランド王はすぐに次の行動に移している事を話す。
……流石、賢王を言われるだけはある。
この村の者達を野盗として扱うだけではなく、自分に罪が及び前に証拠の隠滅に走った者へも兵士を向けていると聞き、ラグシアはガーランド王の優秀さを再認識したようで大きく頷くものの、兵士が向けられたのなら安心だと考えたようで小さく胸をなで下ろす。
ラグシアは周囲に気づかれないようにしたつもりだったのだがリズは気が付いており、笑顔を見せ、彼女の笑顔にラグシアの表情は不機嫌そうな物に変わって行く。
「素直に喜んだら良いのに」
「……何をわけのわからない事を言っている」
「ラグシア、報告はまだ終わっていませんからね。先の報告ではこの周辺の田畑の被害状況はわかりませんし、しっかりとまとめてくださいね」
リズはもっと素直になるべきだと言いたいのか、彼の腕に飛びつくがラグシアは不機嫌そうな表情のまま、彼女を腕から引きはがそうとする。
二人の様子にユフィはお似合いだと言いたいのか、くすくすと笑うとお付きの兵からの厳しい目が向けられた。
彼女は一つ、咳をつくと真面目な表情に戻し、ラグシアにガーランド王からの任務はまだ終わっていないと言う。
「……終わってないの?」
「この状況をどうにかしないと終わった事にはならないだろう。田畑を最低、元の収穫量に戻せるくらいにしないとならない。その間にかかる村への支援にかかる金額、その他にもいろいろとな。ただ……私にはそれに関わるほどの能力はありませんが」
リズは完全に今回の役目は終わったと思っていたようで首を傾げるとラグシアの耳に顔を近づけて聞く。
彼女の様子にラグシアは呆れているのか、眉間に深いしわを寄せると残っている仕事を簡単に挙げて行くが頭は冷静に回っているようで現状で自分には解決するほどの能力は無いと言う。
「今回の報告だけでも充分に能力を示せたと思いますよ。お父様も誉めていましたし、私もあのわずかな時間でまとめ上げた物には見えませんでしたよ」
「私は知識として知っていただけです。私より、専門の人間がいた方が良いでしょうし、私は所詮、よそ者ですから、指示を受けて動いてくれる者もいませんから、それにだいぶ、嫌われたようですし」
「ラグシアが誤解されても私がいるから、問題ないよ」
ユフィもラグシアの報告書を確認したようで素直な感想を述べる。
誉められているにも関わらず、ラグシアは表情を変える事無く言う。
事実、ともに村に来たゼノン達は良いところをデュメル達に取られた事で、自分達を嵌めてデュメルに功績を与えたラグシアを忌々しいと言う表情で見ており、村人達のほとんどは自分達を人質にすると言う発言や襲撃者達を治療していたラグシアへの嫌悪感を抱いている。
彼の後ろ向きとも言える発言にリズはそんな事はないと言いたいのか、彼の背に飛びついた。
ラグシアは魔力を使い切った事で立っているのも大変のようでふらついてしまうとリアから二人の警護を命じられていた兵士が彼を支える。
「……お前は大人しくしていろ」
「だって、ラグシアがおかしな事を言うから、だいたい、嫌われたとか言うなら、もっと、笑顔を見せるとか……いや、ダメね。ラグシアの笑顔は私だけの物だし」
「そうですね。あまり、ラグシアが笑顔を見せていてはリズが大変ですから」
それでも彼の指示は的確であり、彼の事を認めた者達もわずかではいるが確実にいる。
ラグシアは自覚が無いようで支えてくれた兵士に頭を下げた後、眉間に深いしわを寄せて淡々とした口調でリズを叱りつけるが彼女は全く反省をしていない。
二人の様子にユフィは笑いが抑えきれなくなったしまったようで口元を緩ませるが、兵士達の目が気になるようで周囲を見回すが側に控えていた兵士達も同様だったようでユフィと目が合うと気まずそうに視線をそらした。